器用貧乏、世界を救う。

にっぱち

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期末テスト編

19話 『元』殺し屋

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 二日目のテストも難なくこなし、ルネスが今日も大図書館に向かおうと席を立った直後、ルネスの前に1人の男が立ち塞がった。
「おいルネス・シェイド、ちょっといいか。」
 ルネスに話しかけるこの男は、以前大図書館で問題を起こし、更にはハーメルンの催眠魔法にかかっていたメルトだった。メルトはハーメルンに操られていたとはいえ、謹慎期間中に勝手に家を抜け出したことが反省不十分とみなされ、テスト前日まで謹慎期間が延長されていた。本人はハーメルンに操られていたという記憶が無いため、謹慎が伸びた理由をルネスが何かしたのだと勝手に解釈していた。
 ただ、いまこうして呼び止められているからと言ってわざわざ付き合ってやる程ルネスも暇ではない。メルトを無視して大図書館に向かおうとすると、更に2人の男がルネスを囲むように立ち塞がってきた。
「…おい、俺これから図書館に行きたいんだけど。邪魔しないでくれるか?」
 強引に突破するかとも考えたが、さすがのルネスも魔法無しで一度に3人を仕留めるのには無理があった。それに今ここで怪我でもされて、明日のテストに影響が出るような真似をされたらたまったものではない。そう考えたルネスは話し合いでこの場をおさめることにした。
「邪魔?先に邪魔してきたのはどっちだよ。こっちは大事な時期に自宅謹慎なんて言い渡されたせいで、テストの結果が散々だったぞ。どうしてくれる。」
 メルトの言葉に取り巻きの2人もうんうんと頷く。
「そんなもん自業自得だろ、俺に責任転嫁すんな。」
 ルネスはメルトの言葉をバッサリと切り捨てる。その言葉を聞いて顔を真っ赤にしたメルトはルネスの胸ぐらを掴んで自分の方へと引き寄せる。
「バカにしてんじゃねえぞ三流貴族風情が!俺様はブラウニー家長男、メルト・ブラウニーだぞ!!」
「知ってるよ、だから何?」
 ルネスは貴族の上下関係にある程度理解があるとはいえ、ブラウニー家がどの程度の爵位を持った貴族なのかを理解していなかった。そのため平気でこんな怖いもの知らずな物言いができるのだが、メルトからしてみればそんなのは知ったことではない。ルネスの態度がどこまでも自分を馬鹿にしているように感じたメルトは、ルネスに向かって拳を振りかぶる。
「ふざけるな!」
 そう叫びながら、ルネスに殴りかかるメルト。しかしルネスはそれを見て待ってましたとばかりに口元を釣り上げる。
 顔に向かって飛んでくるメルトの腕を握って引っ張る。いきなり引っ張られてバランスを崩したところで、メルトの鼻頭に掌底を食らわすルネス。その痛みに思わず手を離したメルトだったが、ルネスはそれで満足しなかった。鼻を抑えたことでがら空きになった鳩尾に掌底。そして息もつかせぬ間に今度は身体強化を使って鳩尾に再度掌底を当てるルネス。メルトが力なく床に倒れ伏す。身体強化付きの掌底を鳩尾に食らった時に、メルトの意識は既に刈り取られていたのだ。
 白目をむいて倒れるメルトと、それをゴミでも見るかのように見つめるルネス。完全に気絶したのを確認したルネスは、何事もなかったかのように再び大図書館へと向かう。残された取り巻きを含むクラスメイトは、皆ぽかんと口を開けていた。



(全く、冗談じゃない。)
 教室を出たルネスは大図書館への廊下を足早に歩く。
 今朝の時点で読み終えていない本を読んだ後、自室に籠もって新たな魔法の研究をしようと思っていたルネスにとって、先の一件は大きな痛手だった。
(こっちは明日の試験に間に合うかどうかの瀬戸際だってのに、せめて絡んで来るならテストが終わってからにしてくれよ。)
 心のなかで悪態をつきながら歩くルネス。それとは別に、ルネスはあることを考えていた。
(後ろのやつ、どうするかなぁ…)
 今、ルネスは自分を尾けてくるの存在を認識していた。何度か撒こうと試みたが、その尽くが失敗に終わっている。観念したルネスは何故か柱の陰でコソコソとこちらの様子を伺っている子に話しかけることにした。
「ボーダ、何か用?」
 女の子ーーーボーダの所まで歩み寄って声をかけると、ボーダはビクッ!と肩を震わせて錆びついたロボットのようにぎこちなくルネスの方を向く。
「や、やあルネス君!こんなところで会うなんて奇遇だね!」
「いやさっきからずっと後ろついてきてたでしょ、気付いてるから。」
 誤魔化そうとしたボーダに対してルネスは呆れてかぶりを振る。誤魔化しきれなかったボーダは顔を真っ赤にして俯いてしまった。
(やりすぎちゃったかな…。)
 そんなボーダを見て申し訳なくなったルネスは、ボーダを誘って図書室に向かうことにした。
「ボーダ、僕これから図書室で勉強しようと思ってるんだけど一緒にどう?」
 すると、ボーダがぱあっと明るい笑顔を見せる。
「行く!」
 相変わらず頬は赤いままだが、ニコニコと笑うボーダの顔を見て少し安心したルネスだった。



「そう言えば、どうして俺の後ろをついてきてたの?」
 勉強もひと段落した頃、ルネスがボーダに問いかける。ボーダは顔を上げると、ジトッとした目をルネスに向ける。
「…それ掘り起こすの?」
「だって気になったから。」
 さも当然と言わんばかりに答えるルネス。ボーダはため息をひとつ吐くと、ルネスに向き直って寂しそうな顔をした。
「…心配だったの。教室でのルネス君を見て、なんだか遠くに行っちゃうような気がして。」
 ある程度ボーダに好かれている自覚はあったルネスだが、今回の一件で完全に引かれただろうと思っていたのだ。その為、このボーダの行動の理由はルネスにとっては意外だった。
「遠くに行っちゃうって、僕は何処にも行かないよ。」
「そうじゃないの!」
 ボーダが身を乗り出す。それに若干ビビったルネスだが、それを表に出すようなことはしなかった。
「なんて言うか、さっきのルネス君はまるで別人みたいだったの。いつもの優しい感じが無かったっていうか…。それで…その…。」
 上手く言葉が纏まらないボーダを見て、ルネスはそっとボーダの頭を撫でる。
「大丈夫だよ、ボーダ。僕は何処にも行かない。だから安心して、ね?」
 頭を撫でながら優しい笑顔で言うルネス。
 それをされたボーダは、またも顔を真っ赤にして俯いてしまった。
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