器用貧乏、世界を救う。

にっぱち

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入学編

6話 割と嫌な出会い方

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 魔法学園の試験が終わってから2週間後、ついに合格発表の日になった。ゲインやカーリに手応えを聞かれた際にはそれとなくはぐらかし、ギルドに登録した事についても黙っていたがそんな日々も今日で終わり。結果次第ではギルドに登録したことをゲイン達に報告しなければならないからだ。
 ほとんどダメ元で魔法学園へと向かう。その途中、ルネスは人垣を発見する。
(何かの催し物か?)
 合格発表は今日丸一日張り出されているので時間には十分に余裕がある。ルネスは人垣の方へと寄り道する事にした。
 どうも人垣は何かを待っているというよりは何かを中心に出来ている様子だったので、ルネスは人を掻き分けて中心に向かっていく事にした。
「すいません、ちょっと通ります…。」
 背が小さいせいで上手く抜けることが出来ない。やっとの事で中心近くまで来た時には既に肩で息をする程に疲れていた。
 ルネスが顔を上げると、そこには2人の男女が武器を構えてお互いに向き合っていた。男の方はバトルアックスのような武器を持ち、全身を銀色のフルプレートアーマーで包んでいる。見た感じ防御面に優れた格好だ。
 対して女性の方は防具らしい防具は付けておらず、動きやすい格好をしている。手に持っているのは直剣、片手で持っているあたりそこまで重くはないのだろう。
 どう見ても今から殺り合いますと言わんばかりの空気感だが、ルネスは何もせずただ行く末を見守る事にした。ここで出て行ったところでルネスには何のメリットもないからである。
 男の方が勢い良く女性に向けて一歩踏み出す。その一歩はとても全身を鎧で包んでいるとは思えないほど速かった。
「うおらぁっ!」
 腰の辺りに構えた獲物を女性に向けて振り抜く。女性はそれを受け止めることはせず、右手に持った剣を使って受け流した。
(おぉ、上手い。)
 女性はそのまま男の目の前に剣を突き立てる。刺し貫くようなことはせず、眼前で寸止めした。
「これで、私の勝ちね。」
 女性の一言で周りの野次馬からウワッと歓声が上がる。突然上がる歓声にビクッと肩を震わせたルネスだったが、すぐに平静を取り戻した。
 ルネスはそのまま今勝った女性に対して慧眼を発動させる。

 マリ・エルスター
 〈称号〉
 魔法剣士
 〈スキル〉
 剣術Lv.10(Max)
 風属性魔法Lv.6
 光属性魔法Lv.5
 瞬歩

〈魔法剣士〉
 剣術スキルといずれかの魔法スキルのレベルが一定以上の者に贈られる称号。
〈瞬歩〉
 3m以内の距離を一瞬で移動する。連続使用は不可能。

(魔法剣士、ね。まあ覚えておこうか。)
 確認を終えたルネスはそれ以上何かをすることなくその場から立ち去る。勝負に勝った女性はと言うと、沸き立つ観衆を他所に何処かへ行ってしまった。



 魔法学園に到着すると、そこは先程以上の人垣が出来ていた。
 今回の試験は定員1000に対して1万人近くの受験生がいたらしい、とゲインは語っていた。その全員が今日結果を見に来るとあらばこの人の数にも頷ける。
 ルネスはまたしても人混みを掻き分けながら合格者の番号が記載されている掲示板まで向かう。しかし今回は人の密度も多く、なかなか前に進むことができないでいた。
(…仕方ない、待つか。)
 ルネスは前に進むのを諦め、元いた場所まで戻ると、人混みがある程度マシになるまで待機する事にした。


 こうして待つこと6時間弱。既に太陽が傾きかけた頃に漸く人混みがマシになってきた。ルネスは三度多少の人混みを掻き分けながら掲示板へと向かう。
(…まじか、あったぞ。)
 掲示板には成績順で番号が並んでいる。下から見た方が早いと踏んで探していたルネスは、ものの数秒で自分の番号を見つけることができた。
「合格者の方はこちらへお願いしまーす。」
 少し離れたところから教師と思しき人が声を発している。必要な手続きを済ませるために、ルネスはそちらへ向かう。
「…はい、合格おめでとうございます。こちらで入学の手続きをしていますので、どうぞ。」
 扉の前にいる人に自身の受験番号を見せ、ルネスは先へと進む。中には数人の生徒と教師が1対1で何やら話をしていた。
 キョロキョロと辺りを見回していると、不意に部屋の端の方から声を掛けられる。
「ルネスさん、ルネス・シェイドさん。こちらへどうぞ。」
 先生に呼ばれたルネスはそのまま声のする方へ向かう。目の前には机と椅子があり、机を挟んですぐ近くに女性の先生が座っていた。
「どうぞ、そこに掛けてください。」
「はい、失礼致します。」
 促されるまま椅子に腰を下ろす。
「まずは、合格おめでとう。私が貴方の担任のアンリ・ソットサスです。よろしく。」
 アンリから差し出された手をしっかりと握り返すルネス。
「ありがとうございます、アンリ先生。僕も自分自身の貧賤な能力を少しでもこの国に役立てるために、精一杯学ばせて頂きます。」
 ルネスが心にもない事を口にする中、アンリはじっとルネスの目を見ていた。しばらく経っても手を離す気配も目線を外す気配もないので、ルネスはいたたまれなくなってアンリに声を掛ける。
「あの、先生…何か?」
「…ヤメだヤメ。変な腹の探り合いは無しにしよう。」
 突然、アンリの態度が崩れる。
「…急にどうしたんですか?先生。」
 あまりの態度の豹変っぷりに度肝を抜かれるルネス。唐突に話し方が変わった目の前の人物に多少の警戒心を抱きながら、それを悟らせないように変わらない態度を取っていたルネス。しかしアンリから発された次の言葉にルネスは再び度肝を抜かれる。

「なあルネス・シェイド。お前一体何者なんだ?」

「安心しろ、周りに防音結界を貼ってあるから会話の内容は誰にも聞こえちゃいないよ。これでもこういう内緒話は得意なんだ。」
 すぐに平静を取り戻し、周りに今の話を聞いた人間がどれくらいいるのかを警戒したルネスに向かってニヤッ、と笑うアンリ。
「…質問の意図がわかりかねますが。」
「そのままの意味だ。私は他人の魔力量を視ることができてな。お前、私が今まで見たことのない程の魔力量だ。その割に試験の結果はあれだけお粗末なもの。なぜ手を抜いた?」
「手など抜いていません。あれが僕の全力です。」
 アンリの探るような視線に耐えながらルネスが答える。ルネスの答えに嘘は全くないが、アンリの疑問も最もなものだった。
「その魔力量であれが全力だと?ルネス、お前もう少しマシな嘘はつけないのか?」
「魔力量と言われましても、僕にはそんなものは見えません。」
 ルネスは知らなかったのだ。この世界の人間にはスキルという概念が存在しないことを。あくまでもルネスが『慧眼』によって視ているだけで、エレニュスの人間は存在すらも知らない。そのため、魔法の威力はその人の持つ魔力量によって左右されるという事になっている。
 平行線の続く言い合いに、ついにアンリが折れた。
「はぁ…、まあいい。言いたくないのならこれ以上は詮索しない。ただ一つ忠告しておくが、お前が学校に入学すればお前の魔力量と魔法の威力の差異を訝しむものが必ず出てくる。そうなった時、困るのはお前だ。そうなる前に実力を見せておくのも手だと思うぞ。」
(そんなこと言われても、無理なものは無理なんだよ。)
 心の中で悪態をつくルネスだったが、それを表に出すような真似はしなかった。
「まあ、ここら辺で話は終わりだ。正直説明とか苦手なんだ、すまないが自分で調べてくれ。」
 そう言い残すとアンリは何処かへと行ってしまった。
 残されたルネスは自分でもわからぬ間にきつく握りしめた拳の力を抜き、学園を後にした。
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