ヒトコイラヴァーズ 悪魔の女との青春物語

赤坂皐月

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第2部 青春の続き篇

第5話 七夕の日【9】

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「まあ罰ゲームは後にして、無知な岡崎君に、この博識なわたしが、夜空の見方を教えてあげようじゃない」

「…………」

 本当にコイツ、俺を囃し立ててる時が一番、イキイキしてるんだよな。

 知らない人が見たら、いじめっ子といじめられっ子だぞ……いや知ってる人が見ても、そう見えるかもしれないが。

「じゃあまず、初心者の岡崎君向けに、あれはどうかしら?」

 天地が指差したのは、他にある星々の中で、特に輝かしい光を放っている、夏空に煌めく三角形に並んだ星々。

「それはさすがに分かるよ。夏の大三角。デネブ、アルタイル、ベガで構成されているんだろ?」

「そうね、はくちょう座α星のデネブ、わし座α星のアルタイル、そしてこと座α星のベガよ。ちなみに付け加えると、天の川のお話で出てくる織姫がベガで彦星がアルタイルよ」

「はあ……んで、そのα星って何なんだ?」

「…………いよいよ、本すら読んで来たのか怪しいことを言い出したわね岡崎君……」

 空に煌めく星とは対照的な、どちらかと言えばこの夜空のような、真っ黒い淀んだ目で俺を睨んでくる天地。

 疑ってる、完全に。

「いやいや待て!怪しむな!本は読んできたんだって!だけどほら、そこまで詳細には読んでなかったからさ……」

「……まったく、知識どころか、知識の身に着け方まで『おそまつくん』なのねあなたは。これじゃあ『イヤミ』の一つも言いたくなるわ。知らないからと言って、『これでいいのだ』で済まされるのは、『太陽が西から昇って東に沈む』ような、トンチンカンな世界だけなのよ」

「……俺は赤塚ワールドの住人じゃないぞ」

 名作漫画に例えられたのは光栄なのだが、俺はあそこまでカオスにはなりきれない。

 あの世界観から見れば、俺はまだまだ常人の凡人だ。

「α星は一つの星座の中で首星、所謂、最も明るい星という意味があるのよ。その次がβ星、そしてγ星と続いていくわ」

「へえ~……」

「ただ、必ずしもα星が最輝星とは限らなくて、おおぐま座やオリオン座なんかは、その例外にあたるわ」

「オリオン座ねぇ……」

 オリオン座くらいなら俺にだって分かるし、見つける事が出来る。砂時計のような形をしたのが、確かそうだったはずだ。

 小学校の理科の授業でやった気がする。

「ちなみにあなたでも知っているっていうオリオン座は、冬の大三角の一つ、ベテルギウスがα星よ。あとはこいぬ座のα星プロキオン、おおいぬ座のα星シリウスで構成されているわ」

「はあ……お前、本当に天体について詳しいんだな」

「これくらい序ノ口よ。岡崎君がただ、知らなさ過ぎるだけ」

「そうっすか……」

 なんだかさっきから言われっ放しだな、俺。

 どうにかこうにか、何か一歩制せる事が出来るような、鼻を明かす事が出来るようなものはないだろうかと考えた時、本当につい最近思い出せた、天地からは思い出さなくてもいいと言われ、俺にとっては、是が非でも思い出したかったあの課題の答えを、今この時こそ、ここで提示するのだと、俺は確信した。

「なあ天地、この前話した、最初会った時に言った事は、ほとんど口から出まかせだった~ってお前が言ってきた時の、あの話憶えてるか?」

「そんな話、いつしたかしら?」

 天地は俺に、とぼけてみせる。ちなみにあの話をしてから、まだ二週間と経っていない。

「……嘘よ、そんな泣きそうな顔しないでよ」

「俺は別に、泣きそうな顔なんてしてないぞ!」

 悲しくはなりかけたけどな。

「それでさ、その時、あの中に本音を誤魔化した部分があるって話になって、俺はその時思い出せなかったじゃん?」

「じゃんなんて、岡崎君は東京訛りなの?」

「……いえ、バリバリの地方っ子です」

「そう、じゃあ変に、東京かぶれのような言葉の使い方はやめなさい」

 言葉の使い方にまで罵倒を入れる余地があるとは……コイツ、どんだけレパートリーがあるんだよ。

 尽きないよなぁ……本当に。
 
 いや待てよ?もしかしてコイツ……俺にその事を言わせまいと、防衛線を張ろうとしているのか?

 さっきから話を、意図的に逸らされている気がする……。

「それでさ、その時思い出せなかった事を、この前思い出したんだよ」

「へえ……それはそれは、褒めて遣わすわ。コングラッチュレーション」

 これだけ気持ちの籠っていない、おざなりな褒められ方をされたのは生まれて初めてだ。

 コンビニ店員のいらっしゃいませ~と同じくらい、気持ちが籠っていない。

「……そんなに思い出されるのが嫌だったのか?」

「さあ?だけど岡崎君、女心はあなたが思ってる以上に複雑なのよ。もっとデリケートに扱わないと、いつか背中から刺されるわよ」

「刺されるって……お前俺を殺す気でいるのかっ!?」

「ジョークジョーク、アメリカンジョーク」

「目が笑ってないっ!それにアメリカンじゃなくて、ブラックだろそれっ!!」

 どうやら本当に、思い出して欲しくないというか、彼女にとってはそれはそれは赤裸々な事だったらしい。

 まあそうだよな……だってあの時のあの言葉がそうなのだったとしたら、お前は俺に、ひと目惚れしていたって事になっちゃうんだからな。

 いや本当に……思い出してもらうのはいいけど、口には出されたくはないよな。

「はあ……分かった分かった。でもさ、別にあれってそんな気にするような事じゃ……」

「…………岡崎君、罰ゲーム執行よ」

「……え?」

 風向きが変わった。追い風から、突風のような向かい風に。

 背筋に怖気が走る……このタイミングでの罰ゲームなど、極刑を言い渡されるのと同じようなものだ。

 逃げないと……死ぬっ!

 俺は両腕に力を入れ、下ろしていた腰を浮かせようとしたその時、天地がまるで、ショウリョウバッタのようにジャンプして、俺に飛びかかり、天地の全体重を体幹に乗せられた俺は、浮いていた腰を強制的に落とされてしまった。
 
 更にそれだけでは飽き足らず、天地は俺を草むらの上に押し倒し、両腕を動かせないよう固定する。

 こんな事、フィクションの世界でしか見たこと無かったが、本当に体も手も動かせなくなるもんなんだな。

 全面降伏、待ったなしだ。

「あの……天地さん、罰ゲームって何をするつもりでしょう……?」

 恐る恐る、俺は目の前で、悪魔のようなしたり顔をしている天地に尋ねる。

「そうね……通常のところなら、極刑も不可避といったところだけれど、でもそれは罰として重過ぎる気がするし、なにより、今わたしはあなたを手放したくないわ」

「はあ……寛大な措置、心に染み入ります」

「『勘違いしないでね。恋煩いとかそんなんじゃなくて、あくまで実験』だったかしら?よくもまあ、あんな見え見えの誤魔化しをしたものだと、自分で自分を責めたくなるものだわ」

「…………」

 あれだけ言われるのを嫌がっていたというのに、自らばらしていくのか……女心とは全く分からんものだ。
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