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第1部 青春の始まり篇
第5章 さよならなんて言わせない!【4】
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「それで?そんな空港にはそぐわない様な長袖スウェットを着て、下手くそな催しを仕掛けようとしてたみたいだけど、もしかしてわたしに最後の挨拶でもしに来たつもりかしら?」
「えっ……スウェット……あっ!!」
今頃気づいた。俺は朝起きてから早々に天地との遭遇連絡を神坂さんから受け、急いで家から飛び出した為、寝巻にしているスウェットを着たままだった。
大型連休を使って何処かへ出かける人達は皆、外出用の洒落た服を着ていたというのに、俺だけこんな薄汚れた格好をしていては逆に目立つわけだ……完全に迂闊だった。
「今頃自分の姿に気づくなんて、よっぽど必死だったのか、それともただの間抜けなのかのどっちかね」
それは多分……どちらとも正しい様な気がする。反論が出来ないほどに思い当たる節があるからな。
「まあいいわ、その点はわたしの最後の見送りに来てくれたって事で大目に見てあげる。これだけクラスメイト思いの人を見たのは初めてだわ」
大目に見てもらうのはいいのだが、クラスメイト思い……か。責めて友達思いくらいは言って欲しいところだったが。
「やっぱり海外へは一人で行くのか」
「ええ、だって着いて来る人なんて他にいないでしょ?天涯孤独の身だから」
それを自分で言うのか……だけどな天地、お前の知らない所でみんな、お前に興味を持っているんだ。徳永だって、神坂さんだってお前に近づきたいと俺をコネクションにしようとしたし、クラス委員長の早良だってお前の気遣いをしてくれてたんだぜ?
それに俺だって……うんざりだ、やりやがったな、酷な事言う奴だぜ、悪魔だ、と思いながらも、それでもお前を見続けてきたんだ。
お前は一人じゃない。もう既に俺の知っている限りでは、お前の周りにはお前を見てくれる人達が大勢いて、お前はその輪の中心に居たんだよ。ただ、お前がそれに気づけなかっただけでな……。
「……天涯孤独なんて言うんじゃねえ」
「えっ……」
多分意外だったのだろう。天地からしたら他愛も無い事であったが、それに対して俺が威圧的な返答をした事が。天地は驚いている様に見えた。
「天地……俺はな、お前みたいな何でも考える事がぶっ飛んでて、悪意を持って人を罠にかけ、こんなに口が悪く、人を蔑む人間を見たのは初めてだ」
「…………」
「けどな、そういうお前だからこそ、お前はみんなに注目されていたんだ」
「注……目……?」
「ああそうだ。みんながみんな、お前のその変人奇人、神出鬼没っぷりを見て、お前に興味を持っていたんだ。その度に俺は、お前の解説をする役目に回されていたんだぜ?」
「……そうなの」
いつもは俺に、一言われれば、十返してくる天地だったが、この時は何も言い返さず、ポツリと一言だけ言って俯いていた。こんなにしょげている天地を見たのは初めてだ。
「それに、俺だって……いや、俺はお前をクラスメイトなんかよりも、もっとずっと親しい存在だと思ってる」
「親しい……存在?」
「あ……ああ!あんな事毎日されて、ただのクラスメイト程度で許しておくわけにはいかないだろ?」
俺がそう言うと、天地は下げていた顔を上げ、いつもの少し意地悪気な、でもそれでいて不思議と人を魅了する微笑を浮かべる。うむ、いつもの悪魔が戻って来たか。結構結構。
「……それもそうね。それじゃああまりにも飼い殺しにされてる岡崎君の面目が立たないものね」
「飼い殺しって……俺はお前に雇われてなんかないぞ」
「雇ったわよ、入学式のあの日に」
言われて、俺はやっと気づいた。入学式の日、俺は天地の思い付きにより実験体にされていた事を。思えばあの時から始まったんだな……僅か数週間前の事なのに、懐かしく感じるのは多分、思い出が濃いせいなのだろうな。一生忘れられそうにないなこの分じゃ。
「そうね……せっかくだから、何故あなたを選んだかこの際だから教えてあげるわ」
「えっ……単なる隣の席だからってわけじゃないのか?」
「それもあるけど、それだけであんなに人を振り回したりなんかしないわ。こう見えても、一応社交性は持ってる方なのよ?」
コイツ、俺を振り回していた自覚はあったのか。しかも社交性って……それって自分で言う事なのか?でも……まあ他のクラスメイトに対しての、あの丁寧な接し方をしていた所を見ると、社交性は割とあるのだろうけどな。
「それじゃあ何で俺になったんだよ?」
「人柄よ。わたしにはすぐに分かった、あなたが心の広い人だって事が。わたしがした最初の質問憶えてる?」
「えっ……確か……」
憶えているともさ、あの爆弾発言ともとれる最初の挨拶。
『あなた、他人に本気で怒りを覚えた事って無い?』
「そうそれよ。その質問を聞いて岡崎君は唖然としてたみたいだけど、それでもちゃんと答えを返してくれたわよね?」
「ああ、そうだったっけか?」
何て俺は返したんだっけな……天地の事は憶えていても、自分の事は案外すぐに忘れちまうもんなんだなこういうのって。
「わたしは憶えてるわよ『いや……そんな事は一度も無いかな?この沙汰人をそこまで恨んだ事も無いし』だったかしら?よくもまあぶっきら棒に答えてたわ。建前だってすぐに分かったけど」
「ああ……えっ!建前だって分かってたのかよ!!」
数週間越しの驚愕の新事実。コイツ俺が建前で返事してるのが分かってて尚且つ実験台とか言い出したのか。どこまでの強心臓を持ってやがるんだ……俺だったら建前だって分かった瞬間、それ以上踏み入ろうとは思わないけどな。いや、そもそもあんな質問、初対面の相手にしないけどな俺なら。
「でもね、普通の人だったらあんな事言われたら無視したり、呆れ返ったりして相手にすらしないわ。でも岡崎君は例えそれが建前であっても、ちゃんと答えを返してくれた。あなたって自分で思ってるよりもお人好しなのよ?わたしが保証するわ」
お人好しねぇ……まあ頼まれたらNOとは突き返せない、ある種日本人気質な所はあるにはあるが……そういえば、なんだかんだ言って徳永に頼まれた事も全て引き受けてるし……こりゃ社会人になった時が恐ろしいな。学生である内に、物事の断り方を身に着けておく事を検討しておこう。
「えっ……スウェット……あっ!!」
今頃気づいた。俺は朝起きてから早々に天地との遭遇連絡を神坂さんから受け、急いで家から飛び出した為、寝巻にしているスウェットを着たままだった。
大型連休を使って何処かへ出かける人達は皆、外出用の洒落た服を着ていたというのに、俺だけこんな薄汚れた格好をしていては逆に目立つわけだ……完全に迂闊だった。
「今頃自分の姿に気づくなんて、よっぽど必死だったのか、それともただの間抜けなのかのどっちかね」
それは多分……どちらとも正しい様な気がする。反論が出来ないほどに思い当たる節があるからな。
「まあいいわ、その点はわたしの最後の見送りに来てくれたって事で大目に見てあげる。これだけクラスメイト思いの人を見たのは初めてだわ」
大目に見てもらうのはいいのだが、クラスメイト思い……か。責めて友達思いくらいは言って欲しいところだったが。
「やっぱり海外へは一人で行くのか」
「ええ、だって着いて来る人なんて他にいないでしょ?天涯孤独の身だから」
それを自分で言うのか……だけどな天地、お前の知らない所でみんな、お前に興味を持っているんだ。徳永だって、神坂さんだってお前に近づきたいと俺をコネクションにしようとしたし、クラス委員長の早良だってお前の気遣いをしてくれてたんだぜ?
それに俺だって……うんざりだ、やりやがったな、酷な事言う奴だぜ、悪魔だ、と思いながらも、それでもお前を見続けてきたんだ。
お前は一人じゃない。もう既に俺の知っている限りでは、お前の周りにはお前を見てくれる人達が大勢いて、お前はその輪の中心に居たんだよ。ただ、お前がそれに気づけなかっただけでな……。
「……天涯孤独なんて言うんじゃねえ」
「えっ……」
多分意外だったのだろう。天地からしたら他愛も無い事であったが、それに対して俺が威圧的な返答をした事が。天地は驚いている様に見えた。
「天地……俺はな、お前みたいな何でも考える事がぶっ飛んでて、悪意を持って人を罠にかけ、こんなに口が悪く、人を蔑む人間を見たのは初めてだ」
「…………」
「けどな、そういうお前だからこそ、お前はみんなに注目されていたんだ」
「注……目……?」
「ああそうだ。みんながみんな、お前のその変人奇人、神出鬼没っぷりを見て、お前に興味を持っていたんだ。その度に俺は、お前の解説をする役目に回されていたんだぜ?」
「……そうなの」
いつもは俺に、一言われれば、十返してくる天地だったが、この時は何も言い返さず、ポツリと一言だけ言って俯いていた。こんなにしょげている天地を見たのは初めてだ。
「それに、俺だって……いや、俺はお前をクラスメイトなんかよりも、もっとずっと親しい存在だと思ってる」
「親しい……存在?」
「あ……ああ!あんな事毎日されて、ただのクラスメイト程度で許しておくわけにはいかないだろ?」
俺がそう言うと、天地は下げていた顔を上げ、いつもの少し意地悪気な、でもそれでいて不思議と人を魅了する微笑を浮かべる。うむ、いつもの悪魔が戻って来たか。結構結構。
「……それもそうね。それじゃああまりにも飼い殺しにされてる岡崎君の面目が立たないものね」
「飼い殺しって……俺はお前に雇われてなんかないぞ」
「雇ったわよ、入学式のあの日に」
言われて、俺はやっと気づいた。入学式の日、俺は天地の思い付きにより実験体にされていた事を。思えばあの時から始まったんだな……僅か数週間前の事なのに、懐かしく感じるのは多分、思い出が濃いせいなのだろうな。一生忘れられそうにないなこの分じゃ。
「そうね……せっかくだから、何故あなたを選んだかこの際だから教えてあげるわ」
「えっ……単なる隣の席だからってわけじゃないのか?」
「それもあるけど、それだけであんなに人を振り回したりなんかしないわ。こう見えても、一応社交性は持ってる方なのよ?」
コイツ、俺を振り回していた自覚はあったのか。しかも社交性って……それって自分で言う事なのか?でも……まあ他のクラスメイトに対しての、あの丁寧な接し方をしていた所を見ると、社交性は割とあるのだろうけどな。
「それじゃあ何で俺になったんだよ?」
「人柄よ。わたしにはすぐに分かった、あなたが心の広い人だって事が。わたしがした最初の質問憶えてる?」
「えっ……確か……」
憶えているともさ、あの爆弾発言ともとれる最初の挨拶。
『あなた、他人に本気で怒りを覚えた事って無い?』
「そうそれよ。その質問を聞いて岡崎君は唖然としてたみたいだけど、それでもちゃんと答えを返してくれたわよね?」
「ああ、そうだったっけか?」
何て俺は返したんだっけな……天地の事は憶えていても、自分の事は案外すぐに忘れちまうもんなんだなこういうのって。
「わたしは憶えてるわよ『いや……そんな事は一度も無いかな?この沙汰人をそこまで恨んだ事も無いし』だったかしら?よくもまあぶっきら棒に答えてたわ。建前だってすぐに分かったけど」
「ああ……えっ!建前だって分かってたのかよ!!」
数週間越しの驚愕の新事実。コイツ俺が建前で返事してるのが分かってて尚且つ実験台とか言い出したのか。どこまでの強心臓を持ってやがるんだ……俺だったら建前だって分かった瞬間、それ以上踏み入ろうとは思わないけどな。いや、そもそもあんな質問、初対面の相手にしないけどな俺なら。
「でもね、普通の人だったらあんな事言われたら無視したり、呆れ返ったりして相手にすらしないわ。でも岡崎君は例えそれが建前であっても、ちゃんと答えを返してくれた。あなたって自分で思ってるよりもお人好しなのよ?わたしが保証するわ」
お人好しねぇ……まあ頼まれたらNOとは突き返せない、ある種日本人気質な所はあるにはあるが……そういえば、なんだかんだ言って徳永に頼まれた事も全て引き受けてるし……こりゃ社会人になった時が恐ろしいな。学生である内に、物事の断り方を身に着けておく事を検討しておこう。
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