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第3部 欺いた青春篇
第5章 因縁の終止符【5】
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「俺の考えは別に、これ以上天地に無理をして欲しくないからだ。こんな男のために、自分を破滅させるなんてバカバカしい。そう思っただけさ」
「ハッハッ!そうかそうか!なんというか、濁りの無い実に鮮明な、単純な解答だね。君がどれだけ彼女に惚れているのか、別に興味も無いのに、嫌でも分かってしまうような、そんな解答だよ」
嫌味たらしく笑ってみせる鷺崎。
まあ俺も、嫌味のようなことを言ったので、ここはお互いさまといったところだろうか。
「別に惚れたからとか、そういう意味じゃねぇ。ただ、目の前で人が不幸になっていくのを、ただただ見過ごすことなんて、そんなことできるわけ無いだろってことだよ」
「人が不幸になっていく……ねぇ……」
ふっと鼻で笑い、しかしそれは嘲る意味ではなく、どこか感慨深い意味での笑いを、鷺崎は浮かべた。
「僕はねぇ岡崎君、人が不幸になるさまを幾多も見てきた。いや、僕自身が不幸に突き落としたといったケースもあるにはあるかな」
そう言って、鷺崎は僅かに天地を見たような気がした。しかし本当にほんの僅か、数秒にも満たないような早さだったので、本当に確認したかどうか、確たる自信は無い。
「だけどそんな時、僕は何もしてやれなかった。ただただその人が堕ちて行くのを、ただただ見ていることしか、傍観者でいることしかできなかった。勿論、罪悪感はあったさ。だけどね、そんな罪悪感なんかよりも、もっと満ちた気持ちってのがあったのさ」
「罪悪感よりも満ちた気持ち……」
「そう……自分じゃなくて良かったっていう、安心感さ。人はね岡崎君、いざ不幸を目の前にすると、そうなっちゃうもんなのさ。所詮は下衆、人間なんて薄情な生き物なのさ。君は本当の不幸に行き遭っていないから、そんなことが言えるわけで、実際不幸に遭った天地さんからは多分、そんな言葉出て来ないと思うよ?」
「でも……今回、天地は神坂さんを救った。俺じゃなく、天地が……」
「それは天地さんと神坂さんの境遇が似ていたからだよ。まるで、鏡に映っている自分を見たかのような気分に、天地さんはなったに違いない。結局はそう、自分を救うため、自分の心を救うため、彼女は神坂さんに手を差し伸ばした……そうじゃないかな天地さん?」
「…………」
天地は黙ったまま、目を伏せる。言葉に出さずとも、それはもう、返答しているのと同じことだった。
「へっへっ……まっ結局、誰もかれも自分が第一、自分が可愛くて仕方無いのさ。それこそ、永遠の絆とか一生友達とかほざいてる奴等を見ると、僕は反吐が出ちゃうね。人間の中の関係に永遠なんて、皆無なのだから。自分が危機に陥れば、平気でその縁なんて切ってしまう、切れてしまう……それが人間なんだからね」
だから、と鷺崎は遂に高台の先端から離れ、そして俺が開けた道を目指す。その途中、俺の肩を叩いて、一言だけ残して行った。
「あまり自惚れるなよ、でないといつか足元を掬われる。君はヒーローでも無ければ、勇者でもない……ただの高校生、天地さんの彼氏なんだから。不幸な人間を救うなんて、そんな七面倒臭いことは考えず、彼女の今を守るだけで十分だ」
じゃっ!と右手をだらりといった感じで挙げ、鷺崎は高台の道を下り、そしてその姿は闇へと消えて行った。
俺は、その去って行く後ろ姿を、ただただその場に突っ立って、しばらく見ていることしかできなかった。
天地も、それ以上鷺崎に声を掛ける事も無く、ましてや追いかけることも無く、見送ることも無く、見逃した。
鷺崎は無事この窮地を脱出し、そして俺と天地は、あの男をこの街から追い出すことができたのだ。
両者損も無ければ、得も無い、後に残ったのは虚しさだけ。戦いとは本来、そういうものなのかもしれない。
いや……もしかしたらこの一件も、この先の戦いの序章でしかなかったのかもしれないが。
「……これでよかったのかな」
俺は思わず、不安と心配から、本音が口から漏れ出してしまった。
「ふん……あんな自分本位なことを言っておいて、今更その言葉の重みに耐えられなくなったのかしら?だとしたら、情けないわね」
俺の方には振り向かず、天地は数歩進んで、先程まで鷺崎が立っていた高台の先端から、眼下に広がる夜の地方の田舎街を眺めながら言った。
「情けない……いや、浅ましい……腑抜けかしら?」
「どんどん表現が悪くなっていってるような気がするんだが……」
「正しい表現が思い浮かばないのよ、岡崎君が憐れすぎて」
「ホント、酷い言い方するよなお前って……」
まあ、今一番酷いのは、多分俺なんだけど。
天地を差し置いて、自分勝手にあれこれ言ったくせに、後からその発言に自信を喪失してしまうなんて……腰抜けもいいところだ。
何を言われても仕方ないような、そんな気はした。
「……だけど、少なくともわたしは、あなたのやったことは正しかったと思っているわよ」
「えっ……」
その一言に、俺は意表を衝かれた。
まさか天地から称賛されるなんて、思ってもなかったからな。
「今冷静に考えてみたら、確かにあのままわたしが鷺崎を責めても、岡崎君が言った通り、わたしに利が無いどころか、損というよりは、失うものしかなかった。あの時はわたしも、頭に血が上っていたわ」
「……そうか」
「もう少しで、ヤムチャになるところだったわ」
「ヤムチャを、無駄死にの代名詞みたいな使い方をするのはやめろ……」
ヤムチャは決して弱いわけでは無い、ただ、周りが強すぎるだけなのだ。
栽培マンだって、戦闘力では彼の方が勝っていた。ただ、彼は油断しただけだったのだ。
……というか、何故俺はヤムチャの弁護などしているのだろうか?
「ハッハッ!そうかそうか!なんというか、濁りの無い実に鮮明な、単純な解答だね。君がどれだけ彼女に惚れているのか、別に興味も無いのに、嫌でも分かってしまうような、そんな解答だよ」
嫌味たらしく笑ってみせる鷺崎。
まあ俺も、嫌味のようなことを言ったので、ここはお互いさまといったところだろうか。
「別に惚れたからとか、そういう意味じゃねぇ。ただ、目の前で人が不幸になっていくのを、ただただ見過ごすことなんて、そんなことできるわけ無いだろってことだよ」
「人が不幸になっていく……ねぇ……」
ふっと鼻で笑い、しかしそれは嘲る意味ではなく、どこか感慨深い意味での笑いを、鷺崎は浮かべた。
「僕はねぇ岡崎君、人が不幸になるさまを幾多も見てきた。いや、僕自身が不幸に突き落としたといったケースもあるにはあるかな」
そう言って、鷺崎は僅かに天地を見たような気がした。しかし本当にほんの僅か、数秒にも満たないような早さだったので、本当に確認したかどうか、確たる自信は無い。
「だけどそんな時、僕は何もしてやれなかった。ただただその人が堕ちて行くのを、ただただ見ていることしか、傍観者でいることしかできなかった。勿論、罪悪感はあったさ。だけどね、そんな罪悪感なんかよりも、もっと満ちた気持ちってのがあったのさ」
「罪悪感よりも満ちた気持ち……」
「そう……自分じゃなくて良かったっていう、安心感さ。人はね岡崎君、いざ不幸を目の前にすると、そうなっちゃうもんなのさ。所詮は下衆、人間なんて薄情な生き物なのさ。君は本当の不幸に行き遭っていないから、そんなことが言えるわけで、実際不幸に遭った天地さんからは多分、そんな言葉出て来ないと思うよ?」
「でも……今回、天地は神坂さんを救った。俺じゃなく、天地が……」
「それは天地さんと神坂さんの境遇が似ていたからだよ。まるで、鏡に映っている自分を見たかのような気分に、天地さんはなったに違いない。結局はそう、自分を救うため、自分の心を救うため、彼女は神坂さんに手を差し伸ばした……そうじゃないかな天地さん?」
「…………」
天地は黙ったまま、目を伏せる。言葉に出さずとも、それはもう、返答しているのと同じことだった。
「へっへっ……まっ結局、誰もかれも自分が第一、自分が可愛くて仕方無いのさ。それこそ、永遠の絆とか一生友達とかほざいてる奴等を見ると、僕は反吐が出ちゃうね。人間の中の関係に永遠なんて、皆無なのだから。自分が危機に陥れば、平気でその縁なんて切ってしまう、切れてしまう……それが人間なんだからね」
だから、と鷺崎は遂に高台の先端から離れ、そして俺が開けた道を目指す。その途中、俺の肩を叩いて、一言だけ残して行った。
「あまり自惚れるなよ、でないといつか足元を掬われる。君はヒーローでも無ければ、勇者でもない……ただの高校生、天地さんの彼氏なんだから。不幸な人間を救うなんて、そんな七面倒臭いことは考えず、彼女の今を守るだけで十分だ」
じゃっ!と右手をだらりといった感じで挙げ、鷺崎は高台の道を下り、そしてその姿は闇へと消えて行った。
俺は、その去って行く後ろ姿を、ただただその場に突っ立って、しばらく見ていることしかできなかった。
天地も、それ以上鷺崎に声を掛ける事も無く、ましてや追いかけることも無く、見送ることも無く、見逃した。
鷺崎は無事この窮地を脱出し、そして俺と天地は、あの男をこの街から追い出すことができたのだ。
両者損も無ければ、得も無い、後に残ったのは虚しさだけ。戦いとは本来、そういうものなのかもしれない。
いや……もしかしたらこの一件も、この先の戦いの序章でしかなかったのかもしれないが。
「……これでよかったのかな」
俺は思わず、不安と心配から、本音が口から漏れ出してしまった。
「ふん……あんな自分本位なことを言っておいて、今更その言葉の重みに耐えられなくなったのかしら?だとしたら、情けないわね」
俺の方には振り向かず、天地は数歩進んで、先程まで鷺崎が立っていた高台の先端から、眼下に広がる夜の地方の田舎街を眺めながら言った。
「情けない……いや、浅ましい……腑抜けかしら?」
「どんどん表現が悪くなっていってるような気がするんだが……」
「正しい表現が思い浮かばないのよ、岡崎君が憐れすぎて」
「ホント、酷い言い方するよなお前って……」
まあ、今一番酷いのは、多分俺なんだけど。
天地を差し置いて、自分勝手にあれこれ言ったくせに、後からその発言に自信を喪失してしまうなんて……腰抜けもいいところだ。
何を言われても仕方ないような、そんな気はした。
「……だけど、少なくともわたしは、あなたのやったことは正しかったと思っているわよ」
「えっ……」
その一言に、俺は意表を衝かれた。
まさか天地から称賛されるなんて、思ってもなかったからな。
「今冷静に考えてみたら、確かにあのままわたしが鷺崎を責めても、岡崎君が言った通り、わたしに利が無いどころか、損というよりは、失うものしかなかった。あの時はわたしも、頭に血が上っていたわ」
「……そうか」
「もう少しで、ヤムチャになるところだったわ」
「ヤムチャを、無駄死にの代名詞みたいな使い方をするのはやめろ……」
ヤムチャは決して弱いわけでは無い、ただ、周りが強すぎるだけなのだ。
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