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第3部 欺いた青春篇
エピローグ【1】
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その後の事を、少しだけ話そうか。
高台を下った後、俺と天地の勉強合宿は、まるでその間に何も無かったかのように再開され、俺と天地はつつがなく、何もそれらしきイベントも起こさずに、勉強漬けの時間をただひたすらを送った。
楽しかったこと、というよりかは、嬉しかったことと強いて言えば、天地の手作りの夕飯を食えたことだったかな。
ちなみにその夕飯の献立は、合宿だということでカレーライスに付け合わせのサラダがあった。
それから翌日、俺は机で突っ伏して寝ているところを天地に起こされた。昨日の深夜三時までの記憶はあったのだが、それ以降の記憶が無いところを考えると、俺はその時点で寝てしまったのだろう。
朝食のトーストを食した後、再び勉強開始。午前中に少量の課題を消化し、そこで合宿は終了という運びとなった。
天地はほとんどの課題を殲滅し終え、俺はというと、全体の半分に到達したかしてないかの、ギリギリラインといったところだった。
といっても、一番苦手な数学の課題を、俺はまだ残しているのだが……まあ夏休みはまだあるんだし、その内に何とかしたらいい話だ……というのは、イケナイ発想なのだろうか?
まあ兎にも角にも、どうやら天地は俺の眠っていた間も起きていたらしく、ほとんど睡眠をとっていないようなので、しばらく寝たいからという理由で、俺は自分の荷物をリュックサックに詰め込み、天地家を後にしているところだった。
ほんの数十メートル、俺は愛車のクロスバイクに跨り、自分の家に向けてペダルを漕いでいたその時、俺の履いているズボンの右ポケットに振動を感じた。
そこにはスマートフォンが入っている。俺はポケットからそいつを取り出すと、そこに表示されている名前を見て、すぐさま応答した。
「もしもし、岡崎君?」
その声は紛れもなく、いや、間違えるはずもない、あの神坂さんの声だった。
「こ……神坂さん!?」
彼女の声を聞くのは、昨日の夕方、天地の家に招いた時以来である。
天地にすぐさま家に戻り、両親との関係を修復しろと指示された神坂さんは、それからすぐに家に戻ったきり、その後連絡が取れていなかったのだ。
彼女は両親との絆を破綻させないために、今までの自分を縛っていた固定概念を捨て、両親に歯向かえたのだろうか……。
「岡崎君……この後用事が無ければ、図書館に来てくれない?ちょっとお話したいことがあるんだ……」
「用事なんてないない!行きます行きますっ!」
俺は食らいつくようにして、返答をする。
もし他にこの後用事があったとしても、それらのものを全て蹴り飛ばしてでも俺は図書館へと向かうだろう。
まあ、幸い蹴り飛ばすような用事など、この後控えては無かったのだが。
「そっかそっか!じゃあ図書館で待ってるね」
その言葉を皮切りに、通話は切れた。
図書館は俺の家とは反対方向にあり結構な距離があるが、天地の家からはほど近い場所にある。幸い、まだ天地の家から数メートルしか離れていなかったため、行った道を戻るような、そんな二度手間は掛けずに済んだ。
俺はすぐさまクロスバイクを車体ごと百八十度方向転換させ、図書館へと続く道をペダルを漕いで爆走。突き進む。
それは、一秒でも早く神坂さんに話を聞きたかったから。その後の結果を、知りたかったから。
天地の、自分の身を削ってまで一つの家庭の崩壊を食い止めようとした、その策が実を結んだのか、それを確かめたかったから。
あの電話から数分経ったか経ってないか、ここ最近週一で通っており、つい昨日振りである、あの長くドーム状になっている公立図書館が見えてきた。
もう昼間の時間帯なので図書館は開館しており、夏休みだからだろうか、以前星座の本を探しに、昼間にここにやって来た時よりも、駐輪場に置かれている自転車の数が多いように見てとれた。
空いてるスペースにクロスバイクを駐輪し、図書館の入口付近、別にその場所を集合場所にしているわけでは無いのだが、自然と、俺と神坂さんの暗黙の了解となったあの場所へと俺は足を進めた。
そこに居たのは、昨日とは異なる服装をした神坂さん。
しかしその姿は、今までの大人しめのコーディネートを打ち破ったような、ある意味裏切られたような、攻めに攻めたファッション。
カーキ色のロングタンクトップに、デニム調の、しかも少し破れたような、所謂ダメージジーンズのショートパンツといった、ある意味目のやり場に困る、そんな清楚とは異なる、攻めっけに溢れた恰好を彼女はしていた。
そこから分かるのは、今までの自分との決裂。容姿とは時に、その人の心理を表すとも言うしな。
着飾っていた、清楚というベールを、今日彼女は脱ぎ捨ててここにやって来たのだろう。
「あっ!岡崎君おはようございます!」
俺を見つけた神坂さんは、相変わらず、それだけは決して変わらない、いつもの調子で挨拶をしてきた。
「おはよう神坂さん」
だから俺も、いつもと変わらない感じで挨拶を交わした。
「神坂さん……その、今日は結構大胆な格好してるね?」
「えっ?そうかな?イマドキの女の子って感じがしない?まあこの服、ちょっと前に買ってたんだけど、両親からこういう露出が多い服は着ちゃいけないって言われてたから、ずっとタンスの奥に眠らせてあったんだよ」
「なるほど……」
「こういう派手系のファッションって憧れだったから、願いが叶ったって感じがして、すごく嬉しいんだ!」
願いが叶った……か。
ということは彼女は、打ち破ったのだな、自分の固定概念。両親の指示に従うだけの傀儡は、自らの魂を持ったということなのだな。
今までの神坂さんは、無垢であり無色であり、天使のような、そんな存在にどこか思えていた、感じていた。そして彼女自身も、そうなるよう演じていた。
しかし今目の前に居る彼女は、自分の意思を持ち、自分の意思で行動することのできる、ごく普通の女の子となっていた。
だが、それでいい。所詮天使のフリはできたとしても、人間は天使になどなれはしない。
心がある限り、自分の意思がある限り、それは人間であり続けるのだから。
高台を下った後、俺と天地の勉強合宿は、まるでその間に何も無かったかのように再開され、俺と天地はつつがなく、何もそれらしきイベントも起こさずに、勉強漬けの時間をただひたすらを送った。
楽しかったこと、というよりかは、嬉しかったことと強いて言えば、天地の手作りの夕飯を食えたことだったかな。
ちなみにその夕飯の献立は、合宿だということでカレーライスに付け合わせのサラダがあった。
それから翌日、俺は机で突っ伏して寝ているところを天地に起こされた。昨日の深夜三時までの記憶はあったのだが、それ以降の記憶が無いところを考えると、俺はその時点で寝てしまったのだろう。
朝食のトーストを食した後、再び勉強開始。午前中に少量の課題を消化し、そこで合宿は終了という運びとなった。
天地はほとんどの課題を殲滅し終え、俺はというと、全体の半分に到達したかしてないかの、ギリギリラインといったところだった。
といっても、一番苦手な数学の課題を、俺はまだ残しているのだが……まあ夏休みはまだあるんだし、その内に何とかしたらいい話だ……というのは、イケナイ発想なのだろうか?
まあ兎にも角にも、どうやら天地は俺の眠っていた間も起きていたらしく、ほとんど睡眠をとっていないようなので、しばらく寝たいからという理由で、俺は自分の荷物をリュックサックに詰め込み、天地家を後にしているところだった。
ほんの数十メートル、俺は愛車のクロスバイクに跨り、自分の家に向けてペダルを漕いでいたその時、俺の履いているズボンの右ポケットに振動を感じた。
そこにはスマートフォンが入っている。俺はポケットからそいつを取り出すと、そこに表示されている名前を見て、すぐさま応答した。
「もしもし、岡崎君?」
その声は紛れもなく、いや、間違えるはずもない、あの神坂さんの声だった。
「こ……神坂さん!?」
彼女の声を聞くのは、昨日の夕方、天地の家に招いた時以来である。
天地にすぐさま家に戻り、両親との関係を修復しろと指示された神坂さんは、それからすぐに家に戻ったきり、その後連絡が取れていなかったのだ。
彼女は両親との絆を破綻させないために、今までの自分を縛っていた固定概念を捨て、両親に歯向かえたのだろうか……。
「岡崎君……この後用事が無ければ、図書館に来てくれない?ちょっとお話したいことがあるんだ……」
「用事なんてないない!行きます行きますっ!」
俺は食らいつくようにして、返答をする。
もし他にこの後用事があったとしても、それらのものを全て蹴り飛ばしてでも俺は図書館へと向かうだろう。
まあ、幸い蹴り飛ばすような用事など、この後控えては無かったのだが。
「そっかそっか!じゃあ図書館で待ってるね」
その言葉を皮切りに、通話は切れた。
図書館は俺の家とは反対方向にあり結構な距離があるが、天地の家からはほど近い場所にある。幸い、まだ天地の家から数メートルしか離れていなかったため、行った道を戻るような、そんな二度手間は掛けずに済んだ。
俺はすぐさまクロスバイクを車体ごと百八十度方向転換させ、図書館へと続く道をペダルを漕いで爆走。突き進む。
それは、一秒でも早く神坂さんに話を聞きたかったから。その後の結果を、知りたかったから。
天地の、自分の身を削ってまで一つの家庭の崩壊を食い止めようとした、その策が実を結んだのか、それを確かめたかったから。
あの電話から数分経ったか経ってないか、ここ最近週一で通っており、つい昨日振りである、あの長くドーム状になっている公立図書館が見えてきた。
もう昼間の時間帯なので図書館は開館しており、夏休みだからだろうか、以前星座の本を探しに、昼間にここにやって来た時よりも、駐輪場に置かれている自転車の数が多いように見てとれた。
空いてるスペースにクロスバイクを駐輪し、図書館の入口付近、別にその場所を集合場所にしているわけでは無いのだが、自然と、俺と神坂さんの暗黙の了解となったあの場所へと俺は足を進めた。
そこに居たのは、昨日とは異なる服装をした神坂さん。
しかしその姿は、今までの大人しめのコーディネートを打ち破ったような、ある意味裏切られたような、攻めに攻めたファッション。
カーキ色のロングタンクトップに、デニム調の、しかも少し破れたような、所謂ダメージジーンズのショートパンツといった、ある意味目のやり場に困る、そんな清楚とは異なる、攻めっけに溢れた恰好を彼女はしていた。
そこから分かるのは、今までの自分との決裂。容姿とは時に、その人の心理を表すとも言うしな。
着飾っていた、清楚というベールを、今日彼女は脱ぎ捨ててここにやって来たのだろう。
「あっ!岡崎君おはようございます!」
俺を見つけた神坂さんは、相変わらず、それだけは決して変わらない、いつもの調子で挨拶をしてきた。
「おはよう神坂さん」
だから俺も、いつもと変わらない感じで挨拶を交わした。
「神坂さん……その、今日は結構大胆な格好してるね?」
「えっ?そうかな?イマドキの女の子って感じがしない?まあこの服、ちょっと前に買ってたんだけど、両親からこういう露出が多い服は着ちゃいけないって言われてたから、ずっとタンスの奥に眠らせてあったんだよ」
「なるほど……」
「こういう派手系のファッションって憧れだったから、願いが叶ったって感じがして、すごく嬉しいんだ!」
願いが叶った……か。
ということは彼女は、打ち破ったのだな、自分の固定概念。両親の指示に従うだけの傀儡は、自らの魂を持ったということなのだな。
今までの神坂さんは、無垢であり無色であり、天使のような、そんな存在にどこか思えていた、感じていた。そして彼女自身も、そうなるよう演じていた。
しかし今目の前に居る彼女は、自分の意思を持ち、自分の意思で行動することのできる、ごく普通の女の子となっていた。
だが、それでいい。所詮天使のフリはできたとしても、人間は天使になどなれはしない。
心がある限り、自分の意思がある限り、それは人間であり続けるのだから。
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