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第3部 欺いた青春篇
第2章 枷を負った少女【2】
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「お……岡崎君!」
こんな事をされてしまっては、気付きたくなくても気付くだろう、神坂さんはまるで、鳩が豆鉄砲を食ったような表情をし、その半開きになった口を右手で覆った。
俺は神坂さんの前で足にブレーキをかけ、急停止する。電車がプラットホームの定位置に綺麗に停車するように、距離を開け過ぎず、かと言って近づき過ぎず、丁度良い距離の場所で停止することが出来た。
「ごめん、ちょっと教室に忘れ物をして遅れた……」
「忘れ物……さっきまでここで徳永君と話してたから、何かあったのかなって思ったんだけど……」
「ああ……他愛も無い世間話をしてただけだよ。でも、その話をしてる途中で、数学の課題を机の中に入れっ放しだったのに気づいて、それで取りに行って、帰ってきたって感じ」
「なるほど、そうだったんだ」
神坂さんは何の疑いもせず、俺の言葉を信じ、受け入れる。
彼女は純粋な心の持ち主であり、故に俺を疑わない。疑われたことが無い。
しかし、その信じてくれるという行動が、逆に俺の罪悪感を尖らせ、胸に突き刺さるのだ。
本当に自分は、ツマラナイ嘘を吐いているんだなと。
「……ごめん、ちょっと徳永に嘘吐いてて、それで一回教室に戻るハメになっちゃったんだ」
「徳永君に嘘を?何で?」
「いや……これから神坂さんを家まで送るでしょ?それを隠すために」
「えっ?何で隠す必要があるの?」
「えっ?だって神坂さんが朝、そんな雰囲気出してたっていうか、黙っておいて欲しいみたいな感じを出していたから……」
「あっ……あはは、そっかそんな風に見えちゃったんだ!」
全貌を知った神坂さんは、苦笑いを浮かべる。そんな風とは一体……。
「ごめんね岡崎君、別にわたし、徳永君にこの事を隠してたわけじゃないんだ」
「えっ!そ……そうなのっ!?」
「うん……というか、徳永君はもう知ってるよ。今日の授業の間の休み時間に、岡崎君と一緒に帰るってあたしが言っちゃったし」
「な……なんだってーっ!!」
人類が滅亡すると、唐突に宣言されるほどの驚きでは無かったが、しかし、なんというか、俺の決死の嘘は何だったんだと、自分の行いが全て水泡と化したような気がして、やるせなくもなり、切なくもなる。
差し出がましい、いらぬ世話。余計なお節介だった。
というか徳永のやつ、もしかして全てを知っていたのにも関わらず、俺の嘘に乗っていたというわけか。通りであいつにしては何も疑いもせず、俺の言う事を全て鵜呑みにしていたと思っていたが。
完全に遊ばれていたというわけか……やっぱり俺は、嘘が苦手だ。
「心配かけちゃってごめんね……今日の朝はちょっと元気が出なくて……でも、学校に来てちょっとは元気が出たから」
「そ……そうなんだ」
学校に来たら元気が出た……か。
この前の図書館といい、今回といい、神坂さんは自分の家が嫌いなのだろうか?
しかし、何故?
「じゃあ岡崎君、お家までどうぞよろしくお願いします」
神坂さんは頭をぺこりといった感じで、軽く下げる。
「いやいや!こっちこそ送らせていただきます!」
それに合わせて、俺もペコペコと頭を下げる。まるで水飲み鳥のように。
結局数分間、引くに引けない頭の下げ合い合戦を繰り広げた俺と神坂さんだったが、俺が先に手を引くという感じで終結し、それから二人、隣り合って帰宅の途に着く事となった。
校舎を出て、学校前の大通りを歩いて行く。夕方ではあるが、生憎、未だに梅雨の叢雲は上空に滞在しており、夏にしては薄暗い夕暮れ時を迎えていた。
「岡崎君ごめんね今日は、岡崎君って確か、家反対方向だったよね?」
「うんまあ……反対というか、そもそも学校の近場というか、歩いて十五分の距離だからね」
「そっか……なんかすごく悪い事しちゃったみたいだね」
「いやいや、そんな!俺ほら、歩くの好きだし、中学の頃は部活してたから良かったけど、高校になって部活に入らなかったから、すっかり運動不足でさ。だから丁度良い運動になって良かったと思ってるよ」
あはあはと、アニメのキャラクターでももうちょっとマシな愛想笑いが出来るぞと言わんばかりの、胡散臭い笑みを浮かべる俺。
実際はというと、そりゃあ遠回りな上に、ただでさえ学校終わりで疲弊している身体だ。即時、マイハウスへの撤退をしたいというのが本音である。それに俺は、別に歩くのが好きなわけでもないし。
しかし、しかしだ!あの神坂さんのお願いとなっては、全てが免除。徳政令発動だ。
それが多少なり、俺の更なる労力になろうと構わない。神坂さんの笑顔が見れれば頑張れる気がする!
とんだ奴隷根性の持ち主だと、他から蔑まされようとも、きっと神坂さんの笑顔を見たら、その蔑んでいた奴等も即時、頭を垂れて地面に着ける事となるだろう。
それだけ彼女の笑顔は、人を幸せにする力がある。故にそれは、彼女の武器なのかもしれないと、ふと思ってしまうこともあるが。
「ところで神坂さん、今回は俺が徳永の代役って事みたいだけど、あいつはいつも神坂さんを家まで送ってくれてるんですか?」
「うん、まあね。というか自然にって感じかな。朝もあたしの家に行くと、学校から遠回りになるのに迎えに来てくれるし、送ってもくれる。本当に優しい人だよね徳永君は」
「まあ……そうなのかな」
優しいというより、あいつの場合、人に合わせるのが得意という方が正しいような気がする。
それが優しさというのなら、そうなのだろうけれど、多分その話も、徳永が神坂さんに合わせているだけだろう。
人が一歩進んだと感じたら、共に一歩進むし、下がったと感じたら、共に下がる。
あいつはそうやって、生きている人間だからな。俺みたいに、人に合わせられないような、不器用な生き方をしてる人間とは、根本的なところが違うのだ。
「そういえば岡崎君と徳永君ってどうやって友達になったの?なんか徳永君に訊いたら、僕はただチハに、ペンを渡してただけだよとか言ってたけど?」
神坂さんは首を傾げる。
というのも当たり前だ、アイツかなり省いた説明をしていやがるな。
いや、むしろ説明になっているかどうかすらも怪しい程に端的。辞書に載っている例文だって、もうちょっと具体的な説明をしてるぞと言わんがばかりに。
こんな事をされてしまっては、気付きたくなくても気付くだろう、神坂さんはまるで、鳩が豆鉄砲を食ったような表情をし、その半開きになった口を右手で覆った。
俺は神坂さんの前で足にブレーキをかけ、急停止する。電車がプラットホームの定位置に綺麗に停車するように、距離を開け過ぎず、かと言って近づき過ぎず、丁度良い距離の場所で停止することが出来た。
「ごめん、ちょっと教室に忘れ物をして遅れた……」
「忘れ物……さっきまでここで徳永君と話してたから、何かあったのかなって思ったんだけど……」
「ああ……他愛も無い世間話をしてただけだよ。でも、その話をしてる途中で、数学の課題を机の中に入れっ放しだったのに気づいて、それで取りに行って、帰ってきたって感じ」
「なるほど、そうだったんだ」
神坂さんは何の疑いもせず、俺の言葉を信じ、受け入れる。
彼女は純粋な心の持ち主であり、故に俺を疑わない。疑われたことが無い。
しかし、その信じてくれるという行動が、逆に俺の罪悪感を尖らせ、胸に突き刺さるのだ。
本当に自分は、ツマラナイ嘘を吐いているんだなと。
「……ごめん、ちょっと徳永に嘘吐いてて、それで一回教室に戻るハメになっちゃったんだ」
「徳永君に嘘を?何で?」
「いや……これから神坂さんを家まで送るでしょ?それを隠すために」
「えっ?何で隠す必要があるの?」
「えっ?だって神坂さんが朝、そんな雰囲気出してたっていうか、黙っておいて欲しいみたいな感じを出していたから……」
「あっ……あはは、そっかそんな風に見えちゃったんだ!」
全貌を知った神坂さんは、苦笑いを浮かべる。そんな風とは一体……。
「ごめんね岡崎君、別にわたし、徳永君にこの事を隠してたわけじゃないんだ」
「えっ!そ……そうなのっ!?」
「うん……というか、徳永君はもう知ってるよ。今日の授業の間の休み時間に、岡崎君と一緒に帰るってあたしが言っちゃったし」
「な……なんだってーっ!!」
人類が滅亡すると、唐突に宣言されるほどの驚きでは無かったが、しかし、なんというか、俺の決死の嘘は何だったんだと、自分の行いが全て水泡と化したような気がして、やるせなくもなり、切なくもなる。
差し出がましい、いらぬ世話。余計なお節介だった。
というか徳永のやつ、もしかして全てを知っていたのにも関わらず、俺の嘘に乗っていたというわけか。通りであいつにしては何も疑いもせず、俺の言う事を全て鵜呑みにしていたと思っていたが。
完全に遊ばれていたというわけか……やっぱり俺は、嘘が苦手だ。
「心配かけちゃってごめんね……今日の朝はちょっと元気が出なくて……でも、学校に来てちょっとは元気が出たから」
「そ……そうなんだ」
学校に来たら元気が出た……か。
この前の図書館といい、今回といい、神坂さんは自分の家が嫌いなのだろうか?
しかし、何故?
「じゃあ岡崎君、お家までどうぞよろしくお願いします」
神坂さんは頭をぺこりといった感じで、軽く下げる。
「いやいや!こっちこそ送らせていただきます!」
それに合わせて、俺もペコペコと頭を下げる。まるで水飲み鳥のように。
結局数分間、引くに引けない頭の下げ合い合戦を繰り広げた俺と神坂さんだったが、俺が先に手を引くという感じで終結し、それから二人、隣り合って帰宅の途に着く事となった。
校舎を出て、学校前の大通りを歩いて行く。夕方ではあるが、生憎、未だに梅雨の叢雲は上空に滞在しており、夏にしては薄暗い夕暮れ時を迎えていた。
「岡崎君ごめんね今日は、岡崎君って確か、家反対方向だったよね?」
「うんまあ……反対というか、そもそも学校の近場というか、歩いて十五分の距離だからね」
「そっか……なんかすごく悪い事しちゃったみたいだね」
「いやいや、そんな!俺ほら、歩くの好きだし、中学の頃は部活してたから良かったけど、高校になって部活に入らなかったから、すっかり運動不足でさ。だから丁度良い運動になって良かったと思ってるよ」
あはあはと、アニメのキャラクターでももうちょっとマシな愛想笑いが出来るぞと言わんばかりの、胡散臭い笑みを浮かべる俺。
実際はというと、そりゃあ遠回りな上に、ただでさえ学校終わりで疲弊している身体だ。即時、マイハウスへの撤退をしたいというのが本音である。それに俺は、別に歩くのが好きなわけでもないし。
しかし、しかしだ!あの神坂さんのお願いとなっては、全てが免除。徳政令発動だ。
それが多少なり、俺の更なる労力になろうと構わない。神坂さんの笑顔が見れれば頑張れる気がする!
とんだ奴隷根性の持ち主だと、他から蔑まされようとも、きっと神坂さんの笑顔を見たら、その蔑んでいた奴等も即時、頭を垂れて地面に着ける事となるだろう。
それだけ彼女の笑顔は、人を幸せにする力がある。故にそれは、彼女の武器なのかもしれないと、ふと思ってしまうこともあるが。
「ところで神坂さん、今回は俺が徳永の代役って事みたいだけど、あいつはいつも神坂さんを家まで送ってくれてるんですか?」
「うん、まあね。というか自然にって感じかな。朝もあたしの家に行くと、学校から遠回りになるのに迎えに来てくれるし、送ってもくれる。本当に優しい人だよね徳永君は」
「まあ……そうなのかな」
優しいというより、あいつの場合、人に合わせるのが得意という方が正しいような気がする。
それが優しさというのなら、そうなのだろうけれど、多分その話も、徳永が神坂さんに合わせているだけだろう。
人が一歩進んだと感じたら、共に一歩進むし、下がったと感じたら、共に下がる。
あいつはそうやって、生きている人間だからな。俺みたいに、人に合わせられないような、不器用な生き方をしてる人間とは、根本的なところが違うのだ。
「そういえば岡崎君と徳永君ってどうやって友達になったの?なんか徳永君に訊いたら、僕はただチハに、ペンを渡してただけだよとか言ってたけど?」
神坂さんは首を傾げる。
というのも当たり前だ、アイツかなり省いた説明をしていやがるな。
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