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〜第五章 ファーブラ・神話の始まり〜
102話✡︎✡︎始まりの地✡︎✡︎
しおりを挟むそこで記憶は終えた……
ユリナは愕然とした、愛の形としては残酷過ぎる。
そしてダークエルフ達を追放したのがユリナの一族フロースデア家であったこと……
フロースデア家が神の血を引く事にも驚き、そしてサラティアがユリナと見間違えるほどに似ていた、つまりエレナにも似ている事になる。
それが何を意味するのかは解らないが、とにかくエレナに報告する事にした。
帰る途中トールは考えていた……
(世界を救う為に俺はオプスを斬れるか……
あの目は確かにサラティアを愛していた。
それで迷わず貫いた……)
トールはかつての自分を振り返っていた。
王宮に帰りサラティアの石版で見たことを全てエレナに話した。エレナが驚いたのは言うまでも無い……
エレナはそこからすぐに推測する……
災いの日が近いかも知れない、そう考えたらいちいち感傷に浸る訳にはいかない、エレナはいつも通り冷静であった。
ダークエルフ達はその後、セレスの西に追放されオプシェンと言う国を作るが、オプシェンは今、アグド北西にある……
騒乱の時代が長く続いた為に、国土が変わることは珍しく無いが、位置が大きく変わっている。
八万年前の話しだが、それを踏まえて情報が欲しかった、エレナが考えていると……
「ちょっとベルリス温泉に行っていい?」
ユリナが言い出した。
「ベルリス温泉なら他種族が集まりやすいかな?って思って様子見てこようかな」
ユリナの考えは間違ってはいない、アグドとオプシェンは交流があり、ベルリス温泉にもダークエルフの高官が訪れている。
僅かな情報も欲しい為にエレナは頷き、直ぐに羊皮紙を取り出し手紙を書いた。
「これを、ベルガル国王に渡してね。
何かあったらいけないから、オークの護衛もつけてもらってね」
そう言いながらその手紙をユリナに渡した。
エレナが心配している。
「大丈夫だだよ、僕がついてるから安心して」
トールはウィンダムになってそう言う。
確かに周辺を警戒するなら、トールよりウィンダムの方が適している。
「お母さん、大丈夫だから心配しないで二日後にクリタスの棚から行くね。」
ユリナは笑顔でそう言い明るく振る舞い屋敷に帰った。
ベルリス温泉に行くには……
闇の街道を使い一旦クリタス平原に出てから、地下都市トールを経由してバータリスに行き、ベルリス温泉に行くのが断然早くつくが、それでも約十五日はかかる。
エレナの居ない多少長い旅になる。
(うーん、可愛い子には旅をさせろって言うからかな……)
エレナは少し心配したが夕暮れ時に帰る愛娘を静かに見送る事にした。
ユリナは屋敷に帰り旅の支度を始めた。
ふと窓の外を見ると一番星が輝いていた……そしてサラティアの様に愛する人の為に身を投げ出すことが自分には出来るのだろうか……何故かそう考えていた。
そして二日後にユリナ達はベルリス温泉に向け朝早く旅に出る。
トールはウィンダムになりユリナの心の中にいる。
お金や貴重品は全て神の涙にしまいルクスが管理してくれている。
ペルタも金貨と銀貨なので、大金を持ち歩くと重いので、荷物を軽くするのに重宝している。
ユリナは護衛も連れずに行く事にした、クリタスの棚のあるクリタス遺跡は、今はクリタス王国の首都、クリタスにある。
クリタス王国が再興しパルセスから、クリタス平原が返還され、クリタス王国の首都になったのだ。
その為に都市開発が進められ、世界に散らばったゴブリン達が集まり始めている。
ユリナはそこで旅に必要な物を買い集める事にしたので、相当なお金を神の涙にしまい武器や手軽な荷物だけを持ち出かけた。
ミレスから闇の街道を使い、クリタスの棚から出ると、二年前に来た時と違い大聖堂の地下は綺麗になっていた。
そして棚の前に綺麗なテーブルが置かれており、真新しい手紙が置いてあった。
その手紙はトルミアからの手紙でエレナから連絡を受け、大聖堂で待っているとの事だった。
記憶の棚は締め切られた空間が望ましい為に、置き手紙をして上で待ってるようだ。
階段も綺麗に整えられ、燭台に明かりが灯されている。
ユリナとピリアは階段を登り、大聖堂の扉を開けると、トルミア女王と護衛の兵達が居た。
大聖堂は遺跡の部分を利用し改装され新しい建物となっていた。
「ユリナさん、お久しぶりです。
護衛はいらっしゃらないのですか?」
「トルミア様、護衛はちゃんと居ますよ。」
ユリナが微笑みながら言うと、ウィンダムがひょっこりとユリナの首筋から現れた。
「トルミア、こんにちはまた会えて嬉しいよ」
ウィンダムがトルミアに挨拶をすると、
「トール様お久しぶりです。
今はウィンダムさんになってるのですね。」
そうトルミアは笑顔で言い、ウィンダムの頭を撫でると、ウィンダムは少し困った顔をしたのがまた可愛らしく皆が思えた。
ユリナとピリアはその後、新しくなった首都クリタスをトルミアに案内される。
過去に滅びた都市がまだ開発途中であるが、着実にまた賑わいを取り戻している。
トールはその様子をウィンダムのまま、ユリナの心の中から見ている。
ユリナはトールが静かに微笑んでいる様に感じていた。
その日はトルミアが用意してくれた宿に泊まる事にし、旅に必要な物を買いに街を歩き回る。
最初に馬を買い、それから食料や野外用の天幕など様々な物を買い、宿に持ち込み整理してから休む。
(ウィンダム、今日はどうだったのかな?)
(何が?)
(ううん、いいや何でもない)
翌朝ユリナ達はトルミアに礼を言いに、トルミアの屋敷に行き挨拶をし、昼前には地下都市トールに向かった。
暫くしてウィンダムが出て来て、トールの姿になりこう言った。
「ユリナ少し剣を振らないか?」
そこは首都クリタスから五時間程馬を早めに歩かせた所だ。
ユリナは不思議に思ったが、今朝は剣を振れなかったので静かに頷いた。
ピリアが一本だけ生えていた木に馬を繋ぎ、座って二人を見ると……
ルクスが神の涙から飛び出して、ピリアの隣に座った。
そこには思い出に溢れ、懐かしみながらも喜んでいるトールがいた。
ユリナが星屑の劔を抜き、トールも構え、僅かに静かな時が流れた。
そしてユリナから仕掛けた!
「ウアァァァ!」
ユリナの気力溢れる声がクリタス平原に響く……
それをトールは難なく受け止め、押し返した。トールは嬉しそうだった、ピリアはそっとトールの魂に触れる。
そこにはここで、過去十万年前に剣を一人で振っていたトールが居た。
そして記憶の時を遡ると、若いトールが後のオーバーロード・グーダと木剣で戦い修練していた。
丁度ピリアが座っている真横……ルクスが座っている場所に、トータリアが座って微笑みながら二人を見ていた。
そう……ここはトールにとっての始まりの地であった。
トールが英雄となり、闇のレジェンドに駆け上がって行き、命を燃やし尽くして世界を救った、その全てがここから始まっていた……
三人はその過去を再現している様であった。
クリタス平原に激しく……それでいて懐かしい音が響き渡っていく。
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