✡︎ユニオンレグヌス✡︎

〜神歌〜

文字の大きさ
92 / 234
〜第四章 変わりゆく時代〜

81話✡︎トールの涙✡︎

しおりを挟む



 その頃地下都市トールに着いたトールとオプスは盛大に迎えられていた。

 十万年前の王子とは言え、闇のレジェンド・トールの偉業はトータリアが逃げ延びた事により言い伝えられ、そして地下都市トールの神話として残っていた。
 それはトータリアが兄を想い残したかの様にトールとオプスを温かく迎えた。

「これだけの都市をトータリアは作ったのか……」
「トータリア様がどの様に作られたかは解りませんが。
ここに着く前にドワーフの商隊と合流した様です、ですから当時のドワーフの建築技術の高さが見られますよ」
トルミアはそう言い笑顔で案内する。

 その都市は地下にあるとは思えない程に広く、とてつも無い量の岩盤を掘り出したのが一瞬で解る、小さな空の様に高いドーム状の天井の中心には、山と森を伝える大地の女神ガイアの巨大な守護印が装飾されており、強いガイアの魔力が絶え間なく放たれこの地下都市トールを守護している。
 まるで母なる大地に抱かれている様である……


 ガイアの恵みだろうか……
 灯りは全て地下から噴き出す気体に火を灯して街中が明るい……
 そして壁面の所々に風の女神ウィンディアの印も彫刻されている。
 その影響だろう、何箇所かある地下都市トールの入り口から絶え間なく新鮮な空気が入り込み、全ての汚れた空気を別の入り口から吹き出している。

 全ての岩肌が滑らかに磨かれており、美しい彫刻で彩られ、巨大な都市一つが全て芸術の中、物語の中にあるかの様に美しく別の世界に入り込んだ様な錯覚を覚える。
 そして神々の印がまた幻想的に都市を思わせている。

 だがこれだけ巨大な地下都市である、人口はどれだけ居るのか予想出来ない。
 その地下都市を支える為には、技術だけでは大きな自然災害があった時に一瞬で滅んでしまう。
 ゴブリン達は後世に生き延びる為に、大地の女神ガイアと風の女神ウィンディアに頼ったのだ。

 本当はゴブリン達の主神、闇の女神オプスの印を掘りたかったはずだ……
 美しい地下都市トールは、開発が長年に及んだが、闇の女神オプスが冥界に囚われてしまった時代の悲しさも物語っている……


「ガイア、ウィンディア手間をとらせてしまいましたね。
本当にありがとう……」
オプスは闇の女神として大地の女神ガイアと風の女神ウィンディアに、そして姉として妹達に様々な想いを込めて囁いた。


 そして地下都市トールの王宮を過ぎ、一番奥に向かう。
 奥の壁面には一つの大きな通路が掘られており、そこには王家の墓と刻まれていた……


その奥へ案内されて行く……


 王家の墓内部はゴブリン達のみで掘った様に、先程までの様子とは違い丁寧に作られたのは解るが、美しさはさほど感じない。

「驚きましたか?この王家の墓は全て我らが彫りました。
言い伝えによれば、ドワーフ達が手伝おうとしたのですが。
(私達の王家の墓は我らの魂で掘る)と兵達が言い断った様です。

ですからこの王家の墓には、この地下都市トールに一つしか無いオプス様の印があります」
 トルミアは案内しながら伝えてくれている。トルミアの護衛達も一族の誇りを改めて感じている様だ……

 そしてその通路を抜けると大きな広間に出た、天井は地下都市トールよりはかなり低いがそれでも立派と言う程の高さがある。
そして天井にはガイアの印が掘られていた……
 円形の広間に一際大きな石の棺があり、それを囲む様に多くの棺が円形状に並んでいる。


「トータリア……」
 トールが呟き前に出て静かにその大きな棺に向かい歩み出す……オプスもそれに続いた。
 トータリアの気配をトールはその棺から強く感じていた、それ故に迷わず足を進める。

 その棺には闇の女神オプスの印が刻まれていた、トルミアと護衛達は静かに見守っていた。

 棺にはトータリアと刻まれ、その下に何故ここに眠っているのか、十万年前の記録が示されていた。
 その石棺の棺蓋は開けても落下しない様になっていた……トータリアは遠い未来でこの棺が開けられても棺蓋が割れない様に作らせたのだろう。

 トールは棺蓋に手をかけた、そこにトータリアの魂は無い、だが……何故か僅かに躊躇った。

「トール私がついています。
開けてあげなさい」
 オプスは優しくトールに声を掛けた、オプスは知っていた。
 トータリアが生前トールを愛していた事も、そしてトールの想いを知り身を引いた事も、それ故に愛し続けた者が、兄トールの願いに大切な物と永遠の眠りに着いたことを知っていたのだ。

 トールはオプスの声に押され、棺蓋を力一杯に押し開ける。
 その重さは十万年の重さ、あのクリタス王国滅亡の重さの様にトールにはとてつも無い重さに感じた。

「うぉぉぉぉ!」
あのトールが苦しそうに声を上げる……

 僅かに棺蓋が重い音とともに開き始める、トールの顔には汗が流れている。
 その辺のオークと力比べをしても負けない、トールが苦しそうだ、顔を歪め今まで受けたどの太刀よりも重く、トールはその重さを全身で感じ、筋肉が痙攣する程に力を振り絞り、全身全霊を込めて開けていく……

 兄として妹が願ったことを、自ら知ろうとしていた。
 岩と岩が擦れ重い音が響き、少しずつ開きようやく開けた時にはトールは既にまともに立っていられない程になっていた。


 石棺の中にはトータリアが眠っていた、ミイラ化していたが生前の面影を残し、眠る様に穏やかであった事が見て解る。
 そして大事そうに黒い木箱を抱きしめている。

 トールは体の奥底から凄まじい感情が溢れて来たが涙を抑えていた。

 十万年前、トールはトータリアを逃した、トールはあの時、一族を導く様に伝えたが、そんな事はどうでも良かった事を改めて感じていた。

 あの時、英雄でもなんでも無かった、王子でもレジェンドでも無かった、ただ一人の兄としてトータリアを助けたかった事に、安らかに眠るトータリアの姿を見て深く気付いたのだ……

 気づけばトータリアの遺体はミイラ化しているが、老婆になってはいないのが解った。
 まだ若いうちに亡くなってしまった様だ……トータリアの枕元に巻物があり、トールは気になり取り出して読み始める。

 トータリアの侍女が書いた物だった……死後、天界でトールに読んでもらう為に書いたのだろう。
 そこにはトータリアの苦労と、クリタス王国の再興の為に死力を尽くして日々休まずに勤めていたトータリアの様子が書かれていた……
 そして無理がたたって病にかかり、倒れてしまい命を落としたらしい、そしてその木箱を抱きしめさせる様に、埋葬する様に伝えたらしく。
 トータリアがそれを後世に守ろうとしたのが、とてつも無く強い意志とともに感じさせる。

 トールは溢れそうな涙を堪えながら、その木箱に手を伸ばすと、トータリアの手はミイラ化しているにも関わらず。
 差し出す様に解け、まるで寝ている姿の様になった……まるでトータリアの意思の様であった。

 トールがその木箱を開けると黒い布が入っていた……その布を取り出し広げた時に、涙がついに溢れてしまった。

「トータリア、生き抜けと言っただろ……
なんで……こんな物の為に……」

 その布は、黒の下地に金の六芒星……
クリタス王国の旗、ユニオンレグヌス、ゴブリンの旗印であった……

 トータリアはユニオン時代、最大勢力であったクリタス王国の最後の姫として、兄の言葉通り一族を導き続け、自らの命だけで無く遠い未来でなければ再興出来ないと確信し、クリタス王国の誇りを死後も守り続けていた……

 そして守り切った様に役目を終えたかの様にトータリアの遺体は、粉に変わって行くかの様に崩れ始める。
 だが一瞬、顔が崩れ形が変わった為だろうか本当に一瞬、トールにはトータリアが微笑んだ様に見えた……


「必ず掲げて見せる……
クリタスに、我が可愛い妹よお前の為に必ず……
クリタスにこの旗を掲げて見せる」
 トールは溢れ出した涙を拭い瞳を開けた時トータリアの遺体は全て白い粉になっていた……そしてその下には、石棺の底に同じ木箱が敷き詰められていた……

 装飾品も無く、一本の大剣の木剣が入っていた……それ以外は何も無い。
 トータリアが愛した兄に何度か大剣を教わった時に使った品だ、彼女は一族の誇りと兄との思い出だけで埋葬されて居たのだ……


「英雄か……本当の英雄ってのはこんな時どうするんだろうな……」
過去の言葉がトールの頭の中に響いていた……
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界に召喚されて2日目です。クズは要らないと追放され、激レアユニークスキルで危機回避したはずが、トラブル続きで泣きそうです。

もにゃむ
ファンタジー
父親に教師になる人生を強要され、父親が死ぬまで自分の望む人生を歩むことはできないと、人生を諦め淡々とした日々を送る清泉だったが、夏休みの補習中、突然4人の生徒と共に光に包まれ異世界に召喚されてしまう。 異世界召喚という非現実的な状況に、教師1年目の清泉が状況把握に努めていると、ステータスを確認したい召喚者と1人の生徒の間にトラブル発生。 ステータスではなく職業だけを鑑定することで落ち着くも、清泉と女子生徒の1人は職業がクズだから要らないと、王都追放を言い渡されてしまう。 残留組の2人の生徒にはクズな職業だと蔑みの目を向けられ、 同時に追放を言い渡された女子生徒は問題行動が多すぎて退学させるための監視対象で、 追加で追放を言い渡された男子生徒は言動に違和感ありまくりで、 清泉は1人で自由に生きるために、問題児たちからさっさと離れたいと思うのだが……

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

転生したら領主の息子だったので快適な暮らしのために知識チートを実践しました

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
不摂生が祟ったのか浴槽で溺死したブラック企業務めの社畜は、ステップド騎士家の長男エルに転生する。 不便な異世界で生活環境を改善するためにエルは知恵を絞る。 14万文字執筆済み。2025年8月25日~9月30日まで毎日7:10、12:10の一日二回更新。

【しっかり書き換え版】『異世界でたった1人の日本人』~ 異世界で日本の神の加護を持つたった1人の男~

石のやっさん
ファンタジー
12/17 13時20分 HOT男性部門1位 ファンタジー日間 1位 でした。 ありがとうございます 主人公の神代理人(かみしろ りひと)はクラスの異世界転移に巻き込まれた。 転移前に白い空間にて女神イシュタスがジョブやスキルを与えていたのだが、理人の番が来た時にイシュタスの顔色が変わる。「貴方神臭いわね」そう言うと理人にだけジョブやスキルも与えずに異世界に転移をさせた。 ジョブやスキルの無い事から早々と城から追い出される事が決まった、理人の前に天照の分体、眷属のアマ=テラス事『テラスちゃん』が現れた。 『異世界の女神は誘拐犯なんだ』とリヒトに話し、神社の宮司の孫の理人に異世界でも生きられるように日本人ならではの力を授けてくれた。 ここから『異世界でたった1人の日本人、理人の物語』がスタートする 「『異世界でたった1人の日本人』 私達を蔑ろにしチート貰ったのだから返して貰いますね」が好評だったのですが...昔に書いて小説らしくないのでしっかり書き始めました。

スティールスキルが進化したら魔物の天敵になりました

東束末木
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞 奨励賞、いただきました!! スティールスキル。 皆さん、どんなイメージを持ってますか? 使うのが敵であっても主人公であっても、あまりいい印象は持たれない……そんなスキル。 でもこの物語のスティールスキルはちょっと違います。 スティールスキルが一人の少年の人生を救い、やがて世界を変えてゆく。 楽しくも心温まるそんなスティールの物語をお楽しみください。 それでは「スティールスキルが進化したら魔物の天敵になりました」、開幕です。 2025/12/7 一話あたりの文字数が多くなってしまったため、第31話から1回2~3千文字となるよう分割掲載となっています。

あなたがそう望んだから

まる
ファンタジー
「ちょっとアンタ!アンタよ!!アデライス・オールテア!」 思わず不快さに顔が歪みそうになり、慌てて扇で顔を隠す。 確か彼女は…最近編入してきたという男爵家の庶子の娘だったかしら。 喚き散らす娘が望んだのでその通りにしてあげましたわ。 ○○○○○○○○○○ 誤字脱字ご容赦下さい。もし電波な転生者に貴族の令嬢が絡まれたら。攻略対象と思われてる男性もガッチリ貴族思考だったらと考えて書いてみました。ゆっくりペースになりそうですがよろしければ是非。 閲覧、しおり、お気に入りの登録ありがとうございました(*´ω`*) 何となくねっとりじわじわな感じになっていたらいいのにと思ったのですがどうなんでしょうね?

異世界ママ、今日も元気に無双中!

チャチャ
ファンタジー
> 地球で5人の子どもを育てていた明るく元気な主婦・春子。 ある日、建設現場の事故で命を落としたと思ったら――なんと剣と魔法の異世界に転生!? 目が覚めたら村の片隅、魔法も戦闘知識もゼロ……でも家事スキルは超一流! 「洗濯魔法? お掃除召喚? いえいえ、ただの生活の知恵です!」 おせっかい上等! お節介で世界を変える異世界ママ、今日も笑顔で大奮闘! 魔法も剣もぶっ飛ばせ♪ ほんわかテンポの“無双系ほんわかファンタジー”開幕!

出来損ない貴族の三男は、謎スキル【サブスク】で世界最強へと成り上がる〜今日も僕は、無能を演じながら能力を徴収する〜

シマセイ
ファンタジー
実力至上主義の貴族家に転生したものの、何の才能も持たない三男のルキウスは、「出来損ない」として優秀な兄たちから虐げられる日々を送っていた。 起死回生を願った五歳の「スキルの儀」で彼が授かったのは、【サブスクリプション】という誰も聞いたことのない謎のスキル。 その結果、彼の立場はさらに悪化。完全な「クズ」の烙印を押され、家族から存在しない者として扱われるようになってしまう。 絶望の淵で彼に寄り添うのは、心優しき専属メイドただ一人。 役立たずと蔑まれたこの謎のスキルが、やがて少年の運命を、そして世界を静かに揺るがしていくことを、まだ誰も知らない。

処理中です...