15 / 103
第1部 青春の始まり篇
第3章 天地魔白の秘密【3】
しおりを挟む
「お~いチハ!聞こえてるっ!?」
徳永の呼びかけによって、俺ははっと我に返る。
そこは食堂、隣には徳永の姿があり、正面には心配に堪えない様な顏でこちらを見つめてくる神坂さんの姿があった。というか、俺はずっと神坂さんに見つめられていたにも関わらず、ぼーっとしていたというのか……なんたる不覚。
「すまん、ぼーっとしてた……」
「さっきからずっとぼーっとしてるよチハ。いや、さっきと言わず、ここに来る前だってもしかしたらそんな感じだったんじゃないかな?」
徳永の言う通り、俺は朝からずっと空けているのは事実だ。何をやろうにも脱力してやる気も出ない上、まるで空を掴んでるが如くやってる事全てが空回りしている様な気分になり、なんというか、やる事成す事全てが億劫になっていた。
しかし徳永、お前は午前中のいかに堕落している俺を見てもいないだろうに、何故分かったんだ。
「なんとなくだよ」
白い歯を出すまででは無かったが、徳永はそう言って笑みを浮かべ、食堂のメニューである唐揚げ定食を食べていた。俺も今度、一度くらいは食堂の定食を食べてみるのもいいかもしれないな。青春の味くらいにはなるかもしれない。
「何か考え事でもあるんですか?」
そう言って俺の顔色を窺ってきたのは、まるで他人事ではなく自分事のように心配な表情をしている神坂さんだった。この人は容姿だけでなく、心の中もまるで天使の様なお方だな。いや、俺は徳永の様に心中を察する能力など兼ね備えてはいないが、なんとなく伝わって来るんだ。彼女の慈悲が体中からな。
「考え事というか……まあ、大した事じゃないんですけどね。ちょっと朝から調子を崩されたというか……」
「えっ!調子を!?もしかして風邪とかですか?」
「いや……病気ではないんですけど」
「あっ……そうなんですか。何だか顔色も朝の時より冴えてない様に見えたので、もしかしたら最近流行ってる風邪なんじゃないかと思ったので……」
というより、風邪が流行っているという事すら俺は神坂さんから聞くまで知らなかった。そんなに流行ってるのか。
「今年の四月は寒かったじゃない?だけど五月が近くなってから急に温度が上がったりして、それでも夜間はまだ寒かったりするから、その寒暖の差のせいで身体が弱りきって風邪を引くパターンが増えてるみたいだよ」
横から徳永のやつが更に詳しい情報を解説してくれる。確かに言われる通り、昼間は太陽のお蔭で暑苦しいくらいの気温があるってのに、夜になると急に冷え込んだりするからな今年の春は。まったく、最近の異常気象というものにはつくづく頭を悩まされるものだね。まあ、それもこれも人間が招いてきた結果ではあるのだがな。
それじゃあもしかしたら、天地のやつもこの流行に乗っかってしまったというのだろうか?ただでさえ空気なんて読みそうにない奴なのに、どうしてこういう所だけ流されてしまうのかね。
「そういえばチハ、天地さんへのあの件どうだった?」
「あの件?」
「食堂でみんなでご飯を食べようって約束を天地さんにチハから頼んで貰う件だよ。まさか本当に忘れてたの?」
徳永は呆れた顔で俺を見てくる。モチロン、憶えてはいたさ。ただ、忘却の彼方にすっ飛ばしちまいたいものではあったがな。
「忘れたも何も、今日天地は学校に来ていない。休みだそうだ」
「ああそうだったんだ!どうりで彼女の姿が無かったわけだ」
「姿が無かったって……お前クラス違うんだから確認しようがないだろ。まさかお前、こっそりどこかで天地を見張ってるんじゃないだろうな?」
もし本当にそうだったら、コイツとの仲を改めねばなるまいな。返答次第では、友人から知り合い程度にはランクを下げてしまうかもしれん。
「そんな事しないよ。ただ、天地さんって四限が終わるとすぐに教室を飛び出してるだろ?だからいつも誰もいない廊下を一人駆けているところを教室から見るんだけど、今日は見なかったからおかしいなとは思ってたんだ」
なんだそういう事か。まあ確かに、天地は四限の終了を知らせるチャイムを聞いたら、まるでスタートダッシュを切るフォーミュラカーの如く弁当を持って教室を出て行くからな。その行き先は昨日断定出来たのだが。
「って事は彼女も流行風邪に侵されたって事なのかな?あのアグレッシブな姿を見る限り、とてもそんなものにかかる様な人には見えないけど」
「それは俺も思ったが、現に学校に来ていないのだからそうなのだろうさ。それともお前は他にあいつが休む理由でも思いつくっていうのか?」
「確信ではないけど、可能性なら提示出来るかな」
だから何故こいつはその可能性すらも提示出来る情報を持っているのか、それが分からん。
「ふふっ……今は情報化社会だからねチハ。僕達の名簿ですらもしかしたらどこかで売り買いされているかもしれない時代なんだ。つまりそれだけ情報っていうものは粗末に手に入る時代になったって事さ」
何処か皮肉気に徳永は言った後、更に付け足す。
「それに僕が手に入れた情報は至って合法的なものだ。なんせネットの公式ホームページに乗ってあったものだからね」
まあそうだろうな。そうでなくては、自分の犯した犯罪を自分がやりましたってひけらかしている、哀れな間抜けでしかないからな。ただ徳永、神坂さんは俺の様な泥水みたいな心ではなく、超純水の様な心の持ち主なんだ。疑われるような冗談を軽弾みにもするもんじゃない。
「公式ホームページ……そっか……良かった……」
先程まで鬼気迫る表情で話を聞いていた神坂さんだったが、今はほっと肩を落として安堵していた。おそらく徳永が回りくどい御託を並べたせいで、何か悪巧みをしたんじゃないかと困惑していたのだろう。ほれ、言わんこっちゃない。
徳永の呼びかけによって、俺ははっと我に返る。
そこは食堂、隣には徳永の姿があり、正面には心配に堪えない様な顏でこちらを見つめてくる神坂さんの姿があった。というか、俺はずっと神坂さんに見つめられていたにも関わらず、ぼーっとしていたというのか……なんたる不覚。
「すまん、ぼーっとしてた……」
「さっきからずっとぼーっとしてるよチハ。いや、さっきと言わず、ここに来る前だってもしかしたらそんな感じだったんじゃないかな?」
徳永の言う通り、俺は朝からずっと空けているのは事実だ。何をやろうにも脱力してやる気も出ない上、まるで空を掴んでるが如くやってる事全てが空回りしている様な気分になり、なんというか、やる事成す事全てが億劫になっていた。
しかし徳永、お前は午前中のいかに堕落している俺を見てもいないだろうに、何故分かったんだ。
「なんとなくだよ」
白い歯を出すまででは無かったが、徳永はそう言って笑みを浮かべ、食堂のメニューである唐揚げ定食を食べていた。俺も今度、一度くらいは食堂の定食を食べてみるのもいいかもしれないな。青春の味くらいにはなるかもしれない。
「何か考え事でもあるんですか?」
そう言って俺の顔色を窺ってきたのは、まるで他人事ではなく自分事のように心配な表情をしている神坂さんだった。この人は容姿だけでなく、心の中もまるで天使の様なお方だな。いや、俺は徳永の様に心中を察する能力など兼ね備えてはいないが、なんとなく伝わって来るんだ。彼女の慈悲が体中からな。
「考え事というか……まあ、大した事じゃないんですけどね。ちょっと朝から調子を崩されたというか……」
「えっ!調子を!?もしかして風邪とかですか?」
「いや……病気ではないんですけど」
「あっ……そうなんですか。何だか顔色も朝の時より冴えてない様に見えたので、もしかしたら最近流行ってる風邪なんじゃないかと思ったので……」
というより、風邪が流行っているという事すら俺は神坂さんから聞くまで知らなかった。そんなに流行ってるのか。
「今年の四月は寒かったじゃない?だけど五月が近くなってから急に温度が上がったりして、それでも夜間はまだ寒かったりするから、その寒暖の差のせいで身体が弱りきって風邪を引くパターンが増えてるみたいだよ」
横から徳永のやつが更に詳しい情報を解説してくれる。確かに言われる通り、昼間は太陽のお蔭で暑苦しいくらいの気温があるってのに、夜になると急に冷え込んだりするからな今年の春は。まったく、最近の異常気象というものにはつくづく頭を悩まされるものだね。まあ、それもこれも人間が招いてきた結果ではあるのだがな。
それじゃあもしかしたら、天地のやつもこの流行に乗っかってしまったというのだろうか?ただでさえ空気なんて読みそうにない奴なのに、どうしてこういう所だけ流されてしまうのかね。
「そういえばチハ、天地さんへのあの件どうだった?」
「あの件?」
「食堂でみんなでご飯を食べようって約束を天地さんにチハから頼んで貰う件だよ。まさか本当に忘れてたの?」
徳永は呆れた顔で俺を見てくる。モチロン、憶えてはいたさ。ただ、忘却の彼方にすっ飛ばしちまいたいものではあったがな。
「忘れたも何も、今日天地は学校に来ていない。休みだそうだ」
「ああそうだったんだ!どうりで彼女の姿が無かったわけだ」
「姿が無かったって……お前クラス違うんだから確認しようがないだろ。まさかお前、こっそりどこかで天地を見張ってるんじゃないだろうな?」
もし本当にそうだったら、コイツとの仲を改めねばなるまいな。返答次第では、友人から知り合い程度にはランクを下げてしまうかもしれん。
「そんな事しないよ。ただ、天地さんって四限が終わるとすぐに教室を飛び出してるだろ?だからいつも誰もいない廊下を一人駆けているところを教室から見るんだけど、今日は見なかったからおかしいなとは思ってたんだ」
なんだそういう事か。まあ確かに、天地は四限の終了を知らせるチャイムを聞いたら、まるでスタートダッシュを切るフォーミュラカーの如く弁当を持って教室を出て行くからな。その行き先は昨日断定出来たのだが。
「って事は彼女も流行風邪に侵されたって事なのかな?あのアグレッシブな姿を見る限り、とてもそんなものにかかる様な人には見えないけど」
「それは俺も思ったが、現に学校に来ていないのだからそうなのだろうさ。それともお前は他にあいつが休む理由でも思いつくっていうのか?」
「確信ではないけど、可能性なら提示出来るかな」
だから何故こいつはその可能性すらも提示出来る情報を持っているのか、それが分からん。
「ふふっ……今は情報化社会だからねチハ。僕達の名簿ですらもしかしたらどこかで売り買いされているかもしれない時代なんだ。つまりそれだけ情報っていうものは粗末に手に入る時代になったって事さ」
何処か皮肉気に徳永は言った後、更に付け足す。
「それに僕が手に入れた情報は至って合法的なものだ。なんせネットの公式ホームページに乗ってあったものだからね」
まあそうだろうな。そうでなくては、自分の犯した犯罪を自分がやりましたってひけらかしている、哀れな間抜けでしかないからな。ただ徳永、神坂さんは俺の様な泥水みたいな心ではなく、超純水の様な心の持ち主なんだ。疑われるような冗談を軽弾みにもするもんじゃない。
「公式ホームページ……そっか……良かった……」
先程まで鬼気迫る表情で話を聞いていた神坂さんだったが、今はほっと肩を落として安堵していた。おそらく徳永が回りくどい御託を並べたせいで、何か悪巧みをしたんじゃないかと困惑していたのだろう。ほれ、言わんこっちゃない。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
婚約破棄の代償
nanahi
恋愛
「あの子を放って置けないんだ。ごめん。婚約はなかったことにしてほしい」
ある日突然、侯爵令嬢エバンジェリンは婚約者アダムスに一方的に婚約破棄される。破局に追い込んだのは婚約者の幼馴染メアリという平民の儚げな娘だった。
エバンジェリンを差し置いてアダムスとメアリはひと時の幸せに酔うが、婚約破棄の代償は想像以上に大きかった。
夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い
青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。
神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。
もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。
生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。
過去世と同じ轍を踏みたくない……
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
【書籍化決定】アシュリーの願いごと
ましろ
恋愛
「まあ、本当に?」
もしかして。そう思うことはありました。
でも、まさか本当だっただなんて。
「…それならもう我慢する必要は無いわね?」
嫁いでから6年。まるで修道女が神に使えるが如くこの家に尽くしてきました。
すべては家の為であり、夫の為であり、義母の為でありました。
愛する息子すら後継者として育てるからと産まれてすぐにとりあげられてしまいました。
「でも、もう変わらなくてはね」
この事を知ったからにはもう何も我慢するつもりはありません。
だって。私には願いがあるのだから。
✻基本ゆるふわ設定です。
気を付けていますが、誤字脱字などがある為、あとからこっそり修正することがあります。
✻1/19、タグを2つ追加しました
✻1/27、短編から長編に変更しました
✻2/2、タグを変更しました
辺境伯夫人は領地を紡ぐ
やまだごんた
恋愛
王命によりヴァルデン辺境伯に嫁ぐことになった、前ベルンシュタイン公爵令嬢のマルグリット。
しかし、彼女を待っていたのは60年にも及ぶ戦争で荒廃し、冬を越す薪すら足りない現実だった。
物資も人手も足りない中、マルグリットは領地の立て直しに乗り出す。
戦しか知らなかったと自省する夫と向き合いながら、少しずつ築かれていく夫婦の距離。
これは、1人の女性が領地を紡ぎ、夫と共に未来を作る「内政×溺愛」の物語です。
全50話の予定です
※表紙はイメージです
※アルファポリス先行公開(なろうにも転載予定です)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる