社畜スキルでアイドルに?~死んだ社畜おじ、サバイバルオーディションを生き残る~

無限大

文字の大きさ
18 / 35

18 ポップコーン

しおりを挟む
 Popcornの練習室。みんなに声をかけてみたものの、いつまでたっても練習は始まらなかった。
 部屋の隅では銀髪のラッパーKAGURAが壁を蹴り続け、耽美系ナルシストのシオンは、床に伏している。カオスだ。
 そんな中で、異質な光景があった。

「……角度、13度ズレました」

 部屋の中央で、一人の男が黙々と踊っている。
 氷室蓮司。黒髪に銀縁眼鏡、冷徹な美貌を持つ彼は、課題曲の可愛いダンスを、AIのような正確さで繰り返していた。汗ひとつかかず、表情筋ひとつ動かさない。その姿は、あまりに完璧で――そして、見ているだけで息が詰まるほど冷たかった。
 フロアの反対側へ目を向けると、最年少のソラがめそめそと泣いている。その隣で、JOがソラに声をかけていた。

「ほら、泣かないの。放出もまた諸行無常。ここが新たな極楽浄土かもしれんぞ? 南無三」

 ――なんじゃそりゃ。
 JOはお洒落な短髪にピアスがバチバチの男だ。実家が寺だそうで、独特な法衣っぽい私服を着ている。得意分野はラップ。オリジナルの読経ラップがウケて、ここまで残ってきた。言っていることはよくわからんが、彼の周りには、なんとなくありがたい空気が漂っている気がする。
 俺はパンッ! と手を叩き、全員の注目を集めた。

「注目! これより緊急会議を始める!」

 俺はホワイトボードの前に立ち、現状を分析した。

「単刀直入に言う。今の俺たちが普通にPopcornをやっても、絶対に勝てない」

 全員が同意するように頷く。その横で、強面ラッパーのKAGURAはひとり舌打ちしていた。
 このKAGURAの様子を見てもわかる通り、俺たちは可愛さとは無縁だ。無理をして愛想を振りまいても、痛々しいだけ。

「だから、コンセプトを変える。可愛さは捨てろ」

 俺はボードに大きく文字を書いた。

『× 可愛いアイドル  →  ○ 等身大の応援団』

「俺たちがやるべきは、これだ!」
「……応援団?」

 ロボットみたいに良い姿勢をした氷室蓮司が、眼鏡の位置を直しながら、怪訝な声を上げる。

「そう。俺たちはキュートじゃない。でも、そんな俺たちには、崖っぷちから這い上がるドラマがある。だからこそ、同じように日常に疲れ、苦しんでいる人たちを、死に物狂いで励まそう」

 俺は熱弁を振るう。

「コンセプトを大胆に変えるんだ! 勝機はそこにある。元気いっぱいのキュートさは、見方を変えればチアリーダーだろ」

 全員の顔つきが少し変わる。可愛いは無理でも、応援なら――という空気が流れ始めた。
 だが、蓮司だけは納得していない様子で、「理解できません」と首を横に振った。

「つまり、どういうことですか? 具体的に指示してください。キュートと応援団の違いを、最適なBPMと振付の角度で提示してください。私たちはこの短時間で、完璧なステージを作り上げなければなりません。観客のメンタル数値を向上させるため、具体的にどうするのか数値で表してください。精神論だけでは非効率です」

 出た。完璧主義のサイボーグ。
 彼が前のチームを追い出された理由がわかった気がする。正論なのかもしれないが、可愛げがないのだ。
 俺が返答に窮していると、チャラ僧侶のJOがゆらりと立ち上がった。

「固いねぇ、蓮ちゃん。数値、数値。そんなの、因果のことわりが見えてないよ」

 JOは蓮司の前に立つと、ニカっと笑った。人懐っこいが、どこか底知れない、僧侶の顔をしている。

「いいかい? 蓮ちゃんのダンスは、数式としては完璧だ。100点満点。でもね、人の心は数字じゃ動かない。振動で動くんだよ」
「振動?」
「そう。完璧な鐘も、叩かなければ音は鳴らない。君は、鐘としては最高級だ。でも、叩く棒がない。ステージにおいて叩く棒は、パッションと呼ぶ」

 JOは蓮司の胸をトン、と指差した。

「君が求めている効率について教えよう。人間はね、共鳴した時に最もエネルギー効率が良くなる。君が100の力で踊っても、相手と共鳴しなければ伝わるのは0だ。でも、君が泥臭く感情を曝け出して、相手の周波数と合えば、そのエネルギーは無限大に増幅する」

 蓮司の目がわずかに見開かれる。

「君がすべきは、完璧なフォームを維持することじゃない。君自身の必死さという石を投じて、観客という水面を揺らすことだ。それが最大の効率化だよ」

 論理的でありながら、核心を突いた説法。蓮司は数秒間沈黙し、それから眼鏡を押し上げた。

「共鳴係数の最大化、ですか。なるほど。論理的です」

 堅物の蓮司が落ちた。
 JO。チャラチャラした異質な僧侶キャラはギャグか何かかと思ったが、案外優秀で恐ろしい男だ。
 俺はほっと胸を撫で下ろした。これでチームは動き出す――そう思った、矢先。

 ガシャアンッ!

 耳をつんざくような破壊音が、練習室の空気を凍りつかせた。パイプ椅子が蹴り飛ばされ、無惨に床を転がっている。

「……くだらねぇ」

 低い、地を這うような声。犯人は銀髪のラッパー、KAGURAだ。
 彼は凶暴な三白眼で俺たちを睨みつけている。

「共鳴だ? 応援だ? お遊戯会やってんじゃねえぞ」
「KAGURAくん」
「俺は誰かに媚びるためでも、誰かを励ますためでもなく、テメェの牙を研ぐためにここにいるんだよ。求められたものを最大限に発揮できるように練習するべきだろ」

 KAGURAは舌打ちすると、肩で風を切って部屋を出て行ってしまった。
 バタンッ! と扉の閉まる音が、銃声のように響く。
 再び、重苦しい沈黙が降りた。JOが「やれやれ」と肩をすくめ、蓮司が無表情に戻る。
 そして、部屋の隅から、冷ややかな声が飛んできた。

「ま、当然の反応だな」

 声の主は、最年長のジンだ。
 練習生歴10年のベテラン。彼も、冷めた目で俺を見た。

「俺たちには時間がない。コンセプトを変えて、ただがむしゃらに練習する。それだけで、レベルの高いステージができるか? ここまで勝ち残った俺たちに求められるのは、たしかな技術。努力を見せるなんて、子供だましだよ」

 ジンの視線が、最年少のソラに向く。これまで、実力が伴っていないと評価されてきたソラは、「ごめんなさい」と呟いて身を縮めた。
 バラバラだ。
 ポップコーンの種は、弾けるどころか、冷たい油の中で互いにぶつかり合っている。
 俺は、強面ラッパーのKAGURAが出て行った扉を見据えた。この掃き溜めを最強のチームにするためには、みんなにぶつかっていくしかない。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

知識スキルで異世界らいふ

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
他の異世界の神様のやらかしで死んだ俺は、その神様の紹介で別の異世界に転生する事になった。地球の神様からもらった知識スキルを駆使して、異世界ライフ

無能烙印押された貧乏準男爵家三男は、『握手スキル』で成り上がる!~外れスキル?握手スキルこそ、最強のスキルなんです!

飼猫タマ
ファンタジー
貧乏準男爵家の三男トト・カスタネット(妾の子)は、13歳の誕生日に貴族では有り得ない『握手』スキルという、握手すると人の名前が解るだけの、全く使えないスキルを女神様から授かる。 貴族は、攻撃的なスキルを授かるものという頭が固い厳格な父親からは、それ以来、実の息子とは扱われず、自分の本当の母親ではない本妻からは、嫌がらせの井戸掘りばかりさせられる毎日。 だが、しかし、『握手』スキルには、有り得ない秘密があったのだ。 なんと、ただ、人と握手するだけで、付随スキルが無限にゲットできちゃう。 その付随スキルにより、今までトト・カスタネットの事を、無能と見下してた奴らを無意識下にザマーしまくる痛快物語。

転生先の異世界で温泉ブームを巻き起こせ!

カエデネコ
ファンタジー
日本のとある旅館の跡継ぎ娘として育てられた前世を活かして転生先でも作りたい最高の温泉地! 恋に仕事に事件に忙しい! カクヨムの方でも「カエデネコ」でメイン活動してます。カクヨムの方が更新が早いです。よろしければそちらもお願いしますm(_ _)m

【改訂版】槍使いのドラゴンテイマー ~邪竜をテイムしたのでついでに魔王も倒しておこうと思う~

こげ丸
ファンタジー
『偶然テイムしたドラゴンは神をも凌駕する邪竜だった』 公開サイト累計1000万pv突破の人気作が改訂版として全編リニューアル! 書籍化作業なみにすべての文章を見直したうえで大幅加筆。 旧版をお読み頂いた方もぜひ改訂版をお楽しみください! ===あらすじ=== 異世界にて前世の記憶を取り戻した主人公は、今まで誰も手にしたことのない【ギフト:竜を従えし者】を授かった。 しかしドラゴンをテイムし従えるのは簡単ではなく、たゆまぬ鍛錬を続けていたにもかかわらず、その命を失いかける。 だが……九死に一生を得たそのすぐあと、偶然が重なり、念願のドラゴンテイマーに! 神をも凌駕する力を持つ最強で最凶のドラゴンに、 双子の猫耳獣人や常識を知らないハイエルフの美幼女。 トラブルメーカーの美少女受付嬢までもが加わって、主人公の波乱万丈の物語が始まる! ※以前公開していた旧版とは一部設定や物語の展開などが異なっておりますので改訂版の続きは更新をお待ち下さい ※改訂版の公開方法、ファンタジーカップのエントリーについては運営様に確認し、問題ないであろう方法で公開しております ※小説家になろう様とカクヨム様でも公開しております

異世界人生を楽しみたい そのためにも赤ん坊から努力する

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕の名前は朝霧 雷斗(アサギリ ライト) 前世の記憶を持ったまま僕は別の世界に転生した 生まれてからすぐに両親の持っていた本を読み魔法があることを学ぶ 魔力は筋力と同じ、訓練をすれば上達する ということで努力していくことにしました

精霊さんと一緒にスローライフ ~異世界でも現代知識とチートな精霊さんがいれば安心です~

ファンタジー
かわいい精霊さんと送る、スローライフ。 異世界に送り込まれたおっさんは、精霊さんと手を取り、スローライフをおくる。 夢は優しい国づくり。 『くに、つくりますか?』 『あめのぬぼこ、ぐるぐる』 『みぎまわりか、ひだりまわりか。それがもんだいなの』 いや、それはもう過ぎてますから。

気づいたら美少女ゲーの悪役令息に転生していたのでサブヒロインを救うのに人生を賭けることにした

高坂ナツキ
ファンタジー
衝撃を受けた途端、俺は美少女ゲームの中ボス悪役令息に転生していた!? これは、自分が制作にかかわっていた美少女ゲームの中ボス悪役令息に転生した主人公が、報われないサブヒロインを救うために人生を賭ける話。 日常あり、恋愛あり、ダンジョンあり、戦闘あり、料理ありの何でもありの話となっています。

伯爵家の三男に転生しました。風属性と回復属性で成り上がります

竹桜
ファンタジー
 武田健人は、消防士として、風力発電所の事故に駆けつけ、救助活動をしている途中に、上から瓦礫が降ってきて、それに踏み潰されてしまった。次に、目が覚めると真っ白な空間にいた。そして、神と名乗る男が出てきて、ほとんど説明がないまま異世界転生をしてしまう。  転生してから、ステータスを見てみると、風属性と回復属性だけ適性が10もあった。この世界では、5が最大と言われていた。俺の異世界転生は、どうなってしまうんだ。  

処理中です...