ヒトコイラヴァーズ 悪魔の女との青春物語

赤坂皐月

文字の大きさ
16 / 103
第1部 青春の始まり篇

第3章 天地魔白の秘密【4】

しおりを挟む
「ははは……確かに言い回しがきつ過ぎたみたいだね。ごめんね神坂さん、今後は気をつけるよ」

 徳永は苦笑し、神坂さんに軽く会釈する程度に頭を下げた。

「いやいや!徳永君にはそんな気も無いのに、あたしが勝手に勘違いしただけだから……こちらこそごめんなさい」

 対する神坂さんは両手を忙しなく振り、ついでに首も横に振って、全身で徳永への気配りを見せている。なんと憐憫の情の深い方なのだろうか……。

「徳永、これはもう土下座するしか報いる方法は残ってないぞ」

「土下座かぁ……でもそんな事したら、神坂さんもっと困っちゃうよ?」

「……確かに、それは一理あるな」

 もし神坂さんに土下座なんてしようものなら、どうしたらいいものか迷いあぐね、仕舞いには泣き出してしまいそうな気がするし、それは彼女の為にも止めておいた方がいいだろう。

「さて……どこまで話したかな……あぁそうだ!天地さんが学校を休んだ理由だっけ?そう、僕はあるホームページを見たんだよ」

 話の流れは支流から再び本流へと戻り、徳永は俺の知らない天地の正体をさらっと暴きだしていたのだった。

天地電産あまちでんさん、東証一部上場の大企業で、近年弱体化している日本の電化製品産業に現れたダークホースとも呼ばれるほど急成長を成している企業だよ。彼女はおそらく、この会社の一人娘なのさ」

 天地電産……そういえばうちのお袋がよくアマチ製の掃除機は吸い込みが良くていいなんて絶賛していたし、テレビのコマーシャルなんかでキツネが小躍りしているものを見た事があり、それが確か天地電産だとかなんとか、最後に企業名を言っていた気がする。

「そんなまさか……苗字が同じなだけだろ?」

 まさかそれを聞いただけで、ああそうなんですかと鵜呑みにする程、俺も馬鹿正直じゃない……が、どうやら神坂さんは「ええっ!!」っと感嘆の声をあげて信用しているようだった。

 神坂さん……少しは疑うって事も知った方が良いと思いますよ……なんだか彼女が将来、特殊詐欺なんかに引っかからないかが心配だ。いや、もしかしたら今ですらもう引っかかっているかもしれん。もしそんな奴がいたら、俺が市中引きずり回しの後、獄門に掛けてやる。

「ふふっ……実はこの事を知ったのは入学式の時なんだ。チハが五組だったからたまたま名簿を見たら天地さんの名前が載っててね。まさかと僕も思ったんだけど、チハは憶えてるかな?入学式の時に校門に一つだけ大きな花環が置かれてたでしょ?」

「花環……ああ、あのでっかい造花のか。でもあれって学校側が用意した物じゃないのか?」

「うん、最初は僕もそう思ったんだけどね。でもよくよく見たら、花環の上の方に小さな立札が隠されてあって、そこに天地電産贈って記されてあったんだ」

 なるほど、どおりで一県立高校の入学式にしては派手なもん飾ってるなとは思ったのだが、まさかそんな裏があったとはね。しかしそんな目立たない立札をつけるくらいなら、飾らなければいいのに。

「多分あれは天地さん自身の僅かながらの抵抗だったんじゃないかな?親が勝手に学校に花環を送って、それを知った天地さんが急いで小さい立て札に取り換えたとか?」

 まっ、これは僕の憶測でしかないけどねと徳永。しかしそれがもし……徳永が言っている事が事実なら、天地は神坂さんが中学の頃に聞いた噂通り、正真正銘のお嬢様って事になるじゃないか。

 まさか昨日、俺がその話題を天地に振った時、あいつがその答えをはぐらかしたのは真実だったから……という事になるのだろうか。何だか余計に、天地魔白あまちましろという人物が分からなくなっちまった……。

「まあとにかく、僕がチハに天地さんの事について尋ねていたのは、そういう経緯があって興味を持ったからなんだよ。本当は最初に話せば良かったのかもしれないけど、でもそんな事知ったらチハだって天地さんの事、普通の友達として見れなくなっちゃうんじゃないかなぁって思って黙ってたんだ」

「……徳永、一つお前に忠告してやる。そういう言ったら駄目だと思う事はな、棺桶に入るその時まで黙ってねえといけないんだよ」

 何故なら俺は今、知ってしまったんだからな。そして知ってしまった以上、もう今までの様に天地を見る事は出来ない。今までの様な関係でいるフリなら出来るかもしれないが、心の中で何かしらの躊躇は生まれる。

 もう俺の中ではただのクラスメイトではない……あいつは……天地魔白は天地電産の社長令嬢。大物だったらいざ知らず、俺の様な小者には嫌でもそういう卑しい目線でしか見れなくなっちまう……本当に自分の惨めさが嫌になってくるな。

「……ごめんチハ、確かに君の言う通りだ。これは僕が伝えるべき事じゃなく、天地さんから直接話して貰うべき事だったね。本当にゴメン……」

 いつもの薄ら笑いは無く、徳永は深刻な顔をして俺に頭を下げる。そんなピリピリしている俺と徳永を見て、神坂さんも戸惑いのあまり泣き出しそうな顔をしていた。

「…………もういい徳永。どんなに謝られても後には戻れないし、それにどちらにしろ、近い内に俺はその事を知るようになっていたかもしれん。その時が少し早まっただけさ」

 徳永も悪気があったわけでは無いし、俺だって天地の事を暗に探っていたんだ。俺だって十分悪い。それに神坂さんの不安げな表情が、俺にはどうしても我慢ならんかった。

「その代わり教えてくれ、お前が知ってる天地の事に関してな」

 このまま中途半端な情報だけを持っていては、きっと天地は昨日の様に話をはぐらかしてくるに違いない。こうなった以上、俺は天地についてとことん知っておくべきだ。それが俺なりのケジメってやつなのかもしれん。

 最初はただのクラスメイトだったってのに……一体俺にとって天地魔白とは何なんだ……?

「……分かった!僕の掴んだ情報全てをチハに教えるよ。僕が持っていても、それは情報にしかならないけど、チハならきっと、もっと有効的な活用をしてくれるかもしれないしね」

 徳永もどうやら理解してくれた様だった。こうなったからには後悔するのではなく、開き直るしかないという事を。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

婚約破棄の代償

nanahi
恋愛
「あの子を放って置けないんだ。ごめん。婚約はなかったことにしてほしい」 ある日突然、侯爵令嬢エバンジェリンは婚約者アダムスに一方的に婚約破棄される。破局に追い込んだのは婚約者の幼馴染メアリという平民の儚げな娘だった。 エバンジェリンを差し置いてアダムスとメアリはひと時の幸せに酔うが、婚約破棄の代償は想像以上に大きかった。

お久しぶりです旦那様。そろそろ離婚ですか?

奏千歌
恋愛
[イヌネコ] 「奥様、旦那様がお見えです」 「はい?」 ベッドの上でゴロゴロしながら猫と戯れていると、侍女が部屋を訪れて告げたことだった。

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

【書籍化決定】アシュリーの願いごと

ましろ
恋愛
「まあ、本当に?」 もしかして。そう思うことはありました。 でも、まさか本当だっただなんて。 「…それならもう我慢する必要は無いわね?」 嫁いでから6年。まるで修道女が神に使えるが如くこの家に尽くしてきました。 すべては家の為であり、夫の為であり、義母の為でありました。 愛する息子すら後継者として育てるからと産まれてすぐにとりあげられてしまいました。 「でも、もう変わらなくてはね」 この事を知ったからにはもう何も我慢するつもりはありません。 だって。私には願いがあるのだから。 ✻基本ゆるふわ設定です。 気を付けていますが、誤字脱字などがある為、あとからこっそり修正することがあります。 ✻1/19、タグを2つ追加しました ✻1/27、短編から長編に変更しました ✻2/2、タグを変更しました

辺境伯夫人は領地を紡ぐ

やまだごんた
恋愛
王命によりヴァルデン辺境伯に嫁ぐことになった、前ベルンシュタイン公爵令嬢のマルグリット。 しかし、彼女を待っていたのは60年にも及ぶ戦争で荒廃し、冬を越す薪すら足りない現実だった。 物資も人手も足りない中、マルグリットは領地の立て直しに乗り出す。 戦しか知らなかったと自省する夫と向き合いながら、少しずつ築かれていく夫婦の距離。 これは、1人の女性が領地を紡ぎ、夫と共に未来を作る「内政×溺愛」の物語です。 全50話の予定です ※表紙はイメージです ※アルファポリス先行公開(なろうにも転載予定です)

処理中です...