アーティファクト

〜神歌〜

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✯第一章 西の国〜前編〜✯

2話✯キャンキャン!✯

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 二人は教会に逃げて行く街の人々を擦り抜けながら走り抜けて行く、街は混乱し始めている。
 この疫病が広がり各都市は対応に追われ守備兵まで倒れて行く、その影響で治安が悪化して罪を重ねる者も増えていた、それに乗じて山賊や盗賊が街を襲いはじめているのだ。
 セリアとセリエはその状況を今、目の当たりにしていた。

「病人を見捨ててみんな逃げている……これじゃ動けない人はみんな死んじゃう……」
「お姉ちゃんどうする?」
「セリアは急いで盗賊の背後に回って追い払って、手荒な事もしていいから!」
「うん、解った!」

 セリアは高く飛び上がり炎の翼をはためかせ高速で飛んで行った、セリエはそのまま加速して、盗賊の正面から斬り込んでいく。
 セリアの剣は疾風の様に早く敵を斬り倒していくが、急所を外して命は奪わずに戦っている、そして盗賊達はセリエに集中しはじめ、囲む様に襲いかかって行く。

 「誰だあれは?銀の髪の女……まさか『白銀はくぎん』か⁈」
守備隊が気付き始める。
「うちの街は『白金しろがね』を雇って無い筈だが……」
「いや、白金しろがねは喧嘩っ早いって噂で聞いたぞ、盗賊が短気で有名な『金色こんじき』に襲い掛かったんじゃないか?」
(セリア……あんたって……)
守備隊の話が聞こえて来てセリエは汗をかき剣を振りながら叫ぶ。
「私が引き受けるから!手の空いた人は病人も避難させて!シャルルさんが治癒の星を教会に届けてるはずだから!急いで!」

 「それは本当か!二手に分かれよ!一隊は白銀はくぎんと共に盗賊を抑えよ!
もう一隊は病人や逃げ遅れた者を助けよ!」
「オウッ!」

 守備隊が機能して動き出したのを見てセリエは戦いに集中し始めた時に、正確な狙いで凄まじい速さの槍がセリエの心臓目掛けて飛んで来た。
 避けれるのは簡単だが避ければ後ろの守備隊が確実に命を落とす。
 セリエは即座に避けるのと同時にその槍を横から叩き斬った。
磨き抜かれた剣技と洞察力、そして速さも兼ね揃えたセリエの技量に歓声があがる。

「やるなぁ、貴様が白銀はくぎんか?白金しろがねがこの街に居るなんて聞いてなかったがな……」
「お頭!背後からとんでもない魔道士が意味不明な叫びを上げて襲って来てます!」

「ガオォー‼︎」
セリアがファイアブレスを怪獣ごっこしてる様に口から吐きながら、盗賊達に襲い掛かっていた。

(まぁ……いいか……)
セリエがまた汗をかいていた、その時凄まじい速さで、槍で襲い掛かって来た。
(コイツ速い!)
セリエは難なく躱すが直ぐに連続で突きを入れてくる、セリエはその突きに合わせて動いて距離を詰めようとした時に、盗賊の槍使いは何かを囁いた。

 そして大地から根が飛び出して、セリエの足を絡みとった。
「これで終わりだ」
盗賊の槍使いがそう重い声で言いながら、突きさそうとした時にセリエは微笑んだ。

 セリエが走り出す、絡みとられた足は木の根をすり抜けたのだ。
そして虚を突かれた槍使いの腹部をすれ違いざまに斬り裂いた。

 誰もが信じられない光景を目にした。
まるで幽霊の様にセリエは一瞬実体が無かった。
「お、お頭が……に、にげろー!」
盗賊達が逃げ出そうとしたが……
「ガオォーガオォー!」
状況を知らないセリアがやって来た。
「逃さないよーガオォー‼︎」
ファイアブレスに乗じてファイアウォールを使い、炎の壁を作り出す。
「セリア!その位にしてあげて!」
「ガ……はーい……まだやる⁈」
セリアが返事をした時に襲おうとした盗賊を威嚇する。

 セリエは盗賊達を睨みながら優しく言い始める。
「貴方達の頭領は私が討ち取りました……
とは言え貴方達を逃す訳にはいきません。
武器を捨てて投降し、領主に慈悲を乞うなら私達は命を取りません……」

そして盗賊に殺されてしまった村人を見つめて力一杯に叫ぶ様に言った。


「抵抗するなら!貴方達の命を奪い!
彼らの無念を晴らします!
少しでも生き延びたい者は武器を捨てなさい‼︎」


 盗賊達は力無く武器を手放し始める、そしてひざまづき抵抗しない意志を見せた。

「オォーーー‼︎」
守備隊から歓声があがり、セリアとセリエは少し照れ臭くなった。街に雇われ魔物相手に何度か街を救って来たが、人同士の争いの為に雇われた事が無かった。
 それは人を殺さなければならない、そうなると解っていたからだ。
 セリアも今回、火傷を負わせたり、歩けなくする様に槍を振ったりして命は奪ってない。
 セリア達が戦いに参加してからは、セリエだけが一人の命を奪った……
「やっぱり嫌だ……この感覚……」
セリエが呟く、人を一人斬り殺した。
 その肉を斬り骨まで斬り裂いたその感触に嫌悪感を抱いていた。
「お姉ちゃん……」
「大切にしなさいその感覚を……」
「?」
シャルルが駆けつけて来た、そしてセリエとセリアに伝える。

「守る為に奪った命、その命の分まで守りなさい……
そして気付きなさい、あなたが助けた命は街の人々だけでは無いと言う事を、貴方の行いは罪を重ねて来た者達の命も……
いっときかも知れませんが、救ったのです。

 でもその為に奪った命の重みを忘れないで下さい……
貴方達はとても強い力を持っていますから、それを忘れてしまったら……

魔女の呪いが降りかかるかも知れません。
貴方達が貴方達のままで居たければ、忘れないで下さい」

「はい!」
セリアが返事をしセリエは頷いた、二人とも真剣な眼差しであった。

(本当にこの子達って優しいね。
きっと大丈夫……
この子達は魔女に魅入られてもきっと……
必ず魔女に立ち向かってくれる)
シャルルはこの騒ぎで、必要最小限の死者で治めた二人を感心し、期待しながら微笑んでいた。


 その日は村の人々が三人を無料で宿に泊めてくれた。
 シャルルもマエストロとして有名であるが、セリア達も『白金しろがね』と言う名も知れ渡っていたので、沢山のお礼も用意されたがそれは三人揃って一度受け取り、そして全てを街の人々の為に使ってもらう様に神父にそのまま渡した。
 其れでは悪いと慌てて神父が街を挙げて宴を開いてくれた。


 翌日、シャルルのアーティファクトを使い神父が疫病の治療に街を回って行く、シャルル達は街の反対側に周りながら、守備隊の診療所に向かった。
 診療所の外まで怪我人と疫病になった兵が溢れていた。
 シャルルは疫病の守備隊に治療魔法を施し、セリアが回復魔法で怪我人を見て回る、セリエも軽症の怪我人を見て回る。
 何故守備隊の診療所を優先したかと言えば、セリエの提案である。
守備隊がちゃんと機能しなければ、簡単に盗賊に狙われてしまう、街の安全を考えてのことだった。
 治療を終えても体力はまだ回復し切れてないので1日程よく休むように伝えて、街をそっと後にした。

 「なんでそっと街を出たのですか?」
「挨拶したら気を使わしちゃうでしょ?
二人は街を救った英雄なんだから、守備隊には伝えたから大丈夫よ」
セリアの問いにシャルルは簡単に説明する。
「あと、国に話が広まると面倒な事になるからさっさと帰るんですよね?」
セリエが補足して説明する。

「そう、私には作るアーティファクトがあるから早く帰るの」
「今度は何作るんですかぁ?」
「その前に、二人に簡単なアーティファクトを作ってもらおうかなぁ~?」
「えっ!本当ですか‼︎せんせぇ!」
「セリアちゃん抱きつかないで!」

「シャルルさん、セリアが懐きましたねなかなか離れないですよ」
「あなたは犬なの?」
困りながらシャルルは冷静に聞く。
「キャンキャン!」
シャルルは懐から、糸玉を取り出して遠くに投げた。
 結界やアーティファクトの応急処置に使うのに持ち歩いているのだ。
「キャンキャンキャンキャン!」
セリアが追いかけて行く、セリエが遠い目でセリアより先その遠くを見つめる。
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