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第2部 青春の続き篇
第3話 ロシアンボトル【2】
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いつも通り、俺は一年五組の教室へと入り、自分の座席へと足を動かしていた。
しかし以前までの俺の座席には、他のクラスメイトが座っており、俺の座席は別の場所にあった。その間に席替えと言う学級内イベントが発生したのだ。
視力が悪い人間は手前の席などに移動されるなどの配慮がされつつも、俺はバッチシ両目の視力は一.五あったのでその事については関係が無く、ほとんどのクラスメイトを含めたくじ引きで見事、外側の窓が隣にある、奥から二番目という好待遇の座席を獲得したわけだ。
だが、これは運命なのか、あるいは宿命なのか、その席替えでミラクルが起こったのである。
俺は自らの手で勝ち取った座席に着くと、後ろの座席の住人から声を掛けられた。
「御機嫌よう、岡崎君。相変わらず朝は冴えない顔してるわね」
そこに優雅に座していたのは、天地魔白だった。
そう、隣の住人は、後ろの住人となったのである。これは決して何者かによって謀られた事でもなく、ましてや意図して仕組まれた事でもなく、絶対的な運でこうなったのだ。
神が謀ったかどうかまでは、俺の知り得ないところではあるけどな。
「おはよう、てか、朝に冴えた顔してる奴なんかいるのかよ。眠くないのか?」
「……そうね、ごめんなさい」
「別に謝る事じゃ無いだろ」
「あなたは年がら年中、四六時中冴えない顔をしていたのだったわね」
「期間の問題じゃねえっ!」
「朝から女の子を怒鳴ったりなんかして、恐喝罪で訴えるわよ」
「…………」
暴言だって言葉の暴力だ。暴行罪では訴えられないのだろうかと、俺は密かに思う。
「それにわたしは朝五時に起きてるから、この時間にはもうお目めパッチリなのよ。少女漫画の女の子くらいはパッチリね」
「そりゃさぞかし目が開いてるんだろうな」
「ええ、パッチリし過ぎて目が飛び出て、その目玉が一人歩きして、湯船に浸かったりするくらいパッチリね」
「きっとその湯船は、お茶碗なのだろうな」
少女漫画から妖怪漫画になっちゃったよ。とんだ連想ゲームだ。
「それで天地、今日はそういえば、新しい秘策がどうたらとか言ってなかったか?」
「ふっふっ……そうよ、このマンネリ化しつつあるあなたとのイタズラ騒動に、新たな風を吹き込むやもしれないニューウェーブ!つまり、新たな秘策を昨日の授業中に思いついたのよっ!!」
ビシッと俺に向けて人差し指を突きつける天地。いつもは澄ました顔をしているのだが、こういう時だけはまるでキャラが変貌したかのように、何かに憑りつかれたかのようにイキイキし始める。
というか、授業中にそんな事考えるなよ……俺も寝たりするけどさ。
「人を指差すな……それで、その秘策ってのは何なんだ?」
「欲しがりね岡崎君は。まあいいわ、長く引っ張るようなフリでもないし」
まるで俺が楽しみにしていたかのような言い草をされたが、実際、何を考えてきたのかは気になった。俺の身に直接降りかかる事でもあったし。
天地は机の横に掛けてある自分の鞄から、三つの小さなタンブラー型の水筒を取り出した。その水筒は全て黒い色をしている。
「……まさかと思うが、その水筒に電気が走る仕掛けが施されてるとかないよな?」
「無いわよ、それじゃあ従来のやり方と同じじゃない。でもそんな商品は見た事無いわね……今度探しておく事にするわ」
どうやら余計な知恵を与えてしまったようだ。口は災いの元とはまさにこういう時、こういう事を仕出かした際に使うのだなと……教訓にしておこう。
そして、今後天地が差し出す水筒には厳重注意が必要であると、これもまた記憶に刻み付けておこうと思う。
「今回のこれはそういう、外側に何かが仕掛けられているんじゃなく、内側が重要になってくる物よ」
「内側?」
それは即ち、中身。水筒の中身が重要だという事なのだろうか?
「そう、この中にはわたしが作ったミネストローネのスープが入っているの。でもこの内の一本には、この前余ったデスソースが垂らされた激辛スープが混入されているわ」
「はあ……」
「つまりわたしとあなた、共に一本ずつ水筒を選び、激辛スープを引いた方が負けというシンプルなものよ!」
なるほど……なるほどそれは分かるのだが。
「しかし天地……それってイタズラじゃなく、ゲームじゃないか?」
「そうよ?それがどうかしたの?」
「いやいやいや!お前って確か、このイタズラをする当初は、人が怒りでどこまで接近出来るかっていう実験がしたいとか、そんな事言って始めたんじゃなかったのか!?」
「ああ、そういう事もあったわね。懐かしい」
天地にとっても、もはや入学式の時の出来事は懐かしい思い出となっていた。と言っても、まだ二ヶ月前の事なのだが。
「あんなの方便、単なる思い付きで言った事よ。誤魔化しとも言えるわね」
「はっ……!?誤魔化しだったのかよっ!!」
「あなたがあの時、建前でお茶を濁そうとしたのと同じように、わたしも誤魔化してお茶を濁そうとしていただけよ」
建前と誤魔化し。
つまり俺達はあの時、虚言を言い合っていただけだったというわけか。それはそれで悲しいような、寂しいような気がする。
「いいえ、わたしは本音も言ってたわよあの時。あの時の岡崎君じゃ到底気がつかなかったでしょうけど、ちゃんとこの口で」
言ってたかそんな事?
「あの時言った事のほとんどが誤魔化しだったけど、『本音を誤魔化した部分』が一つだけあったわ。つまりその誤魔化した部分の逆の意味を考えれば、自ずと答えは出てくるという事よ」
うぅ~ん……何だか謎解きになってきたな。それに、俺だってあの時の言葉を、一言一句憶えているわけじゃないし……。
「天地、その件に関しては今は保留って事でいいか?スマン、思い出せそうにない」
「別にいいわよ、わたしも恥ずかしいから思い出して欲しくないわ」
恥ずかしい……あの強心臓、羞恥心などわたしの辞書に無いと豪語してそうな天地が、恥辱だと感じる事だと……そう言われれば、意地でも思い出したくなるようなものだ。
捻くれてるというか、嫌な奴だなぁ俺……。
しかし以前までの俺の座席には、他のクラスメイトが座っており、俺の座席は別の場所にあった。その間に席替えと言う学級内イベントが発生したのだ。
視力が悪い人間は手前の席などに移動されるなどの配慮がされつつも、俺はバッチシ両目の視力は一.五あったのでその事については関係が無く、ほとんどのクラスメイトを含めたくじ引きで見事、外側の窓が隣にある、奥から二番目という好待遇の座席を獲得したわけだ。
だが、これは運命なのか、あるいは宿命なのか、その席替えでミラクルが起こったのである。
俺は自らの手で勝ち取った座席に着くと、後ろの座席の住人から声を掛けられた。
「御機嫌よう、岡崎君。相変わらず朝は冴えない顔してるわね」
そこに優雅に座していたのは、天地魔白だった。
そう、隣の住人は、後ろの住人となったのである。これは決して何者かによって謀られた事でもなく、ましてや意図して仕組まれた事でもなく、絶対的な運でこうなったのだ。
神が謀ったかどうかまでは、俺の知り得ないところではあるけどな。
「おはよう、てか、朝に冴えた顔してる奴なんかいるのかよ。眠くないのか?」
「……そうね、ごめんなさい」
「別に謝る事じゃ無いだろ」
「あなたは年がら年中、四六時中冴えない顔をしていたのだったわね」
「期間の問題じゃねえっ!」
「朝から女の子を怒鳴ったりなんかして、恐喝罪で訴えるわよ」
「…………」
暴言だって言葉の暴力だ。暴行罪では訴えられないのだろうかと、俺は密かに思う。
「それにわたしは朝五時に起きてるから、この時間にはもうお目めパッチリなのよ。少女漫画の女の子くらいはパッチリね」
「そりゃさぞかし目が開いてるんだろうな」
「ええ、パッチリし過ぎて目が飛び出て、その目玉が一人歩きして、湯船に浸かったりするくらいパッチリね」
「きっとその湯船は、お茶碗なのだろうな」
少女漫画から妖怪漫画になっちゃったよ。とんだ連想ゲームだ。
「それで天地、今日はそういえば、新しい秘策がどうたらとか言ってなかったか?」
「ふっふっ……そうよ、このマンネリ化しつつあるあなたとのイタズラ騒動に、新たな風を吹き込むやもしれないニューウェーブ!つまり、新たな秘策を昨日の授業中に思いついたのよっ!!」
ビシッと俺に向けて人差し指を突きつける天地。いつもは澄ました顔をしているのだが、こういう時だけはまるでキャラが変貌したかのように、何かに憑りつかれたかのようにイキイキし始める。
というか、授業中にそんな事考えるなよ……俺も寝たりするけどさ。
「人を指差すな……それで、その秘策ってのは何なんだ?」
「欲しがりね岡崎君は。まあいいわ、長く引っ張るようなフリでもないし」
まるで俺が楽しみにしていたかのような言い草をされたが、実際、何を考えてきたのかは気になった。俺の身に直接降りかかる事でもあったし。
天地は机の横に掛けてある自分の鞄から、三つの小さなタンブラー型の水筒を取り出した。その水筒は全て黒い色をしている。
「……まさかと思うが、その水筒に電気が走る仕掛けが施されてるとかないよな?」
「無いわよ、それじゃあ従来のやり方と同じじゃない。でもそんな商品は見た事無いわね……今度探しておく事にするわ」
どうやら余計な知恵を与えてしまったようだ。口は災いの元とはまさにこういう時、こういう事を仕出かした際に使うのだなと……教訓にしておこう。
そして、今後天地が差し出す水筒には厳重注意が必要であると、これもまた記憶に刻み付けておこうと思う。
「今回のこれはそういう、外側に何かが仕掛けられているんじゃなく、内側が重要になってくる物よ」
「内側?」
それは即ち、中身。水筒の中身が重要だという事なのだろうか?
「そう、この中にはわたしが作ったミネストローネのスープが入っているの。でもこの内の一本には、この前余ったデスソースが垂らされた激辛スープが混入されているわ」
「はあ……」
「つまりわたしとあなた、共に一本ずつ水筒を選び、激辛スープを引いた方が負けというシンプルなものよ!」
なるほど……なるほどそれは分かるのだが。
「しかし天地……それってイタズラじゃなく、ゲームじゃないか?」
「そうよ?それがどうかしたの?」
「いやいやいや!お前って確か、このイタズラをする当初は、人が怒りでどこまで接近出来るかっていう実験がしたいとか、そんな事言って始めたんじゃなかったのか!?」
「ああ、そういう事もあったわね。懐かしい」
天地にとっても、もはや入学式の時の出来事は懐かしい思い出となっていた。と言っても、まだ二ヶ月前の事なのだが。
「あんなの方便、単なる思い付きで言った事よ。誤魔化しとも言えるわね」
「はっ……!?誤魔化しだったのかよっ!!」
「あなたがあの時、建前でお茶を濁そうとしたのと同じように、わたしも誤魔化してお茶を濁そうとしていただけよ」
建前と誤魔化し。
つまり俺達はあの時、虚言を言い合っていただけだったというわけか。それはそれで悲しいような、寂しいような気がする。
「いいえ、わたしは本音も言ってたわよあの時。あの時の岡崎君じゃ到底気がつかなかったでしょうけど、ちゃんとこの口で」
言ってたかそんな事?
「あの時言った事のほとんどが誤魔化しだったけど、『本音を誤魔化した部分』が一つだけあったわ。つまりその誤魔化した部分の逆の意味を考えれば、自ずと答えは出てくるという事よ」
うぅ~ん……何だか謎解きになってきたな。それに、俺だってあの時の言葉を、一言一句憶えているわけじゃないし……。
「天地、その件に関しては今は保留って事でいいか?スマン、思い出せそうにない」
「別にいいわよ、わたしも恥ずかしいから思い出して欲しくないわ」
恥ずかしい……あの強心臓、羞恥心などわたしの辞書に無いと豪語してそうな天地が、恥辱だと感じる事だと……そう言われれば、意地でも思い出したくなるようなものだ。
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