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〜第五章 ファーブラ・神話の始まり〜
103話✡︎✡︎死の女神ムエルテ✡︎✡︎
しおりを挟むそれから七日かけて、クリタス平原を超えていく、ユリナ達がクリタスを出て二日後のことである記憶の間に訪問者がいた。
「クロノス大分ここに居るようであるが、何をしておるのだ?」
その声は優しくも冷たく、自信に溢れた女性の声であった。
「死の女神が何の用だ……ムエルテ!」
クロノスが牽制する様に強く言った。
「そう熱り立つでない、妾がそなたと争う気が無いのは解っておろう?」
そうムエルテは微笑みながら姿を現した。
その姿は白い肌に幼い少女の姿をしていて、髪は白く黒い瞳、死神の様な黒いローブを着ていた。
「そもそも、妾と其方が争った所で無意味じゃ、妾は其方を殺せぬ上に、其方も妾を無に返せぬ……
妾は他の冥界の神と違うからのぉ」
「其方はあの時に産まれた感情神では無い……
その為に冥界に居ながらも神として節度ある事は解っている……
だが何のためにここに来たのだ?」
クロノスが問う。
「勘違いするでは無い、妾は生ある者の死を喜ぶ……
だがそれは、妾が地上に出向かなくても生きとし生きる者はいづれ死ぬ。
妾はそれを待っているだけじゃ、なぜ来たかなど、あえて言うなら……そうだのぉ……
この世界で最も罪深い者が何をしているのか見に来ただけじゃ」
ムエルテはそう嘲笑いながらクロノスに言い、静かに闇に消えていった。
「ムエルテ!どこに行く気だ‼︎」
クロノスは叫ぶが既に居ない様だ、記憶の間にクロノスの声だけが響き渡っていた……
ムエルテは記憶の間から去り、クリタスの街からクリタス平原へ向かった。
無論、街に危害を加える事はなく、幼い少女の姿をしたムエルテをゴブリン達は、可愛く思ったのか、リンゴをくれた者まで居た……
街から出てムエルテは、リンゴをかじりながら言った。
「腑抜けているな……シャイナ……
今の地上はこの様な街ばかりなのか?
それともトルミアと言う女王が名君なのか?」
「はい、腑抜けていますね。
トルミア女王は歴代のクリタス王国の王から見れば、さほど名君とは言え無いかと……
ゴブリンの女王で常に輝いていたのは、古のミネルバ女王お一人かと思います。
トルミア女王は平和の世にしか輝けない方だとお見受けします。
それとムエルテ様の瞳は、冥界の者らしく無い黒い瞳……
街の者は気づかなかったのでは?」
闇の女王シャイナが現れて言う。
「妾を知るものは死の瞳とも言うが、こんな事で役に立つとはの……」
「争いを好まないムエルテ様にはお似合いかと思います」
「そう言う事にしておくかの……
さて急ぐかの、あの者たちが地下都市トールに入る前に追いつかねば……
何日か待つ事になってしまうからのぉ……」
ムエルテはそう言い芯だけになったリンゴを投げ捨て、ふわりと浮き目を鋭くし風の様に凄まじい速さで飛び去って行った。
ムエルテが飛び去った後には、冥界の赤黒い筋が一瞬だけ残ったが、誰もそれには気付かなかった。
「地上か……久しいのぉ……」
ユリナ達はその頃、軽く馬を走らせ旅を楽しんでいた。
日の光を浴び、美しい緑の草原を抜けていく……遠くに雄大なクリタス山脈が見える。
「ウィンダム、地下都市トールはトータリア姫のお墓もあるんだよね?
トータリア姫にも挨拶しに行こうね」
「えー行かなくていいよ、何時でも会えるし」
「ちょっとそれ、ひどく無い?」
ユリナが言う。
「ウィンダムさん、相変わらず酷いですね。」
ルクスが楽しそうに言ったがふとユリナが気付いた。
「何時でも会えるってどう言う事なの?」
ユリナが聞く。
「きっとトール様の心の中に、トータリア姫もいらっしゃるのですよ」
嬉しそうにルクスが言い、それを聞いてピリアは静かにクスクス笑っていた。
ウィンダムは汗をかきながらルクスに弄られている……
その時ピリアは感じ取った、何者かがユリナ達を追って来ている。凄まじく速く何が追って来ている。
ピリアは振り向き背後の気配を探ったがユリナは言った。
「気にしないで行きましょう。
あの速さ……必ず追いつかれる。
それならそのつもりで居ればいいから、どうせ隠れても無駄な気がするし……
隠れる場所なんて無いからね」
ユリナは冷静に言った。
確かにここはクリタス平原の真ん中で、一面草原である、身を隠す場所なんて何処にも見当たらない。
ユリナの風を読む力が増していた。その者の触れた風さえ読み敵意が無いことまで読んでいたのだ。
その成長の速さにウィンダムは僅かに驚いていた。
その日の晩、ユリナ達は焚き火を囲んでいた……食事も済ませ、のんびりとしていた時にそれは来た。
「すまんのぉ……
妾も焚き火にあたらせてくれないか?」
凄まじく強い冥界の気配を帯びてそれは来た……
ピリアは立ち上がり、身構えると何かがピリアの目の前に現れピリアを牽制した。
ウィンダムとルクスはすかさず現れ、鋭い目つきでシャイナを睨む……
「シャイナ、よさないか……
妾は争う気はない、話に来たのは知っておろう?」
死の女神ムエルテが言い、ピリアを見て言う。
「ほう、そちは影の女王か……
シャイナと同じ力を持つとは……」
「ムエルテ様、この者はオプスの力も併せ持つ者……お気をつけ下さい……」
シャイナはそう言いムエルテの後ろに控えた。
ピリアは驚いた……ウィンダムもルクスも驚いていた……
ピリアは勇気を振り絞り強く言った。
「死の女神が何をしに来たのですか⁉
シャイナさん!
何故!影の女王である貴方が死の女神に仕えるのですか⁈
オプス様に許された恩を忘れたのですか!」
それを聞いたムエルテは楽しそうに笑いながら答える。
「何を解りきった事を、風の守護竜から聞いて無いのか?」
「うちのウィンダムが何かしたの?
文句ならいつでも聞いてあげるわよ」
ユリナが飼い主のように答えた。
一切恐れず対等に声をかけていた。
「ほう妾を恐れぬか……
シャイナはのぉ
闇のレジェンドに一目惚れしてのぉ
だが其奴はシャイナに気を使わなくてな……
言わばオプスは恋敵での
妾に仕えることにして今は冥界におるのじゃ」
ムエルテが楽しそうに応える。
「ムエルテ様
おやめ下さい
恥ずかしいではありませんか」
シャイナは本当に恥ずかしそうにしている……
ユリナとルクス、ピリアの三人は白い目でウィンダムを見ていた……。
「ちょっとウィンダム
後で話があるから
気持ちの準備はしといてね」
ユリナが冷たい目をしたまま、静かにウィンダムに言った。
「う、う、うん……」
ウィンダムは予想だにしない話で戸惑ながら答える……。
「さて、焚き火にあたって良いかの?」
ムエルテがそう言い、ユリナが手を差し伸べて、ムエルテを焚き火に誘った……
今の話で本当に敵意が無いのを理解したのだ。
(この者、まことに妾を恐れておらぬ……
ディアボルスに魅入られたからか?
いや……
女神としての覚醒が始まっているのか?)
ムエルテはそう思いながら焚き火にあたり、話し出した。
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