ヒトコイラヴァーズ 悪魔の女との青春物語

赤坂皐月

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第1部 青春の始まり篇

 第4章 一人ぼっちの女の子【6】

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「……以上がわたしの過去よ。なかなか波乱万丈な人生を送ってるでしょ?」

 涼しげな顔をして、天地は語り終える。俺の様な平々凡々と生きてきた人間からしたら、天地の人生はまるでフィクションの中にあるスペクタクルな世界の様に思えたのだが、これが過去、そして現在も彼女が背負っている現実なのだろう。

 下手したらそんじょそこらのドラマなんかよりも面白いかもしれん。事実は小説よりも奇なりとは、まさに天地の為に作られた言葉の様な気が俺にはしたくらいに、壮絶な過去だった。

 そしてそれと同時に、天地が俺のような凡庸な人間には到底思いつかない、スケール外の事を平然と思いつくのは、そういう人生の荒波に揉まれたからこその賜物なのだろうと、改めて人間としての差を見せつけられた気もした。

「だけど父親を追いかけた中学三年間、それでもわたしは父親のやり方全てを理解する事は出来なかった。だから一度場を離れて、新たな発想を手に入れようと思って高校には入学したのよ。公立にしたのは、そっちの方が一般的な考えを持った人が多そうだったからっていうのが主な理由かしら」

「全ては復讐の為にか?」

「ええ。だけど会社が唐突な海外進出を発表したから、それだけは放っておけなくて……だから高校を離れる事にしたのよ」

「それは渋々って事なのか?お前の意思と言うよりかは、執念がそうさせたという感じか?」

「岡崎君にしては難しい質問をするわね……でも、そうかもしれないわね。もしわたしに復讐の念なんて無かったら、おそらく、というより確実に、海外なんて行かなかったもの」

 それでも、自分の意思をかなぐり捨ててでも、天地は海外へ向かうという事か。全てはあの日の復讐の為に……。

 なんだろうな……胸を締め付けられるような、やるせないこの気持ちは。

「それに……いや、やっぱいいわ」

 すると何か言おうとして、天地は口ごもった。さっきまではあんなにぺらぺらと喋っていたというのに。

「はぁ……なんかずっと話したから喋り疲れたわ。岡崎君、場を繋いでちょうだい」

「場を繋ぐって、なにすればいいんだよ」

安来節やすぎぶしのどじょう踊りなんてどう?あのひょうきんで滑稽な感じが岡崎君っぽくて、嵌ると思うんだけど」

「俺に今からザルを用意しろってか!」

 というより、よく女子高校生がどじょう踊りなんて思いついたもんだ。女子高校生に妄想を抱いている男諸君を幻滅させる様な発想だ。

「そういえばさっきの話を聞いてて、お前って今も祖父母に引き取られている身なんだろ?みんなで海外に引っ越すのか?」

「はぁ……岡崎君、わたしは喋り疲れたって言ったのよ?いくらどじょう踊りから連想して祖父母に繋がったからと言って、またわたしに話をさせる気?」

 そう言って天地は肩をすくめる。というか、何故俺がどじょう踊りから連想させた事が分かったんだコイツ……。

「岡崎君の想像力なんて、わたしくらいになると手に取る様に分かるわ。ほら、今も想像してるんでしょ?女子生徒のパンツが空から降って来る事を」

「それは想像じゃないっ!妄想だっ!!」

 そんな妄想、さぞかし頭の中がお花畑の奴にしかできねえよ。ちなみに俺はパンツに対しての趣向は持ち合わせていないのでそのつもりで!

「まっいいわ、掻い摘んで端的に。母方の祖父母はどちらとも中学一年生の頃に亡くなったわ」

「えっ……そうなのか……」

 端的にして、的確な説明。というより、俺はまた爆死する様な地雷を踏んづけちまったみたいだ。どんだけこの危険地帯には地雷が仕掛けられてるんだよ……。

 しかし……という事は、天地にこの世に残っている肉親はもう、父親だけだという事なのか。しかしその縁も絶縁状態……なんてむごい事しやがるんだろうな神様って奴は本当に。

「中学三年間であんな真似が出来たのも、一人暮らしだからこそ可能だったのよ。祖父母が生きてたら、絶対に止められてたわ」

「という事は……今回の海外も単身で行くのか」

「そうよ。だから朝、あなたに心配って言ったんでしょ?伝わらなかった?」

 正直に言おう、伝わってなかった。暴言を吐く為の布石くらいにしか捉えてなかったのが事実だ。

「やっぱりへそ曲がりね岡崎君は」

 何も言い返せなかった。なんせ当の本人も、自らの事をそう思っていたのだから。

「……一緒にお弁当食べた時、憶えてる?」

「えっ?ああ……モチロン。そんなに昔の事じゃなし、憶えてるさ」

「あの時わたし、感情が豊かなものって言ったじゃない?何でわたしがそう思ったのか、岡崎君は分かる?」

「……いや」
 
 多分あの時の俺なら「分かるわけないだろそんな事」とか無粋な事を言っていたに違いない、だが、天地の過去を知った今なら、多少なりとも俺にも思いつく事はあったのかもしれない。だが俺自身、そんな無駄な俺の予想よりも、天地が本当に思っている事だけを知りたかったので、敢えてここは知らぬ存ぜぬを装った。

「そう、まあそう言うとは思ってたけど……」

 天地は素っ気無く返し、そしてこう続ける。

「情けないけど……わたし自身、感情に飢えているというのがアンサーね。友達も肉親すらもいないから、感情のやり取りをする相手がいないのよ。隣の芝生は青いとでも言うのかしらね。だから故に、そんな感情的なやり取りをしてる人達を見て、豊かなものだって分かったんだけど」

 持ってないが故に、気づいた答えだと天地は言った。

 しかしそれに気づける事は決して、称えられる事でも、ましてや誇れる事でもない。それは本当の孤独を自らが味わっている、背負っている。それを自覚してしまう他に意味など無いのだから。
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