ヒトコイラヴァーズ 悪魔の女との青春物語

赤坂皐月

文字の大きさ
73 / 103
第3部 欺いた青春篇

 第2章 枷を負った少女【2】

しおりを挟む
「お……岡崎君!」

 こんな事をされてしまっては、気付きたくなくても気付くだろう、神坂さんはまるで、鳩が豆鉄砲を食ったような表情をし、その半開きになった口を右手で覆った。

 俺は神坂さんの前で足にブレーキをかけ、急停止する。電車がプラットホームの定位置に綺麗に停車するように、距離を開け過ぎず、かと言って近づき過ぎず、丁度良い距離の場所で停止することが出来た。

「ごめん、ちょっと教室に忘れ物をして遅れた……」

「忘れ物……さっきまでここで徳永君と話してたから、何かあったのかなって思ったんだけど……」

「ああ……他愛も無い世間話をしてただけだよ。でも、その話をしてる途中で、数学の課題を机の中に入れっ放しだったのに気づいて、それで取りに行って、帰ってきたって感じ」

「なるほど、そうだったんだ」

 神坂さんは何の疑いもせず、俺の言葉を信じ、受け入れる。

 彼女は純粋な心の持ち主であり、故に俺を疑わない。疑われたことが無い。

 しかし、その信じてくれるという行動が、逆に俺の罪悪感を尖らせ、胸に突き刺さるのだ。

 本当に自分は、ツマラナイ嘘を吐いているんだなと。

「……ごめん、ちょっと徳永に嘘吐いてて、それで一回教室に戻るハメになっちゃったんだ」

「徳永君に嘘を?何で?」

「いや……これから神坂さんを家まで送るでしょ?それを隠すために」

「えっ?何で隠す必要があるの?」

「えっ?だって神坂さんが朝、そんな雰囲気出してたっていうか、黙っておいて欲しいみたいな感じを出していたから……」

「あっ……あはは、そっかそんな風に見えちゃったんだ!」

 全貌を知った神坂さんは、苦笑いを浮かべる。そんな風とは一体……。

「ごめんね岡崎君、別にわたし、徳永君にこの事を隠してたわけじゃないんだ」

「えっ!そ……そうなのっ!?」

「うん……というか、徳永君はもう知ってるよ。今日の授業の間の休み時間に、岡崎君と一緒に帰るってあたしが言っちゃったし」

「な……なんだってーっ!!」

 人類が滅亡すると、唐突に宣言されるほどの驚きでは無かったが、しかし、なんというか、俺の決死の嘘は何だったんだと、自分の行いが全て水泡と化したような気がして、やるせなくもなり、切なくもなる。

 差し出がましい、いらぬ世話。余計なお節介だった。

 というか徳永のやつ、もしかして全てを知っていたのにも関わらず、俺の嘘に乗っていたというわけか。通りであいつにしては何も疑いもせず、俺の言う事を全て鵜呑みにしていたと思っていたが。

 完全に遊ばれていたというわけか……やっぱり俺は、嘘が苦手だ。

「心配かけちゃってごめんね……今日の朝はちょっと元気が出なくて……でも、学校に来てちょっとは元気が出たから」

「そ……そうなんだ」

 学校に来たら元気が出た……か。

 この前の図書館といい、今回といい、神坂さんは自分の家が嫌いなのだろうか?

 しかし、何故?

「じゃあ岡崎君、お家までどうぞよろしくお願いします」

 神坂さんは頭をぺこりといった感じで、軽く下げる。

「いやいや!こっちこそ送らせていただきます!」

 それに合わせて、俺もペコペコと頭を下げる。まるで水飲み鳥のように。

 結局数分間、引くに引けない頭の下げ合い合戦を繰り広げた俺と神坂さんだったが、俺が先に手を引くという感じで終結し、それから二人、隣り合って帰宅の途に着く事となった。

 校舎を出て、学校前の大通りを歩いて行く。夕方ではあるが、生憎、未だに梅雨の叢雲むらくもは上空に滞在しており、夏にしては薄暗い夕暮れ時を迎えていた。

「岡崎君ごめんね今日は、岡崎君って確か、家反対方向だったよね?」

「うんまあ……反対というか、そもそも学校の近場というか、歩いて十五分の距離だからね」

「そっか……なんかすごく悪い事しちゃったみたいだね」

「いやいや、そんな!俺ほら、歩くの好きだし、中学の頃は部活してたから良かったけど、高校になって部活に入らなかったから、すっかり運動不足でさ。だから丁度良い運動になって良かったと思ってるよ」

 あはあはと、アニメのキャラクターでももうちょっとマシな愛想笑いが出来るぞと言わんばかりの、胡散臭い笑みを浮かべる俺。

 実際はというと、そりゃあ遠回りな上に、ただでさえ学校終わりで疲弊している身体だ。即時、マイハウスへの撤退をしたいというのが本音である。それに俺は、別に歩くのが好きなわけでもないし。

 しかし、しかしだ!あの神坂さんのお願いとなっては、全てが免除。徳政令発動だ。

 それが多少なり、俺の更なる労力になろうと構わない。神坂さんの笑顔が見れれば頑張れる気がする!

 とんだ奴隷根性の持ち主だと、他から蔑まされようとも、きっと神坂さんの笑顔を見たら、その蔑んでいた奴等も即時、頭を垂れて地面に着ける事となるだろう。

 それだけ彼女の笑顔は、人を幸せにする力がある。故にそれは、彼女の武器なのかもしれないと、ふと思ってしまうこともあるが。

「ところで神坂さん、今回は俺が徳永の代役って事みたいだけど、あいつはいつも神坂さんを家まで送ってくれてるんですか?」

「うん、まあね。というか自然にって感じかな。朝もあたしの家に行くと、学校から遠回りになるのに迎えに来てくれるし、送ってもくれる。本当に優しい人だよね徳永君は」

「まあ……そうなのかな」

 優しいというより、あいつの場合、人に合わせるのが得意という方が正しいような気がする。

 それが優しさというのなら、そうなのだろうけれど、多分その話も、徳永が神坂さんに合わせているだけだろう。

 人が一歩進んだと感じたら、共に一歩進むし、下がったと感じたら、共に下がる。

 あいつはそうやって、生きている人間だからな。俺みたいに、人に合わせられないような、不器用な生き方をしてる人間とは、根本的なところが違うのだ。

「そういえば岡崎君と徳永君ってどうやって友達になったの?なんか徳永君に訊いたら、僕はただチハに、ペンを渡してただけだよとか言ってたけど?」

 神坂さんは首を傾げる。

 というのも当たり前だ、アイツかなり省いた説明をしていやがるな。

 いや、むしろ説明になっているかどうかすらも怪しい程に端的。辞書に載っている例文だって、もうちょっと具体的な説明をしてるぞと言わんがばかりに。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

夜の声

神崎
恋愛
r15にしてありますが、濡れ場のシーンはわずかにあります。 読まなくても物語はわかるので、あるところはタイトルの数字を#で囲んでます。 小さな喫茶店でアルバイトをしている高校生の「桜」は、ある日、喫茶店の店主「葵」より、彼の友人である「柊」を紹介される。 柊の声は彼女が聴いている夜の声によく似ていた。 そこから彼女は柊に急速に惹かれていく。しかし彼は彼女に決して語らない事があった。

恋い焦がれて

さとう涼
恋愛
小学校時代の担任教諭・佐野に七年ぶりに再会し、話の流れで佐野の恋人へのエンゲージリングを選ぶために一緒にジュエリーショップに行くことになってしまった二十歳の女子大学生・輝。 最初はそんなつもりはなかったのに、次第に佐野を意識してしまうようになり、自分でも困惑してしまう。 必死に自分の想いを打ち消そうとする輝。 だけど佐野も恋人との関係に悩んでいるようで、複雑な想いを抱え続けることになる。 そんな輝を見守る(ちょっかいをかける?)バイト先の店長。 さらに佐野の恋人は意外な人物で、輝は大混乱。 ※ドロドロではなく純愛系を目指していますが、ビターテイストなお話です ※理想的で格好いいヒーローではありません(…すみません) ※調べながら執筆をしているのですが、無知なところも多々あるので、間違っているところがありましたら教えてください。ツイッターでも受け付けています。 https://twitter.com/SATORYO_HOME

病弱な第四皇子は屈強な皇帝となって、兎耳宮廷薬師に求愛する

藤原 秋
恋愛
大規模な自然災害により絶滅寸前となった兎耳族の生き残りは、大帝国の皇帝の計らいにより宮廷で保護という名目の軟禁下に置かれている。 彼らは宮廷内の仕事に従事しながら、一切の外出を許可されず、婚姻は同族間のみと定義づけられ、宮廷内の籠の鳥と化していた。 そんな中、宮廷薬師となった兎耳族のユーファは、帝国に滅ぼされたアズール王国の王子で今は皇宮の側用人となったスレンツェと共に、生まれつき病弱で両親から次期皇帝候補になることはないと見限られた五歳の第四皇子フラムアーク付きとなり、皇子という地位にありながら冷遇された彼を献身的に支えてきた。 フラムアークはユーファに懐き、スレンツェを慕い、成長と共に少しずつ丈夫になっていく。 だがそれは、彼が現実という名の壁に直面し、自らの境遇に立ち向かっていかねばならないことを意味していた―――。 柔和な性格ながら確たる覚悟を内に秘め、男としての牙を隠す第四皇子と、高潔で侠気に富み、自らの過去と戦いながら彼を補佐する亡国の王子、彼らの心の支えとなり、国の制約と湧き起こる感情の狭間で葛藤する亜人の宮廷薬師。 三者三様の立ち位置にある彼らが手を携え合い、ひとつひとつ困難を乗り越えて掴み取る、思慕と軌跡の逆転劇。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

家出令嬢が海賊王の嫁!?〜新大陸でパン屋さんになるはずが巻き込まれました〜

香月みまり
恋愛
20も離れたおっさん侯爵との結婚が嫌で家出したリリ〜シャ・ルーセンスは、新たな希望を胸に新世界を目指す。 新世界でパン屋さんを開く!! それなのに乗り込んだ船が海賊の襲撃にあって、ピンチです。 このままじゃぁ船が港に戻ってしまう! そうだ!麦の袋に隠れよう。 そうして麦にまみれて知ってしまった海賊の頭の衝撃的な真実。 さよなら私の新大陸、パン屋さんライフ〜

春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...