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〜第十二章 メモリア・時の女神
210話❅ユリナの失敗❅
しおりを挟む翌日パリィは予定を変更し、全員でカイナクルスに向かった。
小屋からカイナクルスまでは数日かかる、なるべく急ぐがカイナクルスの秘密を知ったのでカイナも連れて行く事にした、そうなるとパイスも連れて行かなければならない、だいぶ考えたが、それが一番だと思いみんなで行く事にした。
「お姉ちゃん
カイナクルスってどんなとこなの?」
パイスが聞いた。
「うーん?
小さいけど静かでいい所よ」
パリィが笑顔で答える、雪車を走らせ順調に進んでいく、アイファスの街でその日は泊まる事にした。
今は誰もいない静かな無人の街だ、一年前まで活気があり何度も村と村の争いを生き残った村だが、パリィがマルティアの民と知り村人全てを率いてセクトリアに移動した。
セクトリアは今、僅か一年で小さな村と合流し人口が増える兆しが見えて来ている、だが変わり果てたアイファスの街を見て、パリィは果たしてそれで良かったのか僅かに考えて居た。
パリィはアイファスの護衛団の拠点、護衛官の前の広場で焚き火をしていた、まだ寒く焚き火の火が暖めてくれる、パリィが少し悩んでいるのにユリナは気付いていた。
「パリィどうしたの?」
ユリナが聞いた。
「ううんお母さん
アイファスの街を元どおりに
出来ないかな?って思ったの
街の人々を全て戻す訳にはいかないけど
戻れるなら戻りたいって
思ってる人も居ると思うの
だから少しづつでも街を戻したいなって……」
パリィは静かにそう言った。
「パリィ様
南から来る難民の方々を
アイファスで受け入れては?」
メーテリアがパリィにそう助言した。
「もちろんよ
その支度を急いでするのに
カイナクルスに向かうの
アイファスからカイナクルスまで後四日
メーテリア急ぎたいから
みんなをお願い私先に行くね」
パリィがそう言うとカイナが静かに言う。
「パリィ様行く必要ないよ
手紙を書いてくれないか?
私が行くよ
守護天使の私なら数秒で行けるから
私がパリィ様の言葉を伝えて来るよ」
カイナが言う。
「え?」
パリィは既に出発前に、水の鳥でセクトリアには考えた事を伝えていた。
バイドからの返事はまだ無い、いや返事を送れる訳がない、バイドの魔法はその人が何処に居るのか大体解らなければ送れない、パリィがユリナから教わった水の鳥は相手が何処に居るか解らなくても送れる。
だがカイナクルスに控えているガイザスにパリィは想いを載せることが出来なくて、水の鳥を送れなかったのだ。
「頼めるの?」
パリィが聞いた。
「うん大丈夫だよ
帰ってくるのは数秒じゃ無理だけど
行くのはできるから」
パリィは直ぐに魔法で手紙を書き羊皮紙に其れを写して、カイナに渡した。
「パリィ様はここでお待ち下さい
五日後に必ず連れて参ります
あと……
私が戻るまでパイスをお願いします」
パイスはメーテリアに膝枕されてスヤスヤと眠っている、カイナはその寝顔を見て姉の様な笑顔を見せ、黒い翼を広げ飛び立つと光の線の様にスッと一瞬で飛んで行った。
その夜みんなが寝静まったあと、アイファスの外れで闇の女神オプスが夜空を眺めていた。
「オプスよ……
少し人が悪くないか?」
ムエルテがそう言いやって来た、オプスは以前の様に瞳を閉じたまま、神の瞳で星空を眺めていたが、ムエルテに向き静かに瞳を開いてムエルテを見て微笑む。
「忘れましたか?
十万年も私を捕らえていた事は
許してませんって
私は言いましたよね?」
オプスは優しく微笑みながらそう言った。
「にしてもな……」
ムエルテは少し困りながら微笑んだ。
「あれから一万年経ったが
ずっと暗黒におったのか?」
ムエルテが聞いた。
「えぇ
ユリナさんと時の旅について
行けるのは私だけですから……」
オプスが静かに言った。
「そうかも知れんな……
まぁ妾はこの世界を
離れる訳にはいかんからな」
ムエルテが静かに言う。
オプスは相変わらず神の役目に前向きなムエルテを見てほっとしていた、でも時には神の役目を忘れて楽しむのも必要だと知っていたので、何かないかなぁ~と考えていた。
過去の世界でオプスは地上で一度だけ、はめを外して楽しんで宴に参加した、地上世界に居て一番と言える程に笑い楽しんだのを鮮明に覚えていた。
二人は静かに並んで座り星を眺めていた、その姿をユリナは静かに見ていたが、そっと歩み寄り声をかけた。
「再会してゆっくりしてる所ゴメンネ
ムエルテ様?
マルティアの守護神に
なってるようですけど
守護神って何処を守護出来るの?」
「なんじゃユリナよ
守護神はその国の全土にあたる
そのままじゃそんな事も知らぬのか?
だいたいユリナも
妾にオプスの事を黙っておって
守護神の事を聞くなんて
何を考えてるのじゃ?」
ムエルテはユリナに何かを言いたい様だ。
「今度は何を考えてるのですか⁈」
オプスもユリナが何を考えてるのか不安になって問いただす様に聞く。
「ムエルテ様?
疫病をベルス領内に広めた時に
オディウムが襲って来たんだよね?」
ユリナが聞いた。
「そうじゃが……まさか!」
ムエルテが気付いた。
「多分
オディウムはベルス国の
守護神になったんじゃないかな?
だからオディウムが疫病を振り撒いた
ムエルテ様を襲った
もしそうなら……
神として災いを齎せば
守護神として来るんじゃないかな?」
ユリナが危ないことを言う。
「どんな災いを?」
オプスが聞いた。
「大地の女神テララにお願いして
大きな地震起こして貰うとか?」
ユリナが言う。
「ダメじゃ」
ムエルテが即拒否する。
「ユリナさん
ちゃんと考えて下さい
自然災害は関係無い人まで
巻き込んじゃうんですよ!
ベルスは大陸最南端の国
海からは大津波まで来ちゃいます
ただでさえ苦しんでる人に
死ね言ってるのと同じですよ!」
オプスがユリナに強く説明すると。
「だが一理あるのぉ
何方にせよあやつを
おびき出す方が一番よい……」
ムエルテが何かを考える。
「ムエルテ?」
オプスがムエルテを見る。
「もう一度よく考えてみるかの」
ムエルテは何かを考えようとした、条件はオプスが言った様に、関係ない人々を巻き込まない災いである、既に疫病を振り撒いたので似た様な形で更なる災いを考えようとした。
「うん
ムエルテ様お願いしますね」
そう言いユリナはパリィの近くに帰って行った、振り向き歩いて行くユリナの背中を見てオプスは気付いた。
(ユリナさんまさか……)
オプスはムエルテが真剣に考えてる姿を見て確信する。
(ムエルテって
ユリナさんに上手く使われてるのですね
でもそれって本当にオディウムが
守護神になってるのかも
まだ解らないですよね?)
オプスはユリナが暗黒を時々手放していた事を何故かと今まで思う時があった。その訳が解った、ムエルテとのやり取りはオプスにも気を使わせてしまう時がある、他にもとやかく言われたりと、色々あるがオプスに配慮していたのだ。
(さーてと私も何処かの街の
守護神になってみようかな
でもそれってピンチな時に
直ぐ来ないといけないよね
時の旅に出てたらそれは出来ないからな
それなら……)
ユリナはそう思いながらパリィの近くに戻って行った。
それから五日経ち、カイナが約束通りカイナクルスからガイザスの率いる部隊の一部を連れて来てくれた。
それからアイファスの整備が行われる、人員が足りない分昼夜問わず交代で行われる、元々アイファスはそれなりの街であった、その為に整備をしアイファスを中心に再開発をすれば、相当数の難民を受け入れることが出来るはずである、そして更にそこはマルティア国の最南部の街になり、領地にもなる。
だが食料が圧倒的に足りない、沢山の難民の食料が全くたりないのだ、セクトリアから送ってもらう要請をしたが、あまり送り過ぎる訳にはいかない、マルティア国としての力も蓄えないといけない。
そこはパリィもだいぶ悩んでいた。
だが二日後に意外な所から物資が届いた。
「パリィ様!
西より小規模でありますが
輸送部隊と思われる
一団が向かって来ます‼︎」
見張りの兵が急いで知らせて来た。
「どこの隊ですか?」
パリィは冷静に聞く。
「そ……それが……
セントリアの旗を掲げています‼︎」
その見張りの兵は以前、セントリアとアイファスが争った事がある過去を知っていたので戸惑っていた。
セントリアの街はこの一年で周辺の村を併合して、パリィのマルティア国から見れば大した事ないが、だいぶ大きくなっていた。その上に勢いがある、あと数年放置すればパリィのマルティア国と揉め事が起きてもおかしく無い街であった。
パリィから見ても以前、森からアイファスに移り住むきっかけになる戦を仕掛けて来た街で、その為に色々と考え指示をだした。
「警戒態勢をお願いします
此方からは決して手を出さないで下さい
今は絶対に
戦を避けなければなりません
お願いしますね」
パリィは指示をだす。
「パリィ
セントリアは絶対に
攻撃して来ないと思うよ」
ユリナが言う。
「え?お母さんなんで?」
パリィが聞いた。
「いいから
見に行きましょう」
パリィはユリナにそう言われ、アイファスの西の入り口に向かう、ユリナの落ち着きと微笑みを見て不思議に思っていた。
南方地域と北方地域は交易程度でしか繋がりを持たない、その為に北方地域の多くの街や村は南方地域で惨劇が起こっても素知らぬ顔をしているのだ、それが民族的な風習や習慣の様になり北方地域にある種の安定をもたらして来た。
パリィはマルティア国を建国した時に南方地域の惨劇を止める為に、ベルス国に対して宣戦布告の様な宣言をだした。
それはこの大陸で千年ぶりと言える、北方地域の国から南方地域の国への宣言であった。
そう踏まえると南方からの難民の為に、準備をしているマルティアに支援する事は考えにくいのである、それが輸送部隊のみと言う知らせが更にパリィを悩ませた。
パリィ達が西の入り口につき様子を伺うと、セントリアの者が数名、白旗とセントリアの旗を掲げて急いで馬を走らせて来た。
「マルティア国の者達よ!
指揮官にお会いしたい!
我はセントリア領主の言葉を
伝えに来た!
お目通り願う!」
その者はパリィの目の前でそれを叫んだ、パリィが普通の声で言っても聞こえる距離でだ。
「あの……私ですが?」
パリィは使者が間抜けに見えそう言った。
「‼︎……白い髪に空色の瞳……
まさか……」
使者はかなり驚いたようで落馬し慌てて礼を取る。まさか女王本人が居るとは微塵にも思っていなかった。
パリィも使者の慌てように思わずクスクスと笑ってしまう程であった。
「マルティア国女王
パリィ・メモリア様!
お初にお目にかかり光栄であります!
私はセントリア輸送隊長
ゼリグと申します
此度はセントリア領主
ゼーラント様より
お言葉を預かって参りました!」
ゼリグが礼を取りパリィに言った。
「初めまして
私はマルティア国の女王パリィです
ゼーラント卿は
なんと言われているのですか?」
パリィが丁寧に言った。
「はい!我らセントリアは
マルティア国と
友好関係を望んでおります
その証として
此方の品々をお送り致しますので
どうかお納め下さい」
パリィはその言葉に疑問を持った、通常外交では高価な品を送るのであるが、その様子は無い、明らかに贈呈品と言うより物資である。
「その品々はなんですか?」
パリィが聞いた。
「我らセントリアの備蓄食料です」
ゼリグが礼をとったまま伝える。
「食料?」
パリィが聞いた。
「はい
詳しくは此方を」
ゼリグは親書をパリィに手渡した、パリィはそれを見て驚く、それはセントリアの街が二年間食べ物に困らない量であった。
そして何故送るのかも書かれていた、テンプスを名乗る女神が現れ、マルティアに協力する様に伝えたらしいのだ。
そして協力すればマルティアの女王は必ずセントリアを悪く扱う事はないと書かれていた。通常そんな事まで書くものではないが、あえて書いている様にパリィは思えた。
「少しお待ち下さいね」
パリィはそう笑顔で言い、その場を離れるユリナもついて行く。
そして少し離れてパリィは言う。
「ムエルテ様いらっしゃいます?」
「ここにおるが
どうしたのじゃ?」
ムエルテはスッと現れた。
「これを……」
パリィがその親書をムエルテに見せる。
「こっこれは……
テンプス様が動かれたのかの?」
ムエルテはユリナをチラ見する。
「で、何か不都合でも?」
ムエルテが聞いた。
「ムエルテ様
セントリアを悪く扱う事は無いと
こちらに書かれてますが
そうなると今後の付き合いが……
難しくなります
確かに今は協力してくれるのは
嬉しくて有り難いのですが
国との関係に関わる事です
私は最初から
悪く扱う気はありませんでした
ですがこう書かれては
何処までの事を指して言ってるのか
解りません!」
パリィが怒りながら言う。
「そうだのぉ……
して妾にどうしろと?」
ムエルテはユリナを白い目で見ながらパリィに聞く。
ユリナはパリィの後ろで、ムエルテに向かって手を合わせてゴメンとしている。
「ムエルテ様はテンプス様と
お知り合いでしたよね?
テンプス様に私が困っていたと
お伝え下さい!
お願いしますっ!」
「多分……妾が言わなくても
そなたの言葉はもう届いておるぞ
テンプスは絶対神でな
結構身近にいる時もあるのじゃ
なんなら今叫んでハッキリ言っても良いぞ……」
ムエルテはユリナに、色々と言いたそうに言うと心で言った。
(オプス、後でユリナを連れて参れ)
(はい
言われなくても)
オプスが右手を拳にして言った。
「それではセントリアの者に聞こえて
失礼になってしまいます……」
パリィが小声で言う。
「解った妾からテンプス様に
ハッキリとキッパリ
言っておく故パリィよ
とりあえず受け取っておくが良かろう
何かあれば妾が見る
気にするでない」
ムエルテはパリィの後ろにいるユリナを、冷たい目で見ながら言った。
「ムエルテ様がそう言われるならば……
何か楽しそうですね?」
パリィが聞いた。
「いや
気にするでない」
ムエルテは自然に言った。
パリィは不思議そうにその場を後にするが、少し気落ちしてるユリナを見かけた。
「どうしたのお母さん?」
「ううん
大丈夫よ気にしないで……」
ユリナは明らかに凹んでいる。
その晩皆が寝静まったあと、ユリナはオプスに連れて行かれムエルテとオプスに朝まで、怒られたのは言うまでも無い……。
天界ではその様子をエレナが見ていて、ため息をつきながら頭を抱えていた。
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