ヒトコイラヴァーズ 悪魔の女との青春物語

赤坂皐月

文字の大きさ
91 / 103
第3部 欺いた青春篇

第5章 因縁の終止符【3】

しおりを挟む
「いやいや岡崎君、多分岡崎君は知らないはずだよ。だって君は彼女の中学時代を全く知らない」

「……何でそんなこと、アンタが言い切れるんだよ」

「クックッ……僕は一応当事者だからね、だから僕は君よりも遥かに、中学の頃の天地さんをよく知っている。彼女は本当に、恨みという感情に生かされているような、そんな存在だったんだ。僕すらも最初に彼女に出会った時は驚いたよ、こんなに人を恨んで生きている人間を見たのは、生まれて初めてだってね。君は彼女と出会った時、僕と同じようなことを思ったかい?」

「……いや、そんな風には」

「だろう?まあ彼女は、高校に入る頃には、もっと詳しく言うなら僕と離れてから、かなり丸くなったからね。ホントそれこそ、憑き物が落ちたかのようにね。だから君は知らないんだよ、当時の彼女を」

 他の人間に言われても、そこまでは無いと思うのだが、この男に言われると、何故か無性に悔しさが込み上がってくる。

 言い方なのかもしれないけれど、コイツよりも天地のことを知らないという、自分自身に腹が立って仕方がない。
 
 知らないのが、当たり前であるはずなのに。

「それに、そんな恨みの塊だったから僕に近づいてきた。彼女は決して、父親からその技術を盗むために、そんな正当な方法で天地電産を乗っ取るために付きまとっていたわけでは無い。彼女はね岡崎君、僕と同じでスキャンダルを狙っていたのさ」

「スキャンダル……」

「そう……彼女は僕と結託して、父親からスキャンダルを巻き上げ、社会的に抹殺しようとしたのさ」

 ニヤリと、悪辣な、ニヒルな笑みを浮かべ、鷺崎は断言する。

「普通できるかいそんなことが?唯一の肉親を、完膚なきまでに打ちのめそうとするあの所業は……まさに悪魔に魂を売ったといった感じだったかな?いや……常に相手の死に際を狙う、死神のようにも見えたかもしれない。兎にも角にも、彼女は人並み外れた悪行を仕出かしていたということさ」

 鷺崎の言葉を聞き、俺は天地を見る。

 相変わらずの、澄ました表情をしているように見えたが、しかしその表情はどこか、感情を無理矢理押し殺しているような、そんな雰囲気を俺は感じ取った。

「……天地、鷺崎の言ってることは本当のことなのか?」

「…………ええ、本当よ。わたしはあの時期、お父さんを本気で貶めようとしていた。社長の座から下ろすためなら、どんな手段も選ばないような、そんな卑劣を働いていたわ」

「じゃあ鷺崎と組んでいたというのも?」

「ええ、組んでいたわほんの一時期だけね。あの時はわたしも必死だったし、なによりもこの男の口車に乗せられていたから、まさかこんな詐欺師のような男とは思ってもみなかったわ」

「はっはっ!詐欺師だなんてそんな、僕の嘘なんて本職の人間に比べたら幼稚園児のイタズラのようなものさ!」

 鷺崎のその陽気な笑いは、まるで旧友と思い出話や冗談話に浸り、団欒してるかのようだった。

 こちらはそんな気、サラサラ無いのだが……本当に空気の読めないやつ。

 というか、詐欺師と呼ばれていることは否定しないのか。

「幼稚園児のイタズラ……それにしては随分と小金を稼いでいたじゃない?」

「ありゃたまたまさ、たまたま。時々いるんだよ、僕みたいな本物か偽物か分からない情報でも買い取ってくれるような物好きなやつがね」

「わたしがあなたに渡した、最後の情報も大そうな金になったとか?」

 天地のその一言で、鷺崎のニヤケ面に少しの影が差した。

「ああ、あれね……あれは冗談無しに、謙遜無しに、本当に金になったさ。だけど、僕をこんな姿に、こんな立場にしてしまった、所謂禁忌の箱、パンドラの箱だったよ。知ってるかい岡崎君はパンドラの箱のお話?正式に言うなら、パンドーラーの箱っていうんだけどさ」

「パンドラの箱……確かギリシア神話の、不幸の箱だったっけ……」

「そうそう、なかなか物知りじゃないか岡崎君!僕はてっきり、君はこの手のことの知識は皆無である、『博識』ならぬ、『薄識』だとばかり思い込んでいたよ。いやはや……決めつけっていうのは実によくないな。今後は気を付けるよ」

 その時の鷺崎は、そんな冗談のようなことを言っても、決して表情は笑っていなかった。

「パンドーラーの箱、全知全能の存在であるゼウスが全ての悪と災いを封じ込めたという箱のことだね。決して開けてはならないと言われていたその箱だったけど、パンドーラーは好奇心でこの地上で開けちゃって、世界にあらゆる災禍が撒き散らされたっていうお話だよね」

 ああ……そんな話だったっけ。俺が知っていたのは、ただそのパンドラの箱っていうのがギリシア神話の何かってくらいだったのだが。

 そういう意味では、この男の言葉を拝借するのはあまり気が進まないが、俺は『薄識』なのかもしれない。

「僕も天地さんからのあの情報を好奇心で売ったがばかりに、随分な災禍に見舞われてね……それこそようやく、こんな風に陰に隠れながらではあるけど、なんとか行動できるようになったってわけだよ」

「そういうのはパンドラの箱とは言わず、自業自得と言うのよ」

「はっはっ!よく言ってくれるよね!僕を嵌めた張本人がさ!……まあそういうことだよ岡崎君、彼女は父親も陥れようとし、僕は実際彼女に陥れられた、そんな人間なのさ。君はそんな冷酷無比な人間を、そんな彼女の肩を持つというのかい?」

 俺に選択を迫る鷺崎。

 なるほど、そういうことか……鷺崎はおそらく今、追い詰められている。この上ないほどに、袋のネズミといった状態なのだ。

 まず一つが、逃げ道をヤツは俺達によって断たれている点。

 この高台を下りるには、この高台を上って来た道を引き返すほかに退路は存在しないのだが、今その唯一の退路は、俺達が立ち塞いでいる。 

 俺が天地を裏切って鷺崎に寝返れば、よしんばこの場を逃げられるかもしれない。おそらくこの男は、そんな算段を打ち立てているのだろう。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

婚約破棄の代償

nanahi
恋愛
「あの子を放って置けないんだ。ごめん。婚約はなかったことにしてほしい」 ある日突然、侯爵令嬢エバンジェリンは婚約者アダムスに一方的に婚約破棄される。破局に追い込んだのは婚約者の幼馴染メアリという平民の儚げな娘だった。 エバンジェリンを差し置いてアダムスとメアリはひと時の幸せに酔うが、婚約破棄の代償は想像以上に大きかった。

お久しぶりです旦那様。そろそろ離婚ですか?

奏千歌
恋愛
[イヌネコ] 「奥様、旦那様がお見えです」 「はい?」 ベッドの上でゴロゴロしながら猫と戯れていると、侍女が部屋を訪れて告げたことだった。

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

【書籍化決定】アシュリーの願いごと

ましろ
恋愛
「まあ、本当に?」 もしかして。そう思うことはありました。 でも、まさか本当だっただなんて。 「…それならもう我慢する必要は無いわね?」 嫁いでから6年。まるで修道女が神に使えるが如くこの家に尽くしてきました。 すべては家の為であり、夫の為であり、義母の為でありました。 愛する息子すら後継者として育てるからと産まれてすぐにとりあげられてしまいました。 「でも、もう変わらなくてはね」 この事を知ったからにはもう何も我慢するつもりはありません。 だって。私には願いがあるのだから。 ✻基本ゆるふわ設定です。 気を付けていますが、誤字脱字などがある為、あとからこっそり修正することがあります。 ✻1/19、タグを2つ追加しました ✻1/27、短編から長編に変更しました ✻2/2、タグを変更しました

辺境伯夫人は領地を紡ぐ

やまだごんた
恋愛
王命によりヴァルデン辺境伯に嫁ぐことになった、前ベルンシュタイン公爵令嬢のマルグリット。 しかし、彼女を待っていたのは60年にも及ぶ戦争で荒廃し、冬を越す薪すら足りない現実だった。 物資も人手も足りない中、マルグリットは領地の立て直しに乗り出す。 戦しか知らなかったと自省する夫と向き合いながら、少しずつ築かれていく夫婦の距離。 これは、1人の女性が領地を紡ぎ、夫と共に未来を作る「内政×溺愛」の物語です。 全50話の予定です ※表紙はイメージです ※アルファポリス先行公開(なろうにも転載予定です)

処理中です...