セラフィムの羽

瀬楽英津子

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〜呪いの烙印

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 屈辱的なまでに開かされた脚が、空気を蹴るようにびくんびくんと痙攣する。
 三人がかりでの凌辱は、体位や順番を変えながら、なおもしつこく繰り返されていた。
 一人が、ベッドの背板にもたれながら亜也人あやとを自分の膝の上に後ろ向きに抱き上げて男根を挿入し、一人がMの字形に開かれた脚の間に顔を埋めてペニスを咥え込んで頭を上下に動かす。もう一人は横から亜也人の胸元に手を這わせ乳首にむしゃぶりついていた。
 興奮剤が効いているのだろう。それにしても、短時間の間に何度も射精しながら、それでもまだ我先にと亜也人を求める男たちの貪欲さには驚きを通り越して寒気すら覚える。
 それを受けている亜也人も亜也人だった。
 入れ替わり立ち替わり肉棒を差し込まれ男たちの形に広げられた後孔は、ズチュズチュと卑猥な音を立てながら中に吐き出された精液を逆流させ、何度も咥えさせられた口は、飲み込めなかった精液を顎の下に滴らせながら言葉にならない喘ぎ声を上げている。
 繰り返し訪れる絶頂に、敏感になった身体があちこちで小さく痙攣し、熱を帯びた皮膚が薄っすらとピンク色に染まる。
 眉毛を切なく歪めてもつれるように喘ぐ亜也人の潤んだ目元に汗で濡れた前髪がいく筋もの黒い束となって降りかかるさまは、思わず息を飲むほどの艶っぽさを漂わせていた。
 こんな姿を目の当たりにして興奮するなというほうがどうかしている。現に男たちは、亜也人の官能的な反応にどんどん興奮を高めているようだった。

「あっ……亜也人さんッ……イイっ……」

「俺も……もう、死んでもいいくらいイイッ……あ、亜也人さんっ……」

 亜也人をめちゃめちゃに犯すという当初の目的は何処かへ消え去り、今はただ亜也人に翻弄される色狂いの男にしか見えない。
 こんなに汚しているのに一向に汚れない。
 むしろ淫靡な魅力で男を惑わす。
 汚されながらもなお美しい姿に、亜也人をめちゃくちゃにしてやりたいという欲望が再び駿しゅんの中で火を噴いた。

「いつまでもヌルいことやってんじゃないよ。そろそろションベン出る奴いないの?」

 一心不乱に亜也人の身体を貪る男たちを睨み付け、戒めるように駿は言った。
 真っ先に反応したのは亜也人だった。
 駿の言葉を聞くなり、亜也人がぴくりと眉間を歪ませ、駿に視線を向ける。
 男たちは、駿の声など聞こえていないかのように依然として亜也人の身体にむしゃぶりついていたが、駿がもう一度言うと、亜也人の乳首を舐め回していた男が声に気付いてそろりと顔を上げた。

「なに? お前、出んの?」

 男はおずおずと駿を振り返った。

「そうじゃなくて……。さすがにそこまでは……」

「は? さんざんいたぶっといてションベンは飲ませられないって? なに甘っちょろいこと言ってんの!」

 男に続いて、亜也人の股間に顔を埋めていた男がペニスから口を離して丸めた背中を起こした。

「俺もそこまでは……てか、亜也人さんにそんなことしていいのかよ……」

「コイツだからするんじゃん? コイツが嫌々しながら飲むとこ想像してみろよ。それだけであと三回はイケるぜ」

 駿の言葉に、二人の男がお互いの顔を見ながら視線で内心を探り合う。
 挿入している男は、今更止められないとばかりラストスパートを掛け、亜也人の中にどっぷりと欲望を放つと、遅れを取り戻すように話に加わった。

「確かに興奮すっけど、亜也人さんにするのはちょっとビビるな……」

「中出ししたばっかでどの口が言うよ! ケツや口ん中にザーメンぶち込むのは平気でションベンはダメってか? お前らの善し悪しの基準は一体何なんだよ!」

 もういい、と力任せに床を蹴り、駿は、腰掛けていたツインベッドの片割れから立ち上がると、亜也人のいるベッドに近付いた。

「お前らがやらないなら俺がやるッ!」

 亜也人の腕を掴んでベッドから引き摺り下ろし、床に座り込んだところを、ベッドの側面に押し付け、膝を跨いで追い詰めるような形で立ちはだかった。
 髪を掴んで頭を上げさせると、亜也人の顔が股間の真正面にくる。
 恐怖に引き攣る亜也人の黒い瞳を見ながら、駿は、片手でズボンのファスナーを開け、下着の合わせ目から自分のペニスを引っ張り出した。

「こぼしたら承知しないからな!」

 ひぃぃぃっ、と、亜也人が引き攣った悲鳴を上げて大きな目をまん丸に見開く。
 その目を睨み付け、駿は、ペニスの先端を唇の合わせ目に押し当て、強引に開かせ奥へと突っ込んだ。

「んんんんっ、んーッ!」

 半分まで入れたところで、亜也人の後頭部に両手を回して動かないよう固定し、腰を突き出す。

 外から汚れないのなら、内側から汚してやる。

 心の中で繰り返し、駿は軽く目を閉じた。
 
 
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
 
 

 容赦なく流れ込む温かい液体が、勢いよく口の中に溜まって唇の端から溢れ出る。
 息を止めずにはいられないほどの苦しさに、身体が拒絶反応を起こして喉を塞ぐ。ゴボッ、と腹部がうねったが最後、唇の先から飛沫が飛び散り、ゴホゴホと激しくむせ返った。
『許して下さい』と訴えるものの、返ってくるのは、叱責するような目と高圧的な笑い。
 不快感と嫌悪感に吐き気が込み上げる。
 誇りも人間性すらも踏み躙られ、身体の内側からじわじわ汚されて行くような感覚。
 しかし上手くこなせば、手のひらを返したような優しさと報酬が待っている。
 飴と鞭、ではない。
 これは交換条件だ。

 この世は“交換”で成り立っていると駿は思っていた。
 お金で物を買うように、労働して報酬を得るように、お金、体力、頭脳、人脈、性的魅力、甘い言葉、それぞれが、必要に応じて必要なモノを差し出し、それと引き換えに自分の欲しいモノを手に入れる。
 愛情も同じ。
 愛情を手に入れるためには、交換する何かが必要になる。
 見返りの無い愛など存在しない。
 愛はいつも条件付きだ。
 容姿や性格、雰囲気、身体の相性など、誰もが相手に求める条件を掲げ、それを基準に値踏みや妥協を繰り返す。
 満たす者は選ばれ、満たさない者は除けられる。
 選ばれるためには自分が相手の条件を満たすしかない。
 だから、何の努力も無しに無条件で選ばれる人間を見ると無性に腹が立つ。
 
 好きでこんな顔に生まれたわけでは無い。
 運命は変えられるが宿命は変えられない。
 駿の宿命は、見た目も性格も冴えない母親と男のくせに臆病で引っ込み思案な父親の体質を色濃く受け継いで産まれてきたことだ。
 周りは、『大人しい』だの、『控えめ』だのと表現したが、駿は、これといって特徴の無い、母親譲りの、のっぺりとした自分の顔が好きでは無かった。
 ようするに地味なのだ。
 印象が薄く、一度見たぐらいではなかなか覚えられない。
 事実、学校の外でクラスメイトに出くわしても誰一人として駿に気付く者はいなかった。どこにいても誰といてもその他大勢の中の一人。
 子供の社会は残酷で、見た目や立ち振る舞いで一瞬にして優劣をつける。自分が世界の中心であるかのように振る舞うクラスメイトを遠巻きに眺めながら、駿は、幼心にも、自分が主役になれる種類の人間ではないことをひしひしと感じ取っていた。それは駿が記憶している初めての挫折だった。
 中学に上がり、自分が同性しか好きになれない人間であることを自覚すると、その気持ちは仄暗い劣等感に変わった。
 これで主役への道は完全に閉ざされた。自分はこの先、その他大勢の中に埋もれながら、顔も見えない少数派としてひっそりと生きていくのだ。
 それでも高校へ上がると、周りが恋愛に色めき立つのと同じように、一つ上の先輩に恋をした。
 もちろん相手は男。恋心は駿の胸の中だけの秘めごとであったが、男子校という環境もあってか、駿の気持ちはたちまち本人の知るところとなり、ある日の放課後、ついに先輩本人から呼び出された。
 駿はそこで、先輩から両想いであることを告白され天にも昇る気持ちになった。
 しかし幸せに浸ったのも束の間、そのまま床の上に押し倒され、駿は半ばレイプのように強引に身体を奪われた。
 先輩は泣き叫ぶ駿の口を押さえながら一方的に腰を振って精液を吐き出すと、泣き声も絶え絶えに打ちひしがれる駿に、『相手をしてやっただけありがたく思え』と吐き捨てた。その言葉は、劣等感を抱える駿に更なる追い討ちを掛けた。
 結局先輩とはそれきり二度と関係を持つことは無かった。
 初恋から一転、地獄へ突き落とされた駿は、やりばのない怒りを自分自身にぶつけるように、見ず知らずの男に抱かれるようになった。
 それは自虐的な自傷行為にすぎなかったが、抱かれた後、男たちから見返りに金を受け取ると、こんな自分に金を払う人間もいるのかと驚く一方で、自分がそれだけの価値を得たような、自分を認めて貰えたような奇妙な高揚感を覚えた。
 駿は、自分の中の劣等感を埋めるように、男たちに抱かれ金を受け取った。駿が要求に応えれば応えるほど、男たちは駿を可愛がり、金を弾んだ。
 駿は、男たちから受け取った金を空の菓子箱に入れて引き出しの中に入れ、それが増えていくのを眺めて楽しんだ。
 箱の中に札束が増えて行くと、自分の価値もどんどん上がって行くような気がした。
 勉強そっちのけで出会い系のサイトで男を漁った甲斐もあり、高校を卒業する頃には、箱の中には結構な額の金が溜まっていた。
 駿はその金で、目を大きくして涙袋を作り、鼻筋を高くした。
 手術は思っていたよりずっと簡単に終わり、こんなことならもっと早くこうしていれば良かったと思うほど呆気なく駿の人生を変えた。
 両親は、駿が生まれ持った顔を変えたことに心を痛めていたようだったが、駿本人は、見栄えが良くなったことで男たちからの誘いも増え、それまでの、相手に値踏みされていた状況から一転、誰からもチヤホヤされるようになり、すっかり上機嫌になっていた。
 満足こそすれ、後悔も、両親に申し訳ないことをしたとも思っていなかった。
 自分はただ、自分の身体を提供することで得た対価で自分の望むものを手に入れただけだ。
 しかし、他人に褒められる快楽を覚えた能は、すぐにまた新たな快楽を求めた。
 今なら主役になれるかも知れない。
 幼い頃に諦めた願望が、駿の胸の奥底からズルリと引き出された。
 その他大勢の中から選ばれるのではなく、選ぶ側の人間に、今の自分ならなれるかも知れない。
 思いに突き動かされるように、駿は、身体を張って稼いだ金で家を出た。
 過去に引きずられないよう、自分のことを知らない土地で再出発しようと決め、たまたま駅で見かけたツアー広告の行き先だった神戸に向かった。
 出会い系サイトで相手を探して泊まる場所を調達し、相手が見付からない時は、満喫やサウナで寝泊まりした。
 コールボーイとして働き始めたのは、駿が宿無してあることを心配した客のサラリーマンに、店に入れば寮に住めるはずだ、と言われたからだった。
 宿無しであることは気にしていなかったが、大きな荷物を抱えての移動は面倒臭く、駿は、翌日には店の面接を受け、その日のうちにゲイ専用のデートクラブで働き始めた。
 それが、内藤が経営する石破組のフロント企業、N企画がオープンさせたばかりの店だった。
 駿に入店を勧めたサラリーマンが、実は、当時、ゲイ専用の出会い掲示板で話題になっていた駿に目を付けた内藤が送り込んだスカウトマンであったことを、駿は入店した後で知った。
 内藤は、駿の華奢な骨格と薄い腰回り、うなじから背中にかけてのラインと、綺麗に浮き出た肩甲骨が魅力的だと褒め、『お前ならすぐにナンバーワンになれる』と言った。 
 “ナンバーワン”という言葉に駿は胸を弾ませた。
 しかしプロの世界は甘く無い。ネットで客を漁っていた頃と違い、やって来る客は色んなコールボーイを相手にして目が肥えており、ただ他と比べて見てくれてが良いだけの駿は、たちまち周りの個性に埋もれてしまった。
 再び日陰に転じた駿の焦りがいかほどであったかは言うまでもない。
 駿は、ナンバーワンになるために、ありとあらゆる性技で男を喜ばせた。
 生ハメ、中出しはもちろん、拘束プレイから幼児プレイまで、指名を取るためなら、店の利用規則を無視して応えられるギリギリまで客の要求に応えた。
 必要とあらば小便も飲んだ。
 もっとも最初は、それまでに感じたことの無い恐怖や怒り、まるで自分が、取り返しのつかない傷を負わされてしまったかのような、一生消えない呪いの烙印を押されてしまったかのようなショックに身体の震えが止まらなかったが、何度もされているうちに、これもまた交換条件の一つなのだと割り切れるようになった。
 男たちは、嫌がる駿に無理やりペニスを咥えさせると、大量に流し込まれる液体を口の中に溜め込みながら苦悶する様子を嬉々とした表情で眺め、涙目で見上げる駿に、『こぼさず飲み込め』と命令した。
 駿は、自分が果てしなく汚されて行くような気がした。
 失敗してむせ返れば飛び散った飛沫で外側から身体を汚され、観念して飲み込めば内側から身体を汚される。
 その見返りに、駿は、入店早々ナンバーワンの座を獲得し、辺り一帯のウリ専界隈にその名を知らしめた。
 欲しいものを手に入れために望むものを差し出す。
 自ら望んだ事とは言え、駿は、自分の身体が汚されていくこの屈辱的なプレイだけはどうしても好きになれなかった。
 男たちが恍惚とした表情で己の欲望を流し込むたび、自分の身体の中に腐敗の種を植え付けられ、自分が内側から腐っていくような気がしていた。
 そういう思いをしてようやく勝ち取った地位なのだ。
 我慢して努力して手に入れた。
 だからこそ、もう二度と脅かされたくはなかった。
 とくに、何の努力もなしに、のうのうとその地位にいる人間にだけは。

「ほら、もっとちゃんと咥えろ……」

 かつて、自分の口にペニスを突っ込みながら蔑むように見下ろした男たちと同じように、駿は、眉間に深いシワを刻みながら張り詰めたように目を見開く亜也人を冷たく見下ろした。

「あぅっ……んっん……」

「動くんじゃないよ!」
 
 或いはあの日、仕事仲間から亜也人のプロフィール画像を見せられなければこんな気持ちにはならなかったのかも知れないと駿は思う。
 亜也人がどんな男か知らなければ、たとえ良二りょうじがまだ亜也人に想いを寄せていようと、自分が亜也人の身代わりにされていようと、『いつか振り向かせてやる』という意地で乗り切れたのかも知れない。
 しかし、亜也人の圧倒的な美しさを見せ付けられてしまった今、駿に、そんな精神的余裕がある筈も無かった。
 亜也人を見ていると、自分が昔の自分に引き戻されて行くような気がする。
 自分がこれまで多くの犠牲を払って手に入れた主役の座や自分自身への自信、自分の存在価値のようなものが、ぐらぐらと揺さぶられて振り落とされて行くような気がする。
 亜也人の存在が、自分をどうしようもなく惨めな気持ちにさせる。
 亜也人は、自分を脅かす死神だ。
 駿は、もう、“その他大勢”にも、“選ばれる側”にも戻りたくはなかった。
 
 だから始末する。

 内藤は、亜也人の美しい顔を傷付けるだけでいいと言ったが、それでは駿の気が済まなかった。
 亜也人の顔を傷付け、身体を汚し、心を踏み躙り、身体の中にどこまでも染み広がる腐敗の種を植え付け、いっそ死んでしまいたいと思うほど亜也人を追い詰め、良二の前から葬り去ってしまいたかった。
 亜也人がこの世に存在する限り、自分の平穏は訪れないような気がした。
 
「こぼさず飲めよ……」
 
 震える唇をグイと開くと、涙を含んだ亜也人の瞳から一粒のしずくが目尻を流れた。

「理不尽だと思うか? でも、もう、どうにも止めようが無いんだ……」

 亜也人は、恐怖の貼り付いた目を目一杯開いて嫌々と首を振った。

「本当にやるのか……?」

 両側の頬を手のひらで挟んで頭が動かないよう固定すると、固唾を飲んで見守っていた男の一人が駿に声を掛けた。

「こんなことして、マジで、大丈夫なのか……? こんなことがボスに知れたら……」

「今更なに言ってんの。今日のことは俺と内藤組長しか知らない秘密事項だって言っただろ? お前らがチクらない限り、絶対に良二にはバレないよ……」

 男の瞳に動揺が走る。
 困惑ではない、沸き上がった興奮に対する戸惑いから来る動揺だ。
 男の分かり易すぎる反応に、駿は、ククッと喉の奥を鳴らした。
 あさましい根性に笑いが込み上げる。
 人間なんてこんなものだ。
 理性だなんだと言ったところで、自分に害が及ばないと解った途端、手のひらを返したように本性を曝け出す。
 あれほど躊躇っていたくせに、駿の言葉を聞いた途端、エサを前にお預けを喰らった犬のように物欲しげな顔をする男を鼻で笑いながら、駿は、再び亜也人に視線を戻した。
 亜也人は眉を顰めた泣きべそ顔で必死に訴えていたが、駿が頬を挟んだ手に力を込めるとついに観念したようにギュッと目を閉じた。
 しかし同時に部屋の扉をドンドンと叩く音が響き、すぐに目を開けた。

「ようやく来たかと思ったらこのタイミングかよ……」

 チッ、と舌を鳴らし、駿は亜也人の口からペニスを引き抜いた。
 もともと小便に行きたかったわけではない。出来ることなら、煮え切らない男たちに代わって亜也人に絶望を味わわせてやりたかったが、残念ながらすぐに叶う状態ではなかった。
 しかし、たった今、それよりももっと亜也人を絶望させるものがやって来た。
 駿はむしろ、待ち兼ねた来客に胸を躍らせた。

「ちょっと外に出てくるから、みんなでコイツもっと泣かせてやって」

 床にへたり込んだ亜也人を男たちが再びベッドに引っ張り上げる様子を横目に、駿は、亜也人の口から引き抜いたペニスを下着の中にしまい、ズボンを整えながら、わざとゆっくり入り口の方へ足を進めた。
 亜也人は、男たちに腕を取られ、脚を開かされ、色々な角度から身体を弄られて、抗う気力を無くしてしまったかのような弱々しい悲鳴を上げている。
 か細く震えるような声が、喉を引き裂くような悲痛な叫びに変わるのか、声の無いむせび泣きに変わるのか、絶望を前にした亜也人の反応を想像しながら、駿は、身体の中心を熱く疼かせた。



☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 押し入ろうと体当たりしたところをドアガードに阻まれ、松岡は、グッと苛立ちを噛み締めた。
 十センチほど開いた隙間からマスク姿の男が見える。
 パッチリとした黒目がちな目、すっきりと整えられた眉。鼻から下はマスクで隠れて見えないが、眉間から伸びる細くて高い鼻筋から、男がなかなかの美青年であることは想像がつく。
 松岡相手に物怖じしない態度は見上げたものだが、積川の手下にしてはやけに線の細い、武闘派で知られるスティンガーのイメージとはおよそかけ離れた華奢な男だった。
 松岡が「お前は誰だ」と睨みを効かせると、男は、松岡を真っ直ぐに見つめ返し、涙袋を押し上げながらニヤリと笑った。

「あれ? アイツと間違えると思ったのにおかしいな……」

「アイツ、って誰だ」

「寺田亜也人だよ。俺、こうしてるとアイツにそっくりだって言われるんだけど……」

「全然、似てない」
 
「即答かよ。俺の目は誤魔化せない、ってか?」

「誤魔化すもなにも、お前は亜也人には似てない。全くの別人だ」

「ははっ。アイツの方が断然美人だって言いたいのか。そりゃまたずいぶんとお熱いことで……」

「ふざけてないでさっさとここを開けろ! 亜也人は中にいるんだろう!」

 ガツン、とドアを叩いて威嚇すると、男はようやく真顔に戻った。

「開けるよ。……でもその前に……」

 言いながら、ドアの隙間から、何かを摘むような形にした指先を差し出す。
 小さなカプセルだ。
 男は、親指と人差し指の間に挟んだカプセルをこれみよがしに左右に振ると、松岡に手のひらを差し出すよう言いつけ、その上にポトリと落とした。

「これは?」

「さあ。なんか色々調合してあるみたい。一回ぐらい飲んだところで命には別状無いみたいだよ?」

 カプセルの次はミネラルウォーターの入ったペットボトルが差し出される。
 飲めということか。
 思いながら男を見ると、男は“正解”と言わんばかりに頷いた。

「俺に見えるように口の中に入れて、飲み込んだら中を見せて。ちゃんと飲んだら、十分後ぐらいに入れてあげるよ。あんた、ずいぶんと強いみたいだから、こうしとかないとこっちが危ないからね……」

 男の話ぶりからすると、中身は痺れ薬か睡眠薬、あるいはダウナー系のドラッグあたりだろう。いずれにしても、内藤が用意したのは間違いない。
 松岡は条件通りカプセルを飲んだ。
 駿に口の中を見せて暫くすると、胃の中からムカムカとした吐き気が起こり、次に喉を絞められるような息苦しさに襲われた。
 同時に、全身の血が抜けて行くような脱力感に襲われ、目の前の景色が歪み出す。男が「十分経ったら」と言った言葉通り、ドアが開く頃には、松岡の足は真っ直ぐに歩けないほどもつれ、壁伝いに進むのがやっとになっていた。
 何とか踏ん張って部屋の中に入り、亜也人を見付けて一歩踏み出そうとしたところでその場に崩れ落ちた。

「亜也人……」

 亜也人は、ツインルームの奥のベッドで、男たちにそれぞれ身体を好きなように弄ばれ、呻くような喘ぎ声を上げていた。
 男の上に仰向け寝そべるように抱き上げられた状態で後ろから男根を突っ込まれ、前に屈んだ男にペニスをしゃぶられたり陰嚢を揉まれたりしながら、別の男のモノを咥えさせられている。
 快楽よりも苦痛を感じていることは、亜也人の美しい顔に刻まれた幾つものシワと、悪夢にうなされるような喘ぎ声にはっきりと現れている。身動き出来ないよう、腕ごと胴を抱かれてなす術もなく突き上げられている亜也人の姿は、蜘蛛の巣にかかった蝶のように儚く脆く見えた。

「駿! 誰だよそいつ」

 床に崩れ落ちる松岡を見て、亜也人に肉棒を咥えさせていた男が慌てた声を上げた。
 駿は顔半分を覆っていたマスクを外しながら、「スペシャルゲスト」と答えた。

「この人に、そいつの淫乱なとこたっぷり見てせやんの。悪いけど、そいつ、こっちに向かせてくんない?」

 松岡は咄嗟に顔を上げた。

「……めろ……」

 声を搾り出して傍に立つ駿の足元に手を伸ばす。
 痺れた指先を開いてズボンの裾を掴むと、駿がギクリと肩を竦めて松岡を見下ろした。

「やめろ……今すぐ……やめさせろ……」

 駿は一瞬こそ狼狽えたものの、一度振り払っただけで松岡があっさり手を離すと、ホッとしたような、心配して損をしたというような顔をして、フンッ、と鼻息を吐いた。

「びっくりした。動けなくなるって聞いてたのに動けるんだ……」

「早く……やめさせろ。……でなきゃ……」

「でなきゃ何? 俺に仕返ししよう、って? 勘違いしてるみたいだから言っとくけど、これはあんたの為でもあんの。あんたアイツに騙されてんだよ」

 駿は言うと、顎をひょいと上げて男たちに目配せした。
 同時に、亜也人の後ろを犯している男が、挿入したまま上体を起こして亜也人を膝の上に乗せ、松岡の真正面を向くよう体勢を変えた。
 松岡に気付いた亜也人が「嫌っ」と叫んで顔を背ける。
 ほんの一瞬のことだったが、松岡は、亜也人の白い頬に走る赤い筋を見逃しはしなかった。

「……お前がやったのか……」

 駿は何も答えなかった。
 ベッドの上の男は、二人に構わず、亜也人の脚を左右に大きく開き、松岡に見せ付けるように下から激しく突き上げた。

「見なよ。アイツは今まで散々男たちに犯(ヤ)られてよがり狂ってたの。なのにまだあんなに腰振って乱れまくってる。ただの淫乱野郎なんだよ、あんたの恋人は……」

「やめろ……」

 亜也人が傷付けられ、恥ずかしめられている。亜也人の悲痛な叫びが胸の中になだれ込んでくるようで、松岡は堪らず目を閉じた。
 駿は、苦悶する松岡を見て満足そうに笑った。

「ちなみにクスリはやってない。まんまシラフであの状態だよ。自分の恋人があんな淫乱じゃ、あんたもそりゃあショックだよね……」

 亜也人は、背後の男に胸を揉み回されながら、汗や精液でベトベトになった顔を泣き出しそうに歪めて屈辱に耐えている。
 その気丈さが仇となった。
 駿の言葉が合図のように、男たちが再び亜也人の身体にまとわりつき、亜也人の身体をまさぐり始める。
 乳首、ペニス、陰嚢、唇、内腿、脚の裏、亜也人の白い肌の上をいくつもの手と舌が這い回り、敏感な部分を同時に責め立てる。
 その手の一つが、ベッドの端に転がったチューブを手に取った。

「嫌だッ! それは嫌ッ!」

 男がチューブの中身を指先に取り出すと、黙って耐えていた亜也人が突然金切り声を上げた。

「それはやめて! 頼むからぁッ!」

 亜也人の抵抗も虚しく、男が指先を結合部に近付けると、後孔を犯していた男が亜也人の太ももを持ち上げて男根をズルリと引き出し、代わりに、指先を近づけた男が、チューブの中身のたっぷり乗った指を後孔に塗り込んだ。

「やあぁぁっ!」

 途端に亜也人が首をイヤイヤと振りながら狂ったような声を上げる。
 亜也人のただならぬ様子に松岡は愕然とした。

「亜也人に……なにを……」

 駿は、狼狽える松岡を、勝ち誇ったような顔で見下ろした。

「ああ、あれ? 女がよがりまくる秘薬。熱くて痒くて堪らなくなるの。俺も何度か使われたけど、あれはホント地獄だよ……」

 口では言いながら、優しさの全くこもっていない目は、自分と同じ地獄を味わわせてやるとばかりに鈍く光っている。
 松岡の予感は的中し、駿は、男たちに亜也人の両手を押さえ付けるよう命令した。

「ああっ! やだっ! おっ、お願いッ! 掻きたいッ! 掻かせ……あッ!」

 猛烈な痒みに襲われながら、後ろを突いてもらうことも叶わず、自分の指で掻くことも叶わず、亜也人はただ腰をくねくねと動かしながら必死に助けを求めている。
 どんな痛みにも耐えれる猛者でさえ、激しい痒みに耐えるのは並大抵のことではない。
 全身の毛が総毛立つような痒みに、亜也人は、頬の傷を真っ赤に染め、ふぅふぅと荒い息を吐きながら、腰を前後左右に振って耐えている。
 
 一方、駿は、想像通りの亜也人の反応に、満足気に口元を綻ばせた。

「しょうがない。可哀想だから手を離してやれ」

 駿の言いつけ通り男たちが手を離すと、亜也人が待ち切れないとばかり両手をお尻に伸ばし、両方の人差し指を後孔の中に乱暴に突っ込んだ。

「あっ、ああっ、あっ」

 自ら腰を浮かせて後孔を弄る亜也人に、駿は侮蔑混じりの笑みを浮かべた。
 
「見てよ、あの、あさましさ。恋人の目の前だってのに、よくもまぁあんな醜態晒せたもんだよね。もっとも本性を表すのはこっからだと思うけど……」

 駿は言うと、取り憑かれたように後孔を弄る亜也人の方へ一歩足を踏み出した。

「指なんかじゃ足りないだろ? 楽になりたきゃ、そいつらに、『入れて下さい』ってお願いしろよ……」

 亜也人は首を横に振った。

「は? 入れて欲しいんだろ? 正直に言えよ!」

 それでも亜也人は首を振る。
 同時に、駿が、チッ、と舌打ちする音が松岡の耳に響いた。

「入れてもらわなきゃ収まらないくせに! こいつの前でおねだりするのは嫌、ってか? 馬ッ鹿じゃねぇ? お前がそのつもりなら、チューブごと中に絞り出してやる! それでいいんだな!」

 瞬間、松岡の手が反射的に駿の足首を掴んでいた。

「やめろ……」

 亜也人がどれほど辛い状況にあるかは、眉間に刻まれた苦悶の表情と堅く閉じた目の端から無数に伸びるひび割れのようなシワを見れば一目瞭然だった。
 それでも頑なに首を横に振る亜也人が痛ましく、松岡は、亜也人を更に追い詰める駿を足首を掴んで止め、額に汗を浮かべながら必死に耐える亜也人を見上げた。

「亜也人……もういい、我慢するな。入れてくれ、ってお願いするんだ……」

 亜也人は瞬時に目を見開いた。

「いっ、嫌ッ! 言わないッ!」

 信じられないものでも見るような目で松岡を見る亜也人の視線を真っ直ぐに受け止め、松岡はもう一度言った。

「いいから、そこにいる男にお願いするんだ。そしたら楽になれる。俺は大丈夫だ。俺は、こんなことでお前を嫌いになったりしない……」

 信じられないものでも見るように松岡を見たのは亜也人一人では無かった。
 松岡が言うが早いか、駿が、猜疑心を貼り付かせた目を松岡に向ける。
 男たちから離れろと言うならまだしも、自分以外の男に、入れてもらえ、と言う松岡の神経が理解出来ない。
 恋人のあられもない姿を目の前にして、『嫌いになったりしない』と言う感覚からして既に駿の常識を遥かに超えていた。

「馬鹿じゃねぇの? こんなとこ見たら、普通、ムカつくだろ? あんたには男のプライドってもんが無いのかよ。それともコイツにそこまで腑抜けにされちまったのか?」

 説明したところで、こんな卑劣な真似をする駿にこの気持ちは解らない。
 松岡は駿の問い掛けを無言でやり過ごした。
 駿は、フンッ、と鼻息を荒げ、「だったらお望み通りにしてやるよ」と、男たちに、「犯(ヤ)れ」と命令した。

「あっ、いやあぁぁァッ!」

 亜也人が懇願するまでもなく、男の一人が、亜也人をうつ伏せにして尻だけを上げさせ、腰を掴んで、後ろから激しく突き入れた。

「あああぁぁ、いあぁぁっ、ああっ、はぁっ、あっ」

 男の容赦ない勢いに、亜也人の薄い身体が背中を波立たせながら前後に揺れる。
 顔を突っ伏しているのは精一杯の抵抗だろう。乱れる表情を見られまいと、亜也人は、ベッドに顔面を擦り付け、耳の横で拳が震えるほど強くシーツを握り締めている。
 激しく身悶える状況にありながら、松岡の前で醜態を晒すまいと必死に耐えている亜也人の姿に、松岡の中の怒りや悔しさや憎しみといった感情が、痛みや熱となって身体中を駆け巡った。

「許さない……」

 破裂しそうな感情を抑えながら、松岡は、ギッと奥歯を噛み締めた。
 駿は、お尻だけを高く上げさせられた卑猥なポーズで犯される亜也人と、その様子を身動きもせずに睨み付ける松岡を交互に見ながら、愉しそうに頬を吊り上げた。

「相当頭に来てる、って顔だね。カッコいいこと言ってたわりには結構堪えてるんじゃん」

「違う……」

 松岡は、駿の足を掴んだまま凄んだ。

「俺が頭に来てるのは、お前らと、俺自身にだ……。お前らのやってることは犯罪だ。亜也人はその被害者だ……」
 
 は? と、駿のイラついた目が松岡を見下ろした。
 
「あんた、何言ってんの?」

「亜也人は何も悪くない。悪いのはお前らで、亜也人は被害者だ。被害者の亜也人をどうして俺が責める。責められるべきなのは、亜也人をこんな目に遭わせたお前らと、それを止めれなかったこの俺だ……」

「なにを綺麗ごとを……。こんな誰にでもよがる淫乱野郎庇ってどうなんの!」

「あれが、よがってるように見えるのか? 可哀想に、お前、誰かに愛されてセックスしたことがないんだな……」

「なんだと! お前なんかに何が……」
 
 しかし、駿の言葉はそこで途切れた。
 松岡が、狙っていたかのように拳を振りかざし、同時に、駿が、ギャッ、と悲鳴を上げてその場に崩れ落ちた。
 松岡の手に光っていたのは小型のナイフだった。ここへ来る前、護身用にいつも持ち歩いている折り畳みナイフを、すぐに取り出せるよう、開いた状態でズボンのポケットに忍ばせておいた。
 その刃先が駿のふくらはぎに突き立てられていた。

「ヒィィィィッ!!」
 
 先手必勝で斬り付ける筈が、薬の影響で取り出すのに手間取ってしまった。
 駿のふくらはぎからナイフを抜き取ると、松岡は、床に倒れ込んだ駿の首に肘をかませて背後から締め上げた。
 
「アキレス腱を切られなかっただけ有り難く思え」

「おっ、お前……どして……」

「悪いが、このてのクスリには多少耐性があるんだよ。そんなことより、今すぐ亜也人を解放しろ! でなきゃもう片方の足も同じ目に遭わせるぞッ!」

 形勢逆転の気配に、男たちはすぐさま亜也人を解放し、床に散らばった服を掻き集めながら転がるように部屋を出て行った。
 亜也人は、ベッドの上に突っ伏したまま声も上げずに泣いている。
 細い肩が、涙を咬み殺した呼吸に合わせて小刻みに震える。
 身体を小さく縮めながら打ちひしがれる亜也人を目の前に、松岡は、今すぐ駆け寄って抱き締めてやりたい衝動を堪え、駿の首を更に締め上げた。

「これは誰の差し金だッ!」

 松岡の怒号に駿がビクッと肩を跳ね上げた。

「クッ……知らな……い……」

「嘘をつくな! 積川か、それとも内藤か!」

 積川の名前を出した途端、駿はすぐさまかぶりを振った。

「違う! 良二は何も知らない! 良二は関係ない!」

「なら、内藤か……」

 ウッ、と呻くような声が駿の口から漏れた。

「だったらどうだって言うんだ……」

 松岡は、駿を捕らえる力を弱め、「どうもしないさ……」と呟いた。

「内藤の仕業なら俺がどうこうするまでもない……」
 
「どういう意味だ……」

「俺が手を下さなくても、どのみち消される、って意味さ……」

 瞬間、駿の動きが止まった。

「消される、って誰が……」

「お前がさ。内藤がどんな人間か知らないわけじゃないんだろ? 成功しようがしまいが結局最後は殺される。お前は所詮“捨て駒”だ」

「そんな脅しには乗らない!」

「脅しじゃないさ。ひと月に身元不明の死体が一体どれだけ上がると思う? 奴らにかかればお前をその中の一つにすることなんか朝飯前だ」

「嘘だ……。上手くやったら、良二は俺のものになる、って言った! コイツがいるから俺のものにならないんだ! コイツさえいなければ俺は良二と上手くやれるんだ!」

「つくづくバカな野郎だ……」

 言いながらも、松岡は、胸の奥に微かな痛みを覚えていた。
 駿の言葉が、松岡の胸に小さな棘を刺した。
 コイツさえいなければ。
 それは、駿だけでなく松岡の言葉でもあった。駿が亜也人に対して思うように、松岡自身も、積川良二に対してそういう思いがあることは否定出来ない。
 駿との違いは、自分がもう分別のある大人であり、少なからず感情をコントロール出来るということだ。自分が駿と同じ年頃なら、ひょっとしたら同じことをしていたかも知れない。
 松岡は、駿の姿に自分を重ね、やりきれない気持ちになった。
 駿は、最初こそ興奮して松岡の腕を振りほどこうと身体をよじったが、どうにも逃げられないことを知ると、ぐったりと動かなくなった。

「嘘だ……。なんでこんなことになるんだ……。こんなの不公平だ……」

「不公平……?」

「俺は、あんなに頑張ってここまで来たのに、コイツは、最初から全部持ってて、何の努力もせずに良二に想われて……。俺だってコイツみたいに生まれてりゃ……」

「亜也人みたいに生まれてたら……か」

 松岡は、駿の首に巻付けた腕を外しながら呟いた。

「もしお前が亜也人みたいに生まれてたら今頃生きてなかったさ……」 

 駿を床の上に横たえ、ゆっくりと立ち上がる。
 クスリの影響がまだ残っているものの、自力で歩けるほどには回復していた。
 松岡は、床に伏さったまま放心状態でいる駿を横目に、ベッドに近付き、亜也人を抱き締めた。

「吉……祥……」

「大丈夫だから、もう泣くな……」
 
 汚れた身体をシーツで包み、背中を抱いて胸の中に抱き寄せた。
 一刻も早く亜也人を連れて帰りたかった。
 後始末は紀伊田に任せることにして、松岡は、シーツのまま亜也人を抱き上げ、玄関に向かった。
 駿はぐったりとしたまま床に向かってブツブツと文句を言っている。
 このまま放っておけば、駿は、間違いなく内藤に殺されるだろう。
 駿は亜也人を傷付け辱めた人間だ。殺されたところで当然の報いを受けたまでだと切り捨てることも出来た。
 しかし、駿の告白を聞き、松岡の中にあった駿への怒りは、同情にも似たやり切れない気持ちに変わった。

「もう少ししたら俺の仲間がここへ来る。そいつらがお前を助けてくれるからそれまでここでじっとしてろ」

 松岡は、床の上に這いつくばる駿の憔悴しきった横顔に呟き、足早に部屋を出た。

 人目を避けるため、おぼつかない足取りで階段を降り、非常口から駐車場へと向かった。
 亜也人は身体を強張らせながら、口を真一文字に結んで震えるような呼吸を繰り返している。
 血の気の引いた唇が、突然、ウッ、と呻き、白い手が松岡のシャツの合わせ目を掴んだ。

「きっ、しょう……」

 助けて、と吐息が漏れたような気がして、松岡は慌てて車に駆け寄り、後部座席のドアを開いて亜也人をシートに寝かせた。
 呼吸が荒く、湿っぽい。
 発熱しているのかと思いおでこに手を当てると、殆ど同時に亜也人が松岡の背中に両腕を巻き付けて胸元に引き寄せ、松岡は、亜也人の身体の上に重なるように倒れ込んだ。

「吉祥……俺……おかし……」

「亜也人……。お前、まさか、まだ……」

 敢えて答えを聞くまでも無い。
 痒みだけでなく、経皮吸収型の催淫剤も作用していたらしい。覆い被さるように重なった松岡の下腹部で、亜也人の硬くて熱いものがドクンドクンと脈を打っている。
 亜也人は、どうにも堪えきれないとばかり、自分から腰を突き出して松岡の股間に自分のペニスを押し付け、熱く湿った吐息を松岡の首筋に吐きかけた。

「吉祥……どうしよう……俺……」

「亜也人……」

「俺……こんなの嫌だ……こんな……恥ずかしい……」

「恥ずかしくなんかない。そういうクスリなんだ。お前のせいじゃない……」

「も……やだッ……やだよぉッ……」

 シーツをはだけ、亜也人の勃ち上がったペニスを手の平に包み込んで上下に扱くと、既に限界まで勃ち上がったペニスの先から熱い蜜がトロトロと滴り落ちる。
 それをひと撫で指先にすくい、後孔に塗り付けながら中へねじ込んだ。

「んはぁっ、んんっ、んぁッ」

 人差し指を奥までねじ込み、抜けるギリギリまで引き戻したあと中指を添えて二本にしてまたねじ込む。同じように薬指を添えて三本にしたところで、感じるポイントを擦り上げ、同時に、尖った乳首に吸い付き舌の先で転がした。

「んぁん、あッ、やぁぁッ、それ、やだッ」

 乳首をキツく吸い上げるたび、後ろの肉壁がキュンキュンと指先に絡み付く。つい今しがたまで他の男を咥え込んでいた後孔は、指先で掻き回すだけで柔らかく潤み、肉ヒダをうねらせて男根の挿入を待っている。
 しかし、警備の行き届いたホテルの駐車場で行為に及ぶのはリスクが高い。
 まずは、射精させて楽にしてやろうと、上体を起こして、後ろの感じる部分を擦りながら、反対側の手でペニスを扱き上げた。

「あっ、あ、はぁッ、ああ、あ、んっ、ダメッ」

「イキたかったらイケばいい……」

「はぅんッ……や、だめ……出ちゃうッ……あ、出るッ!」

 自分の腕で顔を隠しながら、亜也人は、腰をビクビク跳ね上げながら、恥ずかしそうに射精した。
 男たちに何度もイカされ既に散々搾り取られた精液は、辺りに飛び散る勢いも無く、松岡の指を頼りなく伝い落ちる。しかし、強制的に興奮させられた身体は、一回の射精では収まらなかった。

「まだ苦しいか……?」

 亜也人は、小さく、「んッ」と呻き、額に乗せた手を、松岡の下腹部に下ろした。

「ーーーッ、て、おい、こら。そんなとこ触んじゃねぇ!」

「だって……おさまんないッ……。吉祥……これ、欲しい。……お願い……これ、入れて……」

「ちょ……待った! ここじゃ無理だからッ!」

 男根を握る亜也人の手を引き剥がし、そのまま指を絡ませて宥めるように優しく握った。
 亜也人はイヤイヤと首を振って訴えたが、松岡が、握り締めた手の甲に口付けしながら、「ごめん」と呟くと、拗ねた子供のようにしゃくり上げた。

「酷い……こんなの……も……やだッ……」

「ごめんな。家に着いたらたっぷり入れてやるから暫くこれで我慢してくれ……」

 上体を起こし、行為の様子が見えないよう、頭からシーツを引っ被って亜也人の股間に顔を埋めた。
 根元を指で挟んで扱きながら、先端から半分までを口に咥えて激しく出し入れする。亜也人の昂ぶったペニスが松岡の舌の上で更にググっと反りを増し、いやらしい蜜を溢れさせながらビクビクと脈を打った。

「あぁっ……俺……またッ……あっ、ダメッ、離れ……あぁんッ、んんッ!」

 絶頂が近付いているのだろう。ペニスはこれ以上ないほど張り詰め、睾丸が射精を求めて迫り上がる。溢れる蜜は、松岡が舌の先で絡め取ってもすぐにまた先端から浸み出し、それを頬肉で挟んで吸い上げると、亜也人が、腰を引いて松岡の髪を掴んだ。

「やだぁッ、ダメッ……で、出ちゃうからッ、はなして……また、出ちゃうからぁッ……」

 松岡は、構わず亜也人のペニスをすっぽりと口に含み、舌を絡ませながら唇で激しく扱き上げた。
 亜也人の腰がもじもじと動いて、突然ピタリと静止する。途端に、「バカっ! バカっ!」と亜也人が叫び、熱い欲望の塊りが松岡の上顎に貼り付き喉へと流れた。
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