36 / 103
第2部 青春の続き篇
第1話 ランチタイムにて【4】
しおりを挟む
しかし、ここが天地の社交性があると言えるところなのであろう、天地はそれ以上考える事を止め、俺達の言う通りに、空気を読む方向へと舵を切った。
「そう中学二年生の時の……けれどごめんなさい、わたし、その頃はあまり学校に通って無かったから、あんまりクラスメイトの事って憶えてないのよね」
言い切った。だが、天地の言ってる事はある種当たり前でもあった。中学の頃、天地は父親の動向を監視すべく、学校にはほぼ通っておらず、その登校頻度は一ヶ月に三日程。そんな状況の中で、クラスメイトだった人の名前を憶えていないのが薄情だと思う奴は、お門違いもいいところである。
それに所詮はクラスメイト、友達でもない以上、それは同じ教室に居ただけの間柄だと言ってしまえば、それまでだからな。
「ま……まあそうですよね……いいんです気にしないでください!むしろ、これからその……仲良くしてください!!」
神坂さんは天地に手を差し伸べる。挨拶は掴みが肝心とは言ったが、なるほどだから握手なのか。その言葉の意味をそのまま鵜呑みにするのは、神坂さんが純粋で無垢であるが故なのだろうけど、俺自身は、決してそういう意味で言ったわけでは無いという事をここで弁明させてもらう。
天地はしばらく、数秒間、神坂さんの伸ばされた手を見ると、そっと握り返した。
「ええ、こちらこそよろしく……あら?」
瞬間、神坂さんはその場にへたりと座り込んでしまった。どうやら緊張が解けて、気が抜けたようだ。
「へへへよかった……ちゃんと挨拶出来て」
神坂さんの、周りいる人間を全て幸福に満たすような笑顔が眩しい。写真に撮って神棚の上に供えておきたいくらいだ。
そんな神坂さんを見てか、天地も自然と口元を緩めていた。
「まったく……挨拶程度で一喜一憂してたらわたしの話し相手なんて務まらないわよ?」
「えっ?ど……どんな話をする気なんですか?」
「わたしの知ってる、怖い怖い闇の話」
「ひ……ひいいいいっ!!」
怖いと闇というワードを聞いただけで恐れ戦く神坂さん。それを見て、大そう面白がっている天地。本当になんというか……もしも天使と悪魔が遭遇する事があったなら、こういう状況になるんだなという場面を見せつけられているような、そんな一面だった。
しかしまあ、天地が二人を受け入れてくれて本当に良かった。正直冷や冷やしながら事の次第を見守っていた俺だったのだが、重くのしかかっていた肩の荷もようやく下ろせたって感じだ。
それに、これが天地の天涯孤独への脱出の一歩となってくれれば、俺としてはもう、それだけで満足でもある。
天地を孤独の底から救い出す事、それこそが俺の目標であり、そして俺に課された義務でもあるんだ。復讐の執念に駆られ、海外へ向かう天地の足を、追いかけて、追いかけて、這いつくばって、最後の最後で掴んで引き止めたのは、他でもない俺なのだからな。
闇の話とか、冗談で神坂さんには言っているが、天地の宿している心の闇は実際に深い。その心の闇の埋め合わせを、俺のような普通で、平凡で、無個性な凡人に出来るかどうかなんて分かりはしない。分かりはしないが、精一杯抗いたいとは思っている。
憂いに更ける顏も嫌いではないのだが、天地がこうして愉快に、楽しそうにしている姿はもっと好きだからな。
「岡崎君、なにぼーっとわたしの顔を見て突っ立ってるのよ?早く席に着きなさい、ご飯を食べる時間が無くなるわよ?」
「あっ……ああ!スマン!!」
我に返り、言われるがまま、俺は徳永の隣に着く。正面には天地、右斜めには神坂さんが居る。
「ふふっ、見蕩れるのはいいけど、それは二人きりの時の方がいいと思うよチハ?」
正面の二人には聞こえない程の小さい声で、徳永が囁く。
「……三枚におろすぞ」
「おお、怖い怖い」
そんな事を言いながら、相変わらず朗らかな笑みを浮かべていた徳永。俺はいつでも、本気だったんだけどな。
「そう中学二年生の時の……けれどごめんなさい、わたし、その頃はあまり学校に通って無かったから、あんまりクラスメイトの事って憶えてないのよね」
言い切った。だが、天地の言ってる事はある種当たり前でもあった。中学の頃、天地は父親の動向を監視すべく、学校にはほぼ通っておらず、その登校頻度は一ヶ月に三日程。そんな状況の中で、クラスメイトだった人の名前を憶えていないのが薄情だと思う奴は、お門違いもいいところである。
それに所詮はクラスメイト、友達でもない以上、それは同じ教室に居ただけの間柄だと言ってしまえば、それまでだからな。
「ま……まあそうですよね……いいんです気にしないでください!むしろ、これからその……仲良くしてください!!」
神坂さんは天地に手を差し伸べる。挨拶は掴みが肝心とは言ったが、なるほどだから握手なのか。その言葉の意味をそのまま鵜呑みにするのは、神坂さんが純粋で無垢であるが故なのだろうけど、俺自身は、決してそういう意味で言ったわけでは無いという事をここで弁明させてもらう。
天地はしばらく、数秒間、神坂さんの伸ばされた手を見ると、そっと握り返した。
「ええ、こちらこそよろしく……あら?」
瞬間、神坂さんはその場にへたりと座り込んでしまった。どうやら緊張が解けて、気が抜けたようだ。
「へへへよかった……ちゃんと挨拶出来て」
神坂さんの、周りいる人間を全て幸福に満たすような笑顔が眩しい。写真に撮って神棚の上に供えておきたいくらいだ。
そんな神坂さんを見てか、天地も自然と口元を緩めていた。
「まったく……挨拶程度で一喜一憂してたらわたしの話し相手なんて務まらないわよ?」
「えっ?ど……どんな話をする気なんですか?」
「わたしの知ってる、怖い怖い闇の話」
「ひ……ひいいいいっ!!」
怖いと闇というワードを聞いただけで恐れ戦く神坂さん。それを見て、大そう面白がっている天地。本当になんというか……もしも天使と悪魔が遭遇する事があったなら、こういう状況になるんだなという場面を見せつけられているような、そんな一面だった。
しかしまあ、天地が二人を受け入れてくれて本当に良かった。正直冷や冷やしながら事の次第を見守っていた俺だったのだが、重くのしかかっていた肩の荷もようやく下ろせたって感じだ。
それに、これが天地の天涯孤独への脱出の一歩となってくれれば、俺としてはもう、それだけで満足でもある。
天地を孤独の底から救い出す事、それこそが俺の目標であり、そして俺に課された義務でもあるんだ。復讐の執念に駆られ、海外へ向かう天地の足を、追いかけて、追いかけて、這いつくばって、最後の最後で掴んで引き止めたのは、他でもない俺なのだからな。
闇の話とか、冗談で神坂さんには言っているが、天地の宿している心の闇は実際に深い。その心の闇の埋め合わせを、俺のような普通で、平凡で、無個性な凡人に出来るかどうかなんて分かりはしない。分かりはしないが、精一杯抗いたいとは思っている。
憂いに更ける顏も嫌いではないのだが、天地がこうして愉快に、楽しそうにしている姿はもっと好きだからな。
「岡崎君、なにぼーっとわたしの顔を見て突っ立ってるのよ?早く席に着きなさい、ご飯を食べる時間が無くなるわよ?」
「あっ……ああ!スマン!!」
我に返り、言われるがまま、俺は徳永の隣に着く。正面には天地、右斜めには神坂さんが居る。
「ふふっ、見蕩れるのはいいけど、それは二人きりの時の方がいいと思うよチハ?」
正面の二人には聞こえない程の小さい声で、徳永が囁く。
「……三枚におろすぞ」
「おお、怖い怖い」
そんな事を言いながら、相変わらず朗らかな笑みを浮かべていた徳永。俺はいつでも、本気だったんだけどな。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
婚約破棄の代償
nanahi
恋愛
「あの子を放って置けないんだ。ごめん。婚約はなかったことにしてほしい」
ある日突然、侯爵令嬢エバンジェリンは婚約者アダムスに一方的に婚約破棄される。破局に追い込んだのは婚約者の幼馴染メアリという平民の儚げな娘だった。
エバンジェリンを差し置いてアダムスとメアリはひと時の幸せに酔うが、婚約破棄の代償は想像以上に大きかった。
夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い
青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。
神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。
もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。
生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。
過去世と同じ轍を踏みたくない……
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
【書籍化決定】アシュリーの願いごと
ましろ
恋愛
「まあ、本当に?」
もしかして。そう思うことはありました。
でも、まさか本当だっただなんて。
「…それならもう我慢する必要は無いわね?」
嫁いでから6年。まるで修道女が神に使えるが如くこの家に尽くしてきました。
すべては家の為であり、夫の為であり、義母の為でありました。
愛する息子すら後継者として育てるからと産まれてすぐにとりあげられてしまいました。
「でも、もう変わらなくてはね」
この事を知ったからにはもう何も我慢するつもりはありません。
だって。私には願いがあるのだから。
✻基本ゆるふわ設定です。
気を付けていますが、誤字脱字などがある為、あとからこっそり修正することがあります。
✻1/19、タグを2つ追加しました
✻1/27、短編から長編に変更しました
✻2/2、タグを変更しました
辺境伯夫人は領地を紡ぐ
やまだごんた
恋愛
王命によりヴァルデン辺境伯に嫁ぐことになった、前ベルンシュタイン公爵令嬢のマルグリット。
しかし、彼女を待っていたのは60年にも及ぶ戦争で荒廃し、冬を越す薪すら足りない現実だった。
物資も人手も足りない中、マルグリットは領地の立て直しに乗り出す。
戦しか知らなかったと自省する夫と向き合いながら、少しずつ築かれていく夫婦の距離。
これは、1人の女性が領地を紡ぎ、夫と共に未来を作る「内政×溺愛」の物語です。
全50話の予定です
※表紙はイメージです
※アルファポリス先行公開(なろうにも転載予定です)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる