ヒトコイラヴァーズ 悪魔の女との青春物語

赤坂皐月

文字の大きさ
64 / 103
第2部 青春の続き篇

第5話 七夕の日【10】

しおりを挟む
「岡崎君、しいてあの時のわたしを弁護するなら、わたしはね、別にあなたにひと目惚れとか、そんな安っぽいもので引かれたわけじゃないの。それにあなた、そんなひと目惚れされるほどのルックスじゃないし」

 さらっとルックスを馬鹿にされたのは、正直、これまでのどんな罵詈雑言よりも傷ついた。

 別に自分の事を、カッコイイなんて思っても無いけれど、でもこうやってハッキリ言われちゃうと、心に深く突き刺さるものがある。

「じゃあ何なんだよ、お前を恋煩わせちまった、その原因ってのは……イテテテッ!」

 両手首を、思いっきり握り締められた。そういえばコイツ、握力強いんだっけ……。

 どうやら自虐する分にはいいが、俺が言うのは駄目らしい。
 
 非常に曖昧な線引きである。

「以前にも言ったでしょ?実験体にあなたを選んだ理由は、最初の質問であなたを試した時に、人柄の良さ、心の広さで選んだって」

「ああ……そういえばそんな事言ってたな」

「あの時だって、わたしは誤魔化していたわ。実験が嘘なら、実験体も嘘。つまりわたしは、あなたのその人柄の良さ、心の広さに惹かれてしまったのよ」

「ははあ……なるほど」

 嘘と言うよりかは、まやかしだったってわけか。

 確かに、今となっては過去の事だから、なんとか白状出来るようなものだが、それが当時だった場合、現在進行形だった場合、それはそれは顔から火が出るどころか、烈火が出てきそうな、そんな恥じらいの気持ちを抱かずにはいられないだろう。

 そりゃあさぞかし、黒歴史化しそうなものだな……いや、今でさえも、現状でさえも十分、天地には暗黒化してるようではあったが。

「……あら?なんかおかしいわね?」

「何がだ?」

「あなたへの罰ゲームのはずが、何故かわたしが赤裸々に、あなたに惚れてしまった理由を言って、なんだかわたしが罰を受けてるような、そんな気がするのだけど」

「……気のせいじゃないですかね?」

「いいえ決して気のせいじゃない、わたしを出し抜こうとするなんて許せないわね。万死に値するわ」

 万死って……なんか以前にも言われたなそれ。

 というか、さっき手放したくないとか言ってたのに、結局俺は極刑不可避って事じゃないのかこれ?

「でもこのままじゃ、岡崎君がさすがに可哀想だから、慈悲に溢れたわたしから、最後の弁解のチャンスをあげなくもないわ」

「あげなくもないって……結局それ、どっちなんだよ。くれるのかくれないのか……」

「お黙りなさい」

 終始ニヤニヤ、楽しそうに俺を責め立てる天地さん。

 心の底から、本当に楽しそうだ。

「弁解と言っても、あなたがフリーに話せるわけじゃないわ。わたしの質問に答えなさい」

「それ弁解なのか?ただの尋問じゃ……」

「お黙りなさい」

 どうやら今、天地の中でブームとなっているだろうトレンドワードはお黙りなさいらしい。

 迷惑なトレンドだ。

「それじゃあ質問、あなたはわたしの事が好きですか?」

 いきなり核心を突いてくるような質問をしてきたな……でも考えてみたら、はっきり言葉にした事は今までなかったような気がする。

 まあ……俺にとってはそんな簡単に、ヒョイヒョイ言えるような言葉ではないんだけど。

「はい……」

「では続けて、わたしのどんなところが好きですか?」

「ううん……見ていて飽きないところとか、料理が上手いところとか」

「かわいくて美人なところとか?」

「……そうですね」

 それを自分で言うのか……容赦がないぞこの尋問。色んな意味で。

「ふふっ、嬉しいこと言ってくれるじゃない岡崎君」

「今のは誘導尋問だろ」

「誘導だろうがなんだろうが、証言させた者の勝ちなのよ、裁判じゃあるまいし。それとも岡崎君は、わたしの容姿が醜く、最低な女とでも言うの?」

「いやその……そうは言ってないだろ?」

「じゃあ?」

「……そりゃあ美人だろうよ」

「ふふっ、やっぱりそうなんじゃない。わたしはね、あなたならそう思ってくれていたと、信じたから訊いたのよ。例え周りの誰もが、わたしを醜いって言っていたとしても、あなただけはそう言ってくれるって」

「そ……そうか……そりゃあえらく信用されたもんだな俺も」

「当り前じゃない、あなたはわたしの彼氏で、わたしはあなたの彼女なんだから、だからわたしはあなたを信じて、どんな過去だって、気持ちだって、あなたに伝えてきたわ。まあ、多少有耶無耶にした点はあったかもしれないけど」

 有耶無耶どころか、黒歴史にされてたけどな……。 

「だけど岡崎君ってシャイだから、わたしに全然全く、そういう事を言ってくれないじゃない。だからこうして、あなたの本当の気持ちを確認したかったから、実力行使に出たのよ」

「…………」

 彼女の言う通り、俺は今まで恥じらいの気持ちを優先して、何かにつけて誤魔化し、彼女への気持ちを口に出せずにいた。

 好きなのに、愛してはずなのに、決して口には語らない。言葉で伝えられていない。

 だから、だからこそ天地は不安になったのだろう。

 自分は好意を持っている、持たれている、相思相愛であるはず。しかしそれは、自分がそう思っているだけで、相手はそう思っていないんじゃないかと。

 以心伝心なんてよく言うけれど、言葉にしないと伝わらないものだってある。いや、言葉にする事で、その気持ちを盤石にする事が出来る。

 だからこうして、天地は罰ゲームという形で確かめてきたのだ。

 自分の中の不安を取り除くために、自分が思っている事をより盤石にするために。

 まったく……彼女にそこまでさせないと、自分の気持ちを言葉に言い表せないなんて、岡崎千羽矢という男は、本当に憐れで、腰抜けで、ケツの穴の小さい男らしい。

 人間として、男として最低だな……俺は。

「天地……質問形式はもういいから、ここからは俺の言葉で喋っていいか?」

「ふうん、なにか良い弁解の言葉でも思いついたの?」

「いや……弁解になるかどうかは分からないけど、でも自分の言葉にして伝えておかないと、色々後悔するような気がするんだ」

「…………」

 しばらく天地は俺の目を見る。
 
 瞬き一つせず、見開いたまま、まるで俺の心を、気持ちを読み解こうとするように。

 そして一分くらいずっと見つめられて、ようやく天地は口を開いた。

「いいわよ、言ってみなさい」

「ああ……まあなんだ、最初お前と会った時は本当に、俺はお前の事をとんでもない女だと思ってたんだ。面食らったっていうか、まあそんな感じに」

「そうでしょうね、自覚はあったわ」

「あったんかい……まあいいや、それでもさ、お前と一緒に話したり、イタズラされたり、色々してたらさ、気づけばお前が一緒に居るのが当たり前になってて、隣に居るのが当たり前になってて、突然いなくなった時は、正直生きる意味を失ったみたいな、そんな他人が聞いたらオーバーなって言いそうな気持ちに本当になっちまってさ。そこで気づいたんだ、俺はお前の事が好きなんだって」

「ふうん……そうなの」

 天地の顔には驚きも、喜びも無い。いつもの澄ました表情で、俺の話に耳を傾けている。

「それからお前に、俺の色んなことを知って欲しくなってな。だから友達も紹介して、家族までも紹介した。お前が家族や自分の事を教えてくれたようにな」

「…………」

「だから天地、そんな心配しなくても、俺はお前と同じくらい、お前の事が好きだし、手放さない。お前が俺を愛してる内は、俺はそれまでお前を愛し続けるし、俺がお前を愛し続けるなら、それまでお前は俺を愛していてくれ」

「……ふっ……ふふっ……ふふふっ!」

 すると天地は、まるで今まで我慢していたかのように笑い始める。

 声を出して笑う。

「な……なんだよ……」

「いえ……まさかあなたが、そんなクッサイ台詞を言い出すなんて、思ってもいなかったから」

「んなっ!!」

 そう指摘されてから、急に顔が熱くなってきた。

 俺はなんてことを口走ってしまったんだ……恥ずかしい!死にたい!
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

夜の声

神崎
恋愛
r15にしてありますが、濡れ場のシーンはわずかにあります。 読まなくても物語はわかるので、あるところはタイトルの数字を#で囲んでます。 小さな喫茶店でアルバイトをしている高校生の「桜」は、ある日、喫茶店の店主「葵」より、彼の友人である「柊」を紹介される。 柊の声は彼女が聴いている夜の声によく似ていた。 そこから彼女は柊に急速に惹かれていく。しかし彼は彼女に決して語らない事があった。

恋い焦がれて

さとう涼
恋愛
小学校時代の担任教諭・佐野に七年ぶりに再会し、話の流れで佐野の恋人へのエンゲージリングを選ぶために一緒にジュエリーショップに行くことになってしまった二十歳の女子大学生・輝。 最初はそんなつもりはなかったのに、次第に佐野を意識してしまうようになり、自分でも困惑してしまう。 必死に自分の想いを打ち消そうとする輝。 だけど佐野も恋人との関係に悩んでいるようで、複雑な想いを抱え続けることになる。 そんな輝を見守る(ちょっかいをかける?)バイト先の店長。 さらに佐野の恋人は意外な人物で、輝は大混乱。 ※ドロドロではなく純愛系を目指していますが、ビターテイストなお話です ※理想的で格好いいヒーローではありません(…すみません) ※調べながら執筆をしているのですが、無知なところも多々あるので、間違っているところがありましたら教えてください。ツイッターでも受け付けています。 https://twitter.com/SATORYO_HOME

病弱な第四皇子は屈強な皇帝となって、兎耳宮廷薬師に求愛する

藤原 秋
恋愛
大規模な自然災害により絶滅寸前となった兎耳族の生き残りは、大帝国の皇帝の計らいにより宮廷で保護という名目の軟禁下に置かれている。 彼らは宮廷内の仕事に従事しながら、一切の外出を許可されず、婚姻は同族間のみと定義づけられ、宮廷内の籠の鳥と化していた。 そんな中、宮廷薬師となった兎耳族のユーファは、帝国に滅ぼされたアズール王国の王子で今は皇宮の側用人となったスレンツェと共に、生まれつき病弱で両親から次期皇帝候補になることはないと見限られた五歳の第四皇子フラムアーク付きとなり、皇子という地位にありながら冷遇された彼を献身的に支えてきた。 フラムアークはユーファに懐き、スレンツェを慕い、成長と共に少しずつ丈夫になっていく。 だがそれは、彼が現実という名の壁に直面し、自らの境遇に立ち向かっていかねばならないことを意味していた―――。 柔和な性格ながら確たる覚悟を内に秘め、男としての牙を隠す第四皇子と、高潔で侠気に富み、自らの過去と戦いながら彼を補佐する亡国の王子、彼らの心の支えとなり、国の制約と湧き起こる感情の狭間で葛藤する亜人の宮廷薬師。 三者三様の立ち位置にある彼らが手を携え合い、ひとつひとつ困難を乗り越えて掴み取る、思慕と軌跡の逆転劇。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

家出令嬢が海賊王の嫁!?〜新大陸でパン屋さんになるはずが巻き込まれました〜

香月みまり
恋愛
20も離れたおっさん侯爵との結婚が嫌で家出したリリ〜シャ・ルーセンスは、新たな希望を胸に新世界を目指す。 新世界でパン屋さんを開く!! それなのに乗り込んだ船が海賊の襲撃にあって、ピンチです。 このままじゃぁ船が港に戻ってしまう! そうだ!麦の袋に隠れよう。 そうして麦にまみれて知ってしまった海賊の頭の衝撃的な真実。 さよなら私の新大陸、パン屋さんライフ〜

春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...