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第三章〜戦士の国アグド〜
61話✡︎反乱✡︎
しおりを挟むその夜、エレナ達はバータリスの周りに布陣するベルガルの兵達と共にエルフの野営を構築し、焚き火を囲んでいた。
ベルガルの兵達も二千年前のエルフ族との戦争で大敗したのを知っているが、この十三日間の間で、エルフの兵と普通に話し酒を飲み交わす者まで出て来ていた。
一方エルフ達は長寿であり、幾度と無く彼らと戦い続けた者達ばかり……
エレナはこちらの方から揉め事を起こさないか毎晩気にしていたが、そこはエルフ族、彼らは争いを好まず、深い憎しみを自然の川に流すように、戦士の一族オークを理解しようと親睦を深めようとしている。
それを見つめる様にノウムの月は光り輝いている。
そして今日エレナから大量の食料が、セレスの贈り物としてアグドに送られると言う話が広まり。
オークの兵達は喜び、中隊長や小隊長がエレナに礼を言いに集まって来ていた。
エレナ達は彼らにお酒を進め、交流を深めていく。その場に土が盛り上がって来た。
アンサラだ、今日は苦労せずに顔を出すが体はもがきながら。
「こんばんは~今日は沢山の人と盛り上がってるね~」
何時もの様に可愛い声で挨拶してくると。
「今日はシンシル様からの言伝を伝えに来たよ」
アンサラはユリナに引っ張り出されながら話す。
「シンシル様が、それだけでいいのか?って国を建て直すなら金もいるだろう?
ってエレナどうする?」
アンサラが話す。
オークの隊長達は動揺する、それはそうだ、二千年前に騒乱の時代がおさまるまで、長年に渡って、アグドはセレスを攻撃し続けて来た。
そのセレスの王が資金も送ろうか?と言ってるのだ。
「エレナ殿?これは一体……」
一人の中隊長がエレナに聞く。
「シンシル様はセレスとアグドが友達になって欲しいんだと思う。
私もそうだけど、友人が困ってる時に手を貸してあげたいと思うでしょ?
見返りは要らない、とにかく元気になって欲しいその気持ちだと思います」
エレナが優しく答える。
オークの隊長達は恥ずかしく思えた。
中にはあのベルダ砦の玉座の間で、エレナ達が追い詰められた時に歓声を上げた者もいる。
そんな者達の国の為に、エレナもシンシルも本気で手を差し伸べようとしている。
その寛容さにオークの隊長達は心を打ちのめされた。
「やはり……素晴らしい王だなシンシルは……
あの時シンシルを見てそう思った。
お前達、まだセレスと戦いたいと思うか?」
シェラドがグリフを連れて来て言う。
オークの隊長達は、黙り誰もが口を閉ざす。
「ベリセルスが、なぜセレスの者を生かしているのか俺に言って来た。」
シェラドが隊長達に言った時……
全ての隊長達が立ち上がり、その目に怒りを宿した。
それを見てシェラドが答える。
「俺はそれを聞き
ベリセルスを斬った……
この意味がわかるな?」
その場が静まり返る、それは政治において王の次に力のある長老院の五長老の一人を斬ったと言う事は、王が不在の今それをすれば……明らかな反乱であった。
その場に居る隊長達は即座に理解した。
そしてシェラドが叫ぶ‼︎
「時が来た!
長年の悲しみを断ち切る時が‼︎
この国に仇をなし!
蝕む者は誰だ‼︎
我らに二千年前に苦渋を飲ませたセレスか⁈
いや違う‼︎‼︎
あの長老院の欲深い醜い獣達だ‼︎」
シェラドがそう叫ぶと、隊長達が一斉に声を上げる。
その声は周辺のシェラドの部隊に響く!
既にベルガルの部隊が、シェラド配下の部隊に伝令を回していた。
だが多くの隊長が今エレナの元に居ると聞いて、シェラドが行動に出たのだ!
「戦士達よ!
今こそ悲しみを断ち切る為に立ち上がれ‼︎
そしてこの国を救え!
多くの子らの命を救え‼︎‼︎
誇りを捨て力に溺れた
欲深き四匹の獣を‼︎
全て討ち取れぇぇぇぇ‼︎」
シェラドが全身全霊を込めて叫んだ!
周辺の部隊から地鳴りの様な叫びが上がった。
ノウムの月が出て三日目の夜であった……
その地鳴りの様な声を聞き動揺した部隊がある、王の直属の部隊で唯一この場に居て、長老側でも無くシェラド指揮下でない一個師団一万五千の兵達である。
師団長が何事か解らず、兵に戦闘体制を取らせるがままならない。
当然だ、他国の兵が居る訳でもなく、信頼厚いシェラドの軍が反乱を起こすなど考えてもいない。
だが首都背後に布陣していた、シェラド指揮下の二個師団は既に、長老側の兵と交戦状態にある。
長老側の兵は首都バータリスに一個師団は居る。
バータリス守備隊の五個中隊は迷わず、シェラド指揮下のバータリス守備隊三個中隊と交戦を始める。
一瞬にしてアグド首都が戦場になる。
中立の立場の一個師団には目もくれず、シェラドの本体はバータリスに迫る‼︎
そこにベルガルが手勢を率いて中立の一個師団に檄を飛ばす!
「貴様ら何をしている!
我らの本当の敵は長老院‼︎
昼にグルカスにジェネラル自ら指示し物資を送ったのは知ってるだろう⁉︎
我らの国を本当に思っているのは誰か!
考えなくても解るだろ‼︎
それが解れば我らに続け‼︎」
そうベルガルは叫び、自らの手勢を率いて首都バータリスに攻め込む。
カナは信じられなかった。
シェラドがいきなり取った行動に、だがもう止める事は出来ない……
「ユリナ、兵五十を私に!」
カナがユリナに頼むがユリナは冷静に応える。
「お姉ちゃん……気持ちは解るけど見守ってあげてこれはアグドの問題……
私達が戦いに加われば、中立の部隊が全てシェラドの敵に回るかも知れない……」
ユリナが冷静に判断している。
ユリナの読みは正しい、エレナ達がここに居るだけでも際どい……
その境界線にエレナ達は今いる。
エレナもそれは解っていた、そこにグリフが急いでやって来る。
「今宵の出来事はアグド国内のこと……
どうかエレナ殿!
セレスとして静観を願います。」
グリフが礼を取りエレナに願いに来た。
セレスを巻き込まない配慮だ……
「そのつもりですが、ジェネラルはなぜ長老院の者を斬ったのですか?
我らを庇うだけなら他の手もあったはず……」
エレナが疑問をグリフに聞く。
シェラドは内乱は避けねばならないと言っていた、にも関わらず踏み切ったのだ……
その場に居る全ての者がグリフを見る、オークの兵もエルフの兵もグリフを見ていた……
グリフは話すべきかを悩み沈黙する。
「アグドの為に真実を言いなさい!
そうでないと
納得しない守護竜がいます‼︎」
エレナが竜魔石を握り締めながら強く言う。
リヴァイアサンだグリフの心の色を見て、グリフが隠してること、つまり長老院の一人ベリセルスが言った事に凄まじい怒りを抱いている。
グリフは意を決して話し出す。
「長老院は明日、長老側の師団長を王に任命しようとしていたのです。
一族の掟を踏みにじり権力と言う力で……
それに激怒したジェネラルがベリセルスに訴えに行ったのです。
ベリセルスはジェネラルが部屋に入った時に直ぐに……
セレスの者を皆殺しにし、その首をセレスに送れとジェネラルに命じたのです。」
グリフが苦しそうに話す。
「それって……」
ユリナが余りにも残虐な命に息を呑む。
「なるほど……
私達の首を宣戦布告がわりにするつもりだったのね
長老院は……」
エレナが静かに言う。
エレナも道が一つしかない事を悟る、その様な考えを持つ国家と和平はあり得ないからだ……
リヴァイアサンとウィンダムがそれを聞き怒り、エレナとユリナの制止を聞かず子竜の姿で現れる。
グリフは後戻り出来ないと覚悟した。
「ジェネラルはそれに怒り、ベリセルスを斬ったのです……
無論ベリセルスの護衛はジェネラルを捕らえようとしたのですが、ジェネラルは全ての護衛を斬り捨てたのです。」
「リヴァイアサン、ウィンダム彼らの神をも恐れぬ言葉ですが……
シェラドがきっと晴らしてくれます。
今は静かにしていて下さい……」
エレナはリヴァイアサンとウィンダムに言い聞かせ、空を見ると……ノウムの月はまだ出ていたのが少し悲しくさせた。
神の竜が怒りをあらわにすれば、直ぐにでも戦闘は終わるだろう、長老側の兵が武器を捨てるのは目に見えてる。
だがそれは、神の力で抑え込むのと同じ、そんな事を一度でもしてしまえば、この先、話は何処でも簡単に進む……
でもそれは神を恐れて従うだけ……それでは、エレナやユリナがこの世を去った後、その抑えつけられた自由の意思が爆発してしまう。それでは何の意味も成さない。
エレナはその先を見ていた……
そう話しているうちに、バータリス後方の部隊は、長老院の兵が守る門を突破した様だ。シェラド配下の一個師団が突入して行き、残りの一個師団が包囲し始めた。
正面の戦いも、押し切り門を突破しそうであるがてこずっている。
原因は中立の一個師団である。
「グリフさん……こちらに残る兵は?」
エレナが聞く。
「八個中隊、約八千ですが何か?」
エレナがそれを聞いた時、三個中隊三千程の兵がバータリスに着き、正面シェラド率いる部隊に攻撃を仕掛け始める。
中立の部隊が王の死を知り、強行軍で駆けつけて来た。兵は疲れ切っているが反乱を目の前にし長老側に付く。
「この八千の指揮を私に委ねてくれますか?表向きはグリフ殿で構いません。」
エレナがグリフに言う。
エレナはもし、この状況で中立の一個師団が長老側に立てば、シェラド率いる正面の一個師団が危うい。
だがあの一個師団はこの戦いが始まる前からバータリスに居た。
つまりこの八千の隊にエレナ達が居ることを知っている。
状況を整理すれば、シェラドが反乱を起こしての内乱だが、長老側からすれば……エレナ達を首謀者にした方が都合がいい。
グリフがエレナの申し出を受け静かに頷いた。
「お前達!エレナ殿の指揮に異論は無いな⁈」
「オウッ!」
その場に居た隊長達と兵が声を上げ答える。
「ありがとうございます」
エレナは礼を言い、思い切った支持をだす。
「まず……
我々はあの中立の一個師団を殲滅もしくは、武器を捨てさせます。」
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