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第三章〜戦士の国アグド〜
59話✡︎首都バータリス✡︎
しおりを挟む翌日、十二目ノウムの月が出て二日目。
シェラドは全軍を今までに無い速度で進軍させる、明日十三日目にバータリスに到着させるつもりだ。
エレナ達も、昨日の温泉ですっかり疲れが取れエレナとユリナとカナは快調に馬を飛ばす。
そこにグリフが馬を寄せて来た。
「エレナ殿、返事は頷くだけで良い!
今夜アヤ殿と、カナ殿の力で演奏と舞を願う!
兵達の疲れを少しでも取って貰いたい!」
そうグリフが馬を飛ばしながら願って来た、エレナが叫び答える。
「馬の疲れもね!」
それをグリフの方が聞いて頷き、離れて行った。
この速度で明日も進軍すれば、馬の方が潰れかね無い……エレナはこれだけ居る部隊もそうだが、優しく馬のことも心配した。
その夜グリフの頼みどおり、アヤが精一杯の優しさを魔力に込めて、ヴァイオリンを演奏しカナも同じ気持ちで舞始める。
エレナとユリナが初めて聞く曲と舞で、ノウムの月が輝き続ける事も願いながら……
創世の時と言う、創造神アインと破壊神クロノスを讃える曲を披露した。
いつも弾く、光の中でではこの規模の軍全体には効果が及ばないので、難易度が高く、消費魔力が大きい、曲と舞を選んだ。
その演奏は神々の偉大さを表現するには十分であった。聴いてるうちにユリナは感じていた。
最初の地上を生み出し涙をしり無に返され、そして神々が生み出され、今の地上を生み出し命溢れる世界になるまでの創世神話の一部が表現されていた。
ユリナはそれに気づき一つの疑問が浮かび、エレナに聞く。
「ねぇお母さんこの舞と曲って誰が作ったの?」
「うーん…王立図書館の禁断の書庫にあった書物をうちで引き取って、花の女神の間に保管してるんだけど。
そう言えば……作者は乗ってないよね」
エレナが考える。
「ピリアちゃん何か聞いてる?加護の女神様の話」
ユリナが聞く。
「確か……ミューズ様は地上で産まれた女神様で、ヒューマンの女性だったとか。
私達が産まれる前に記憶の棚に最初に入ったヒューマンのはずです。」
そうピリアは答えた、詳しくは知ら無いようで考えながら話した。
「ヒューマンが神様に?」
ユリナがピリアに聞き返す。
「えぇ、ミューズ様の事も記憶の石板にありますよ、確かミューズ様はアイン様に、その優しさと美しいものを作る才能を気に入られ、アイン様の屋敷に一緒に暮らされてる様です」
ピリアが答える。
それならとエレナは納得した。
そして二人の演奏と舞が終わり、終わりを伝える合図をユリナがマジックアローで天高く放つと。
周囲から凄まじい拍手が聞こえて来た。
あらかじめグリフが気を聞かせて、今夜の演奏と舞を全軍に伝えていたのである。
殆どの者が演奏しか聴けなかっただろう、だがカナとアヤの優しさは伝わり、疲れも取れた様である。
初めてオークの軍がミューズの恩恵を感じ喜び士気を上げていた。
これにはアヤもカナも喜び疲れを忘れ、もう一、二曲いけそうな気がして、もう一曲披露した。
そして再び歓声と拍手を聞き、エレナ達が囲む焚き火の輪に入る。
十三日目ノウムの月が出て三日目、アグド国の首都バータリスが見えてきた。
バータリスはエルフの要塞都市カルデアの様な作りをしているが、正方形の城壁で囲まれている。
だが、罠などはほぼ無く城壁の上から弓を使う程度である、城壁はカルデアよりも分厚く、大分高さがあり堅固さが容易に伺える。
既にシェラド指揮下の二個師団は到着しているのが見える、他の部隊はせいぜい一万と言った所か、バータリス駐留部隊は八個中隊と言った所で、その内の三個中隊がシェラドの指揮下である。
そしてしばらくして、先に着いた二個師団から離れた場所に野営と陣を構える。
シェラドとは三個中隊、ベルガルは精鋭護衛部隊を率いてエレナ達六人を護衛し、バータリスに入る。
初めてアグドの首都バータリスに入る為に、よく見ておこうと、エレナは思っていた。
最初に驚いたのは、首都と言うだけの人波も感じられない、活気があるのは酒場くらいということだ……セレスとサランの様な活力を感じない殺伐としている。
肉や食料を売る店はチラホラしているが、並べられている商品が少ない気がする。
武器防具屋も見かける……だが食料を売る店が少な過ぎる気もした。
そして街の人々が僅かな殺気を常に放っている感覚が漂っている。
「いま思えば、バータリスもウィースガルム卿がご本人であった時はまだ良かった。
荒々しいが一日に一回は喧嘩も見れた、今じゃそんな活気もない……」
ベルガルが寂しそうに言う。
そして街の中程まで行くと、バータリスにいるシェラドの部下が何かを伝えに来た。
「ジェネラル、長老様が食料庫からガルカへの支援物資の搬出を許可してくれません‼︎」
部下がシェラドに伝える。
「何日遅れている?
輸送部隊は何日出発が遅れている‼︎」
シェラドが怒鳴りながら聞く。
その姿にカナが驚いたが、なんでそこまで怒るのかを知りたくてじっと見つめる。
「申し訳ありません、十五日になります。」
それを聞いてシェラドは激怒する‼︎
「貴様!その遅れで何人死ぬと思っているんだ⁈⁈
我が指揮下の中隊長は何をしている‼︎
解るか!命がかかってるんだ‼︎‼︎
我が一族の子供の命がかかってるんだ‼︎」
(子供の命?何故?)
エレナ達がそう思った。
「グリフ!我らが率いて来た隊から、五個中隊を輸送部隊に編成し、各隊食料を詰めるだけ詰めて、ガルカへ直ぐに送れ‼︎
護衛は三個中隊だ‼︎いいな‼︎‼︎」
シェラドが叫びながら指示を出す。
「十五日かまずいな……
食料が底をついて七日後に届くか、何も無ければの話だが……」
ベルガルが言うとシェラドは馬を走らせ始めた。
ベルガルもエレナ達も護衛部隊も続く。
首都と言う割には人波が少なく、ユリナは馬を加減すれば普通に走らせられる事に寂しさを感じる。
シェラドが来たのは首都の国が管理する食料庫だ。
番兵がシェラドを止める、長老側の兵百名程が警備している。
だがそこに五千の兵が後から押し寄せてくるのを警備兵が見て驚いた。
「何事だ!」
威勢をはるがシェラドは一言う。
「貴様ら死ぬか?」
そう言うと恐れをなして、食料庫を開ける。
「調べろ‼︎」
シェラドが部下に命じ広い食料庫を調べ始める。
しばらくすると……
「ジェネラル!ガルカ地方への支援物資とグルカスへの支援物資が、予定の半数しか有りません‼︎」
シェラドの部下が報告して来た。
「ここの警備兵を全て拘束しろ。抵抗しなければ命は取らん、ここは我らが預かる」
ベルガルが指示を出す。
エレナ達は理解した、長老側の者達は腐敗しきってると……
「我らに罪はない!長老様達の命で動いているだけだ‼︎
我らを罪人扱いするなら剣を抜け!」
警備隊長が現れそう叫び、シェラドは馬から降り歩み寄り、斬馬刀に手をかけた……
「待って下さい!私は水の舞姫とオークの方々に言われてる者です‼︎
貴方達もジェネラルと一戦交えて勝てると思うのですか⁈
貴方達にも名誉や誇りがあるなら、ここで死ねば名誉も誇りも守れないと思います‼︎
生き延びる事を選ばなければ、勝者に好きに言われて終わってしまいます‼︎
貴方達はそれでいいのですか⁈」
カナが強く言った。
警備兵も水の舞姫の話は聞いた事がある様だが……
「何故エルフのお前が我らに口を出す‼︎
ジェネラルよ貴様はウィースガルム旗下であろう⁈ウィースガルム無き今!
長老に従うのが筋では無いのか‼︎」
警備隊長が言い返してくる。
「罪はある!
長老の命令とは言え、それが何かを知っていた事!横流しと解っていながら何もしなかったとい事だ‼︎」
シェラドがそう言い放ち、背負っていた斬馬刀を抜いた時……
「やめて下さい!同じ一族で殺し合うなんてやめて下さい‼︎
こんなことで……
そんなの悲しすぎます……」
カナは目に涙を溜めて居た、この場でシェラドが警備隊長を切れば、間違い無く小規模な戦いになっただろう。
ベルダ砦の玉座の間で、ウィースガルムの姿をしたドッペルと戦士達の戦い、解って居ても同じ一族同士の戦いに見え、エレナとユリナとカナは僅かに悲しく思えていた。
警備隊長も流石オークの一族と言うべきか、シェラドに引かずに食いついていたが、警備兵達がカナの言葉と溢れそうな涙に動揺していた。
「ふんっ場が白けた……
従ってやる……部下の命は保障してくれるのか?」
警備隊長が折れ、そう聞いて来た。
「お前の命と階級も全て約束する」
シェラドが答える。
「ジェネラル、あの女に感謝しな……」
警備隊長はそう言って拘束され連れて行かれる。
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