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〜第九章 メモリア・白き風〜
156話❅明かされた秘密❅
しおりを挟むその頃、森から巨大な何かがアイファスに向かって居るのをまだ誰も気付いて居なかった……
アイファスの街は守られたが、街の長は戦いが始まって直ぐに兵を連れ、戦いに出て命を落としたらしく、変わり果てた姿となっていた。
「パリィさん
森から出てここに住んでくれないか?
パリィさんなら長になっても
誰も文句は言わねえよ」
一人のアイファスの兵が言う。
パリィは嬉しかったが千年前のことを知ってる人がいる、バイトも千年前に居たかも知れない、マルティア国に……。
エルフの女性はどうだ……。
あの森で起きたこと簡単に許してくれる筈がない、パリィは様々な事を考えた。
アイファスの街も三分の一程が燃えてしまっている、既に雪が降り始め厳しい冬がもうすぐ始まる。
どうすればいいパリィが悩んでいた。
ズシンズシン……ズズ……
遠くから大きな足音と何かを引きずる音が聞こえて来た。
そしてパリィは何かを感じ振り向いた、あの黄泉で出会った老婆が居た。
老婆は大きな声で言った。
「何を悩むっ!
マルティアの女王よ‼︎」
その言葉に周りの人々が響めき騒ついた。
「マルティアの女王……
確か死んだはずじゃ……」
一人のアイファスの兵が言う。
老婆はニタリと口で笑い、戸惑うパリィをよそに街の人々に話す。
「いかにも
この者は千年前の其方達の主人
マルティアの女王じゃ
一度命を落としたが其方達を想い
生まれ変わったのだ
女王としての果たせなかった役目を
果たす為に」
そう言い次にパリィに向かい教える様に言った。
「パリィ・メモリアよ其方の民だ……」
老婆はそう言いパリィの遠い背後を見た。
「あれは……」
街の人々も老婆の視線を見て驚き始めた。
パリィも振り向きそれを見て驚く。
木々が近づいて来る、街の大通りを歩き大きな足音を立てて。
「パリィさーん!」
テミアとテリアがその木に登って叫んでいる。
ピルトお爺さんとお婆さんだった、それ以外にも二十は居ようか、トレント達が続いて来る。
「パリィよ
アイファスが燃えてる臭いが風に乗って来てのぉ
森の倒れてしまっている木々を持って来てやったぞ」
ピルトのお爺様が言い周りを見渡し。
「良かったですねぇ
無事に守れた見たいですねぇ」
ピルトのお婆様が言う。
「ピルトのお爺様お婆様どうしてこんな……」
「お前さんのことだ
この街の為にわしらに頼みに来ることが目に見えていたわい
だから頼まれる前に来てやったのさ」
「ありがとう……
ありがとうピルトのお爺様お婆様……」
街の人々が驚いている、森の番人と言われるトレントが街まで来たのだ、そしてパリィと親しく話している。
パリィは街の人々に言った。
「今の話の通り私は千年前に一度
女として死んでしまいました
愛する人を罪から守る為に……
ですから私は……
この冬を越したらマルティアの地
極北地域に旅立ちます。
それは私が知らないといけない事が沢山あの地にあるから……
私は、私は……」
パリィが言葉に詰まってしまった、多くを思い出し、溢れる悲しみと罪の重さに苦しく声が出なくなってしまい、顔を手で覆い涙を流している。
それを見て魔法道具屋のバイトが、そっと小さな鏡をパリィの前の地面に置いた。
すると鏡が一瞬輝いた。
(お前なら出来るさ……
だから言えばいいさ
パリィがしたい事をやりたい事を……)
キリングの声がパリィの心に響いた……
パリィは瞳を見開き気持ちを持ち直し涙を流しながらも言った。
「今の私には長になる
女王になる資格なんてありません……
アイファスの街の人々が……
マルティアの生き残りと言う事を知って
森から飛び出して来ましたけど
千年前のこと……
どう詫びていいのかも解りません……」
「詫びる必要なんて無いさ……」
バイトが言って来た。
「パリィは……
女王様は忘却の水を飲まなかったのだろう?
つまり
三百年死の渇きに耐えて来たのだろ……」
「忘却の水……?」
テミアが何か知っている様に呟いた。
バイトが話し出す。
「あぁ、皆んな良く聞いてくれ
誰でも死ぬとな
黄泉の国に入ると酷く喉が渇くんだ
そこで婆さんが瓶に水を一杯にしているのを見つけるんだが
その水で喉を潤せば渇きはおさまるが……
生きていた時の記憶を全て失うんだ……
永遠にな……
だが飲まなければ
渇きは増し声が出せなくなる……
しまいには息をするだけで喉が割れちまうらしい、その先どうなるかは解らんがな……
あっさり死んで
忘却の水を飲んで
パァー!っと忘れちまった方が余程楽だぜ……
その苦しみを三百年も
耐えて来たんだ……
パリィは十分
罰を受けている筈だ……
お前ら其れに誰か耐えられるか?」
バイトはエルフの魔導師で魔術や秘術に長けている為に、黄泉の事もある程度だか知識がある。
実際にパリィもそれを経験した。
黄泉で百年過ぎたあたりで喉が割れ血が溢れ、呻き声すら出せなくなり、暫くして血が固まり動くだけで渇き切った喉を更に剥がし、気が狂いそうな苦しみを味わっていたのだ。
パリィは思い出し、顔が青ざめていた……
その様子を街の人々が見て顔を横に振った……
「そこまでして
何も忘れずに生まれ変わって来てくれたんだ……
俺は冬を越したら着いていくぜ
どうせここに居ても
セントクルスに悩まされるだけだ」
バイトがそう言ってくれた。
「それなら
冬支度もそうだが旅の支度もしないとな」
「あぁ……
セントリアの奴らまた冬を越したら来るかも知れないからな……
パリィさん、俺は千年前に何があったかは知らねぇが今度は繰り返さないでくれよ!」
「み……みんな……」
今度は繰り返さないでくれよ!
パリィはその言葉がとても重く感じたが、機会を与えて貰えた気がした、パリィは沢山の涙を流し今まで流したことが無い程に……嬉しくて嬉しくて涙を流した。
テミアとテリアがパリィの両脇に来て小声で言った。
「女王様らしく
みんなに言わないと」
パリィは涙を拭き、瞳を瞑った……
そして魂を呼び起こし、瞳を見開いた……
意志の強いその瞳は遠い未来を見つめている様に、そして世界を見通す様に、美しい水色の瞳をしていた。
「わたくし
白き風の女王パリィ・メモリアは
雪解けを待ち再びマルティアを再建する為に、極北地域に向かいます。
今は亡きマルティア国の地に向かい旅立ちます。
その旅は……
かの地に行くだけの旅では無いのです。
かつてのマルティア国の様に
世界の国々とは違い
力のある者が弱きを守る国
誰かの為に手を差し伸べる国
世界で最も寒い極北にありながら
世界で最も温かい国……
それを再建する旅です……」
パリィの声は優しく美しく、多くの想いを込め、かつて千年前にあった、極北から北方地域に至るまでの雪国最大の国……マルティア国を語り、自らの意思をも伝えた。
(白き風の女王……懐かしいですね……
今度は世界の隅々まで
その風が吹くよう願っています)
バイトは優しく嬉しそうに微笑みながら聞いていた。
そしてパリィは覚悟を決める。
過去の自分の死後の悲劇を全て受け止め、そしてそれを繰り返さないと、その想いを強く込めて、全てのアイファスの街の人々に聞こえるように言った。
「我が民よ……
我と共に冬を越し
マルティアを共に作ろう
時代の冬さえも共に越えよう
春を待つのではなく
春を呼ぶ風となり
この時を
荒んだこの時代に‼︎
春を呼ぼう!
我が
白き風の民よ!
この時に
この時代の冬を越し
春を呼ぶ支度をしなさい‼︎」
「オォォ!」
街の人々が声を上げ、トレント達も喜びの声を上げる。
それは新しい女王の誕生を告げる。
産声の様であった……
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