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〜滴る夜の夢
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「俺なんか相手にして楽しいですか?」
「どういう意味だ」
「だって俺なんて……汚い……」
「汚い? お前が?」
泣き出しそうに歪む白い顔に、積川良二は、シャツの襟元を鷲掴みにした手をふと緩めた。
寺田亜也人。
可愛がってもらっているヤクザに誘われて出掛けて行った夏祭りで、男と歩いているところを偶然見かけ、その場で連れの男から力ずくで奪って自分の部屋へ連れ込んだ。
ベッドの上に仰向けに押し倒し、抵抗出来ないよう両腕をバンザイさせて手首をタオルでぐるぐる巻きに縛り、馬乗りに跨ってシャツの胸元に手を掛けた時だった。
それまで、無表情だった亜也人の瞳がふいに動き、良二は咄嗟に亜也人を見た。
暗い目だ。
悲しみや諦めといった気持ちを隙間なく詰め込んだ、何も映していない、真っ黒い穴のような目。
その中に、今まで無かったはずの鋭い怒りのようなものがハッキリと浮き出ていた。
いまさら反抗か。
最初はただの抜け殻だと思っていた。
死にそう、ではなく、すでに死んでいる。
賑やかな祭り会場、煌びやかな屋台には目もくれず、人目を避けるように、青白い顔を顎が喉につくほど真下に折り曲げ、男に手を引かれながら、おぼつかない足取りでふらふらと歩く。その横顔は、抵抗する気力も体力もすっかり抜け落ちた生気の無い死人の顔だった。
良二が、相手の男をボコボコに痛め付けている時も、亜也人は、顔色一つ変えず他人事のように眺め、良二が相手の男を負かし、『俺のモンだ』と腕を掴んだ時も、ピクリともせず、言われるまま大人しく部屋に着いて来た。
それが、この期に及んで突然反抗的な一面を見せる。
亜也人の変化は、抜け殻だとばかり思っていた亜也人を意思を持った人間であると良二に認識させると同時に、亜也人に対する興味をも抱かせた。
良二の中で、寺田亜也人という人間が初めて息をした。
「なに不貞腐れてやがんだ。言いたいことがあるならハッキリ言え」
亜也人は黙りこくったまま良二を見上げていたが、良二が、脅しめいた口調で詰め寄ると、それまでの死人のような顔から一転、やりきれないとばかり睫毛を伏せて小さく首を振った。
「別に……ただ、どうしてこんなことをするんだろうと思って……」
「のこのこ付いて来たくせによく言うぜ。男の部屋に来りゃこうなることぐらい解ってんだろ」
「そうじゃなくて……。こんな……俺なんか相手にして楽しいのかな、って……」
予想外の言葉に、良二は、ぽかんと口を開けた。
「だって俺なんて……汚い……」
一瞬思考が止まり、頭が言葉を理解した途端、「はははっ」と、ひとりでに笑いがこぼれた。
汚い、だって?
こいつ、自分の顔を鏡で見たことがないのだろうか。
思いながら、痛々しいほど見開かれた亜也人の瞳を見る。
目尻のシュッと上がった、切れ長の二重瞼の大きな目。整った鼻筋。形の良い小さな鼻。綺麗なMの字形を描く魅惑的な唇。
「これのどこが汚ねぇってんだ。てめぇが汚なかったら、世の中の人間、全員、糞だろ」
亜也人は呆気に取られたような顔で良二を見上げている。
ふざけているようには見えない。真剣な顔だ。
とぼけているわけでも謙遜しているわけでもない、明らかに理解出来ていない顔。
馬鹿なのか。それとも、美的感覚が大幅に狂っているのか。
おそらく両者だ。
証拠に、亜也人は、良二の皮肉めいた言葉にも全く反応せず、追い詰められたウサギのように黒目がちな瞳をおどおどと震わせている。
その、困惑を浮かべた白い顔に、良二の胸の奥が甘く疼いた。
「お前、自分がどんな顔してんのか知らねぇのか?」
えっ? と亜也人の小さな唇が開き、長い睫毛が瞬いた。
「あの……」
睨み付けると、白い歯の隙間からかろうじて聞き取れるほどの消え入りそうな声が漏れる。
「……な顔……」
「聞こえねぇ! もっとデカい声で言え!」
「へ、変な顔……」
「変な顔?」
再び、はははッ、と笑いが漏れる。
面白い。
亜也人はというと、いきなり笑い出す良二に慄いたのか、慌てた様子で取り繕うように言葉を継ぎ足した。
「だ、だって、ジロジロ見られるし……みんな変な目で俺のこと見るし……」
「変な目か。そりゃあ、そういう奴もいるわなぁ。でも、だからってお前が変なわけじゃねぇだろ」
「でも汚いし……俺、汚いこと、一杯してるから……」
「男とヤッてることがか? ンなもん、てめぇが知らねーだけで世の中にはごまんといらぁ」
「でも、便所だって……。汚い便所だって……」
黒目がちな大きな目がみるみる潤み出し、長い睫毛が細かく震え出す。
亜也人は、両眼から大粒の涙をはらはらと流しながら泣いている。
けれど、泣き声は聞こえない。
子供がベソをかくように涙で顔をぐしゃぐしゃに濡らしながら、それでいて、泣き声が漏れないよう、歯を食い縛って必死で耐えている。
まるで無声映画の号泣シーンを見ているようだ。
思いながら、良二は、不思議な感覚に襲われていた。
ついさっきまで全く無表情だった人間が、突然生々しいまでの感情を溢れさせる。
これまでとのギャップはもちろん、こんなにも綺麗な人間が、どうしてこんなふうに泣くのか、意味が解らない。
亜也人は、これ以上ないほどの泣き顔を顔一面に貼り付けながら、込み上げる泣き声を一言も漏らさず喉の奥に流し込んでいる。
この泣き方は、昨日今日出来上がったものではない。おそらくずっと前から少しづつ身体に染み付いていったものだ。
世の中には、周りの気を引くために、出てもいない涙を拭いながら大声を上げて泣く奴もいる。
たいした見てくれでも無いくせに、女王様気取りで他人を顎で使う奴も、遊ばれているとも知らず、自分の方が男たちを手玉に取っていると勘違いして悦に入っている奴もいる。
しかし、亜也人はそういう奴らとは違う。
本来であれば、亜也人は、そこいらの不良どもが気安く近付けるような相手ではない。
亜也人ほどの美貌があれば、世の中の大半の人間は足元に跪く。
そもそもこんなふうに泣く必要もない。誰もが亜也人に手を差し出し、亜也人は必要に応じてその手を取るだけ。苦しみや悲しみは未然に防がれ、こんなふうに涙で顔をぐしゃぐしゃにすることも、声を殺しても泣くこともない。
それが、何をどう間違えたのか、好きなように選ばれ、奪われる立場に位置付けられてしまった。
亜也人を見ていると、昔何かのテレビ番組で観た、ハイエナに腐肉を食い散らかされる美しい雌ライオンの姿を思い出す。
思わず目を背けたくなる、それでいて、決して背けることの出来ない強烈な磁力を持った惨状。
捕食者であるはずの美しい獣が、被食者に成り下がった果ての悲惨な結末。
気高く美しいモノが汚され略奪されていくさまは、通常の惨劇を見るより何倍も胸に突き刺さる。それが、落ちるべくして落ちた結果ではなく、一方的に突き付けられたものであればなおさらだ。
亜也人が後者であることは、この泣き方を見れば一目瞭然だった。
「こんなに綺麗なのに可哀想な奴……」
最初はただの出来心。
目の前を行く儚くも美しい男が、自分以外の誰かのモノであることが何故か腑に落ちなかった。今にも死にそうなこの男が、自分の知らないところで死んでいくことに漠然とした違和感を覚えた。
その時の不安にも似た違和感が、謎解きをするように、一つの答えを導き出した。
ーーー俺が元に戻してやる。
おそらく最初から抱いていた気持ちのままに、良二は、シャツの襟元から手を離し、涙に濡れた頬を手のひらで優しく撫でた。
「もう泣くな。ーーー何が便所だ。ンなこと言う奴ぁテメェが糞だ!」
ゆっくり前屈みになり、亜也人の顔に唇を寄せ、目、鼻、頬、と順番に小さなキスを繰り返す。
亜也人は、ヒッ、と喉を詰まらせたまま身体を硬直させている。
困惑と微かな恐怖の浮かぶ顔。涙に潤んだ瞳を、信じられないものでも見るかのように大きく見開き、長い睫毛を神経質に何度もしばたたかせる。
良二がキスをするたび、触れた部分をピクンと強張らせ、視線をうろうろ泳がせた。
「おどおどするな」
震える頬を両手で包み、逃げていく視線を、「こっちを見ろ」と引き止めて目を合わせた。
「そんな綺麗な顔して、おどおどしてっからつけ込まれるんだ。お前、綺麗なんだからもっと堂々としてろ!」
良二の言葉に、亜也人が、息を飲み込むように喉を波打たせる。
少し力を入れて押せば簡単に潰れてしまいそうな細い喉。自分を見上げる弱々しい目、儚いまでに華奢な身体。
亜也人を見ているうちに、良二は、自分が亜也人の命を握っているような、自分が亜也人の運命を左右する鍵を手にしたような、奇妙な感覚にとらわれた。
亜也人を生かすも殺すも自分次第。
殺す、という選択肢は無かったが、目の前の美しく脆い存在の行く末が自分の手に委ねられているのだと思うと、良二の胸は、これまでにないほど弾み、甘く疼いた。
「今までどんなことされてきたか言ってみろ」
唇を吸い、顎からうなじへと舌を伸ばしながら、亜也人に返事を催促した。
「言えよ。便所扱いされたんだろ? 誰に何された? 俺が全部聞いてやる」
シャツを胸の上まで捲り上げ、ピンク色の小さな乳首を唇でつまむ。
そうされることに慣れた乳首は、すぐにぷっくりと硬く尖って良二の唇を押し返す。卑猥に尖った乳首を、硬さを確かめるように舌先で包んで揉み潰し、乳輪ごと口に含んで舌の先でレロレロと転がすと、亜也人が薄っぺらい身体を仰け反らせ、白い胸を突き出して、んアぁッ、と泣いた。
「んふッ、ん、んぁあぁッ……」
「こんなふうに舐めてもらったか? それとも、もっと乱暴にされたのか?」
「いっ、いやぁ……い、痛いのは……」
根元に歯を立てて甘噛みすると、途端に亜也人が、イヤイヤと首を振る。尋常ではない嫌がりように、亜也人が普段どれほど痛い目に遭わされているかが伺い知れる。
「痛ぇことはしねぇよ」と甘噛みを解き、唇で挟んで優しく吸い上げた。
「ああぁ……っ、んぁあ……んはぁぁ……」
「これ、好きか?」
「んあぁぁッ……」
「言わなきゃまた痛くすんぞッ」
「あっ、いやぁッ!」
一瞬、歯を当ててすぐに離す。噛んだ部分をいたわるように舐め、乳首周辺をゆるゆると舐めながら、もう片方の乳首を指の腹で擦り上げた。
「乳首いじられんのイヤなんか?」
「い、痛いから……」
「なら、優しくすりゃいいんだな……」
「……ッ」
舌の先で唾液をすくい、乳首の表面に塗り付けて滑りを良くしてから、ゆっくり丁寧に舌を這わせる。根元から吸い上げるのではなく、キスをするように軽くチュッと吸い、唇で優しく揉んで、舌先で転がした。
「これならいいか?」
亜也人が小さく、「ん」と喘ぐ。
身体の緊張も徐々にほぐれてきている。
亜也人の反応を見ながら、赤く腫れた乳首を左右交互に舐めしゃぶり、乳首を擦っていた手を徐々にみぞおちに滑らせた。
ズボンの上から股間をまさぐると、途端に、亜也人が両足をギュッと閉じる。
「い、い、い、イヤッ! 待って……」
「いまさら恥ずかしがるこたぁねぇだろう!」
「だっ……だって……」
ズボンを引き下ろし、下着の生地に浮かんだペニスの膨らみに手を添える。緊張しているせいか、ペニスは小さく縮こまったままだ。それでも、生地の上から口に含んで根元を扱くと、竿の部分が徐々に芯を持ち、先端がゆっくりと持ち上がった。
「勃ってきた……」
硬く膨れた輪郭を指で挟み、先の部分を口に含んだ。
完全に勃ち上がったペニスは、少し舐め回しただけですぐに甘じょっぱい蜜を滴らせる。
「すげぇ、いっぱい出てんぞ……」
生地に口を付けてチュゥと吸うと、亜也人が腰を捻って抵抗した。
「ダっ、ダメッ! 下着、汚れるッ!」
「うっせぇな。こんくらい気にすんな」
「だッ、だめッ! 下着、汚れると、かっ、母さんが、し、心配するッ!」
「母さん、だぁ?」
自分でも呆れるほど素っ頓狂な声を上げ、良二は、亜也人の股間から顔を上げた。
「中三ンにもなってまだカァチャンとか、どんだけお坊ッちゃまなんだよ」
仕切り直して下着に手を掛ける。
そっとめくると、形の良い肉桃色のペニスが顔を出し、思わず、ヒュゥ、と口笛を吹いた。
「なんだこれ。ひょっとして全然使ってねぇのか?」
色素沈着のない、ほんのりと赤みがかった肉桃色の皮膚、サイズは大きすぎず小さすぎず、つるんとした質感の陰茎が、根元から形良く真っ直ぐに伸びている。
まるで、子供のペニスがそのまま大きくなったような印象を受ける。それでいて、形は着実に大人へと成長し、丸みを帯びたカリの先から卑猥な蜜を滴らせている。
そのギャップが良二の官能を刺激した。
「こりゃ、たまんねぇな……」
太ももまで下ろした下着を膝に溜まったズボンと一緒に足首から抜き取り、両膝を開いて股の間に顔を埋めた。
勃ち上がったペニスを咥えると、亜也人がビクンと腰を跳ね上げる。
「い、いやぁ……」
「なんだよ。しゃくられたことぐらいあンだろ?」
閉じようとする脚を、股の付け根から真横に開いて押さえ付け、口に咥えたペニスを先っぽから根元にかけて一気に奥まで飲み込んだ。
舌を絡めて吸い付くと、硬く勃起したペニスが舌の上でビクビク跳ねる。
口の中の熱い昂ぶりを頬を窄めて吸い上げ、唾液を絡ませながら頭を激しく上下に動かした。
「あああ……っ、あっあぁ、あぁぁっ、ちょ、まって……」
亜也人のペニスが、良二の口の中で更に硬さを増して反り返る。
「だ、だめッ……離してッ……離れてッ!」
先走りがどんどん濃くなっていく。
そろそろか。
思っていると、亜也人が、「はあぁぁッ!」と叫んで腰をガクンと硬直させた。
良二は、亜也人のペニスを口に含んだまま、問答無用に流れ込む熱い迸りをそのまま飲み干した。
「え、ウソ、なんで飲んで……」
「知るか」
身体を起こし、膝立ちで亜也人の胸元に移動し、首の上に跨がって男根を亜也人の唇に突き付けた。
「次はお前の番だ」
自分のモノとは明らかに違う、恐ろしくいきり立った赤黒い男根に、亜也人がギョッと目を丸める。
その反応に、良二は微かな気恥ずかしさを覚えた。
「仕方ねぇだろう。お前の身体いじってたらこうなっちまったんだから……」
エラの張った先端を唇に押し付け、腰を突き出して口の中にズイッと押し込んだ。
亜也人は、一瞬こそ舌で押し返したものの、すぐに良二の男根に舌を添わせ、喉の奥に咥え込んだ。
舌先を伸ばして男根を包み、唇の内側でギュッと締め付け、口を窄めてズズッと吸い上げる。
ずいぶんと手慣れた様子だ。
通常ならば、ウゲッ、と嘔吐いて苦しそうにするものを、躊躇いもなく呑み込み喉の奥で締め付ける。
清純そうな顔をして、男の喜ばせ方はしっかり仕込まれている。
そもそも、寺田亜也人はこういう男だ。端正な顔立ちとウブな反応に惑わされてしまっていたが、寺田亜也人は、男たちの慰み者だった。男たちに、『便所』と嘲られるほどに。
解っていたはずの現実が、ここへきて、予想外に良二を苛立たせた。
「何人の男にこうしてきたんだ……」
「へ……」
「今まで散々やらされてきたんだろ? 何人とやったんだ」
亜也人は、良二の男根を口の中からブルンと吐き出し、良二の顔色を伺うように、おどおどと睫毛を瞬かせた。
「わからない……」
「わからないだと?」
「数えてないから……」
瞬間、火に炙られたように身体がカッと熱くなり、良二は、思わず亜也人の髪を掴んだ。
「数えきれねぇほどしゃぶってきた、ってわけか!」
亜也人が咄嗟に肩を竦める。
震える瞳を睨み付け、掴んだ髪を後ろに引いて顔を上げさせた。
「野郎のチンポがそんなに美味えか! このエロガキがッ!」
「ちっ、違……違いますッ!」
「何が違うんだ」
「お、俺じゃなくて向こうが勝手に……。お、俺は嫌だって言ってるのにッ、向こうが俺のことッ……」
そこまで言うと、亜也人は、突然、グッ、と喉を鳴らし、瞳の奥からジワジワと涙を溢れさせた。
「おッ……俺は嫌なのに、俺は嫌だって言ってるのに……」
先ほどの涙も癒えないうちに、再び大粒の涙が頬を伝い流れる。
けれどやはり泣き声は聞こえない。目も開けていられないほど涙を流しながら、それでも亜也人は、先ほど同様、泣き声を殺して小さくヒッヒッとしゃくり上げている。
見ているうちに、良二は、自分の胸の内側に、同情とも憐れみとも言えないやるせない思いが広がるのを感じた。
「そうやってビクビクしてっから相手が調子に乗るんだ。無理やりヤラレるのが嫌なら、もっとシャンとしろ!」
髪を掴んだ手を離し、手首を縛っていたタオルをほどいて亜也人の両腕を自由にすると、亜也人がすぐさま顔の上でクロスさせて泣き顔を隠す。
上半身を波打たせてしゃくり上げる白い身体を見下ろしながら、良二は、首の上に膝立ちになった上半身を腰まで後退させ、四つん這いの姿勢で亜也人の上に覆い被さった。
「自分には手の届かない高嶺の花を手に入れるにはどうするか知ってるか? めちゃめちゃに踏み付けて弱らせるんだ。自分が高嶺の花だなんて忘れちまうぐらいこてんぱんに叩きのめして、何も考えられなくさせてから強引にモノにする。普通じゃ手に入らねぇモンを手に入れるには、普通のやり方じゃぁダメなのさ。そういう相手は常に弱わらせておく必要がある。それこそ、逃げ出す気も起こらないぐれぇにな……。お前は、それだ」
語気を強めると、泣き腫らした赤い目が腕の隙間から良二を見上げる。
救いを求めるような瞳に、良二の胸の内側にくすぶっていたやるせない思いが一瞬大きく波立った。
「そうやって顔色を伺うな! お前は綺高嶺の花なんだ! 自分が簡単に手に入るようなタマじゃねぇってことを忘れるな! レイプされるのが嫌なら自分を弱らすな! レイプされてるんじゃない。お前がレイプさせてやってるぐらいに思っとけ。お前が主導権を握って相手を骨抜きにするんだ。そうすりゃお前はもう何も怖くねぇよ。お前の顔と身体は最強の武器になる」
亜也人は呆然と良二を見上げていたが、その瞳は、それまでの深い翳りに包まれた暗い色ではなく、物憂気な中にも小さな光を宿した少年の瞳の色をしていた。
「俺の言ってることが解ったらまずは俺を骨抜きにしてみろ」
「俺……が……?」
ああ、と頷きながら、顔を近付ける。
「痛てぇことはしねぇから大丈夫だ。まずはキスだ。舌を出して俺を誘ってみろ」
唇に視線を落とすと、亜也人が白い歯の隙間から赤い舌をそろそろと差し出す。
熱く火照った舌を舌の先で絡め取り、頭を抱えて激しく絡ませた。
「んんっ……」
「お前も舌を動かせ……」
「あっ……ふぅん……」
固まったままの亜也人の舌をすくい上げ、舌の先を丸めて揉みくちゃに掻き回す。上顎から舌の下側、頬の粘膜、と、口中をくまなく舐め回し、亜也人の舌が柔らかくほぐれるのを待ってから、自分の口の中に引き込んでキツく吸い上げた。
「んんんッ……い、いやッ……」
「なんだ、ベロちゅーもしたことねぇのか?」
「ある……けど……こんな激しいのはッ……んんッ……」
「こんなん序の口だぜ」
閉じようとする唇をこじ開けて舌を吸い出し、舌先を絡ませ合いながら、片手を股間に這わせてペニスを握り込んだ。
強めに握って上下に扱くと、萎えかけた亜也人のペニスが再び硬く膨れ上がる。カリ首をなぞり、親指の腹で裏スジを何度も擦り上げ、先端をクルクルと撫で回した。
「んっ、ふぅぅ、やぁッ……」
爪先を立てて軽く引っ掻くと、ぷっくりと膨れ上がった溝から粘つく液がじわじわと染み出してくる。
それを指先にすくってお尻の間に忍ばせると、亜也人が、「待って!」と腰をくねらせた。
「今度はなんだ!」
「くっ、クリーム! ずっ、ズボンのポッケにあるからッ!」
「クリーム?」
良二は一瞬ポカンとし、しかしすぐに意味に気付いて足元に脱ぎ散らかされたズボンを掴み上げた。
言われた通り、ポケットをまさぐる。
小さなチューブ入りの軟膏、と、コンドーム。
「お前、こんなもんまで持ち歩かされてんのか」
亜也人は、
「それが無いと……痛いから……」
恥じ入るようなボソボソ声で言った。
「まさか、何もなしでいきなりヤラレたりしてんのか」
「ん……いつもじゃないけど……たまに……」
ギリッ、と、良二の奥歯が嫌な音を立てた。
思わず歯軋りしてしまうほどの苛立ち。これが亜也人に対して向けられたもので無いことは解っている。
それでも、こんな仕打ちを当たり前のように受け入れている亜也人にも、少なからず腹は立っていた。
「お人好しもたいがいにしろッ!」
握り締めたチューブを床に放り投げ、机の上に無造作に置かれたローションを手に取り再び亜也人の股の間に腰を据えた。
「見ろ」と、ローションのボトルを亜也人の目の前に突き付け、呆然とする顔を睨み付けた。
「こういうのがちゃんとあるんだよッ! ンな、いい加減なモン二度と使うな!」
こっちの方が痛くない、と前置きし、亜也人に、自分で膝を抱えて尻を開くよう言付け、亜也人がそうすると、目の前の小ぶりな尻の肉を掴んで左右にぐっと開き、お尻の割れ目に直接ローションを垂らした。
入り口に溜まったローションを指先でほぐすように塗り込み、少しづつ指を後孔の中に埋めていく。
狭い。
覚えきれないほどの男たちを相手にしながらも、亜也人の中は、驚くほど狭く、熱く、肉壁を収縮させながら良二の指を締め付ける。
押し返そうとする流れに逆らいながら付け根まで押し込み、ゆっくり抜き差ししながら指を二本に増やした。
「あぁぁっ、あぁ、ッぁ、ぁ……」
肉壁を焦らすように指先で擦り上げ、奥を広げながら丹念にほぐし、十分に柔らかくなったところでベッドの上に仰向けに寝転がり、亜也人に身体の上に跨るよう言い付けた。
「お前の好きなようにやれ」
「え……」
「お前に主導権をやる。お前が自分で入れて、自分のペースでやれよ。お前が自分で入れてるところ見てみてぇ」
亜也人はしばらく躊躇った後、やがて良二の腰の上に静かに跨がった。
良二の股間はすでにこれ以上ないほどいきり勃っている。
十六歳という、世間一般から見ればまだまだ少年の域を出ない幼い年頃でありながら、良二の男根は成人男性と引け劣らぬほど雄臭く逞しく、亜也人の小さなお尻で受け止めるには大きすぎるほどの質量を誇っている。
その猛々しさに戸惑う亜也人を「大丈夫だから」と宥め、亜也人の手を掴んでしっかりと握らせた。
自分で入れるよう催促すると、亜也人が、お尻を浮かせて、熱く火照った先端を後孔の入り口に押し付ける。
先っぽの部分を軽く押し込み、一度大きく息を吸ったあと、長く吐きながら身体をゆっくり落とす。
熱くてキツい。
思ったのも束の間、たちまち熱い肉壁がうねうねと男根に絡み付き、良二は思わず顔を顰めた。
ーーーなんだこれ、クソやべぇ。
キュウキュウと狭く、それでいてふんわりと柔らかい。
ギチギチに締め付けたと思ったら、緩くほどけてトロトロと絡み付く。
肉壁のヒダというヒダが絶妙に蠕動し、緩急をつけながら男根を飲み込んでいく。
「好きなようにやれ」と言っておきながら、良二は、亜也人の身体に男根が収まることすらも待ちきれず、早々に腰を突き上げていた。
「あっ、いやぁぁぁ! ちょっ……まって! やぁッ!」
腰を跨いだ亜也人の太ももを両側から押さえ付け、亜也人の身体が跳ね上がるほどの勢いでズンズン股間を突き上げる。
強烈な揺さぶりに、亜也人が、跳ね飛ばされないよう良二のお腹に手をついてバランスを取る。その手を掴み、太ももの両側から後ろに引っ張って前屈みになった身体を真っ直ぐに起こし、背中が仰け反るような角度でさらに責め立てた。
「あぁぁあッ、そんな奥ッ……だめッ……はぁぁぁッ!」
ヘソを突くように腰を振り上げると、亜也人が一際甲高い声を上げる。
良いところを突いたようだ。
同じ場所を擦りながら奥を突き、亜也人の身体が快楽に身を委ね始めたところで、両手を離し、空いた手を両方の乳首に伸ばした。
「すげぇ。こっちもビンビン……」
「あひッ、いやぁッ……」
赤く腫れた乳首を両手でくるくると撫でながら、奥まで突き入れた男根を揺さぶる。
乳首と後ろを同時に擦り上げると、小さく萎えて揺れていた亜也人のペニスが、再び硬さを持って膨れ始めた。
「こっちも、触ってねぇのに勃ってきた……」
上を向き始めた先っぽを指でチョンと突くと、亜也人が、「あんッ」と悩ましげに眉を顰めて後ろをキュッと締める。
「ほら。どんどん硬くなる……」
「は、はずかし……からっ、も……やめてぇ……」
「自分で扱いてみな」
亜也人の手を股間に誘導し、自分のペニスを握らせた。
上から手を添えて一緒に扱いてやると、言われた通り自分から手を動かして扱き始める。
従順すぎるほどの素直さが胸に迫る。思わず、
「クソッ!」と吐き捨てると、亜也人が、条件反射のように「ごめんなさい」と言った。
「なんでテメェが謝るんだ」
「だって……せきかわさん、怒ってるからッ……お、俺が、何かしたのかと……」
クソッ、と、ひとりでに舌打ちが漏れた。
「悪く無ぇのに謝ってんじゃねーよ。てか、テメェはなんもしてねぇ。むしろ、クソやべぇぐらい可愛いぜ」
言うなり、亜也人のお尻を掴んでガバッと身を起こし、そのまま亜也人の両脚を開いて覆い被さった。
「あっ! せ、せきかわ…さんっ…んんっ」
正常位の姿勢で、根元まで一気に突き入れガンガンと奥を突く。
若者らしい勢いのあるセックスに、亜也人の顔が苦痛に歪む。
「あああぁっ、いた……いッ……せ、せきかわさ……ッ……」
「痛ぇのか?」
「いッ……あっ、ぁんッ……も……許して……あぁッ! ゆ、許して下さ……ぁひッ!」
しかし、勢い付いた思春期の欲情を抑えることは出来なかった。
「チクショウ! 止まんねぇ」
獣のように呻きながら、良二は、亜也人の身体の奥深くを貫いた。
「せっ、せきかわ……さぁん……」
「りょうじ、って呼べよ……」
「りょ……じ……」
「お前は俺が守ってやる!」
もう二度と踏み潰されないように。
ーーーだから俺の側にいろ! 絶対に俺から離れるな!
心の中で叫びながら、良二は、自分を包み込む亜也人の奥深くに熱い精を放った。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
獣が唸るような呻き声が、低く絶え絶えに響いていた。
苦しそうな寝顔。
眉間に刻まれた深いシワ。真一文字に結んだ唇。
額に玉のような汗をびっしりとかき、その玉がいく筋もの雫となって引き攣れた火傷痕を伝っている。
悪夢にうなされているのだろう。
一体どんな悪夢なのか。
思いながら、新庄武志は、ベッドの上に大の字に手足を拘束された積川良二の額の汗を濡れタオルで拭った。
新しく処方された睡眠薬が合っているのか、うなされながらも、良二は比較的大人しく眠っている。
今のうちに目薬も差してしまおうと、棚の上の薬箱から何種類もの目薬を取り出し、枕元に並べた。
その中の一つを手に取り、良二の目蓋を開いて一滴流し込み、五分ほど時間を空けて順番に三種類もの目薬を差していく。
これを一日に四回。
失明は免れたものの、酸攻撃を受けた良二の左目はまだ完全には回復しておらず、一日にこうして何度も目薬を差さねばならない。
目薬を差すのは新庄の役目だ。
そうするよう指示したのは内藤だが、言われなくも、新庄は最初からそのつもりでいた。
メンバーの前では、規律を乱さないよう、うやうやしく敬語を使って部下に徹しているものの、プライベートでは、新庄と積川は、お互い下の名前で呼び合うほど打ち解けた関係を築いている。
その新庄から見て、不規則な生活スタイルに加え、他人から指図されることを嫌う良二が、医者の言い付け通り、朝、昼、晩、と決められた時間に目薬を差すとは到底思えかった。良二には世話をする人間が必要であり、それは自分の役目であると新庄は思っていた。
表向きには内藤の指示に従った形だが、実際は、新庄は、自ら望んで良二の元へ来たと言って良かった。
それは後悔はしていない。
スティンガーのナンバー2としても、積川良二を慕う一人の男としても。
しかし、何も問題が無いかと聞かれたら、正直即答はできなかった。
自分には良二を止められない。
事実、このところの良二の荒みようは、新庄の手に負えないレベルまで来ていた。
嫌でも人目を引く火傷痕、なかなか回復しない視力。思うようにならない身体と慣れない治療へのストレスもあるのだろう。退院するとすぐに、良二は、不眠や体調不良を訴えるようになり、次第に情緒不安になっていった。睡眠薬と安定剤は日増しに増え続け、それに比例して、攻撃性も強くなった。
カッとなったが最後、ところ構わず暴れまくる。
その激しさと言ったら、大の男が数人かがりで制止してもことごとく振り払われるほどの勢いで、メンバーの中には、手酷い返り討ちに遭い、良二と行動を共にするのを嫌がる者まで出てきた。
今の良二は、暴力とセックスを糧に生きている野獣そのものだ。
破壊的な良二が嫌いなわけではない。もともと良二の強さと周りを圧倒する存在感に惹かれ、この男の元で働きたいと、当時所属していたカラーギャングを抜けてまでスティンガーのメンバーに加わった。
その時のリンチの傷痕が、新庄の身体には未だ消えずに残っている。
それほどまでに惹かれた相手だった。
性的な意味とは違う、強烈な憧れ。
絶対的な強さと抜群の喧嘩センスで、若干十七歳にして、関東界隈の族や不良集団を束ねてしまった不動のカリスマ。メンバーだけでなく、敵対勢力からも一目置かれる良二に対し、新庄は、崇拝に近い感情を抱いていた。
それだけに、一昨々年の十一月、神戸へ行く良二の代わりに、頭代行としてスティンガーの指揮を任された時は天にも昇る気持ちだった。
大役を任されたことはもちろん、良二に認められたことが嬉しかった。
期待に応えようと、持ち前の分析力と面倒見の良さで、スティンガーの勢力を拡大し、メンバー間の結束をより強固なものにした。
それを、今、良二が壊そうとしていた。
退院以降、いや、本当を言うと、良二が神戸に行く少し前から、良二の様子がおかしくなっていたことには気付いていた。
きっかけは、良二の恋人、寺田亜也人の突然の脱退。
寺田亜也人はスティンガーのメンバーではないので脱退という表現は不適切だが、良二が亜也人に尋常でないほど入れ上げていたのは周知の事実であり、亜也人のグループ内での位置付けは良二と同等と言って良かった。
その亜也人が、良二が神戸へ行く三ヶ月ほど前の夏の夜を境に、突然姿を見せなくなった。
噂では、当時石破組の若頭としてスティンガーを支援していた内藤が、良二が亜也人に骨抜きにされているのを見るに見兼ねて別れさせたとも、ドラッグの取引でヘマをして相手方に捕まったとも囁かれたが、結局、真相は未だに解っていない。解っているのは、それ以降、良二の顔付きがどんどん険しくなり、言動にも余裕が無くなっていったことだ。
もっとも、メンバーの多くは、亜也人の脱退に胸を撫で下ろし、良二の変化にはあまり気付いていないようだった。
メンバー達は、常日頃から亜也人への接し方に頭を悩ませていた。
亜也人は、男の新庄から見ても息を飲むほど美しく否が応でもメンバー達の視線を集めたが、良二がそれを許す筈がなく、メンバー達は、しばしば良二に謂れのない嫉妬を向けられ、手痛い報復を受けていた。
メンバーにしてみれば、亜也人に会えなくなるのは寂しいが、良二に睨まれずに済むのなら、その方がありがたいというのが本音だったのだろう。
新庄も、ある意味グループのトラブルメーカーだった亜也人が良二の元から離れてホッとしていたのは事実だった。
しかし、この一件が、スティンガーと良二との間に大きな歪を生んだ。
亜也人が離れて一件落着としたと思ったのは大局のごくごく僅かな一面。
亜也人にまつわる良二の嫉妬など実はたいした問題では無かったのだと、新庄は、その後、嫌というほど思い知らされることになる。
ーーー寺田亜也人
良二の変化を振り返る時、いつも必ず頭に浮かぶ男の名を、新庄は、心の中で呟いた。
離れてもなお、いつまでも良二の心を捉えて離さない。
良二の世界は今もこの男を中心に回っている。
亜也人本人は、とっくに外へ逃げ出しているというのに。
「馬鹿なヤツ……」
最後の目薬を落とし、目蓋を軽く押さえて溢れた薬液をタオルで拭った。
目薬を薬箱に入れて棚に戻すと、エントランスからの呼び出しコールが鳴り、リビングのモニターフォンに向かった。
「ヒカリクリニックの者です。先日の治療費の請求書をお持ちしました」
黒縁メガネの男が画面に映し出される。
しらじらしい笑顔。クリニックの関係者を名乗ってはいるものの、この男が裏界隈にかなりのコネを持つ謎の情報屋、紀伊田淳であることは、最初に見た時から解っていた。
どんなに目立たなく装ったところで、持って生まれた華やかさは隠せない。
上品で柔らかい。のんびりしているようでそつがない。
良二が暴れるたび、ワゴン車に乗って颯爽と現れ怪我人を回収していく爽やかな横顔は、新庄がスティンガーに加入した頃から先輩メンバーが噂していた、紀伊田淳のイメージに酷似していた。
その紀伊田が、モニターの向こうで、黒縁メガネの奥の涼しげな目を柔らかく細めて笑っていた。
「郵送してくれと頼んだ筈ですが」
「そうなんですが、今回はちょいと高額なもんで、明細を説明するよう院長に言われまして……」
インターフォン越しに答えると、紀伊田は、細めた目をさらに三日月型に細め、カメラにグイッと近付いた。
もっともらしい理由を付けて上がり込もうという魂胆は見えていたが、“高額”という言葉に新庄の気持ちがグラついた。
内藤宛に請求書を持っていけば即金で支払われることは解っている。しかし、曲がりなりにも良二の監視役を任されている立場上、黙って請求書だけを差し出すわけにはいかなかった。
迷った末に、新庄は、エントランスのロックを解除した。
「へぇ~。なかなか良い部屋じゃないですか。これなら積川くんもゆっくり療養できる……」
内藤が用意した部屋はマンションの高層階にある2LDKの部屋で、玄関を上がるとすぐに洋室があり、対面にトイレとバスルーム、リビングへ抜ける扉を開けると、小さな対面キッチンに二十畳ほどあるリビングが続き、その一角に八畳ほどの寝室がリビングに抱き込まれる形に配置されてる。
良二はそこで眠っている。
睡眠薬が効いているので当分起きてくることはないだろうが、部屋に上がるなり、ソファーに座るよう勧める新庄の声を無視して、我が物顔で部屋を見回す紀伊田が、勢い余って良二の部屋に入ってしまうのではないかと新庄は気が気では無かった。
「説明があるなら早くして下さいよ、紀伊田さん」
新庄の言葉に紀伊田はようやく振り返った。
「あれ? 俺、名前、言ってたっけ?」
人懐こい笑顔が、一転、挑発的な笑みに変わる。
「言われなくても分かりますよ。ーーーてか、あんたのこと知らない人間なんていないでしょうに」
新庄が言うと、
「へ? 俺、いつの間にそんな有名んなってたの?」
一瞬、参ったな、というように唇を歪め、しかしすぐに、「バレちまったもんは仕方ない」と、黒縁メガネを片手でひょいと外し、七三に分けた前髪を頭をブルブルと振って元に戻した。
「気付かれてないと思ってんのはあんただけっすよ」
「おっかしいなぁ。目立たなくしてるつもりだったのに……」
「そんなことより、請求金額と説明。手短にお願いしますよ」
「はいはい」
提示された金額は120万。通常の治療代の他に、傷口が治ってから受ける美容形成術の金額が上乗せされていた。
「やってもいない手術代まで取るのかよ」
「バックれられたら困るかんね。逢坂ちゃんとこもあれで商売してっから仕方ないっしょ。文句があるなら逢坂ちゃんに直接言ったら? 君ら、仲良いんでしょ?」
「なんで俺が……」
冷静を装ったものの、返答する声が詰まるのは防ぎようがなかった。
咳をして誤魔化すと、紀伊田が意味深な笑みを浮かべて新庄の顔を覗き込んだ。
「あれ、おかしいなぁ。逢坂ちゃんの口ぶりだと、ずいぶん懇意にしてる印象を受けたんだけど……」
「気のせいじゃないですか?」
紀伊田から視線を逸らし、請求書を折り畳んで封筒に仕舞った。
これ以上詮索されないよう、自分から先に席を立ち、紀伊田に帰るよう促がす。
新庄の意図を悟ったのか、紀伊田は、食えないヤツ、とでも言いたげに、フンッ、と笑って椅子から立ち上がった。
「ずいぶんせっかちなんだなぁ。せっかく来たんだから積川くんの様子も見ていこうと思ってたのに」
「どうしてあんたが?」
「純粋に心配してるんだよ。こう頻繁に暴れられちゃうちのクリニックもそろそろ対応できないし、精神的なモンが原因ならちゃんとした医者に診せなきゃ解決にならないだろ? 俺も、これ以上キミに請求書届けるの心苦しいしさ。見たところだんだんエスカレートしてきてるみたいだし、キミだって、こう毎回高額請求されたんじゃ、いい加減内藤さんに大目玉喰らっちゃうだろ?」
「それは……」と言いかけ、新庄は慌てて口を噤んだ。
組織の内情など知るわけがないと解っていながらも、紀伊田の柔らかい口調で口笛を吹くようにさらりと言われると、ついうっかり答えてしまいそうになる。
肉弾戦はお手のものだが、心理戦には免疫が無い。
ボロが出る前に追い返そうと、紀伊田の背後に回り、玄関に向わざるを得ない状況を作った。
「とにかく、積川は寝てますんで合わせるわけにはいきません」
「寝てる? 眠らせてる、の間違いじゃなくて?」
「あんた、何言って……」
「見りゃ解ンでしょ。眠剤に安定剤? あんだけ暴れりゃ飲ませたくなる気持ちも解るけど、素人判断で増量すると後が怖いよ?」
知ったような口ぶりが癇に障る。
「心配してもらわなくても医師の診察ならちゃんと受けてるッ!」
思わず声を荒げると、間髪入れずに、紀伊田が、涼しげな目元を悪戯そうに歪めて笑った。
「やっぱ増量してんだぁ……。これじゃストレスで暴れてんだか、副作用でラリってんだか解ったもんじゃないねぇ」
「てめぇ!」
まんまとカマをかけられた。
これにはさすがに頭に血が上った。
しかし、紀伊田は、凄みを効かせる新庄をものともせず、逆に、挑発するようにグイッと身を乗り出した。
「ならますます言っておかなきゃならないな。お節介を承知で言わせてもらうけど、このままだとキミら、共倒れだよ?」
「共倒れ……?」
オウム返しをする新庄を、紀伊田は、今までとは違う厳しい視線で見据え、大きく頷いた。
「積川がヤバい状態だってことは普段のキレっぷりを見れば一目瞭然さ。内藤は積川を後継者にしたいんだろうが、どんなに目をかけたところで、当の積川があんなんじゃ組の連中は誰も付いて来ない。スティンガーの奴らだって、煽りを喰らって相当参ってるんじゃないのかい? いくら結束が堅いスティンガーとは言え、このまま行けばメンバーは皆んな離れて行く……」
「そんなことはない」
平静を装いながらも、首筋に嫌な汗が滲むのを感じ、新庄は、ブルッ、と身震いした。
「キミも、積川ばかりに構ってたら、そのうち連中からソッポを向かれるよ?」
含みの目付きで言うと、紀伊田は、「なんちゃって」と、厳しい表情を元の柔らかい表情に戻し、くるりと踵を返して部屋を出て行った。
「言われなくても解ってるさ……」
颯爽と出て行く背中を睨みながら新庄は呟いた。
結束力の堅さは、トップの統率力に比例する。スティンガーの場合は、積川を中心とする一大ピラミッドの統制がしっかり取れていれていたことで堅い結束力を誇ってきた。
しかしそれが今崩れつつあった。
自分の方を見ないボスに仲間が付いて来る筈もない。
頭代行である新庄も然り。新庄自身、身をもって思い知らされている筈が、自分もまた同じ思いを仲間たちにさせている。
しかし。
と、新庄は、良二が眠っている部屋に目をやった。
「あんな状態の良二を見捨てろって言うのか……」
良二はまだ悪夢にうなされている。
眠りについてもなお苦悩から逃れられない良二の歪んだ寝顔を思い浮かべながら、新庄は、怒りにも似た感情を噛み潰した。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
恋人、という響きに、藤井と名乗る男は、ボコボコに殴られ変形した顔をギョッと引き攣らせた。
「こいつは今日から俺の恋人だ。金輪際こいつには手を出すな」
「ちょっ、ちょっと待って下さい! そいつは俺の……」
引き攣った顔が、今度は一転、泣きべそ顔になる。
あれほど叩きのめしたのにまだ懲りないのか。亜也人を便所扱いしていたくせに、この後に及んで、宝物を取り上げられるかのような悲痛な目で亜也人を見る。
こういう往生際の悪い人間が良二は一番嫌いだった。
男としての意地もプライドも無い。こんな男が長い間亜也人を捕らえ、我が物顔で身体を弄んでいたのかと思うと、蹴り殺したくなるほどの怒りに駆られる。
引導を渡すつもりで、胸ぐらを掴んで思い切りねじり上げた。
「こいつに手ェ出しやがったらただじゃおかねぇ! お前だけじゃねぇ。お前の仲間や周りの奴らもだ。お前に関係のある奴らがこいつに何かしやがったら、そいつもお前もまとめて始末してやるからそのつもりでいろッ!」
亜也人は、二人のやり取りを隣で棒立ちになって眺めている。
なんとも言えない表情だ。
信じられないものでも見るかのように、黒目がちな目を大きく見開き、唇を真横に結んで立ち尽くす。
良二の怒号に狼狽えることもなく、亜也人は、足をもつれさせながら逃げ去る藤井の後ろ姿を心ここに在らずといった様子で眺め、藤井の姿が完全に消えてなくなると、叱られた子供のようにおどおどと良二を見上げた。
「俺、積川さんの恋人……なの?」
切なくなるほど真っ直ぐな瞳。
「嫌なのか?」と聞くと、途端に、ブンブンと首を振る。
「まさかッ! う、嬉しいです。すっ……凄くッ……」
そのいじらしさ。
従順で控えめで純粋。
まるで、飼い主を見つけた仔犬のような、真っ直ぐでひたむきな瞳。
見た瞬間、良二の胸の底に甘美な疼きが沸き起こった。
ーーーこいつは俺がいないと生きていけない。
唐突に、本能的に、良二は直感した。
「俺の恋人になれてそんなに嬉しいか」
「はいッ! 凄く、嬉しいですッ!」
亜也人は、少しの疑いもなく良二を見上げている。綺麗な白眼がみるみる赤く染まり、吸い込まれそうな黒い瞳が涙に埋まる。衝動的に、良二は、亜也人を胸の中に搔き抱いていた。
「オーバーな野郎だな。それと、良二でいいから……。俺も、亜也人、って呼ぶし」
「りょう……じ」
顎を掴んで上を向かせると、亜也人が察したように小さく口を開く。
そのまま唇を引き寄せ、亜也人の口の奥深くに舌を突っ込み、荒々しく掻き混ぜた。
「あんぅ……んっ……」
緊張して萎縮した舌が徐々に緩み出し、やがてトロリと寄り添うような舌ざわりに変わる。
「俺が必要か? 亜也人……」
「んっ……は……はいッ、ひふよぉ、れ……す……」
「聞こえねぇよ……」
「ひッ……ひふようれすッ! ふあッ……」
「なら側にいてやる」
深く激しく舌を絡ませ合い、溢れる唾液を互いの舌ですくい、舐め合い、啜り合う。
今、自分の手の中にすっぽりと収まり熱い吐息を漏らす従順な存在が、他の男の所有物であったことが腹立たしく、それが良二の欲情を余計に煽り立てる。
「俺が好きか?」
「すき……ッ……」
「俺がいねぇと困るか? 俺にいて欲しいか?」
「ん……」
他の男の痕跡を消すように、良二は、亜也人の舌をがむしゃらに貪り、千切れんばかりに吸い上げた。
「なら、俺から絶対離れるな」
うなじに手を回し、正面を向かせて返事を催促した。
すると、突然、強い風が吹き、同時に手の中がフワリと軽くなった。
「亜也人……?」
あああ、と悲鳴にも似た声が漏れる。
亜也人の身体が風にさらわれ、細かい粒子となって腕の中からするすると抜けて行く。
「亜也人!」
叫んで手を伸ばしても間に合わない。
追いかけようと足を踏み出すと、たちまち真っ黒い闇がもくもくと立ち上がり、良二を深い闇で推し包んだ。
「亜也人!」
俺がいないと困ると言ったくせに!
俺が必要だと言ったくせに!
何もない真っ暗闇の中で、良二は、何度も亜也人の名を叫んだ。
「どういう意味だ」
「だって俺なんて……汚い……」
「汚い? お前が?」
泣き出しそうに歪む白い顔に、積川良二は、シャツの襟元を鷲掴みにした手をふと緩めた。
寺田亜也人。
可愛がってもらっているヤクザに誘われて出掛けて行った夏祭りで、男と歩いているところを偶然見かけ、その場で連れの男から力ずくで奪って自分の部屋へ連れ込んだ。
ベッドの上に仰向けに押し倒し、抵抗出来ないよう両腕をバンザイさせて手首をタオルでぐるぐる巻きに縛り、馬乗りに跨ってシャツの胸元に手を掛けた時だった。
それまで、無表情だった亜也人の瞳がふいに動き、良二は咄嗟に亜也人を見た。
暗い目だ。
悲しみや諦めといった気持ちを隙間なく詰め込んだ、何も映していない、真っ黒い穴のような目。
その中に、今まで無かったはずの鋭い怒りのようなものがハッキリと浮き出ていた。
いまさら反抗か。
最初はただの抜け殻だと思っていた。
死にそう、ではなく、すでに死んでいる。
賑やかな祭り会場、煌びやかな屋台には目もくれず、人目を避けるように、青白い顔を顎が喉につくほど真下に折り曲げ、男に手を引かれながら、おぼつかない足取りでふらふらと歩く。その横顔は、抵抗する気力も体力もすっかり抜け落ちた生気の無い死人の顔だった。
良二が、相手の男をボコボコに痛め付けている時も、亜也人は、顔色一つ変えず他人事のように眺め、良二が相手の男を負かし、『俺のモンだ』と腕を掴んだ時も、ピクリともせず、言われるまま大人しく部屋に着いて来た。
それが、この期に及んで突然反抗的な一面を見せる。
亜也人の変化は、抜け殻だとばかり思っていた亜也人を意思を持った人間であると良二に認識させると同時に、亜也人に対する興味をも抱かせた。
良二の中で、寺田亜也人という人間が初めて息をした。
「なに不貞腐れてやがんだ。言いたいことがあるならハッキリ言え」
亜也人は黙りこくったまま良二を見上げていたが、良二が、脅しめいた口調で詰め寄ると、それまでの死人のような顔から一転、やりきれないとばかり睫毛を伏せて小さく首を振った。
「別に……ただ、どうしてこんなことをするんだろうと思って……」
「のこのこ付いて来たくせによく言うぜ。男の部屋に来りゃこうなることぐらい解ってんだろ」
「そうじゃなくて……。こんな……俺なんか相手にして楽しいのかな、って……」
予想外の言葉に、良二は、ぽかんと口を開けた。
「だって俺なんて……汚い……」
一瞬思考が止まり、頭が言葉を理解した途端、「はははっ」と、ひとりでに笑いがこぼれた。
汚い、だって?
こいつ、自分の顔を鏡で見たことがないのだろうか。
思いながら、痛々しいほど見開かれた亜也人の瞳を見る。
目尻のシュッと上がった、切れ長の二重瞼の大きな目。整った鼻筋。形の良い小さな鼻。綺麗なMの字形を描く魅惑的な唇。
「これのどこが汚ねぇってんだ。てめぇが汚なかったら、世の中の人間、全員、糞だろ」
亜也人は呆気に取られたような顔で良二を見上げている。
ふざけているようには見えない。真剣な顔だ。
とぼけているわけでも謙遜しているわけでもない、明らかに理解出来ていない顔。
馬鹿なのか。それとも、美的感覚が大幅に狂っているのか。
おそらく両者だ。
証拠に、亜也人は、良二の皮肉めいた言葉にも全く反応せず、追い詰められたウサギのように黒目がちな瞳をおどおどと震わせている。
その、困惑を浮かべた白い顔に、良二の胸の奥が甘く疼いた。
「お前、自分がどんな顔してんのか知らねぇのか?」
えっ? と亜也人の小さな唇が開き、長い睫毛が瞬いた。
「あの……」
睨み付けると、白い歯の隙間からかろうじて聞き取れるほどの消え入りそうな声が漏れる。
「……な顔……」
「聞こえねぇ! もっとデカい声で言え!」
「へ、変な顔……」
「変な顔?」
再び、はははッ、と笑いが漏れる。
面白い。
亜也人はというと、いきなり笑い出す良二に慄いたのか、慌てた様子で取り繕うように言葉を継ぎ足した。
「だ、だって、ジロジロ見られるし……みんな変な目で俺のこと見るし……」
「変な目か。そりゃあ、そういう奴もいるわなぁ。でも、だからってお前が変なわけじゃねぇだろ」
「でも汚いし……俺、汚いこと、一杯してるから……」
「男とヤッてることがか? ンなもん、てめぇが知らねーだけで世の中にはごまんといらぁ」
「でも、便所だって……。汚い便所だって……」
黒目がちな大きな目がみるみる潤み出し、長い睫毛が細かく震え出す。
亜也人は、両眼から大粒の涙をはらはらと流しながら泣いている。
けれど、泣き声は聞こえない。
子供がベソをかくように涙で顔をぐしゃぐしゃに濡らしながら、それでいて、泣き声が漏れないよう、歯を食い縛って必死で耐えている。
まるで無声映画の号泣シーンを見ているようだ。
思いながら、良二は、不思議な感覚に襲われていた。
ついさっきまで全く無表情だった人間が、突然生々しいまでの感情を溢れさせる。
これまでとのギャップはもちろん、こんなにも綺麗な人間が、どうしてこんなふうに泣くのか、意味が解らない。
亜也人は、これ以上ないほどの泣き顔を顔一面に貼り付けながら、込み上げる泣き声を一言も漏らさず喉の奥に流し込んでいる。
この泣き方は、昨日今日出来上がったものではない。おそらくずっと前から少しづつ身体に染み付いていったものだ。
世の中には、周りの気を引くために、出てもいない涙を拭いながら大声を上げて泣く奴もいる。
たいした見てくれでも無いくせに、女王様気取りで他人を顎で使う奴も、遊ばれているとも知らず、自分の方が男たちを手玉に取っていると勘違いして悦に入っている奴もいる。
しかし、亜也人はそういう奴らとは違う。
本来であれば、亜也人は、そこいらの不良どもが気安く近付けるような相手ではない。
亜也人ほどの美貌があれば、世の中の大半の人間は足元に跪く。
そもそもこんなふうに泣く必要もない。誰もが亜也人に手を差し出し、亜也人は必要に応じてその手を取るだけ。苦しみや悲しみは未然に防がれ、こんなふうに涙で顔をぐしゃぐしゃにすることも、声を殺しても泣くこともない。
それが、何をどう間違えたのか、好きなように選ばれ、奪われる立場に位置付けられてしまった。
亜也人を見ていると、昔何かのテレビ番組で観た、ハイエナに腐肉を食い散らかされる美しい雌ライオンの姿を思い出す。
思わず目を背けたくなる、それでいて、決して背けることの出来ない強烈な磁力を持った惨状。
捕食者であるはずの美しい獣が、被食者に成り下がった果ての悲惨な結末。
気高く美しいモノが汚され略奪されていくさまは、通常の惨劇を見るより何倍も胸に突き刺さる。それが、落ちるべくして落ちた結果ではなく、一方的に突き付けられたものであればなおさらだ。
亜也人が後者であることは、この泣き方を見れば一目瞭然だった。
「こんなに綺麗なのに可哀想な奴……」
最初はただの出来心。
目の前を行く儚くも美しい男が、自分以外の誰かのモノであることが何故か腑に落ちなかった。今にも死にそうなこの男が、自分の知らないところで死んでいくことに漠然とした違和感を覚えた。
その時の不安にも似た違和感が、謎解きをするように、一つの答えを導き出した。
ーーー俺が元に戻してやる。
おそらく最初から抱いていた気持ちのままに、良二は、シャツの襟元から手を離し、涙に濡れた頬を手のひらで優しく撫でた。
「もう泣くな。ーーー何が便所だ。ンなこと言う奴ぁテメェが糞だ!」
ゆっくり前屈みになり、亜也人の顔に唇を寄せ、目、鼻、頬、と順番に小さなキスを繰り返す。
亜也人は、ヒッ、と喉を詰まらせたまま身体を硬直させている。
困惑と微かな恐怖の浮かぶ顔。涙に潤んだ瞳を、信じられないものでも見るかのように大きく見開き、長い睫毛を神経質に何度もしばたたかせる。
良二がキスをするたび、触れた部分をピクンと強張らせ、視線をうろうろ泳がせた。
「おどおどするな」
震える頬を両手で包み、逃げていく視線を、「こっちを見ろ」と引き止めて目を合わせた。
「そんな綺麗な顔して、おどおどしてっからつけ込まれるんだ。お前、綺麗なんだからもっと堂々としてろ!」
良二の言葉に、亜也人が、息を飲み込むように喉を波打たせる。
少し力を入れて押せば簡単に潰れてしまいそうな細い喉。自分を見上げる弱々しい目、儚いまでに華奢な身体。
亜也人を見ているうちに、良二は、自分が亜也人の命を握っているような、自分が亜也人の運命を左右する鍵を手にしたような、奇妙な感覚にとらわれた。
亜也人を生かすも殺すも自分次第。
殺す、という選択肢は無かったが、目の前の美しく脆い存在の行く末が自分の手に委ねられているのだと思うと、良二の胸は、これまでにないほど弾み、甘く疼いた。
「今までどんなことされてきたか言ってみろ」
唇を吸い、顎からうなじへと舌を伸ばしながら、亜也人に返事を催促した。
「言えよ。便所扱いされたんだろ? 誰に何された? 俺が全部聞いてやる」
シャツを胸の上まで捲り上げ、ピンク色の小さな乳首を唇でつまむ。
そうされることに慣れた乳首は、すぐにぷっくりと硬く尖って良二の唇を押し返す。卑猥に尖った乳首を、硬さを確かめるように舌先で包んで揉み潰し、乳輪ごと口に含んで舌の先でレロレロと転がすと、亜也人が薄っぺらい身体を仰け反らせ、白い胸を突き出して、んアぁッ、と泣いた。
「んふッ、ん、んぁあぁッ……」
「こんなふうに舐めてもらったか? それとも、もっと乱暴にされたのか?」
「いっ、いやぁ……い、痛いのは……」
根元に歯を立てて甘噛みすると、途端に亜也人が、イヤイヤと首を振る。尋常ではない嫌がりように、亜也人が普段どれほど痛い目に遭わされているかが伺い知れる。
「痛ぇことはしねぇよ」と甘噛みを解き、唇で挟んで優しく吸い上げた。
「ああぁ……っ、んぁあ……んはぁぁ……」
「これ、好きか?」
「んあぁぁッ……」
「言わなきゃまた痛くすんぞッ」
「あっ、いやぁッ!」
一瞬、歯を当ててすぐに離す。噛んだ部分をいたわるように舐め、乳首周辺をゆるゆると舐めながら、もう片方の乳首を指の腹で擦り上げた。
「乳首いじられんのイヤなんか?」
「い、痛いから……」
「なら、優しくすりゃいいんだな……」
「……ッ」
舌の先で唾液をすくい、乳首の表面に塗り付けて滑りを良くしてから、ゆっくり丁寧に舌を這わせる。根元から吸い上げるのではなく、キスをするように軽くチュッと吸い、唇で優しく揉んで、舌先で転がした。
「これならいいか?」
亜也人が小さく、「ん」と喘ぐ。
身体の緊張も徐々にほぐれてきている。
亜也人の反応を見ながら、赤く腫れた乳首を左右交互に舐めしゃぶり、乳首を擦っていた手を徐々にみぞおちに滑らせた。
ズボンの上から股間をまさぐると、途端に、亜也人が両足をギュッと閉じる。
「い、い、い、イヤッ! 待って……」
「いまさら恥ずかしがるこたぁねぇだろう!」
「だっ……だって……」
ズボンを引き下ろし、下着の生地に浮かんだペニスの膨らみに手を添える。緊張しているせいか、ペニスは小さく縮こまったままだ。それでも、生地の上から口に含んで根元を扱くと、竿の部分が徐々に芯を持ち、先端がゆっくりと持ち上がった。
「勃ってきた……」
硬く膨れた輪郭を指で挟み、先の部分を口に含んだ。
完全に勃ち上がったペニスは、少し舐め回しただけですぐに甘じょっぱい蜜を滴らせる。
「すげぇ、いっぱい出てんぞ……」
生地に口を付けてチュゥと吸うと、亜也人が腰を捻って抵抗した。
「ダっ、ダメッ! 下着、汚れるッ!」
「うっせぇな。こんくらい気にすんな」
「だッ、だめッ! 下着、汚れると、かっ、母さんが、し、心配するッ!」
「母さん、だぁ?」
自分でも呆れるほど素っ頓狂な声を上げ、良二は、亜也人の股間から顔を上げた。
「中三ンにもなってまだカァチャンとか、どんだけお坊ッちゃまなんだよ」
仕切り直して下着に手を掛ける。
そっとめくると、形の良い肉桃色のペニスが顔を出し、思わず、ヒュゥ、と口笛を吹いた。
「なんだこれ。ひょっとして全然使ってねぇのか?」
色素沈着のない、ほんのりと赤みがかった肉桃色の皮膚、サイズは大きすぎず小さすぎず、つるんとした質感の陰茎が、根元から形良く真っ直ぐに伸びている。
まるで、子供のペニスがそのまま大きくなったような印象を受ける。それでいて、形は着実に大人へと成長し、丸みを帯びたカリの先から卑猥な蜜を滴らせている。
そのギャップが良二の官能を刺激した。
「こりゃ、たまんねぇな……」
太ももまで下ろした下着を膝に溜まったズボンと一緒に足首から抜き取り、両膝を開いて股の間に顔を埋めた。
勃ち上がったペニスを咥えると、亜也人がビクンと腰を跳ね上げる。
「い、いやぁ……」
「なんだよ。しゃくられたことぐらいあンだろ?」
閉じようとする脚を、股の付け根から真横に開いて押さえ付け、口に咥えたペニスを先っぽから根元にかけて一気に奥まで飲み込んだ。
舌を絡めて吸い付くと、硬く勃起したペニスが舌の上でビクビク跳ねる。
口の中の熱い昂ぶりを頬を窄めて吸い上げ、唾液を絡ませながら頭を激しく上下に動かした。
「あああ……っ、あっあぁ、あぁぁっ、ちょ、まって……」
亜也人のペニスが、良二の口の中で更に硬さを増して反り返る。
「だ、だめッ……離してッ……離れてッ!」
先走りがどんどん濃くなっていく。
そろそろか。
思っていると、亜也人が、「はあぁぁッ!」と叫んで腰をガクンと硬直させた。
良二は、亜也人のペニスを口に含んだまま、問答無用に流れ込む熱い迸りをそのまま飲み干した。
「え、ウソ、なんで飲んで……」
「知るか」
身体を起こし、膝立ちで亜也人の胸元に移動し、首の上に跨がって男根を亜也人の唇に突き付けた。
「次はお前の番だ」
自分のモノとは明らかに違う、恐ろしくいきり立った赤黒い男根に、亜也人がギョッと目を丸める。
その反応に、良二は微かな気恥ずかしさを覚えた。
「仕方ねぇだろう。お前の身体いじってたらこうなっちまったんだから……」
エラの張った先端を唇に押し付け、腰を突き出して口の中にズイッと押し込んだ。
亜也人は、一瞬こそ舌で押し返したものの、すぐに良二の男根に舌を添わせ、喉の奥に咥え込んだ。
舌先を伸ばして男根を包み、唇の内側でギュッと締め付け、口を窄めてズズッと吸い上げる。
ずいぶんと手慣れた様子だ。
通常ならば、ウゲッ、と嘔吐いて苦しそうにするものを、躊躇いもなく呑み込み喉の奥で締め付ける。
清純そうな顔をして、男の喜ばせ方はしっかり仕込まれている。
そもそも、寺田亜也人はこういう男だ。端正な顔立ちとウブな反応に惑わされてしまっていたが、寺田亜也人は、男たちの慰み者だった。男たちに、『便所』と嘲られるほどに。
解っていたはずの現実が、ここへきて、予想外に良二を苛立たせた。
「何人の男にこうしてきたんだ……」
「へ……」
「今まで散々やらされてきたんだろ? 何人とやったんだ」
亜也人は、良二の男根を口の中からブルンと吐き出し、良二の顔色を伺うように、おどおどと睫毛を瞬かせた。
「わからない……」
「わからないだと?」
「数えてないから……」
瞬間、火に炙られたように身体がカッと熱くなり、良二は、思わず亜也人の髪を掴んだ。
「数えきれねぇほどしゃぶってきた、ってわけか!」
亜也人が咄嗟に肩を竦める。
震える瞳を睨み付け、掴んだ髪を後ろに引いて顔を上げさせた。
「野郎のチンポがそんなに美味えか! このエロガキがッ!」
「ちっ、違……違いますッ!」
「何が違うんだ」
「お、俺じゃなくて向こうが勝手に……。お、俺は嫌だって言ってるのにッ、向こうが俺のことッ……」
そこまで言うと、亜也人は、突然、グッ、と喉を鳴らし、瞳の奥からジワジワと涙を溢れさせた。
「おッ……俺は嫌なのに、俺は嫌だって言ってるのに……」
先ほどの涙も癒えないうちに、再び大粒の涙が頬を伝い流れる。
けれどやはり泣き声は聞こえない。目も開けていられないほど涙を流しながら、それでも亜也人は、先ほど同様、泣き声を殺して小さくヒッヒッとしゃくり上げている。
見ているうちに、良二は、自分の胸の内側に、同情とも憐れみとも言えないやるせない思いが広がるのを感じた。
「そうやってビクビクしてっから相手が調子に乗るんだ。無理やりヤラレるのが嫌なら、もっとシャンとしろ!」
髪を掴んだ手を離し、手首を縛っていたタオルをほどいて亜也人の両腕を自由にすると、亜也人がすぐさま顔の上でクロスさせて泣き顔を隠す。
上半身を波打たせてしゃくり上げる白い身体を見下ろしながら、良二は、首の上に膝立ちになった上半身を腰まで後退させ、四つん這いの姿勢で亜也人の上に覆い被さった。
「自分には手の届かない高嶺の花を手に入れるにはどうするか知ってるか? めちゃめちゃに踏み付けて弱らせるんだ。自分が高嶺の花だなんて忘れちまうぐらいこてんぱんに叩きのめして、何も考えられなくさせてから強引にモノにする。普通じゃ手に入らねぇモンを手に入れるには、普通のやり方じゃぁダメなのさ。そういう相手は常に弱わらせておく必要がある。それこそ、逃げ出す気も起こらないぐれぇにな……。お前は、それだ」
語気を強めると、泣き腫らした赤い目が腕の隙間から良二を見上げる。
救いを求めるような瞳に、良二の胸の内側にくすぶっていたやるせない思いが一瞬大きく波立った。
「そうやって顔色を伺うな! お前は綺高嶺の花なんだ! 自分が簡単に手に入るようなタマじゃねぇってことを忘れるな! レイプされるのが嫌なら自分を弱らすな! レイプされてるんじゃない。お前がレイプさせてやってるぐらいに思っとけ。お前が主導権を握って相手を骨抜きにするんだ。そうすりゃお前はもう何も怖くねぇよ。お前の顔と身体は最強の武器になる」
亜也人は呆然と良二を見上げていたが、その瞳は、それまでの深い翳りに包まれた暗い色ではなく、物憂気な中にも小さな光を宿した少年の瞳の色をしていた。
「俺の言ってることが解ったらまずは俺を骨抜きにしてみろ」
「俺……が……?」
ああ、と頷きながら、顔を近付ける。
「痛てぇことはしねぇから大丈夫だ。まずはキスだ。舌を出して俺を誘ってみろ」
唇に視線を落とすと、亜也人が白い歯の隙間から赤い舌をそろそろと差し出す。
熱く火照った舌を舌の先で絡め取り、頭を抱えて激しく絡ませた。
「んんっ……」
「お前も舌を動かせ……」
「あっ……ふぅん……」
固まったままの亜也人の舌をすくい上げ、舌の先を丸めて揉みくちゃに掻き回す。上顎から舌の下側、頬の粘膜、と、口中をくまなく舐め回し、亜也人の舌が柔らかくほぐれるのを待ってから、自分の口の中に引き込んでキツく吸い上げた。
「んんんッ……い、いやッ……」
「なんだ、ベロちゅーもしたことねぇのか?」
「ある……けど……こんな激しいのはッ……んんッ……」
「こんなん序の口だぜ」
閉じようとする唇をこじ開けて舌を吸い出し、舌先を絡ませ合いながら、片手を股間に這わせてペニスを握り込んだ。
強めに握って上下に扱くと、萎えかけた亜也人のペニスが再び硬く膨れ上がる。カリ首をなぞり、親指の腹で裏スジを何度も擦り上げ、先端をクルクルと撫で回した。
「んっ、ふぅぅ、やぁッ……」
爪先を立てて軽く引っ掻くと、ぷっくりと膨れ上がった溝から粘つく液がじわじわと染み出してくる。
それを指先にすくってお尻の間に忍ばせると、亜也人が、「待って!」と腰をくねらせた。
「今度はなんだ!」
「くっ、クリーム! ずっ、ズボンのポッケにあるからッ!」
「クリーム?」
良二は一瞬ポカンとし、しかしすぐに意味に気付いて足元に脱ぎ散らかされたズボンを掴み上げた。
言われた通り、ポケットをまさぐる。
小さなチューブ入りの軟膏、と、コンドーム。
「お前、こんなもんまで持ち歩かされてんのか」
亜也人は、
「それが無いと……痛いから……」
恥じ入るようなボソボソ声で言った。
「まさか、何もなしでいきなりヤラレたりしてんのか」
「ん……いつもじゃないけど……たまに……」
ギリッ、と、良二の奥歯が嫌な音を立てた。
思わず歯軋りしてしまうほどの苛立ち。これが亜也人に対して向けられたもので無いことは解っている。
それでも、こんな仕打ちを当たり前のように受け入れている亜也人にも、少なからず腹は立っていた。
「お人好しもたいがいにしろッ!」
握り締めたチューブを床に放り投げ、机の上に無造作に置かれたローションを手に取り再び亜也人の股の間に腰を据えた。
「見ろ」と、ローションのボトルを亜也人の目の前に突き付け、呆然とする顔を睨み付けた。
「こういうのがちゃんとあるんだよッ! ンな、いい加減なモン二度と使うな!」
こっちの方が痛くない、と前置きし、亜也人に、自分で膝を抱えて尻を開くよう言付け、亜也人がそうすると、目の前の小ぶりな尻の肉を掴んで左右にぐっと開き、お尻の割れ目に直接ローションを垂らした。
入り口に溜まったローションを指先でほぐすように塗り込み、少しづつ指を後孔の中に埋めていく。
狭い。
覚えきれないほどの男たちを相手にしながらも、亜也人の中は、驚くほど狭く、熱く、肉壁を収縮させながら良二の指を締め付ける。
押し返そうとする流れに逆らいながら付け根まで押し込み、ゆっくり抜き差ししながら指を二本に増やした。
「あぁぁっ、あぁ、ッぁ、ぁ……」
肉壁を焦らすように指先で擦り上げ、奥を広げながら丹念にほぐし、十分に柔らかくなったところでベッドの上に仰向けに寝転がり、亜也人に身体の上に跨るよう言い付けた。
「お前の好きなようにやれ」
「え……」
「お前に主導権をやる。お前が自分で入れて、自分のペースでやれよ。お前が自分で入れてるところ見てみてぇ」
亜也人はしばらく躊躇った後、やがて良二の腰の上に静かに跨がった。
良二の股間はすでにこれ以上ないほどいきり勃っている。
十六歳という、世間一般から見ればまだまだ少年の域を出ない幼い年頃でありながら、良二の男根は成人男性と引け劣らぬほど雄臭く逞しく、亜也人の小さなお尻で受け止めるには大きすぎるほどの質量を誇っている。
その猛々しさに戸惑う亜也人を「大丈夫だから」と宥め、亜也人の手を掴んでしっかりと握らせた。
自分で入れるよう催促すると、亜也人が、お尻を浮かせて、熱く火照った先端を後孔の入り口に押し付ける。
先っぽの部分を軽く押し込み、一度大きく息を吸ったあと、長く吐きながら身体をゆっくり落とす。
熱くてキツい。
思ったのも束の間、たちまち熱い肉壁がうねうねと男根に絡み付き、良二は思わず顔を顰めた。
ーーーなんだこれ、クソやべぇ。
キュウキュウと狭く、それでいてふんわりと柔らかい。
ギチギチに締め付けたと思ったら、緩くほどけてトロトロと絡み付く。
肉壁のヒダというヒダが絶妙に蠕動し、緩急をつけながら男根を飲み込んでいく。
「好きなようにやれ」と言っておきながら、良二は、亜也人の身体に男根が収まることすらも待ちきれず、早々に腰を突き上げていた。
「あっ、いやぁぁぁ! ちょっ……まって! やぁッ!」
腰を跨いだ亜也人の太ももを両側から押さえ付け、亜也人の身体が跳ね上がるほどの勢いでズンズン股間を突き上げる。
強烈な揺さぶりに、亜也人が、跳ね飛ばされないよう良二のお腹に手をついてバランスを取る。その手を掴み、太ももの両側から後ろに引っ張って前屈みになった身体を真っ直ぐに起こし、背中が仰け反るような角度でさらに責め立てた。
「あぁぁあッ、そんな奥ッ……だめッ……はぁぁぁッ!」
ヘソを突くように腰を振り上げると、亜也人が一際甲高い声を上げる。
良いところを突いたようだ。
同じ場所を擦りながら奥を突き、亜也人の身体が快楽に身を委ね始めたところで、両手を離し、空いた手を両方の乳首に伸ばした。
「すげぇ。こっちもビンビン……」
「あひッ、いやぁッ……」
赤く腫れた乳首を両手でくるくると撫でながら、奥まで突き入れた男根を揺さぶる。
乳首と後ろを同時に擦り上げると、小さく萎えて揺れていた亜也人のペニスが、再び硬さを持って膨れ始めた。
「こっちも、触ってねぇのに勃ってきた……」
上を向き始めた先っぽを指でチョンと突くと、亜也人が、「あんッ」と悩ましげに眉を顰めて後ろをキュッと締める。
「ほら。どんどん硬くなる……」
「は、はずかし……からっ、も……やめてぇ……」
「自分で扱いてみな」
亜也人の手を股間に誘導し、自分のペニスを握らせた。
上から手を添えて一緒に扱いてやると、言われた通り自分から手を動かして扱き始める。
従順すぎるほどの素直さが胸に迫る。思わず、
「クソッ!」と吐き捨てると、亜也人が、条件反射のように「ごめんなさい」と言った。
「なんでテメェが謝るんだ」
「だって……せきかわさん、怒ってるからッ……お、俺が、何かしたのかと……」
クソッ、と、ひとりでに舌打ちが漏れた。
「悪く無ぇのに謝ってんじゃねーよ。てか、テメェはなんもしてねぇ。むしろ、クソやべぇぐらい可愛いぜ」
言うなり、亜也人のお尻を掴んでガバッと身を起こし、そのまま亜也人の両脚を開いて覆い被さった。
「あっ! せ、せきかわ…さんっ…んんっ」
正常位の姿勢で、根元まで一気に突き入れガンガンと奥を突く。
若者らしい勢いのあるセックスに、亜也人の顔が苦痛に歪む。
「あああぁっ、いた……いッ……せ、せきかわさ……ッ……」
「痛ぇのか?」
「いッ……あっ、ぁんッ……も……許して……あぁッ! ゆ、許して下さ……ぁひッ!」
しかし、勢い付いた思春期の欲情を抑えることは出来なかった。
「チクショウ! 止まんねぇ」
獣のように呻きながら、良二は、亜也人の身体の奥深くを貫いた。
「せっ、せきかわ……さぁん……」
「りょうじ、って呼べよ……」
「りょ……じ……」
「お前は俺が守ってやる!」
もう二度と踏み潰されないように。
ーーーだから俺の側にいろ! 絶対に俺から離れるな!
心の中で叫びながら、良二は、自分を包み込む亜也人の奥深くに熱い精を放った。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
獣が唸るような呻き声が、低く絶え絶えに響いていた。
苦しそうな寝顔。
眉間に刻まれた深いシワ。真一文字に結んだ唇。
額に玉のような汗をびっしりとかき、その玉がいく筋もの雫となって引き攣れた火傷痕を伝っている。
悪夢にうなされているのだろう。
一体どんな悪夢なのか。
思いながら、新庄武志は、ベッドの上に大の字に手足を拘束された積川良二の額の汗を濡れタオルで拭った。
新しく処方された睡眠薬が合っているのか、うなされながらも、良二は比較的大人しく眠っている。
今のうちに目薬も差してしまおうと、棚の上の薬箱から何種類もの目薬を取り出し、枕元に並べた。
その中の一つを手に取り、良二の目蓋を開いて一滴流し込み、五分ほど時間を空けて順番に三種類もの目薬を差していく。
これを一日に四回。
失明は免れたものの、酸攻撃を受けた良二の左目はまだ完全には回復しておらず、一日にこうして何度も目薬を差さねばならない。
目薬を差すのは新庄の役目だ。
そうするよう指示したのは内藤だが、言われなくも、新庄は最初からそのつもりでいた。
メンバーの前では、規律を乱さないよう、うやうやしく敬語を使って部下に徹しているものの、プライベートでは、新庄と積川は、お互い下の名前で呼び合うほど打ち解けた関係を築いている。
その新庄から見て、不規則な生活スタイルに加え、他人から指図されることを嫌う良二が、医者の言い付け通り、朝、昼、晩、と決められた時間に目薬を差すとは到底思えかった。良二には世話をする人間が必要であり、それは自分の役目であると新庄は思っていた。
表向きには内藤の指示に従った形だが、実際は、新庄は、自ら望んで良二の元へ来たと言って良かった。
それは後悔はしていない。
スティンガーのナンバー2としても、積川良二を慕う一人の男としても。
しかし、何も問題が無いかと聞かれたら、正直即答はできなかった。
自分には良二を止められない。
事実、このところの良二の荒みようは、新庄の手に負えないレベルまで来ていた。
嫌でも人目を引く火傷痕、なかなか回復しない視力。思うようにならない身体と慣れない治療へのストレスもあるのだろう。退院するとすぐに、良二は、不眠や体調不良を訴えるようになり、次第に情緒不安になっていった。睡眠薬と安定剤は日増しに増え続け、それに比例して、攻撃性も強くなった。
カッとなったが最後、ところ構わず暴れまくる。
その激しさと言ったら、大の男が数人かがりで制止してもことごとく振り払われるほどの勢いで、メンバーの中には、手酷い返り討ちに遭い、良二と行動を共にするのを嫌がる者まで出てきた。
今の良二は、暴力とセックスを糧に生きている野獣そのものだ。
破壊的な良二が嫌いなわけではない。もともと良二の強さと周りを圧倒する存在感に惹かれ、この男の元で働きたいと、当時所属していたカラーギャングを抜けてまでスティンガーのメンバーに加わった。
その時のリンチの傷痕が、新庄の身体には未だ消えずに残っている。
それほどまでに惹かれた相手だった。
性的な意味とは違う、強烈な憧れ。
絶対的な強さと抜群の喧嘩センスで、若干十七歳にして、関東界隈の族や不良集団を束ねてしまった不動のカリスマ。メンバーだけでなく、敵対勢力からも一目置かれる良二に対し、新庄は、崇拝に近い感情を抱いていた。
それだけに、一昨々年の十一月、神戸へ行く良二の代わりに、頭代行としてスティンガーの指揮を任された時は天にも昇る気持ちだった。
大役を任されたことはもちろん、良二に認められたことが嬉しかった。
期待に応えようと、持ち前の分析力と面倒見の良さで、スティンガーの勢力を拡大し、メンバー間の結束をより強固なものにした。
それを、今、良二が壊そうとしていた。
退院以降、いや、本当を言うと、良二が神戸に行く少し前から、良二の様子がおかしくなっていたことには気付いていた。
きっかけは、良二の恋人、寺田亜也人の突然の脱退。
寺田亜也人はスティンガーのメンバーではないので脱退という表現は不適切だが、良二が亜也人に尋常でないほど入れ上げていたのは周知の事実であり、亜也人のグループ内での位置付けは良二と同等と言って良かった。
その亜也人が、良二が神戸へ行く三ヶ月ほど前の夏の夜を境に、突然姿を見せなくなった。
噂では、当時石破組の若頭としてスティンガーを支援していた内藤が、良二が亜也人に骨抜きにされているのを見るに見兼ねて別れさせたとも、ドラッグの取引でヘマをして相手方に捕まったとも囁かれたが、結局、真相は未だに解っていない。解っているのは、それ以降、良二の顔付きがどんどん険しくなり、言動にも余裕が無くなっていったことだ。
もっとも、メンバーの多くは、亜也人の脱退に胸を撫で下ろし、良二の変化にはあまり気付いていないようだった。
メンバー達は、常日頃から亜也人への接し方に頭を悩ませていた。
亜也人は、男の新庄から見ても息を飲むほど美しく否が応でもメンバー達の視線を集めたが、良二がそれを許す筈がなく、メンバー達は、しばしば良二に謂れのない嫉妬を向けられ、手痛い報復を受けていた。
メンバーにしてみれば、亜也人に会えなくなるのは寂しいが、良二に睨まれずに済むのなら、その方がありがたいというのが本音だったのだろう。
新庄も、ある意味グループのトラブルメーカーだった亜也人が良二の元から離れてホッとしていたのは事実だった。
しかし、この一件が、スティンガーと良二との間に大きな歪を生んだ。
亜也人が離れて一件落着としたと思ったのは大局のごくごく僅かな一面。
亜也人にまつわる良二の嫉妬など実はたいした問題では無かったのだと、新庄は、その後、嫌というほど思い知らされることになる。
ーーー寺田亜也人
良二の変化を振り返る時、いつも必ず頭に浮かぶ男の名を、新庄は、心の中で呟いた。
離れてもなお、いつまでも良二の心を捉えて離さない。
良二の世界は今もこの男を中心に回っている。
亜也人本人は、とっくに外へ逃げ出しているというのに。
「馬鹿なヤツ……」
最後の目薬を落とし、目蓋を軽く押さえて溢れた薬液をタオルで拭った。
目薬を薬箱に入れて棚に戻すと、エントランスからの呼び出しコールが鳴り、リビングのモニターフォンに向かった。
「ヒカリクリニックの者です。先日の治療費の請求書をお持ちしました」
黒縁メガネの男が画面に映し出される。
しらじらしい笑顔。クリニックの関係者を名乗ってはいるものの、この男が裏界隈にかなりのコネを持つ謎の情報屋、紀伊田淳であることは、最初に見た時から解っていた。
どんなに目立たなく装ったところで、持って生まれた華やかさは隠せない。
上品で柔らかい。のんびりしているようでそつがない。
良二が暴れるたび、ワゴン車に乗って颯爽と現れ怪我人を回収していく爽やかな横顔は、新庄がスティンガーに加入した頃から先輩メンバーが噂していた、紀伊田淳のイメージに酷似していた。
その紀伊田が、モニターの向こうで、黒縁メガネの奥の涼しげな目を柔らかく細めて笑っていた。
「郵送してくれと頼んだ筈ですが」
「そうなんですが、今回はちょいと高額なもんで、明細を説明するよう院長に言われまして……」
インターフォン越しに答えると、紀伊田は、細めた目をさらに三日月型に細め、カメラにグイッと近付いた。
もっともらしい理由を付けて上がり込もうという魂胆は見えていたが、“高額”という言葉に新庄の気持ちがグラついた。
内藤宛に請求書を持っていけば即金で支払われることは解っている。しかし、曲がりなりにも良二の監視役を任されている立場上、黙って請求書だけを差し出すわけにはいかなかった。
迷った末に、新庄は、エントランスのロックを解除した。
「へぇ~。なかなか良い部屋じゃないですか。これなら積川くんもゆっくり療養できる……」
内藤が用意した部屋はマンションの高層階にある2LDKの部屋で、玄関を上がるとすぐに洋室があり、対面にトイレとバスルーム、リビングへ抜ける扉を開けると、小さな対面キッチンに二十畳ほどあるリビングが続き、その一角に八畳ほどの寝室がリビングに抱き込まれる形に配置されてる。
良二はそこで眠っている。
睡眠薬が効いているので当分起きてくることはないだろうが、部屋に上がるなり、ソファーに座るよう勧める新庄の声を無視して、我が物顔で部屋を見回す紀伊田が、勢い余って良二の部屋に入ってしまうのではないかと新庄は気が気では無かった。
「説明があるなら早くして下さいよ、紀伊田さん」
新庄の言葉に紀伊田はようやく振り返った。
「あれ? 俺、名前、言ってたっけ?」
人懐こい笑顔が、一転、挑発的な笑みに変わる。
「言われなくても分かりますよ。ーーーてか、あんたのこと知らない人間なんていないでしょうに」
新庄が言うと、
「へ? 俺、いつの間にそんな有名んなってたの?」
一瞬、参ったな、というように唇を歪め、しかしすぐに、「バレちまったもんは仕方ない」と、黒縁メガネを片手でひょいと外し、七三に分けた前髪を頭をブルブルと振って元に戻した。
「気付かれてないと思ってんのはあんただけっすよ」
「おっかしいなぁ。目立たなくしてるつもりだったのに……」
「そんなことより、請求金額と説明。手短にお願いしますよ」
「はいはい」
提示された金額は120万。通常の治療代の他に、傷口が治ってから受ける美容形成術の金額が上乗せされていた。
「やってもいない手術代まで取るのかよ」
「バックれられたら困るかんね。逢坂ちゃんとこもあれで商売してっから仕方ないっしょ。文句があるなら逢坂ちゃんに直接言ったら? 君ら、仲良いんでしょ?」
「なんで俺が……」
冷静を装ったものの、返答する声が詰まるのは防ぎようがなかった。
咳をして誤魔化すと、紀伊田が意味深な笑みを浮かべて新庄の顔を覗き込んだ。
「あれ、おかしいなぁ。逢坂ちゃんの口ぶりだと、ずいぶん懇意にしてる印象を受けたんだけど……」
「気のせいじゃないですか?」
紀伊田から視線を逸らし、請求書を折り畳んで封筒に仕舞った。
これ以上詮索されないよう、自分から先に席を立ち、紀伊田に帰るよう促がす。
新庄の意図を悟ったのか、紀伊田は、食えないヤツ、とでも言いたげに、フンッ、と笑って椅子から立ち上がった。
「ずいぶんせっかちなんだなぁ。せっかく来たんだから積川くんの様子も見ていこうと思ってたのに」
「どうしてあんたが?」
「純粋に心配してるんだよ。こう頻繁に暴れられちゃうちのクリニックもそろそろ対応できないし、精神的なモンが原因ならちゃんとした医者に診せなきゃ解決にならないだろ? 俺も、これ以上キミに請求書届けるの心苦しいしさ。見たところだんだんエスカレートしてきてるみたいだし、キミだって、こう毎回高額請求されたんじゃ、いい加減内藤さんに大目玉喰らっちゃうだろ?」
「それは……」と言いかけ、新庄は慌てて口を噤んだ。
組織の内情など知るわけがないと解っていながらも、紀伊田の柔らかい口調で口笛を吹くようにさらりと言われると、ついうっかり答えてしまいそうになる。
肉弾戦はお手のものだが、心理戦には免疫が無い。
ボロが出る前に追い返そうと、紀伊田の背後に回り、玄関に向わざるを得ない状況を作った。
「とにかく、積川は寝てますんで合わせるわけにはいきません」
「寝てる? 眠らせてる、の間違いじゃなくて?」
「あんた、何言って……」
「見りゃ解ンでしょ。眠剤に安定剤? あんだけ暴れりゃ飲ませたくなる気持ちも解るけど、素人判断で増量すると後が怖いよ?」
知ったような口ぶりが癇に障る。
「心配してもらわなくても医師の診察ならちゃんと受けてるッ!」
思わず声を荒げると、間髪入れずに、紀伊田が、涼しげな目元を悪戯そうに歪めて笑った。
「やっぱ増量してんだぁ……。これじゃストレスで暴れてんだか、副作用でラリってんだか解ったもんじゃないねぇ」
「てめぇ!」
まんまとカマをかけられた。
これにはさすがに頭に血が上った。
しかし、紀伊田は、凄みを効かせる新庄をものともせず、逆に、挑発するようにグイッと身を乗り出した。
「ならますます言っておかなきゃならないな。お節介を承知で言わせてもらうけど、このままだとキミら、共倒れだよ?」
「共倒れ……?」
オウム返しをする新庄を、紀伊田は、今までとは違う厳しい視線で見据え、大きく頷いた。
「積川がヤバい状態だってことは普段のキレっぷりを見れば一目瞭然さ。内藤は積川を後継者にしたいんだろうが、どんなに目をかけたところで、当の積川があんなんじゃ組の連中は誰も付いて来ない。スティンガーの奴らだって、煽りを喰らって相当参ってるんじゃないのかい? いくら結束が堅いスティンガーとは言え、このまま行けばメンバーは皆んな離れて行く……」
「そんなことはない」
平静を装いながらも、首筋に嫌な汗が滲むのを感じ、新庄は、ブルッ、と身震いした。
「キミも、積川ばかりに構ってたら、そのうち連中からソッポを向かれるよ?」
含みの目付きで言うと、紀伊田は、「なんちゃって」と、厳しい表情を元の柔らかい表情に戻し、くるりと踵を返して部屋を出て行った。
「言われなくても解ってるさ……」
颯爽と出て行く背中を睨みながら新庄は呟いた。
結束力の堅さは、トップの統率力に比例する。スティンガーの場合は、積川を中心とする一大ピラミッドの統制がしっかり取れていれていたことで堅い結束力を誇ってきた。
しかしそれが今崩れつつあった。
自分の方を見ないボスに仲間が付いて来る筈もない。
頭代行である新庄も然り。新庄自身、身をもって思い知らされている筈が、自分もまた同じ思いを仲間たちにさせている。
しかし。
と、新庄は、良二が眠っている部屋に目をやった。
「あんな状態の良二を見捨てろって言うのか……」
良二はまだ悪夢にうなされている。
眠りについてもなお苦悩から逃れられない良二の歪んだ寝顔を思い浮かべながら、新庄は、怒りにも似た感情を噛み潰した。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
恋人、という響きに、藤井と名乗る男は、ボコボコに殴られ変形した顔をギョッと引き攣らせた。
「こいつは今日から俺の恋人だ。金輪際こいつには手を出すな」
「ちょっ、ちょっと待って下さい! そいつは俺の……」
引き攣った顔が、今度は一転、泣きべそ顔になる。
あれほど叩きのめしたのにまだ懲りないのか。亜也人を便所扱いしていたくせに、この後に及んで、宝物を取り上げられるかのような悲痛な目で亜也人を見る。
こういう往生際の悪い人間が良二は一番嫌いだった。
男としての意地もプライドも無い。こんな男が長い間亜也人を捕らえ、我が物顔で身体を弄んでいたのかと思うと、蹴り殺したくなるほどの怒りに駆られる。
引導を渡すつもりで、胸ぐらを掴んで思い切りねじり上げた。
「こいつに手ェ出しやがったらただじゃおかねぇ! お前だけじゃねぇ。お前の仲間や周りの奴らもだ。お前に関係のある奴らがこいつに何かしやがったら、そいつもお前もまとめて始末してやるからそのつもりでいろッ!」
亜也人は、二人のやり取りを隣で棒立ちになって眺めている。
なんとも言えない表情だ。
信じられないものでも見るかのように、黒目がちな目を大きく見開き、唇を真横に結んで立ち尽くす。
良二の怒号に狼狽えることもなく、亜也人は、足をもつれさせながら逃げ去る藤井の後ろ姿を心ここに在らずといった様子で眺め、藤井の姿が完全に消えてなくなると、叱られた子供のようにおどおどと良二を見上げた。
「俺、積川さんの恋人……なの?」
切なくなるほど真っ直ぐな瞳。
「嫌なのか?」と聞くと、途端に、ブンブンと首を振る。
「まさかッ! う、嬉しいです。すっ……凄くッ……」
そのいじらしさ。
従順で控えめで純粋。
まるで、飼い主を見つけた仔犬のような、真っ直ぐでひたむきな瞳。
見た瞬間、良二の胸の底に甘美な疼きが沸き起こった。
ーーーこいつは俺がいないと生きていけない。
唐突に、本能的に、良二は直感した。
「俺の恋人になれてそんなに嬉しいか」
「はいッ! 凄く、嬉しいですッ!」
亜也人は、少しの疑いもなく良二を見上げている。綺麗な白眼がみるみる赤く染まり、吸い込まれそうな黒い瞳が涙に埋まる。衝動的に、良二は、亜也人を胸の中に搔き抱いていた。
「オーバーな野郎だな。それと、良二でいいから……。俺も、亜也人、って呼ぶし」
「りょう……じ」
顎を掴んで上を向かせると、亜也人が察したように小さく口を開く。
そのまま唇を引き寄せ、亜也人の口の奥深くに舌を突っ込み、荒々しく掻き混ぜた。
「あんぅ……んっ……」
緊張して萎縮した舌が徐々に緩み出し、やがてトロリと寄り添うような舌ざわりに変わる。
「俺が必要か? 亜也人……」
「んっ……は……はいッ、ひふよぉ、れ……す……」
「聞こえねぇよ……」
「ひッ……ひふようれすッ! ふあッ……」
「なら側にいてやる」
深く激しく舌を絡ませ合い、溢れる唾液を互いの舌ですくい、舐め合い、啜り合う。
今、自分の手の中にすっぽりと収まり熱い吐息を漏らす従順な存在が、他の男の所有物であったことが腹立たしく、それが良二の欲情を余計に煽り立てる。
「俺が好きか?」
「すき……ッ……」
「俺がいねぇと困るか? 俺にいて欲しいか?」
「ん……」
他の男の痕跡を消すように、良二は、亜也人の舌をがむしゃらに貪り、千切れんばかりに吸い上げた。
「なら、俺から絶対離れるな」
うなじに手を回し、正面を向かせて返事を催促した。
すると、突然、強い風が吹き、同時に手の中がフワリと軽くなった。
「亜也人……?」
あああ、と悲鳴にも似た声が漏れる。
亜也人の身体が風にさらわれ、細かい粒子となって腕の中からするすると抜けて行く。
「亜也人!」
叫んで手を伸ばしても間に合わない。
追いかけようと足を踏み出すと、たちまち真っ黒い闇がもくもくと立ち上がり、良二を深い闇で推し包んだ。
「亜也人!」
俺がいないと困ると言ったくせに!
俺が必要だと言ったくせに!
何もない真っ暗闇の中で、良二は、何度も亜也人の名を叫んだ。
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