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第1部 青春の始まり篇
第4章 一人ぼっちの女の子【3】
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「あなたと会うのはきっと今日で最後ね。今生の別れと言っても過言ではないわ」
「今生の別れか……」
多分、そうなるだろうな。俺と天地は元々住む世界が違う人間だったのだが、それが何の因果か神様の悪戯なのかは知らないが、こうやって出会っちまった。
そもそも社長令嬢の天地が何故、こんな平凡な県立高校に入学したのか、それすらも不明なところがある。まあ……確信は無いのだが、単なる気まぐれという説が有力な気がする。
「……放課後、この前お弁当を一緒に食べた場所に来て。あなたに最後に話しておきたい事があるから」
「えっ……あ……あぁ……」
丁度良い、絶妙なタイミングだった。俺もお前から訊きたい事があったからな。
ただ何となくだが、俺と天地、伝えるのはどちらも同じ意図の話なのではないかと、俺はこの時から予感していた。
天地の素性について。
天地と昼食を共にしたあの日、俺は神坂さんから聞いていた中学の時の噂の真相を確かめるべく、本人に直接質問を投げかけたのだが、天地にはひらりとかわされてしまった。
だがあの時は、前情報が噂しか無かったため、俺もそこまで出題者としての知識量を擁するに至ってはいなかった。だが、今回は違う。確かな情報だとは言い難く、まあこれらも言ってしまえば噂でしかないのだろうが、徳永からの入れ知恵によって、俺も多少は有る事無い事を根掘り葉掘り出来るくらいには達していた。
それにこうやって天地から誘ってきたという事は、今度は逃げる気は無いのだろう。真っ向からぶつかり合うつもりだ。
だったら俺も、それを受け止める必要があるのだろう。一言一句、その全てを……やってやろうじゃねえか。
「フフッ……今日は天地さんが来て上機嫌のようね岡崎君?」
そう言って俺の座席の前へやって来たのは、最近俺の事をやたらと気に掛けてくれた早良だった。
上機嫌かって?当たり前だ!運命なんて不確定な要素がもし存在するのだとしたら、こういう事を言うんだろうなって柄にも合わない様な事を思ったくらいにな。
すると早良は、天地の居る方とは逆方向。俺の右側へと移動し、天地に聞こえない様なヒソヒソ声でこう耳打ちしてきた。
「せっかく天地さん来てくれたんだから、最後にちゃんと思いの丈を伝えるのよ?いい?」
お前は俺の保護者か何かかと突っ込んでやっても良かったのだが、天地のやつが俺と早良の姿をじとりとした視線で見ていたので、これ以上の深入りは返って地雷になると鼻を利かし、俺は「ふん」と一言だけ言って早良を一蹴した。
どうせコイツの言っている思いの丈とはつまり、そういうラブコメディ的な事なのだろう。バカバカしい……俺が最も苦手とする分野の事じゃねえか。ああいう、ご都合主義で恋愛に発展するものを見ているだけで、特に眠くも無いのにアクビが出てしまうからな俺は。
俺にちょっかいとも取れる様なお節介をした早良はその後、彼女の友人達の元へと戻って行ったのだが、その際俺の居る後ろを振り返り、ぱちくりとウィンクを一度だけしてきた様な気がした。いや……ただの瞬きだろ。そう思いたいところだね。
「へえ……岡崎君、わたしのいない間にクラス委員長までも手中に収めたのね」
引き続き、白けた視線で俺を見てくる天地。
「手中ってなんだよ……別に俺から話しかけたわけじゃない、早良が勝手に俺に話しかけてくるだけだ」
「ふうん……つまり岡崎君は、俺が何も言わずとも女共が勝手に集まって来るんだぜぇウッヒッヒッて自慢したいのね?」
「俺の頭の中をそんな年中お花畑野郎の様に思わないでいただきたいっ!!」
それに俺は生まれてから一度たりとも、ウッヒッヒッなんてマッドな笑い方なんざした事は無いし、世界を仮に支配出来たとしても、そんなありきたりな悪役笑いはしないだろうさ。
「へそ曲がりね岡崎君は。定番もなかなかやってみると乙なものよ」
コイツやった事あるのかよ……徹頭徹尾、規格外を貫くやつだな。
「一体どんな場面でそんな笑いをしたのか、後学の為に教えてくれ」
「人を蹴落とした時かしら。精神的に」
笑い方よりも、その前提の行いが醜悪そのものだった。タチが非常に悪い、悪魔か。
あっ、悪魔だったなそういえばコイツ。
「それじゃあ岡崎君、放課後よろしくね?」
そう言って天地が急に話を切り上げたのは、教室の扉から今日も快活な表情で山崎教諭が出欠を取りにやって来たからだった。
それから出欠をとった後、山崎教諭から呼ばれた天地は教壇の前に立ち、海外への引っ越しの大筋だけをクラスメイトに伝え、「お世話になりました」と一つ頭を下げた。
だが、何故だろうな……その下げた頭を見て、先程まで悪魔だなんだ言っていた天地の姿が、俺には急に切なく感じた。
そういえば早良が言ってたな……思いの丈がどうたらって。最初はアホらしいと思って聞いていたのだが、もしかしたら俺は本当に、何か天地に伝えられずにいる思いの丈ってやつがあるのだろうか?
そしてここ数日、俺の中で燻ぶっている一つの疑問。天地は俺にとっての何なのか……クラスメイト?友達?そうなのかもしれん……そうなのかもしれんが……。
そんなこんなで結局、朝一の悄然たる気分へ逆戻りした俺は、そのもやっとした欝々たるものを胸に抱いたまま、まるで魂を持たない傀儡の様にふらりふらりと一日を送ったのだった。
えっ?尻が白い事?あぁ……すっかり忘れて、普通に廊下を歩いていたな。ヒソヒソ何か話したり、指を差していた奴もいた様な気がしたし、その姿を見て徳永は苦笑いを、神坂さんは心底心配した面持ちをしていた。
だが、神坂さんには悪いが、あの時の俺にはそんなの糠に釘、お構い無しだった。
それだけ俺は、自分の気持ちをまとめるのに精いっぱいだったって事なのさ。へそ曲がりも、ここまでくると問題ものだな。
溜息を吐きたくなるよ、自分自身に。
「今生の別れか……」
多分、そうなるだろうな。俺と天地は元々住む世界が違う人間だったのだが、それが何の因果か神様の悪戯なのかは知らないが、こうやって出会っちまった。
そもそも社長令嬢の天地が何故、こんな平凡な県立高校に入学したのか、それすらも不明なところがある。まあ……確信は無いのだが、単なる気まぐれという説が有力な気がする。
「……放課後、この前お弁当を一緒に食べた場所に来て。あなたに最後に話しておきたい事があるから」
「えっ……あ……あぁ……」
丁度良い、絶妙なタイミングだった。俺もお前から訊きたい事があったからな。
ただ何となくだが、俺と天地、伝えるのはどちらも同じ意図の話なのではないかと、俺はこの時から予感していた。
天地の素性について。
天地と昼食を共にしたあの日、俺は神坂さんから聞いていた中学の時の噂の真相を確かめるべく、本人に直接質問を投げかけたのだが、天地にはひらりとかわされてしまった。
だがあの時は、前情報が噂しか無かったため、俺もそこまで出題者としての知識量を擁するに至ってはいなかった。だが、今回は違う。確かな情報だとは言い難く、まあこれらも言ってしまえば噂でしかないのだろうが、徳永からの入れ知恵によって、俺も多少は有る事無い事を根掘り葉掘り出来るくらいには達していた。
それにこうやって天地から誘ってきたという事は、今度は逃げる気は無いのだろう。真っ向からぶつかり合うつもりだ。
だったら俺も、それを受け止める必要があるのだろう。一言一句、その全てを……やってやろうじゃねえか。
「フフッ……今日は天地さんが来て上機嫌のようね岡崎君?」
そう言って俺の座席の前へやって来たのは、最近俺の事をやたらと気に掛けてくれた早良だった。
上機嫌かって?当たり前だ!運命なんて不確定な要素がもし存在するのだとしたら、こういう事を言うんだろうなって柄にも合わない様な事を思ったくらいにな。
すると早良は、天地の居る方とは逆方向。俺の右側へと移動し、天地に聞こえない様なヒソヒソ声でこう耳打ちしてきた。
「せっかく天地さん来てくれたんだから、最後にちゃんと思いの丈を伝えるのよ?いい?」
お前は俺の保護者か何かかと突っ込んでやっても良かったのだが、天地のやつが俺と早良の姿をじとりとした視線で見ていたので、これ以上の深入りは返って地雷になると鼻を利かし、俺は「ふん」と一言だけ言って早良を一蹴した。
どうせコイツの言っている思いの丈とはつまり、そういうラブコメディ的な事なのだろう。バカバカしい……俺が最も苦手とする分野の事じゃねえか。ああいう、ご都合主義で恋愛に発展するものを見ているだけで、特に眠くも無いのにアクビが出てしまうからな俺は。
俺にちょっかいとも取れる様なお節介をした早良はその後、彼女の友人達の元へと戻って行ったのだが、その際俺の居る後ろを振り返り、ぱちくりとウィンクを一度だけしてきた様な気がした。いや……ただの瞬きだろ。そう思いたいところだね。
「へえ……岡崎君、わたしのいない間にクラス委員長までも手中に収めたのね」
引き続き、白けた視線で俺を見てくる天地。
「手中ってなんだよ……別に俺から話しかけたわけじゃない、早良が勝手に俺に話しかけてくるだけだ」
「ふうん……つまり岡崎君は、俺が何も言わずとも女共が勝手に集まって来るんだぜぇウッヒッヒッて自慢したいのね?」
「俺の頭の中をそんな年中お花畑野郎の様に思わないでいただきたいっ!!」
それに俺は生まれてから一度たりとも、ウッヒッヒッなんてマッドな笑い方なんざした事は無いし、世界を仮に支配出来たとしても、そんなありきたりな悪役笑いはしないだろうさ。
「へそ曲がりね岡崎君は。定番もなかなかやってみると乙なものよ」
コイツやった事あるのかよ……徹頭徹尾、規格外を貫くやつだな。
「一体どんな場面でそんな笑いをしたのか、後学の為に教えてくれ」
「人を蹴落とした時かしら。精神的に」
笑い方よりも、その前提の行いが醜悪そのものだった。タチが非常に悪い、悪魔か。
あっ、悪魔だったなそういえばコイツ。
「それじゃあ岡崎君、放課後よろしくね?」
そう言って天地が急に話を切り上げたのは、教室の扉から今日も快活な表情で山崎教諭が出欠を取りにやって来たからだった。
それから出欠をとった後、山崎教諭から呼ばれた天地は教壇の前に立ち、海外への引っ越しの大筋だけをクラスメイトに伝え、「お世話になりました」と一つ頭を下げた。
だが、何故だろうな……その下げた頭を見て、先程まで悪魔だなんだ言っていた天地の姿が、俺には急に切なく感じた。
そういえば早良が言ってたな……思いの丈がどうたらって。最初はアホらしいと思って聞いていたのだが、もしかしたら俺は本当に、何か天地に伝えられずにいる思いの丈ってやつがあるのだろうか?
そしてここ数日、俺の中で燻ぶっている一つの疑問。天地は俺にとっての何なのか……クラスメイト?友達?そうなのかもしれん……そうなのかもしれんが……。
そんなこんなで結局、朝一の悄然たる気分へ逆戻りした俺は、そのもやっとした欝々たるものを胸に抱いたまま、まるで魂を持たない傀儡の様にふらりふらりと一日を送ったのだった。
えっ?尻が白い事?あぁ……すっかり忘れて、普通に廊下を歩いていたな。ヒソヒソ何か話したり、指を差していた奴もいた様な気がしたし、その姿を見て徳永は苦笑いを、神坂さんは心底心配した面持ちをしていた。
だが、神坂さんには悪いが、あの時の俺にはそんなの糠に釘、お構い無しだった。
それだけ俺は、自分の気持ちをまとめるのに精いっぱいだったって事なのさ。へそ曲がりも、ここまでくると問題ものだな。
溜息を吐きたくなるよ、自分自身に。
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