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第一章〜ユニオンレグヌス〜
10話✡︎カナの怒りと救い✡︎
しおりを挟むカナは答える
「サイサス様、聞いたことがあります。
ヒューマン族の中で、確か一万年以上前に初めて神聖さを示された、偉大なパラディンの一人、まだ光の為に剣を振るって居るのですね。」
サイサスは表情を変えずに言う。
「ならば解るであろう、言いなおすべきであると」
その時、森からユリナが出てきて叫ぶ様に言う
「サイサス、貴方はパラディンであるならカナさんが嘘を言っていないことが……」
「ユリナ様!お静かに、まだユリナ様はお若いのです。
ですから、私がそばに居るように言われて居るのです。」
カナはすぐにユリナを遮る。
サイサスは鼻で笑い
「無能な主を持つと辛いな、それは私も理解出来る」
そう言ったその瞬間カナの目つきが変わった。
「私は教わりました。
剣は心を載せるものだと、想いの乗らない剣技は美しく無く決して届かないと……」
そう意思のはっきりした声で言いながら、二本の小太刀を抜きサイサスに向けた。
「良いのか、そなたの剣は私に届かない」
「そうでしょうね。
偉大なパラディンにセンティネルが勝てるはずありませんから、ですがやってみないと解りませんし、それ以上に……」
そう言うと少し間を置き、凄まじい殺気を込めて
「ユリナ様を侮辱したことは、決して許しません‼︎」
カナはそう言うと素早く後ろに跳び、距離を少しとり着地と同時に今度は、凄まじい速さで加速し間合いを詰め二刀同時に斬りかかるが、素早くサイサスは剣一本で受け止めて払いのけ、左のシールドで体当たりしカナを吹き飛ばす。
「そなたの言う想いはその程度か?主への忠義を示すもその程度か!」
サイサスが叫ぶが実力が違い過ぎる。
カナはゆっくりと立ち上がり、口から血の混じった唾を吐き捨てる。
その姿は悲しみにくれるカナでも無く、いつも笑顔のカナでも無い、エレナに屋敷に来るように言われる前、まだ小隊長として戦場にいた頃のカナそのものだ。
その目つきと溢れる殺気にユリナは圧倒され一歩引いたがサイサスは微動だにせず、剣を構えなおしサイサスから仕掛ける。シールドを前に突進してくる。
その後ろでホーリーネクロマンサーが言っている。
「サイサスまた熱くなってるね、久しぶりに強い相手に出会えて嬉しいのかな?
でも私に話しがあるなら、サイサスの言うことも大切だからね。」
と他の聖者の霊と話している。
カナはあえてシールド側で無く、サイサスの剣を持っている方にかわし片腕で斬りかかるが、それをサイサスはかわし剣で突きを入れてくる、カナは素早くもう片方の小太刀でそらす、両者引かずにその場で斬り合うが、僅かにカナが押されている。
「ユリナさん?私はカイナ、貴方は手伝わないの?
貴方も相当強いみたいだけど」
ホーリーネクロマンサーはカイナと言うらしい、ユリナは意思を強く持ち直して言う。
「これはもう二人の戦いです、あの優しいカナさんがここまで感情を出しているのです。私にはカナさんの為に見守ることしか出来ません」
その間も両者は激しく斬り合っているが、カナは腕や足、頰にも傷を負い、明らかに押されているが鋭い眼光はサイサスをとらえ続けている。
「本当にそれでいいのかな?
死者の剣に刻まれれば魂が刻まれる……
それはお解り?
魂が刻まれれば心も切り刻まれ死を求める様になるのよ
貴方は主としてそれでいいのかな?」
それを聞いてユリナは動揺するが、ウィンダムがすかさずユリナに言う。
(大丈夫カナさんはそんな弱い子じゃない、ユリナ、カナさんを信じて‼︎
あげてそれがカナさんを今より強くするから、カナさんを何よりも救うから‼︎)
ユリナはウィンダムの救うからと言う言葉がとても神聖に心に響いた。
そして後ずさりしていた足を一歩前にだした時、ユリナはエレナが結界を強めたのを感じとる。
その魔力から危険を感じる事は無かった、エレナが二人に気を使ったのか、大丈夫だよと言うメッセージにユリナは感じ、気持ちを精一杯込めて大きな声で言った。
「私はカナさんを信じています。
これからも私を支えてくれ!
私のそばに居てくれると‼︎
ですからこんな所で負けるはずがないと!
私は……信じています‼︎」
それはよく通る声だった、その声はサイサスにもカナにもはっきり聞こえた。
ちょうどその時、カナは一瞬時が止まった様に感じ六百年、悲しみ苦しんだことに答えが出て、僅かに動きが鈍りサイサスはそれを見逃さず渾身の力で蹴り飛ばした。
カナは一瞬で飛ばされたが、その一瞬が何よりも長く感じ、意識が遠のく様に思えたがこの六百年の出来事が脳裏を横切りユリナが今、信じています‼︎と言った所まで来た時カナは瞳を見開いて空中で体勢を立て直し、すんでのところで着地した。
「生きてて良かった……」
その言葉の意味を理解したのは、ウィンダムだけだった。その場の誰もが今の一撃の重さを理解して、死を思わせるものだった。
だが……カナはこの六百年の間、悲しみ苦しみ続け、何度も死を甘く甘く甘美なものに感じていた。それが逃げることだと自分でも答えを出していた。
それでもその悲しみと苦しみをユリナに与えてはいけないと、いつも笑顔でいた。
それはカナにとって死より苦しい道を六百年も歩んでいたのだ……
死者の剣で切り刻まれようと、それだけ耐えて来たカナにとってユリナの言葉が全てを癒し全てを救った。
カナは涙を流していたが、痛みを感じさせ無いように立ち上がり涙を拭った。その瞳は鋭いままだが、圧倒する様な殺気は変わっていた。
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