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〜第六章 ファーブラ・巨人族〜
125話✡︎✡︎死を乗り越えて✡︎✡︎
しおりを挟む翌日早朝からユリナ達は進軍を開始した。
二個中隊と五個小隊、約二千五百少なく思えるが新兵などを投入すれば、死が敵を強大にしてしまう。
それを考え大軍で押し寄せる事を避けたのだ、後は兵一人一人の剣と意志が頼りである。
その日は何事もなく進軍し二日目の夜、明日の昼頃に目的地に到達する場所で陣を敷き夜営をしていた。
「ユリナ様!灯が此方に向かって来ます!」
「ユリナ様!数は五百!
敵か解りません!」
次々に報告が入って来たがユリナは焦らなかった。
「警戒態勢のまま、兵を休ませて下さい戦は明日になります。」
そう指示を出して天幕に入って行った。
それが敵ではない事をユリナは解っていた、そして小さく微笑んだ。
(カイナ……もうやめない?
私はカイナと戦いたく無いよ……)
ユリナはアグドでデスロードとの戦いで、カイナに助けられた事を思い出していた。
翌日も早朝から行軍を始め、昼前には目的地に近づいた、目の前には林がありその奥に神殿の屋根が見える。
そして、様子を伺っていると林から矢がユリナ目掛けて放たれた、ユリナは何事も無かったかの様に躱すと直ぐに叫んでだ。
「前衛守りを固めよ!
弓兵構えよ!」
そのユリナの声が響いた時!
林から盗賊と敵兵が一気に攻めて来た、それと同時にユリナの兵達は小瓶の液体を一気に飲んだ。
それは聖水であり、死んでもネクロマンサーの術で敵として蘇らないための支度であった。
「放て!」
ユリナがそれを見て指示を出して弓兵が斉射を始める。
空に向かい放ち正確に距離を把握して矢の雨を降らせ、敵を倒していくセレス正規軍に盗賊上がりの者達が叶う筈はない。
「軽歩兵!我に続け‼︎」
ユリナは星屑の劔を抜き突撃していく、弓兵師団の精鋭達はエルフらしい速さを活かした戦いを展開して敵を圧倒して行く。
一方林の中では。
「ユリナさん、なんで来たの……」
カイナが呟く……
カイナは骨の杖を向け何かを囁く、そして呟いた。
「これで退いてください」
戦場では倒れた山賊達が、立ち上がりユリナ達に襲い掛かる!
ユリナの兵達は焦らず冷静に対処していく。
彼らは騒乱の時代にネクロマンサーと戦った事はないが、亡者とも戦い抜いて来た。
あの時代一晩で亡者の村となった場所が幾つもあった……その様な悲しい時代を戦い抜いた彼らに恐れは無かった。
ユリナの編成は見事に成果を出している。
だが反面一人の死は大きな損失になる、この場に居る兵一人一人が貴重な戦士で、ユリナの大切な部下達なのだ……
「ピリア!ここは任せます!
全ての命を預けます!」
ユリナはそう言い、林の奥にある巨人の神殿を目指した!
「ユリナ様!お一人では‼︎」
ピリアが叫んだ時、一瞬黒い線が空に走った。
「オプス様?違う……まさかムエルテ様!」
(案ずるな何かあれば妾が守る)
ピリアの頭に死の女神ムエルテの言葉が響いた。
ユリナは静かな林の中を走り抜けていく、そこに木の上から何者かが斬りかかってきた。
ユリナは其れを即座に斬り倒す!
毎日剣を振り続けたユリナの努力が実っているのを実感する。
その敵の剣は凄まじく重く早かった、受けなくてもそれが解ったが、斬りかかって来たのは死者であった。
「ユリナ殿!退いてくだされ……」
聞き覚えのある声だった……
そう言い死者はすぐに姿を消してしまう。
(私の事を知ってる……
まさかサイサス?)
ユリナはそう思いながら直ぐに走り出す。
(カイナ……
貴方が集めた聖者達はどうするの?
天に送るんじゃなかったの?
カイナ……)
ユリナはカイナの聖者の亡霊と楽しく過ごしていた姿を思い出していた。
その頃、ピリア達の戦場では異変が起きていた。
「背後より敵!数は二千!」
「西より新手が接近!数は五百!」
周辺の敵が集まり出していたのだ。
ピリアは防戦しているがこのままでは被害が出てしまう。
だがユリナが何も考えずに進む訳が無いと信じていた、正面は落ち着きつつあるがネクロマンサー相手の場合、いつ死者が蘇り襲って来るか解らない、その為に前衛を後ろに回す事は出来ない。
「弓隊、後方構え!連続速射用意!」
ピリアが後方に指示をだして、弓兵が素早く従う。
ピリアは相手を引きつけてから叫ぶ!
「放て!」
その瞬間凄まじい勢いで弓兵が矢を放つ!
五分と経たないうちに、後方の敵五百は倒れそのうち二百は確実に命を落とした。
ピリアはエレナの記憶から弓兵の戦い方をすぐに引き出して指示をだす。
「第三列!西の敵に斉射せよ!」
素早く弓兵の第三列が西の敵の距離を把握して矢を放つ!
そして敵兵五十名は倒れる。
「前衛隊の矢筒を弓兵に渡し持ち場を維持せよ!」
前衛隊が弓兵隊に矢筒を渡し、弓兵は連続速射と斉射を繰り返す。
セレス弓兵師団の意地を見せるかの様に、敵を寄せ付けないが、ピリアは少し周りを見て叫んだ!
「全弓隊!西へ斉射せよ!」
その指示に戸惑う弓兵もいたが直ぐに従った。
西の敵のは急に三倍以上の矢が降り注ぎ、一気に崩れた!
だが後方の敵はまだ千近く残り攻め寄せて来る。
角笛が鳴り響く!
サラン王国の物では無い、高く響く音、聞き覚えの無い音にエルフ達は音のなる方を見た時、紺色の下地に金の六芒星……
ユニオンレグヌスダークエルフの旗がはためき、後方の敵に突っ込んで行った。
フェルトが自らの手勢五百を引き連れて来たのだ!
ピリアは昨晩の松明の一団がフェルト達だった事をやっと解った。
彼らは、ユリナ達の五個師団より先にサランに侵入し敵の位置を把握して、夜襲をかけていたのだ。
ネクロマンサーのアンデットも、ダークエルフからすれば赤子も同然、何故ならば彼らは夜間戦闘を好むからだ、フェルト達は種族の力を思う存分発揮していた。
フェルトが馬を走らせ、ピリア達に近づき叫んで伝えてくれた。
「まだ敵が来る!西から千!北から二千だ!捌けるか⁈」
「矢が足りません‼︎
分けて貰えますか?」
「あるぜ!矢筒千程ならな‼︎」
「十分です!第三列抜刀‼︎後方の敵に斬り込み彼らと共に速やかに殲滅せよ!」
ピリアの声と共にエルフ弓兵隊が斬り込むと同時に、後方の敵は崩れ退いていった。
フェルトはピリアの隊に合流して、矢筒を一人一人の兵が渡していった。
彼らは一人で矢筒を二つ背負っていたが、あまり使われていなかった。
ピリアは素早く防御に適した様に兵を配置した……そして自分が影の女王でありドッペルだと言う事を誇りに思っていた。
今はエレナの魂と繋がった時の記憶を頼りにして布陣している、ピリアにしか出来ない芸当だ。
いやフィリアにも出来た事だと、ふと思い悲しくなってしまったが、自分の頬を叩き意志を強く持ち直した。
今はユリナからここにいる兵達の命を預けられた、出来るだけ被害を小さくして、誰一人死なせない死なせたく無い!
フィリアの死がピリアを更に強く成長させていた。
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