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第2部 青春の続き篇
第1話 ランチタイムにて【5】
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その後の事を、少しだけ話そうか。
全員で初めての昼食会を行った同日、放課後。天地は今日の昼食についての感想を、俺に聞かせてくれた。というか半分俺から尋ねたようなもんだったのだが。
「今日はなんというか……久々にわいわいがやがやと言うか、複数人の人と同時に話したような気がするわ」
天地の顔にはちょっとだけ疲労の色が見えた。全ての授業が終わって、クタクタになる放課後だからというのもあるかもしれないが、もしかしたら慣れない事をしたので、いつもよりも多少、疲労が溜まってしまったのかもしれない。
「でもやっぱりあれね、『お喋り』という意味では良いのかもしれないけど、『お話』という意味では複数人では成立しないものね。正直、既にあの時何を喋っていたのかを忘れてしまったわ」
「おいおい今日の昼の事だぞ?もう忘れちまったのかよ」
「ええ、忘れっぽいのよね最近……」
「それはおばあちゃんの悩みだぞ」
「美しいおばあちゃんでしょ?」
「美しすぎるわっ!!」
今の天地がおばあちゃんだったら、この世に老けとか老いとかいう言葉は間もなく絶滅してしまうだろうよ……というかあれ?今俺、天地の事を美しいって言っちまったのか?
「正直な感想でよろしいわ岡崎君」
流れで言わされた言葉を、正直な感想と捉えられてしまった。これ、詐欺師がよくやる手法じゃないのか?
「詐欺師はあなたの方よ岡崎君」
「何故俺が唐突に詐欺師扱いされねばならないんだ!?」
「だってあなたの事だから、どうせお昼ご飯を食べながら、女の子のパンツやブラジャーの話を懇々と語り、それをおかずにご飯を食べるような、そんな友達かと思っていたのに、存外普通のお友達だったから」
一体全体、コイツは俺を何だと思ってるんだ。俺はそんな変態の宴の主催者なんか断じてない!
ちょっとコイツの真意というか、鼻を明かしたくなってきた。
「天地。もし仮にだぞ、そんな女の子の下着の話をするような奴がいたならば、お前、その場をどう切り抜けるつもりだったんだよ?」
「む……そう切り返してきたのね」
予想外と言わんばかりに、天地は瞠目し、しばらくその理由について考える。というか、話を振った時点でそこまで考えておけよ。コイツまさか、暴言苦言という球を俺に向かって打つだけだけ打っといて、後片付けは全部俺にやらせるなんて発想で言ってるのか?
会話のキャッチボールとは言うものの、これでは暴言の千本ノックじゃないか。
「そうね……女の子が胸を寄せて上げてるか、それとも天然巨乳なのか、その見分け方ぐらいは教えてあげたかもしれないわね」
「ほう……」
「ちなみにわたしは天然よ」
「…………」
訊いても無いのに、惜しみも無く、恥じる事も無く、告白された。
というか、天地は最近俺に心を許し過ぎているような気がしなくもない。平然と、淡々とそんな他人には言えないような事を、俺に対してはそんな感じで気軽に、日常会話に挟んでくる。これが良い傾向なのか、悪い傾向なのかはともかく、高校生的に、学生的に不純な会話なのではないかと、俺はつくづく疑問を抱いてしまいかねない。
それに、聞いてるこっちの方が恥ずかしくなるからな。
「でも徳永君はともかく、神坂さんの名前……わたし何処かで聞いた事があるのよね」
急に天地は話を取っ替え引っ替え、お昼の時の話へと差し戻す。
「そういえばそんな感じだったな」
あの時天地は、神坂さんがクラスメイトだったという紹介をされても、何故かピンとしたような顔はせず、むしろそうじゃないという怪訝な表情をしていたからな。
「顏を見ても記憶には無かったから、多分名前だけを知ってる感じだと思うの。でもすぐに思い出せない所を考えると、わたしの中の印象はそこまで濃くなかったって感じなのよね。噂話で聞いたとか、テレビ番組のテロップに表示されてたみたいな、そんな感じだと思うのよ」
『聴いた』というよりかは、『聞いた』という話だと天地は言った。しかし何処でどうやって聞いたかまでは思い出せないようだが。
「……まあいいだろう、その内思い出すさ」
俺は曖昧な返事を天地に返した。なんせ天地の記憶が朧げなのだから、俺も不分明な、有耶無耶な返事を返さざるを得なかったのだ。
「……まあそうね。こういうのは潜在意識に沈めている内に思い出すものよね」
潜在意識とはつまり、俺達人間が見たもの、聞いたもの、感じたもの、それら全てを貯蔵し、保管している、広義でいうところの無意識にあたる。
しかしそこから自由に情報を引き出す事は出来ない。何故なら俺達人間はまだ、無意識を自在に操る事が出来ないからだ。
俺達が意識的だと言っている部分、つまり顕在意識と潜在意識とが共鳴しなければ、その情報はどう足掻いたとしても、潜在意識から引き出す事は実施不可能なのである。
つまりその共鳴とは即ち、キッカケ。物事を思い出すキッカケなのだ。
しかしそのキッカケが今は無い。だから思い出せない。思い出せないなら、今この時は潜在意識に沈めたままにしておき、キッカケを見つけるその日まで寝かせ続けておけば良い。つまりは、そういう話だった。
「それで天地、今後はどうする?一緒に弁当を食べるのか?」
俺が訊くと、天地は少しの間だけ考え、結論を出した。
「わたしはやっぱり『喋る』より『話す』方が好きだし、そんな頻繁に喋れるほどネタも無いから……週に三日同席させてもらってもいいかしら?」
「天地……なんか話す方が好きとか言いながら、週三日ってほとんどじゃねえか」
一週間は七日ある。しかしその二日は土曜日、日曜日である為、初めから無いものと考えていいだろう。そうなると五日の内三日。かなりの頻度であった。
「いいのよみんなで集まるのは週三日で。あと二日は『話す』方に割り当てたいから」
まあ……いいんだろう。結局は俺の友達を、天地は受け入れてくれたという事なのだから。それは俺にとっても、多分徳永や神坂さんにとっても誇らく、素晴らしい事なのだ。
天涯孤独の身、そう自らを呼んでいた天地魔白はいなくなり、新たに仲間に囲まれた天地魔白が生まれたのだから。
「でも……あの場合だと『話す』だけじゃなくて『語る』もあるし、『伝える』もしくは『囁く』もあるかも。まあでもほとんどは、『いじる』とか『罵倒する』とかになっちゃうのかしらね?」
もしかしたら、もしかするが、俺は最後の二つのワードだけで、五日の内のあと二日、『話す』に付き合わされる人物を特定出来たような気がしたのだが、これを俺が言うのもはばかられるので、一応尋ねてみる事とする。
「天地……あと二日の『話す』っていうのは誰と過ごすつもりなんだ?」
「決まってるじゃない」
天地はいつも通り、即答だった。
「あなたよ、岡崎君」
これはきっと、喜ばしい事なのだろう。俺は天地と五日の内五日、お昼を共にするという事になったのだから。
「そうか……なあ天地」
こうなったからには俺もとことん付き合うつもりだし、罵倒だろうが、悩みだろうが、笑い話だろうが何だって聴いて、受け止めてやるつもりさ。
だけど俺からも一つだけ、お昼を毎日共にするという取り決めが成立した上で、天地に頼みたい事があった。
「お前の作った弁当食べてみたいんだけど、今度作ってもらってもいいか?」
「ええいいわよ、一つ作るのも二つ作るのもあまり変わらないし、なんなら毎週一日だけ作って来てあげるわ。ただ、中身とかじっくり考えたいから、毎週月曜日にっていうのはどうかしら?」
「月曜か……分かった!」
月曜日……土、日という二日間の休日が終わりを告げ、五日間の平日がやってくる最初の日。世の学生だけでなく、社会人すらその日が来るのを疎み、嫌い、遠ざけるその日。
これは決して俺が捻くれているからとか、そういうわけじゃないのだが、俺は一週間の曜日の中でこの先、周囲からは地獄と揶揄される月曜日というその日こそが、俺にとって、最も一週間で待ち遠しい日となる事は言うまでもないだろう。
全員で初めての昼食会を行った同日、放課後。天地は今日の昼食についての感想を、俺に聞かせてくれた。というか半分俺から尋ねたようなもんだったのだが。
「今日はなんというか……久々にわいわいがやがやと言うか、複数人の人と同時に話したような気がするわ」
天地の顔にはちょっとだけ疲労の色が見えた。全ての授業が終わって、クタクタになる放課後だからというのもあるかもしれないが、もしかしたら慣れない事をしたので、いつもよりも多少、疲労が溜まってしまったのかもしれない。
「でもやっぱりあれね、『お喋り』という意味では良いのかもしれないけど、『お話』という意味では複数人では成立しないものね。正直、既にあの時何を喋っていたのかを忘れてしまったわ」
「おいおい今日の昼の事だぞ?もう忘れちまったのかよ」
「ええ、忘れっぽいのよね最近……」
「それはおばあちゃんの悩みだぞ」
「美しいおばあちゃんでしょ?」
「美しすぎるわっ!!」
今の天地がおばあちゃんだったら、この世に老けとか老いとかいう言葉は間もなく絶滅してしまうだろうよ……というかあれ?今俺、天地の事を美しいって言っちまったのか?
「正直な感想でよろしいわ岡崎君」
流れで言わされた言葉を、正直な感想と捉えられてしまった。これ、詐欺師がよくやる手法じゃないのか?
「詐欺師はあなたの方よ岡崎君」
「何故俺が唐突に詐欺師扱いされねばならないんだ!?」
「だってあなたの事だから、どうせお昼ご飯を食べながら、女の子のパンツやブラジャーの話を懇々と語り、それをおかずにご飯を食べるような、そんな友達かと思っていたのに、存外普通のお友達だったから」
一体全体、コイツは俺を何だと思ってるんだ。俺はそんな変態の宴の主催者なんか断じてない!
ちょっとコイツの真意というか、鼻を明かしたくなってきた。
「天地。もし仮にだぞ、そんな女の子の下着の話をするような奴がいたならば、お前、その場をどう切り抜けるつもりだったんだよ?」
「む……そう切り返してきたのね」
予想外と言わんばかりに、天地は瞠目し、しばらくその理由について考える。というか、話を振った時点でそこまで考えておけよ。コイツまさか、暴言苦言という球を俺に向かって打つだけだけ打っといて、後片付けは全部俺にやらせるなんて発想で言ってるのか?
会話のキャッチボールとは言うものの、これでは暴言の千本ノックじゃないか。
「そうね……女の子が胸を寄せて上げてるか、それとも天然巨乳なのか、その見分け方ぐらいは教えてあげたかもしれないわね」
「ほう……」
「ちなみにわたしは天然よ」
「…………」
訊いても無いのに、惜しみも無く、恥じる事も無く、告白された。
というか、天地は最近俺に心を許し過ぎているような気がしなくもない。平然と、淡々とそんな他人には言えないような事を、俺に対してはそんな感じで気軽に、日常会話に挟んでくる。これが良い傾向なのか、悪い傾向なのかはともかく、高校生的に、学生的に不純な会話なのではないかと、俺はつくづく疑問を抱いてしまいかねない。
それに、聞いてるこっちの方が恥ずかしくなるからな。
「でも徳永君はともかく、神坂さんの名前……わたし何処かで聞いた事があるのよね」
急に天地は話を取っ替え引っ替え、お昼の時の話へと差し戻す。
「そういえばそんな感じだったな」
あの時天地は、神坂さんがクラスメイトだったという紹介をされても、何故かピンとしたような顔はせず、むしろそうじゃないという怪訝な表情をしていたからな。
「顏を見ても記憶には無かったから、多分名前だけを知ってる感じだと思うの。でもすぐに思い出せない所を考えると、わたしの中の印象はそこまで濃くなかったって感じなのよね。噂話で聞いたとか、テレビ番組のテロップに表示されてたみたいな、そんな感じだと思うのよ」
『聴いた』というよりかは、『聞いた』という話だと天地は言った。しかし何処でどうやって聞いたかまでは思い出せないようだが。
「……まあいいだろう、その内思い出すさ」
俺は曖昧な返事を天地に返した。なんせ天地の記憶が朧げなのだから、俺も不分明な、有耶無耶な返事を返さざるを得なかったのだ。
「……まあそうね。こういうのは潜在意識に沈めている内に思い出すものよね」
潜在意識とはつまり、俺達人間が見たもの、聞いたもの、感じたもの、それら全てを貯蔵し、保管している、広義でいうところの無意識にあたる。
しかしそこから自由に情報を引き出す事は出来ない。何故なら俺達人間はまだ、無意識を自在に操る事が出来ないからだ。
俺達が意識的だと言っている部分、つまり顕在意識と潜在意識とが共鳴しなければ、その情報はどう足掻いたとしても、潜在意識から引き出す事は実施不可能なのである。
つまりその共鳴とは即ち、キッカケ。物事を思い出すキッカケなのだ。
しかしそのキッカケが今は無い。だから思い出せない。思い出せないなら、今この時は潜在意識に沈めたままにしておき、キッカケを見つけるその日まで寝かせ続けておけば良い。つまりは、そういう話だった。
「それで天地、今後はどうする?一緒に弁当を食べるのか?」
俺が訊くと、天地は少しの間だけ考え、結論を出した。
「わたしはやっぱり『喋る』より『話す』方が好きだし、そんな頻繁に喋れるほどネタも無いから……週に三日同席させてもらってもいいかしら?」
「天地……なんか話す方が好きとか言いながら、週三日ってほとんどじゃねえか」
一週間は七日ある。しかしその二日は土曜日、日曜日である為、初めから無いものと考えていいだろう。そうなると五日の内三日。かなりの頻度であった。
「いいのよみんなで集まるのは週三日で。あと二日は『話す』方に割り当てたいから」
まあ……いいんだろう。結局は俺の友達を、天地は受け入れてくれたという事なのだから。それは俺にとっても、多分徳永や神坂さんにとっても誇らく、素晴らしい事なのだ。
天涯孤独の身、そう自らを呼んでいた天地魔白はいなくなり、新たに仲間に囲まれた天地魔白が生まれたのだから。
「でも……あの場合だと『話す』だけじゃなくて『語る』もあるし、『伝える』もしくは『囁く』もあるかも。まあでもほとんどは、『いじる』とか『罵倒する』とかになっちゃうのかしらね?」
もしかしたら、もしかするが、俺は最後の二つのワードだけで、五日の内のあと二日、『話す』に付き合わされる人物を特定出来たような気がしたのだが、これを俺が言うのもはばかられるので、一応尋ねてみる事とする。
「天地……あと二日の『話す』っていうのは誰と過ごすつもりなんだ?」
「決まってるじゃない」
天地はいつも通り、即答だった。
「あなたよ、岡崎君」
これはきっと、喜ばしい事なのだろう。俺は天地と五日の内五日、お昼を共にするという事になったのだから。
「そうか……なあ天地」
こうなったからには俺もとことん付き合うつもりだし、罵倒だろうが、悩みだろうが、笑い話だろうが何だって聴いて、受け止めてやるつもりさ。
だけど俺からも一つだけ、お昼を毎日共にするという取り決めが成立した上で、天地に頼みたい事があった。
「お前の作った弁当食べてみたいんだけど、今度作ってもらってもいいか?」
「ええいいわよ、一つ作るのも二つ作るのもあまり変わらないし、なんなら毎週一日だけ作って来てあげるわ。ただ、中身とかじっくり考えたいから、毎週月曜日にっていうのはどうかしら?」
「月曜か……分かった!」
月曜日……土、日という二日間の休日が終わりを告げ、五日間の平日がやってくる最初の日。世の学生だけでなく、社会人すらその日が来るのを疎み、嫌い、遠ざけるその日。
これは決して俺が捻くれているからとか、そういうわけじゃないのだが、俺は一週間の曜日の中でこの先、周囲からは地獄と揶揄される月曜日というその日こそが、俺にとって、最も一週間で待ち遠しい日となる事は言うまでもないだろう。
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