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〜第五章 ファーブラ・神話の始まり〜
第五章最終話✡︎✡︎孤独な女神✡︎✡︎
しおりを挟むそれはこの世界が生まれる前、つまり最初に産まれた世界が滅びた時……
その時、冥界の侵攻を受けた地上の生きとし生ける者が全て死に絶え、地上世界には死が溢れた……
その死から産声が聞こえ地上世界に響き渡った……
その声は愛らしいが冷たく、命が無い地上世界にさえ恐怖を呼んだ……
だが恐怖する地上の者達が死に絶えていた為に、ただただ不気味であった。
だが天界の創造神アインは恐れた心から……
生み出した覚えのない物、創造した覚えの無い物が生まれたのだ……
それが死であった。
それは余りにも多く生まれた為に、死が集いその化身として少女が生まれた。
彼女が死の女神ムエルテであった。
「クロノス!頼みます‼︎
地上を無に返してください‼︎
あの少女は不吉その物‼︎‼︎‼︎
天界に災いを齎します!」
アインがムエルテを恐れクロノスに懇願した。
「待て!アイン‼︎
我らが生み出した地上より生まれた者‼︎
受け止めよ‼︎」
クロノスはアインを諫めた、クロノスは過去に美しく無い物を忌み嫌い、そして冥界が生まれた事を理解していた。
クロノスはムエルテに手を差し伸べようとしたが、アインは聞かずクロノスの剣を引き抜き、地上に向けて振り下ろしてしまう。
その瞬間凄まじい稲妻が無数に生まれ、一つの塊になり地上に落ち、地上世界の全てが消滅し冥界も滅びた。
それと同時に冥界の神々も姿を消した……
だがその少女、死の女神ムエルテは消滅した地上があった場所にいた……
それは神々ですら死がある事を意味していた。
アインは恐れた……だがクロノスは死の女神ムエルテを天界に迎えようとした。
「クロノス!正気ですか‼︎」
アインが叫びその声はムエルテにも聞こえていた……ムエルテは察した……死から生まれたムエルテは忌み嫌われている事に。
ムエルテは行く場所が無かった、生まれた地上は消えそれと同時に冥界も消えた……
ムエルテは見たのだ、汚らわしい物は忌み嫌われ行き場所を無くす。
美しい物だけを手に取ろうとする醜い神々、その神々とそれが支配する汚らわしい現実を……
ムエルテが初めて感じたのは絶望で、生まれて初めて経験したのは差別であった、ムエルテは怒りよりも天界の神々を軽蔑していた。
ムエルテはそっと姿を消し様子を伺う事にした……
だがクロノスだけは気付いていた。
ムエルテこそ唯一、無の神ニヒルから生み出された神では無いと、何かあった時最初に無の神ニヒルに戦いを挑む神だと。
其れが忌み嫌われる死を司る神である事に……破壊神クロノスは情けなさを感じていた。
そしてクロノスとアインは、闇の女神オプスと光神ルーメンを生み出し……
地上世界を再び生み出し、冥界が再び生まれた……
ムエルテは初めて自分を受け入れてくれる世界を見つけた……
其れが冥界であった。
ムエルテは何故か産まれた時を思い出していた……
そして自分を受け入れてくれた冥界の為に戦っている事が、天界をも救う道に繋がっている事に苛立ちを覚えていた。
何の為に冥界を支配したのか……冥界に秩序を齎す事は考えて居なかった。
だが自らの力を増す為には地上世界が繁栄すれば、その溢れた命からやがて順を持って齎される死が目的であった。
その為にムエルテは九万年前に、冥界を束ね……それ以来地上世界に表立っては災いを齎してはいなかったが……
それは自らの力を増す為であって天界の為では無かった。
「何故……じゃ……何故じゃ……
なぜじゃなぜじゃなぜじゃなぜじゃなぜじゃなぜじゃなぜじゃなぜじゃなぜじゃぁぁぁぁぁぁ‼︎‼︎‼︎
妾が天界を滅ぼすはずあった……
後二万年あれば
いや……
エレナが現れ
あと五千年もあれば……
地上はかつて無い程栄えたはずじゃ……
その繁栄は妾の力になる
無数の命が輝き!
消え失せる時に‼︎
妾が天界を滅ぼせたと言うのに‼︎‼︎
なぜ今なのじゃ……
あと少しで……あと少しで……
妾が!妾が‼︎
天界を滅ぼせたものを‼︎‼︎」
ムエルテは心で叫び手を強く握っていた、思惑から外れ先ずは地上世界を守らなければならない、ムエルテはニヒルと手を組む気は無かった。
ニヒルの思惑は死すら無に返す事、すなわち全ての消滅……
ムエルテが憎んでいるのは天界……
ムエルテが最も醜いと感じた神が住む世界であり、ムエルテを差別し忌み嫌った者が住む世界……
そこに数多くの黒い影が忍び寄って来た。
「またか……
悪いが今宵は気がたっている……
手加減はせぬぞ……」
ムエルテの前にニヒルの手の者が現れ、ムエルテはそう言い大鎌を一人で振って戦っていた……
冥界の支配者であり、天界を滅ぼす為に力を蓄えようとした死の女神ムエルテが、地上の為にニヒルの手先を相手にしていた。
それが天界の為にもなると、再び脳裏に過った時、ムエルテは漆黒の瞳を鋭くし死を放つ様に殺気に怒りを込めた……
背後から斬りかかって来た影を姿を消して躱し、瞬時に首を跳ねる。
「巨人族よ!
ニヒルに操られてると気付かぬのか‼︎‼︎」
ムエルテが叫びながら大鎌を振る!
ムエルテは知っていた、この者達がニヒルから無の祝福を受けた巨人族であると知っていた。
だがそれをエレナ達に伝えようとはしなかった、エレナ達が気付くのも時間の問題ではあるが、それによる混乱が生じる事をムエルテは懸念していた。
ムエルテは星の光に照らされ、巨人族と戦い僅かな傷も負う事なく敵を斬り裂き、魔法を使おうとする者に、手をかざすだけで死を与えていく。
そして十分もせずに襲って来た数十の黒い影は、ムエルテによって駆逐され無に返って行った。
「ニヒルの祝福……
死体も残らぬとは……
酷いのぉ……」
ムエルテは全ての敵を倒し、そう呟きその場を去った。
「ムエルテ……あなたは……」
その様子を天界で、闇の女神オプスだけが見ていた。
オプスはムエルテから溢れる寂しさを、冥界に囚われていた時は気付かなかったが、今ようやく気付いた、そして何故か自分と重ね合わせて見ていた。
~第5章 ファーブラ 神話の始まり~完
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