ヒトコイラヴァーズ 悪魔の女との青春物語

赤坂皐月

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第1部 青春の始まり篇

第3章 天地魔白の秘密【3】

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「お~いチハ!聞こえてるっ!?」

 徳永の呼びかけによって、俺ははっと我に返る。

 そこは食堂、隣には徳永の姿があり、正面には心配に堪えない様な顏でこちらを見つめてくる神坂さんの姿があった。というか、俺はずっと神坂さんに見つめられていたにも関わらず、ぼーっとしていたというのか……なんたる不覚。

「すまん、ぼーっとしてた……」

「さっきからずっとぼーっとしてるよチハ。いや、さっきと言わず、ここに来る前だってもしかしたらそんな感じだったんじゃないかな?」

 徳永の言う通り、俺は朝からずっとうつけているのは事実だ。何をやろうにも脱力してやる気も出ない上、まるで空を掴んでるが如くやってる事全てが空回りしている様な気分になり、なんというか、やる事成す事全てが億劫になっていた。

 しかし徳永、お前は午前中のいかに堕落している俺を見てもいないだろうに、何故分かったんだ。

「なんとなくだよ」

 白い歯を出すまででは無かったが、徳永はそう言って笑みを浮かべ、食堂のメニューである唐揚げ定食を食べていた。俺も今度、一度くらいは食堂の定食を食べてみるのもいいかもしれないな。青春の味くらいにはなるかもしれない。

「何か考え事でもあるんですか?」

 そう言って俺の顔色を窺ってきたのは、まるで他人事ではなく自分事のように心配な表情をしている神坂さんだった。この人は容姿だけでなく、心の中もまるで天使の様なお方だな。いや、俺は徳永の様に心中を察する能力など兼ね備えてはいないが、なんとなく伝わって来るんだ。彼女の慈悲が体中からな。

「考え事というか……まあ、大した事じゃないんですけどね。ちょっと朝から調子を崩されたというか……」

「えっ!調子を!?もしかして風邪とかですか?」

「いや……病気ではないんですけど」

「あっ……そうなんですか。何だか顔色も朝の時より冴えてない様に見えたので、もしかしたら最近流行ってる風邪なんじゃないかと思ったので……」

 というより、風邪が流行っているという事すら俺は神坂さんから聞くまで知らなかった。そんなに流行ってるのか。

「今年の四月は寒かったじゃない?だけど五月が近くなってから急に温度が上がったりして、それでも夜間はまだ寒かったりするから、その寒暖の差のせいで身体が弱りきって風邪を引くパターンが増えてるみたいだよ」

 横から徳永のやつが更に詳しい情報を解説してくれる。確かに言われる通り、昼間は太陽のお蔭で暑苦しいくらいの気温があるってのに、夜になると急に冷え込んだりするからな今年の春は。まったく、最近の異常気象というものにはつくづく頭を悩まされるものだね。まあ、それもこれも人間が招いてきた結果ではあるのだがな。

 それじゃあもしかしたら、天地のやつもこの流行に乗っかってしまったというのだろうか?ただでさえ空気なんて読みそうにない奴なのに、どうしてこういう所だけ流されてしまうのかね。

「そういえばチハ、天地さんへのあの件どうだった?」

「あの件?」

「食堂でみんなでご飯を食べようって約束を天地さんにチハから頼んで貰う件だよ。まさか本当に忘れてたの?」

 徳永は呆れた顔で俺を見てくる。モチロン、憶えてはいたさ。ただ、忘却の彼方にすっ飛ばしちまいたいものではあったがな。

「忘れたも何も、今日天地は学校に来ていない。休みだそうだ」

「ああそうだったんだ!どうりで彼女の姿が無かったわけだ」

「姿が無かったって……お前クラス違うんだから確認しようがないだろ。まさかお前、こっそりどこかで天地を見張ってるんじゃないだろうな?」

 もし本当にそうだったら、コイツとの仲を改めねばなるまいな。返答次第では、友人から知り合い程度にはランクを下げてしまうかもしれん。

「そんな事しないよ。ただ、天地さんって四限が終わるとすぐに教室を飛び出してるだろ?だからいつも誰もいない廊下を一人駆けているところを教室から見るんだけど、今日は見なかったからおかしいなとは思ってたんだ」

 なんだそういう事か。まあ確かに、天地は四限の終了を知らせるチャイムを聞いたら、まるでスタートダッシュを切るフォーミュラカーの如く弁当を持って教室を出て行くからな。その行き先は昨日断定出来たのだが。

「って事は彼女も流行風邪に侵されたって事なのかな?あのアグレッシブな姿を見る限り、とてもそんなものにかかる様な人には見えないけど」

「それは俺も思ったが、現に学校に来ていないのだからそうなのだろうさ。それともお前は他にあいつが休む理由でも思いつくっていうのか?」

「確信ではないけど、可能性なら提示出来るかな」

 だから何故こいつはその可能性すらも提示出来る情報を持っているのか、それが分からん。

「ふふっ……今は情報化社会だからねチハ。僕達の名簿ですらもしかしたらどこかで売り買いされているかもしれない時代なんだ。つまりそれだけ情報っていうものは粗末に手に入る時代になったって事さ」

 何処か皮肉気に徳永は言った後、更に付け足す。

「それに僕が手に入れた情報は至って合法的なものだ。なんせネットの公式ホームページに乗ってあったものだからね」

 まあそうだろうな。そうでなくては、自分の犯した犯罪を自分がやりましたってひけらかしている、哀れな間抜けでしかないからな。ただ徳永、神坂さんは俺の様な泥水みたいな心ではなく、超純水の様な心の持ち主なんだ。疑われるような冗談を軽弾みにもするもんじゃない。

「公式ホームページ……そっか……良かった……」

 先程まで鬼気迫る表情で話を聞いていた神坂さんだったが、今はほっと肩を落として安堵していた。おそらく徳永が回りくどい御託を並べたせいで、何か悪巧みをしたんじゃないかと困惑していたのだろう。ほれ、言わんこっちゃない。
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