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〜陰獣たちの宴
しおりを挟む鼻腔に流れ込む青臭い匂いに、生流の意識が朦朧とし始めていた。
「大麻を混ぜてます。もう十五分ぐらい吸わせてますかね。少し臭いますが、いきなり使って吐かれても困るんで、まずはリラックスさせてからと思いまして……」
「この前の子は酷かったからなぁ。俺は嫌いじゃないが、せっかくの革張り椅子が汚れてしまうからねぇ」
「ええ」
声が近付く気配を感じて目をやると、ぼんやりとした視界の先に見たことのないスーツ姿の男が浮かぶ。
反射的に脚を閉じるものの、M字型に開いて固定された脚は、生流の細い足首を軋ませただけでピクリとも動かなかった。
脚だけでなく、両腕、両手首、胴体、首も固定されている。
田之倉から電話を受けた翌日、眠りこける光哉を部屋に残し、生流は、待ち合わせ場所の駅裏に向かった。
車に乗り込み、勧められたドリンク剤を飲んだあたりから記憶がない。目を開けると、だだっ広い部屋の真ん中でポツリと革張りの椅子に全裸で縛り付けられていた。
椅子といっても普通の椅子ではなく、肘当てのあるべき場所に、本来なら乗せる筈のない脚を乗せるための台が左右に伸びている。その台に膝から下を固定され、爪先が真横に向くほど大きく脚を開かされていた。
鼻と口は酸素マクスで覆われ、そのマスクが、少し前から独特の臭気を放つ煙を鼻から口から一方的に流し込んでくる。強烈な刺激にむせかえる。鼻の奥と喉が痛い。痛いのに、身体がふわふわして気持ち良い。
「なるほど。これならじゅうぶん中学生で通る」
「そうでしょう? 乳首も綺麗なピンク色ですし」
「ああ。まだ色も変わってなくて良いね。色んな男にいじくり回されるようになるとあっという間にくすんでしまうからなぁ……」
田之倉を従えながら近付くと、男は、大股開きで拘束されている生流を舐め回すように見ながら、革張りの椅子に沿って前面に回り込んだ。
「体毛も薄いね。色白だとむしろ目立ちそうなものだが」
「脱毛はしてません。最近のガキは男だか女だか解らねぇ奴が多いですが、コイツの場合は身体のほうも良く解らねぇというか……」
「中性的……」
「そう、それです」
ツー、と、太ももの内側を手の甲でなぞられた途端、生流の背筋にビリリと電気が走った。
「ンふぅッ!」
触れられたわけでもないのにペニスがビクンと跳ね上がる。反射的にお尻をうかせて腰をくねらせると、男が生流の反応を面白がって、太ももの付け根の際どい部分をさらに撫で上げた。
「んふッ! んふふぅんッ!」
足の指を反らせて悶える生流を見ながら田之倉が笑う。
「どうです。葉っぱだけでこの反応です」
「ああ、悪くない……」
そうしている間にも、男の手は生流の睾丸の膨らみスレスレを撫で回し、やがてその手をスッと下げる。
指先が向かったのは、陰嚢の付け根と後孔の間、俗に言う“蟻の門渡り”の部分だ。ふっくらと丸みを帯びた柔らかい皮膚に指先を伸ばすと、男は、逃れようと腰をくねらせる生流を揶揄うように爪先を立てた。
「んふふぅ! ふぅ……んっんん、んふッ!」
指の先を丸めてこしょこしょとくすぐるように撫でたかと思ったら、いきなりトントンと指先で突き、指の腹を押し当てて皮膚ごと上下にブルブルと揺らす。
普段滅多に触られることのない皮膚への刺激に、生流が腰を突き出しながら後孔をヒクヒクと喘がせる。
男が指先を揺らすたび、切ない痺れがお尻の奥に広がっていく。
その指がふいに力強くギュゥッと皮膚にめり込んだ。
途端、ゾクゾクとした快感がお尻の奥から頭へ突き抜け、生流は、「あひッ!」と叫んで腰を跳ね上げた。
「まきか会陰を触られただけでイッたのか。しかも後ろで……」
「脳イキ、ってヤツじゃないですか? それだけ中イキが習慣づいてるんでしょう」
「俺としては、何も知らないところを一から開発してやりたかったが、サロンの客にはむしろ好都合かもしれんな」
「中イキでの乱れ具合は格別ですからねぇ。もっとも本番はガン決まりにキメさせますから関係ないんですけど……」
恥ずかしいという気持ちはあるものの、男に押された会陰の奥が今だにゾクゾクと疼き、おさまらない快感に意識の殆どを持って行かれる。
青臭い煙は止まることなく鼻と喉に流れ込み、しかし、感覚がバカになってしまったのか痛みや不快感は感じなくなっている。
今の生流にあるのは、お尻の中に細かな電流を流され続けているようなジリジリとした疼きと、後孔の肉ヒダという肉ヒダが沸き上がる身悶えるような甘い痺れ。
お尻の奥か切なくて仕方ない。
どうにかして欲しくて、ひとりでに腰が前後に突き出すように動く。
「こらこら、そんなに腰をくねらせちゃ上手く触れないじゃないか……」
ねだるように腰を突き出す生流を揶揄うように、男は、生流のムダ毛の全く生えていないつるんとした会陰をじれったく撫で上げ、玉袋の皮膚を引っ張ったり、睾丸を手のひらで包んで柔らかく揉みほぐしたりしながら官能を刺激する。
男の絶妙な愛撫に生流のペニスがみるみる勃ち上がり、触られてもいないうちから先端をぬらぬらと光らせた。
「おお、おお、ピンク色のペニスをピンピンに勃てて可愛いねぇ」
「あひっ……ひッ……ぁあ……な……ぃでぇッ……んッ……」
「なんだ? なんて言ってるのかよく聞こえないなぁ」
男の言葉を合図に、鼻と口を覆っていたマスクが外される。
新鮮な空気を感じて大きく息を吸い込むと、いきなり口の中に何かをバラバラと放り込まれ、「噛め」と、顎を掴まれ無理矢理口を閉じさせられた。
「MDMAです」
「そりゃ解るが、そんなに飲ませて大丈夫なのか?」
「これぐらい平気ですよ」
味の無い塊がザラザラとした粒になって喉の奥に流れて行く。
しばらくすると、目の前の景色がグラグラと揺れ始め、身体が無重力空間に投げ出されてしまったかのように力が入らなくなった。
そのくせ、お尻の奥とペニスが火を噴いたように熱くなり、堪えきれない喘ぎ声が開きっぱなしの唇から絶え間なく迸る。
「さっそくキマッたか。それにしても、もうこんなに涎を垂らして、ずいぶんとはしたないチンポだ……」
生流の乱れぶりに、睾丸を愛撫していた男の手がペニスの付け根に這い上がり、硬く勃起した根元を人差し指と親指で摘む。そのまま扱き上げるのかと思いきや、男は根元を摘んだだけで竿やカリ首には一切触れてこない。堪らず、自由になる足の爪先をバタつかせると、突然、背中のリクライニングが倒れ、生流のお尻が浮き上がった。
「こっちも綺麗なピンク色だ」
背中が床と並行になるほど倒されたせいで、生流は、おしめを取り替えられる赤ん坊のように、お尻と股間を完全に男の目の前に晒け出す格好になった。
「奥までヒクヒクさせて……迂闊に指を入れたら吸い付かれてしまいそうだ……」
本人が自覚するよりも先に、身体の方が先に男の視線を感じて反応する。
見られていると思うだけで、生流のただでさえ切ないお尻の奥がさらに切なく震え出す。
このどうしようもない身体の疼きをなんとかして欲しい。
しかし男は、火照りを上げる部分にはやはり一切触れず、生流の後孔に鼻息がかかるほど顔を近付け、窄まりを横に開いて充血した粘膜をただ見詰めている。
「ふむ。ケツイキしてるわりには、形の崩れも無いし、変色もない。よほど丁寧に開発されたとみえる」
呼吸にしては荒い吐息が窄まりに振りかかる。
ズクン、と身体がうねる。
焦らされるほどにどんどん性感が高まっていくのが解る。
触れて欲しい部分を、触れそうで触れないギリギリのところでじっくりと攻められることで、逆に意識がその部分に集中し、それ以外のことは考えられなくなってしまう。
ローションを垂らされる頃には、ようやく訪れた直接的な刺激に、窄まりのシワがキュンと締まった。
「中はどうかな……」
男の指がローションを巻き込みながら秘孔に沈み込んで行く。
「んふぅッ!」と生流が甘い鼻息を吐きながら足をピンと伸ばす。男の指の感触にまた小さくイク。前立腺を擦られたわけでもない、ただ粘膜を掻き分けられただけでゾクゾクとした甘い痺れが走り肉壁がキュンと痙攣する。
身体がおかしい。こんなことは今まで無かった。
生流は、自分の身体の異変に初めて恐怖を覚えた。
しかし男の指は生流にそれ以上のことを考える暇を与えない。生流が絶頂しているのを知りながら、お構いなしに根元まで埋め込み、小さく引いてさらに奥を突く。
振動が、お腹の奥へ駆け抜ける。
「んはぁっ!」
反射的に背中を反らせると、男の指が偶然感じる部分を直撃し、生流は、弓なりに背中を仰け反らせたまま絶頂した。
「すまん、すまん。敏感になっていたんだったな……」
「あぁぁっ、あうっ……あんんッ、あっぁ……」
言葉とはうらはらに、男は、指先を素早く抜き差しし、探り当てた性感帯を執拗に擦り上げる。
気が狂いそうな快感。絶頂感が止まらない。ガクガクと腰を揺らして身悶える生流に追い討ちをかけるように男が指を二本、三本と増やして行く。
「さすがにいきなり三本はキツいな……」
「弛緩剤を使いますか?」
「いや。本番までまだ時間はある。ゆっくり拡げてやるさ」
「ああああ、あ、あっ、ああ、あふんッ、あッ」
感じる部分を指先でごりごりと潰され、三本の指を狭い後孔の中で開かれて奥の粘膜を拡げられる。
掻き回された肉壁が焼けるように熱い。お腹の奥を拡げながら、時折り指先を小刻みに震わせて前立腺を揺さぶる。それを、肉壁を削ぐように指先を立ててゆっくり引き抜かれると、切ない排泄感に背筋が波立った。
「はうぅぅっ! んはぁッ……はぁッ……」
「おやおや、またイッたのか。今からこんなんで大丈夫なのか?」
「あはッ……はぁッ、はッ、も……やッ……んんッ……」
「ははは。抜かれてヒクヒク言ってやがる。まるでエサに群がる魚の口だな。まったくイヤらしいったら……」
笑いながら、男が、抜かれた指を再び挿入する。
「んァ……あッ……んふぅッ……」
肉壁が待ち侘びたように指先に吸い付いていくのを感じる。
肉壁を絡ませながら、男が指を大きく出し入れし始める。
入れられる時の奥に響く感じ。出される時の排泄感。
しかし足りない。これだけでは身体の疼きがおさまらない。
「もっ……と……もっと……おく……までぇッ……」
もっともっと入れて欲しい。もっと、火照る内側を余すことなく。もっともっと。
この前みたいに。
思った途端、朦朧としていた生流の意識が一瞬にして引き戻った。
ーーーこの前みたいに?
え? と疑問が沸いたその瞬間、頭の中に、田之倉に犯された時の感覚が鮮明に蘇った。
「あひいぃぃッ!」
あの時の、天にも昇る気持ち良さが脳内と言わず身体中にザアァァッと駆け巡る。細胞の一つ一つが沸き立つ。想像しただけで、ペニスが痛いほど勃起し、淫らな汁をだらだらと滴らせる。
気持ち良い。けれど怖い。
自分が自分でなくなる感じ。自分の中のあさましい欲情が剥き出しになる。
「ぃやぁぁッ! や、やぁッ、いやあぁあぁぁ、アッ、やだぁッ!」
「なんだ? 急に暴れて。バッドトリップか?」
「大丈夫です」
田之倉の声とともに、口の中に味の無い錠剤が放り込まれた。
「おいおい、さっき飲ませたばかりだぞ」
「大丈夫ですって。こういうのは中途半端にやるより、他ごとなんて考えられないぐらいキメてやったほうが良いんです」
「そういうもんかねぇ」
「ええ。ほらさっさと噛め!」
「ひぐぅッ……」
心では抵抗しながらも、生流の身体は与えられた錠剤を噛み砕き、嚥下する。
再び、頭がぐわんと揺れて身体の芯がカッと熱くなる。
「んふッ! いやッ! もッ、あッ、アレ、アレはッ、いッ、いやあぁぁぁッ!」
何度も迎えさせられている小さな絶頂がより大きな絶頂を揺り起こす。
「ほらね」と、田之倉が得意げに笑う。
否が応にも高まる生流の嬌声に触発されたように、男が、後孔に無遠慮に突っ込んだ指を上下左右にぐるぐると掻き回し、感じる部分を揉み潰す。めくるめく快感に、ペニスの先から滴る淫らな汁が自身の下腹をぐっしょりと濡らし、溢れるほど含まされたローションが体液と混じってぐじゅぐじゅと厭らしい音を立てる。
その音がふいに止み、肉壁を掻き回していた指が後孔からスッと引き抜かれた。
「いぁあぁッ、ぬかないでぇぇッ!」
すがるものを無くした肉ヒダが喪失感に打ち震えて生流に懇願させる。
しかしそれも杞憂。指よりも太く大きなモノが後孔からメリメリと侵入し、生流はさらに甘い嬌声を上げた。
「あああぁぁぁっ! これぇッ! これッ……きもちいぃぃぃッ!」
「ははははっ。そうかそうか。ならばもっと気持ち良くしてやらんとなぁ……」
言い終わらないうちに、男が手元のスイッチを押す。
途端、後孔に埋め込まれたモノがビリビリと放電しながら振動し始めた。
「ひぎっ! ひぃいぁあぁッ、ぐふぅ……ふぐッ……」
男が埋め込んだのは、電極を埋め込んだバイブレーター。
バイブを使われるのも初めてなら、お尻の中に電気を流されるのも生流は勿論初めてだ。
これまで味わったことのない刺激が直腸の奥のさらに奥を突く。
「ぁあっ、はぁあぁっ、もっ、漏れちゃうぅっ!」
「なにが漏れるんだ?」
「……っかんない。……おっ、おしっ……こ……おしっこ、もれちゃ……ふぅぅぅん!」
ブルッ、と身体が震えたと思ったら、生流の腰が大きく反り返り、生温かいモノが尿道を駆け抜けた。
「うわっ! コイツ、本当にションベン漏らしやがった!」
「まぁまぁ。こういうのが好きな客もいるんだからそう目くじらを立てるな」
男たちの会話も生流の耳には入らない。正直それどころではない。電流の痺れとバイブの振動が性感帯を痛め付け、身悶えるほどの快楽が襲いかかる。
錠剤を追加されてから明らかに感度が上がっている。振動に誘発された放尿にすら絶頂感を覚えてしまう。
その間も後孔への通電は止まない。尿を漏らしながら身体を小刻みに跳ね上げる生流を見ながら、田之倉が、「打ち上げられた魚みたいだ」とはしゃぎ、男が笑った。
「見ていて気持ちの良い反応だね。こういう素直な反応をする子は可愛くて好きだ……」
「あはぁ……んんんッ……んあぁッ……」
男は、その後も何度もしつこく通電させては生流を跳ねさせて弄び、それに飽きると、ようやく電極付きのバイブを後孔から引き抜いた。
裂けるほどとはいかないまでも成人男性の平均サイズより二回りは大きいバイブを引き抜かれ、生流の後孔の入り口がぱっくりと口を開けて充血した粘膜を覗かせる。
指を抜かれた時とは比べ物にならない喪失感に、行き場をなくした肉ヒダが切なく蠢き始める。
生流の身体が代わりを求めてひとりでに腰をくねらせて挿入をねだると、その、卑猥な動きに男が苦笑いした。
「可愛い顔をしてすっかり淫婦だな……」
「まさに理想的、ではありませんか?」
田之倉の言葉に、男が、「うむ」と頷き、生流の身体から引き抜いたばかりのバイブを手渡す。
それを合図に、田之倉が、部屋の隅からガチャガチャと音を立てながらローラー付きのスタンドを生流の足元に運び込んだ。
「では、そろそろ準備に取り掛かるとするか……」
一見点滴のように見えるが、フックにぶら下がるのはバケツ型の大きなポリ容器。容器の底からは長いチューブが伸びており先端のノズルは男の手に握られている。
朦朧としているとはいうものの、見上げた先の異様な光景に生流の眉間が歪む。イヤイヤと首を振って抵抗すると、男は、手にしたノズルにローションを馴染ませながら、涼しげな目元を細めた。
「心配するな、ただの浣腸液だ。とは言え、今日は長丁場になるからしっかり空っぽにしてもらうよ」
抵抗しようにも、四肢を椅子に縛り付けられているせいで逃げれない。唯一動かせるお尻も押さ付けえられ、問答無用にノズルを後孔に捩じ込まれた。
「あっ、んっんんっ……」
「なんだ。抵抗するわりにはずいぶん気持ち良さそうじゃないか」
パチン、とストッパーを外す音とともに生暖かい薬液が後孔から流れ込む。
100ml、200ml、300ml。ポリ容器のメモリが減るにつれ、生流の下腹がポッコリと膨れ上がる。
痛い。苦しい。しかし、薬液が止まる気配はない。
容赦なく流れ込む薬液に、生流の唇が恐怖に引き攣る。
「やぁぁぁ! おなか、爆ぜるぅっ! おなかぁぁぁぁッ……」
「まずは500mlだ。ゆっくり入れてやるから安心しろ」
「あひぃぃッ……」
お腹が痛い。
思った途端、お腹がぎゅるぎゅると嫌な音を立て始め、猛烈な痛みと排泄感が生流に襲い掛かった。
「いぃぃぃぃ、いたあぁぁぁッ! あぁッ、イッ、痛いぃッ! 痛ッ! んぁぁぁぁっ! やぁぁッ!」
「まだまだ。もうあと500mlはいくよ」
「ひぐぅッ……むっ、無理ッ! 無理れすッ! ぅあッ……もっ、痛ッ……漏れちゃうッ! もッ……漏れちゃ……ッ!」
生流が泣こうが喚こうが、男は全く手を緩めない。
むしろ、顔を真っ赤にしながら歯を食い縛って耐える生流を愉しそうに眺めている。
そうしている間にも、ポリ容器の薬液はどんどん減り、それに比例するように生流の白いお腹が丸く盛り上がる。
こうして合計1リットル。やがて容器がカラになると、男は薬液を詰め込まれて膨らんだ後孔の窄まりを指で押さえながらノズルを抜き、代わりに取手の付いた小さなプラグを差し込んだ。
「これで五分間我慢しろ」
薬液を流し込まれることからは解放されたものの、お腹の痛みと排泄感が更に勢いを増して生流に襲い掛かる。口に含まされた錠剤も、生理的な衝動を完全に紛らすことは出来なかった。
「そうそう。浣腸してるとこは全部撮影してるから。もちろんキミが盛大にお漏らしするところもバッチリ撮らせてもらうよ。こういうのを好きな客もいるんでね」
「いやぁぁッ……ひぐッ……も……ぃやぁだぁ……」
懇願というより、生流の口から発せられるのはもはや悲痛な泣き声だった。
自分の力ではどうにもならないところまで追い詰められていた。
「あああッ! 出ちゃうぅッ! ひいぃぃあぁぁんッ……」
激しく首を振りながら、生流は子供のように泣きじゃくった。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
その後も生流は、お尻から大量の薬液を何度も注入され、男と田之倉の見ている前で、お腹の中が空っぽになるまで排泄を強いられた。
何リットルもの薬液を入れられ、お腹を妊婦のように膨らまされ、男と田之倉の目の前で無色透明の浣腸液だけを吐き出すようになるまで繰り返し排泄させられる。
その一部始終はビデオに収められ、マニアな客にオプションとして提供されるのだ。
十七歳の少年が経験するにはあまりに過酷な行為を強いられ、生流の目からは大粒の涙が溢れ、唇からは悲痛な叫びが絶え間なく迸る。
しかし男は、「まだマシなほうだ」と情けすら掛けない。
「キミはこうして私が綺麗にしてあげたけど、中には、サロンのパーティーで公開排泄させられる子もいるんだ。いつだったか、加虐嗜好の強い客に目を付けられたキャストが、お腹に大量の牛乳を詰め込まれて天井から海老反りに吊るされたことがあってね。その状態で腹を蹴ると尻から牛乳が噴き出して面白いってんで、皆んなで寄ってたかって腹蹴りだよ。クスリでぶっ飛んでいたとは言え、アレは見ていて辛いものがあった。それに比べて、キミは私たちにこんなにも手厚く洗浄してもらえるんだから、むしろ感謝してもらいたいぐらいだよ」
男の言葉を生流はしくしくと泣きながら聞いていたが、一方で、自分がどうしてこんなに泣いているのか自分でもよく解らなくなっていた。
トラウマになるほどの恥辱を受けながら、悲しいとか絶望といったマイナスの感情は不思議と湧いてこない。むしろ恐ろしいほど何も感じなかった。
正確には、感じられないようにさせられていた。幸か不幸か、田之倉に無理やり飲まされた錠剤が生流の思考をひどく鈍感にさせ、本来なら感じるはずの羞恥心や自尊心を麻痺させていた。生流はただ、お腹の痛みによって引き起こされる生理的な涙を瞼に溢れさせながら、それが頬を伝って流れていくのを他人事のように受け止めていた。
そうして涙も枯れかけた頃、男はようやく浣腸液のぶら下がったスタンドを後ろに引っ込め、椅子に縛り付けられた生流の拘束を解くよう田之倉に指示した。
「さすがにこれでイクとこまではいかなかったか」
「初めてでこれだけの量を入れられれば上等でしょう……」
手、足、膝、胴、全ての拘束を解くと、田之倉は背中のリクライニングを起こし生流の身体を柔らかいバスタオルで包み込んだ。
「おいッ」という掛け声とともに部屋の外から見覚えのある男が現れ、生流の腕を肩に担いで椅子から下ろす。
二日前、田之倉とともに生流を陵辱した男の一人だ。朦朧としていたものの、男の上背のある体格と、肩を抱いた時のゴツい手の感触には覚えがあった。
男は、生流の肩を担いだまま膝裏をすくい上げて軽々と抱き上げると、別室のバスルームへと生流を運んだ。
段差の付いたバスタブの中に生流の身体を横たえ壁についたスイッチを押すと、ヴィーンという音とともにシャワー状のお湯が両サイドから勢いよく噴き出し、瞬く間にバブルバスが完成した。
「隅々までしっかり洗ってやれ」
田之倉の言葉に、男が、手にしたスポンジを生流の身体にゆっくりと這わせていく。
お湯の温かさとバブルの優しい匂い。肌の上を滑るスポンジの柔らかい感触に、生流はふと光哉の部屋のお風呂に入っているような錯覚を覚えた。
そういえば茅野さんはどうしているだろうか。
ふと思い、ピアスの光る一重瞼の目尻の切れ込んだ目元を思い浮かべる。
田之倉から呼び出しの電話を受けた後、生流は、体調不良を気遣い側に付いていてくれた恭平に不安な胸の内を打ち明けようと何度も口を開き掛けた。しかし、ためらう気持ちに喉を塞がれ具体的なことは何一つ言えなかった。
『こんなことが知れて光哉に嫌われたくはないだろう?』
田之倉の言うように、光哉には嫌われたくない。そのためには誰にも知られるわけにはいかない。
しかし、それ以上に、恭平に知られることに抵抗を覚えた。
田之倉にされたことを知ったら恭平はきっと嫌な思いをする。
確かな根拠があるわけでもなく漠然と生流はそう感じた。嫌われたくないという気持ちよりも、恭平に嫌な思いをさせたくないという気持ちが生流を思い止まらせていた。
そうしているうちに光哉が帰宅し、生流は、肝心なことは何も言えないまま、光哉と入れ替わりに自宅へ戻る恭平の背中を見送った。
不安な気持ちを抱えたまま夜を明かし、翌朝、まだ陽も上り切らない早朝、光哉を起こさないよう一人でこっそり部屋を出た。
あれからどれくらい経ったのか、時間の感覚が全く掴めない。
いつもならお昼前には恭平が部屋を訪れ、光哉のスマホに届いた注文の確認やデリバリーのルート決めなどを行う。
自分がいないことを知ったら恭平はどう思うだろう。
心配してくれるだろうか。
兄貴肌で面倒見の良い恭平のことだから、少しは心配くれるに違いない。
思いながら恭平の姿を想像する。
途端、血相を変えて部屋を飛び出す恭平の横顔が頭に浮かんだ。
生流の頭の中で、恭平は、ところどころピアスの浮かぶ野性味溢れる顔を歪ませ、『生流、生流』と叫びながら街中を探し回っていた。恭平の、地面を蹴るコンバットブーツ と風に翻るMA1のオレンジ色の裏地を想い浮かべながら、生流は、今、頭の中に浮かんでいる光景が本物であったら良いのにとしんみり目を細めた。
光哉に想いを寄せながら、何かあると真っ先に思い浮かぶのは恭平の顔。
脅され強要されて始まった関係であったが、恭平が最初のイメージほど悪い人間でないことは、これまでのやり取りの中で充分感じている。だから……。
ーーーだから?
唐突に沸き起こった感情に生流は自分で自分に問いかけた。
ーーーだから……なに?
頭より先に胸がトクンと鳴る。
既に答えは出ている。
しかしそれを認める前に野太い声が生流を現実に引き戻した。
「しっかり立て!」
いつの間にか二人の男に両脇を支えられて床の上に立たされ、生流は、自分を運んできた男に泡だらけの身体をシャワーで洗い流されていた。
その後、三人がかりで濡れた身体を拭かれ、手首に金属製の手錠をかけられ、首に重厚な首輪を嵌められ鎖を付けられる。
身に付けているものは他に何もない。
思いきや、田之倉の部下が、タオルやドライヤーの入った可動式のワゴンから銀色に光るリングを取り出した。
「これがなんだか解るか?」
指で輪っかを作ったような大きさの金属製のリング。真ん中の連結部分がカパっと開くようになっており、広げた状態で生流の目の前にかざすと、男は、意味深な笑みを浮かべながらそれを生流のペニスの根元にカチリと装着した。
「な……にっ……?」
「これはペニスリングといって、お前のチンポを締め付けて射精できないようにするための道具だ。感じやすいお前にはちょいとキツいかもな」
ニヤニヤと笑いながら、男が、根元を冷んやりと締め付けるリングをいやらしく指でなぞる。
「くぅッ」と生流が膝を折って身悶える。
MDMAの薬効で皮膚感覚が敏感になっている生流はたったこれだけの刺激でペニスを勃起させる。
途端にキツくなった根元に、生流はリングの意味をようやく理解し戰慄した。
「やぁ……だぁ……とって……これ、とってぇ……」
半泣きで訴える生流を見て男が笑う。
「可哀想だがコイツは取れねぇよ。新人はこれを装置するのがサロンの決まりだ。ちなみにお前はこれから大事なお客様に丸一日、二十四時間ぶっ通しで犯され続ける」
「ど……して……俺がなにを……」
「お前はなにもしちゃいねぇよ。お前はただ選ばれたんだ」
「選ばれ……た……?」
男は、「イエス」と、大袈裟に頷いた。
「奴らは若くてキレイな男をご所望だ。何かあるとしたら、それはお前がそのツラで田之倉さんの前にのこのこ現れたことだろうなぁ」
唇の端を片方だけ吊り上げて言うと、男は再びワゴンに手を伸ばし、透け透けの真っ赤なレースの下着を取り出した。
それを生流の目の前に高さにチラつかせると、サイドのゴムに指を引っ掛けて横に伸ばす。
女物にしても小さすぎる。前面は申し訳程度の小さな三角形。後ろにいたってはほとんど紐一本。
生流の腰周りが女のように細く小振りとはいえ、勃ち上がったペニスを隠すにはさすがに小さくカリの部分がまるまる布地からはみ出てしまう。
男はそれを見て笑い、下着からはみ出した部分を揶揄うように指先で摘み上げた。
「んやぁッ!」
手加減なしの刺激に生流がガクンと膝を折る。
ペニスがグッと反り返り、根元のリングがさらにキツく食い込む。
予期せぬ苦痛に生流が抵抗するが、眉間に苦悶を浮かべて腰をくねらせる抵抗は、かえって男たちを喜ばせただけだった。
「ほら、ちゃんとしまっとかないと恥ずかしいだろ?」
揶揄うように、男が下着を引っぱり上げ、赤く腫れ上がった先端をいやらしい手付きで生地の中に収める。
とはいえ、狭い生地が勃起したペニスを完全に収納しきれる筈がなく、透けたレースの前当てを突き破らんばかりに張り出すペニスのシルエットに、男たちの目がいっそう好色そうに輝いた。
「こんなの目の前にして何も出来ねぇなんて生殺しだぜ……」
満たされない苛立ちをぶつけるように、男は、生流のペニスやお尻を必要以上にベタベタ触りながらショーツを直し、同じく乳首の周りをいじくり回しながらお揃いのブラジャーを着けて生流の身支度を整えた。
生流は、違法ドラッグによる酩酊状態とペニスリングが食い込む痛みに翻弄されながら、覚醒と混濁を繰り返していた。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
着替えを終えると、いよいよ大広間へと移動する。
着替えと言っても、限界まで生地を引き伸ばされたショーツと、乳首しか隠せない小さなブラジャーだ。もはや下着としての機能を失った透け透けの生地と狭すぎる面積は、乳首と股間をより強調し、全裸でいるより卑猥な印象を与える。
事実、パウダールームから大広間へ移動する道中、廊下や扉の前に配置された見張り役の男たちが、首輪に繋がれた鎖に引かれて歩いて行く生流の姿を、はるか前方からじっと見詰め、通り過ぎた後も舐め回すような目付きで見送っている。
普通の精神状態なら耐えられようもない卑猥な視線だが、当の生流本人は意識を保つのがやっとの状態で、周りの視線にまで気を回す余裕は無かった。
男たちの剥き出しの欲望を一身に浴びながら、生流は、引き摺られるまま廊下を歩かされ、大きな扉の前に立たされた。
賑やかな笑い声が漏れている。
賑やかというより、騒々しいバカ笑い。
引率の男が取手を掴んで扉を手前に引くと、その声が扉の隙間から、わあぁぁっ、と大音量で生流の鼓膜を打ち、嗅いだことのない甘酸っぱい匂いが鼻腔を刺激する。
その猥雑な空気を一掃するように、「お待たせしました」とマイクの声が響き、扉が完全に開いた。
「本日初披露の『いづる』です。なんとまだ十五歳! 正真正銘、男子中学生でございますッ!」
大広間には、中央のステージを囲むように小さな円形テーブルがいくつも置かれ、各テーブルごとに、さまざまなコスプレを施された若い男が寝かされ、ハイエナのように群がる客たちの欲望を受け止めていた。
客たちは皆、仮面舞踏会さながら顔半分を仮面で覆っている。それ以外は何も身に付けていない。全裸に仮面を付けただけの男が、よってたかって一人の若者を凌辱している。
壁際に作られたバーカウンターには白い粉が一列に引かれ、客たちがストローを片手に好きな場所から啜り上げている。
透明の瓶に詰められてるのは、赤や、青、ピンクといった毒々しい色味のタブレット。
客の一人が手のひら一杯に握り込んだそれをテーブルにひっくり返った若者の口にねじ込み、若者が、「ウッ! ウッ!」と呻いて白目を剥く。
隣のテーブルでは、身体中に赤いミミズ腫れを走らせた色白の少年が、お尻と口に同時に肉棒を突っ込まれてジタバタとテーブルを叩き、また隣では、お尻に長いチューブをぶら下げた若者が後ろから乳首を捻り上げられて悩ましい喘ぎ声を上げている。
それが、司会者の声でピタリと止み、一斉に入口を振り返る。
次に起こったのはどよめきのような歓声。
皆が、真っ赤なランジェリー姿で登場した生流を大きな拍手と歓声で出迎える。
「どうぞ皆様、この、ピチピチ男子中学生の身体をぞんぶんにお楽しみくださいッ!」
ギラついた視線、卑猥な野次、ヒューヒューと鳴る口笛。にわかに色めき立つ大広間を、生流は首輪に繋がれたままゆっくりと中央に向かって歩き出す。
先にあるのは大きな円形のステージ。
体格の良い大人がゆうに四、五人は寝転べるそのステージは、重厚な台の上に防水加工の施されたクッション性のあるマットが敷き詰められており、一見、大きなベッドのようにも見える。
天井からはプレイ用の鎖や滑車が何本もぶら下がり、おどろおどろしい雰囲気を醸し出している。
ーーー生贄の祭壇。
頭に思い浮かんだ言葉を反芻しながらフラフラ歩いていると、生流の背後でひときわ大きな歓声が上がった。
誰が最初に生流の相手をするか、その権利を懸けたジャンケン大会の勝負がついたのだ。
耳をつん裂くような歓声に生流が思わず足を止めたのも束の間、ジャンケンに勝った色黒の筋肉質の男が駈け寄り、生流を軽々と抱き上げて中央のステージへ運んだ。
「はじめまして。いづる君? だったっけ? んー、さすがに中学生の肌はぷにぷにして気持ち良いなぁ~」
クッションの効いた床に生流を転がすと、男は、筋肉の浮き出た腕で生流を抱き締め、鍛え上げた胸筋を生流の身体に押し付けながら首筋や頬に鼻先を擦り寄せた。
「あー、若い匂いだぁぁッ! 若くて甘いッ! 良い匂いッ!」
スン、スンと犬のように鼻息を立てながら、髪やうなじを嗅ぎ回る。
男の行動はそれだけに止まらず、顎や耳たぶを唇で甘噛みし、舌を伸ばして顔中をベロベロと舐め始める。
乾いた唾液の強烈な臭い。生理的な嫌悪感に生流の背筋が無意識にブルッと震える。
しかしそれも最初のうちだけで、しばらくすると、敏感になった皮膚が快感を見付けてひとりでに疼き出す。
大量に飲まされた違法ドラッグが、与えられる刺激をことごとく快感へと変換していた。
「い、あぁッ、あッ、あ……」
身体が疼きを覚える度に、銀色に光るペニスリングが生流の硬く勃ち上がったペニスの根元に食い込む。
痛みと快楽に悶える生流を、男が助平ったらしい目で眺める。
「かわいそうに。こんなの付けられて苦しいよね。でも、そういう決まりだから仕方ない。自分からお尻を振っておねだりさせるにはこれが一番手っ取り早いらしいからね」
ペニスリングを装置したまま勃ち上がったペニスは、小さな下着をとうにはみ出し、充血した先端を男の目の前に晒している。
無防備に曝け出された先端を掴まれ、生流がビクッと肩を竦める。男は、生流の反応を面白がるように、はち切れんばかりに腫れ上がったペニスの先端をグリグリと捻りながら囁いた。
「つまり、いづる君が、自分からお尻を振っておねだり出来るようになれば直ぐにでも外してあげられるんだ。俺の言ってること、解るよね?」
先端を摘んでいた指が竿を伝い、根元のリングをなぞる。
生流がコクコクと頷くと、男は、リングから指を離し、悪巧みを思いついた子供のようにはしゃいだ様子で上体を起こした。
「じゃあ、まずは、そこで四つん這いになって、両手で自分のお尻を開いてみてくれるかな」
生流に選択の余地はない。
男が見下ろす目の前で、生流は、うつ伏せになってお尻を持ち上げ、自分のお尻を両側から鷲掴みにして左右に開いた。
「んーッ! 思った通り綺麗なアナルだ!」
お尻を突き出しているせいで、ショーツの後ろ部分の紐が後孔のシワに食い込み、思わぬ快感を揺り起こす。
ペニスリングを付けられた生流にははた迷惑な刺激であったが、ショーツの紐を食い込ませながらヒクヒクと喘ぐ後孔は淫猥以外の何ものでもなく、男をますます興奮させた。
「一度に何人も相手する子は、端が腫れて捲れてたり、ドス黒く変色してたりするんだよね。もっとも、あれはあれで興奮するんだけど、俺はいづる君みたいな、何も知らないウブな感じが好きなんだ……」
生流のお尻の谷間に鼻先を埋める勢いで顔を近付けると、男は、左右に開かれた後孔をさらに横に引き伸ばし、紐の上から窄まりをペロリと舐め上げた。
「あひぃッ!」
ぞわぞわとした刺激に勃起したペニスが上下に揺れる。逃れようと腰をくねらせると、表面を舐め上げていた舌が窄まりのシワを突き破って粘膜に侵入し、生流は堪らず悲鳴を上げた。
「あぅッ! いっ……やめ……ひッぁ……」
男は構わず、指先で後孔を限界まで広げ、細く尖らせた舌を窄まりにヌプヌプとねじ込んでいく。
「あぁぅぅんッ、だめッ、お尻……ぁッあぁ……」
「だめ、じゃないでしょ? 俺、「おねだりして」って言ったよね?」
「だって……こんな……ッあ……」
「しょうがないなぁ。やっぱ、もっと激しくしなきゃダメ?」
ようやく舌が離れたと思ったら、今度は、ショーツを乱暴に剥ぎ取られ、四つん這いを崩されて仰向けに返される。
おねだりしろ、と言いながら、むしろ男の方がその隙を与えない。結局、最初からペニスリングを外す気など無かったのだと生流が気付いた時には、生流の後孔には卵型のローターが何個も詰め込まれ、小さなモーター音を上げていた。
「んはぁッ……やだぁッ……これ……抜いてぇ……」
「これで最後だから頑張って」
「んんッ、も、無理ッ……」
最後のローターを押し込むと、男は、生流のお尻の穴から伸びたローターの紐を真っ直ぐに伸ばし、満足げに微笑んだ。
紐は全部で五本。生流の小さなお尻に五つものローターが詰め込まれていることになる。
腸壁を押し上げながら蠢くローターの振動が生流の弱い部分をこれでもかと攻め立てる。
「だめッ! いぐッ! いぐッ……」
「だーかーらー。『ダメ』じゃなくて、『もっと』でしょ?」
言いながら、後孔から伸びた紐を束ねてクイクイッと引っ張る。
途端に、生流が腰を跳ね上げた。
「んふぅぅぅッ!」
「あらら、後ろでイッちゃった? ご主人様の許可なく勝手にイクなんて悪い子だな。罰として中のローターを全部自分で出してもらおうか」
男は言うと、生流の股の間にどっかりと腰を据え、足枷の付いた足首を掴んで大きく開いた。
「さあ、始めて」
生流はわけが解らない。
呆然としていると、ピシャッ、という音と同時に、生流の太ももに焼けるような痛みが走った。
男が思い切りぶったのだ。
「ぐずぐずしてないで早く出しなよ!」
「あっ……えッ……」
「ほら、踏ん張ってひり出すんだよ! いつもトイレでするみたいにさッ!」
「あはあぁぁぁッ……だッ、だぁぁッ……」
ローターの紐をチョンチョンと引かれ、生流がまた腰を跳ね上げる。
五本の紐を一度に引かれると、奥に詰め込まれたローターが後孔の中で折り重なって質量を増す。
「これ以上待たせたら、この紐を一気に抜くよ? きっと凄く痛いだろうね……」
男の言葉に、生流はようやくお尻に力を入れた。
「んふっ、あ、はあっ、はっ」
涙と汗で顔をぐちゃぐちゃに濡らしながら、きめ細やかな肌を赤く染めて瞼をギュッと閉じる。
排泄感に誘われるままに踏ん張ると、肉壁を擦りながらピンク色の卵型ローターが後孔からつるんと滑り出た。
「おおおっ! 出た、出た! 上手いよ、いづる君!」
一個出してしまえば後は同じ。
生流は、同じ要領で二つ目三つ目をひり出し、四つ目も何とかひり出した。
最後の一つに差し掛かった時、男が思い出したように「動画に撮る」と言い出しスマホを構える。その緊張が影響したかのかどうかは不明だが、最後の一つがなかなか出せず、生流は顔を真っ赤にしながら、力一杯いきんでようやくひり出した。
こうして全てのローターを出し終える頃には、生流は汗だくになっていた。
これでペニスを締め付ける痛みから解放される。
朦朧としながら、仮面の奥の男の瞳に目を向ける。
男はすぐに生流の視線に気付いて口元を綻ばせた。
「いやー、凄く良かった。可愛いい画が撮れて俺も嬉しいよ!」
優しい笑顔に生流もホッとする。
それも束の間、いきなり足首を掴まれ、天井からぶら下がる鎖に足枷を繋がれた。
「なッ……」
両足を繋がれたことで、生流は床に背中をつけまたた両足をVの字に開かされて吊り上げられる格好になる。
男の合図で会場内のスタッフが壁に埋め込まれたスイッチを押すと、天井の滑車がガシャガシャ回り、生流の両足を背中が浮き上がるほど持ち上げた。
「な……んでッ……」
ジタバタと床を引っ掻きながらもがく生流を見て男が笑う。
「暴れちゃダメだよ。今のは上手におねだり出来なかったバツだからね。でも安心して。これから俺がちゃんとおねだり出来るようにしてあげるから」
手に握られているのは、通常の十倍はあろうかと思われる大きな注射器。中には茶色がかった液体が詰められ、本来針のあるべきところに針は無く、代わりに先の丸いノズルのようなものが付いている。
それを両手に構えると、男は、両足をVの字に開いて吊り下げられた生流の後孔に先端を当て、ヒクつく窄まりにズブズブと捩じ込んだ。
「あひぃッ!」
容赦なく押し入る冷たい感触に、さきほどの腸が捩れるような痛みの記憶が戦慄となって生流に襲い掛かる。
咄嗟に身を捩ると、ノズルの先端が腸壁を直撃し、ますます生流を震え上がらせた。
「ひぃぃぃッ! いぁあぁぁッ、やだッ、痛いの、やだぁッ!」
男はしかし、首を振りながら狂ったように叫ぶ生流を嬉々とした表情で見下ろしている。
「痛いことなんてしないよぉ。これは、いづる君を天国へと誘う極上の媚薬なんだ。口から飲むより、こうして腸に直接流し込んでやったほうが良く効くからね」
「あひぃぃぃぃッ……」
生流の抵抗を嘲笑うように、男がゆっくり押し棒を押す。
冷たい液体が後孔の奥へ流れ込み、粘膜を覆い尽くす。
熱い。
思った瞬間、カアァッ、と焼けるような熱さが沸き起こり、腸内の粘膜をジンジンと侵し始めた。
「んぁあああぁぁぁぁぁぁッ!」
喘ぎ声ではない。もはや絶叫に近い叫びを上げながら、生流は、快楽の地獄へと落ちて行った。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
「手を引く? マジで言ってんですか?」
恭平の鋭い視線をものともせず、新庄が二十一歳とは思えない凄みのある表情で、「ああ」と頷く。
「上からの命令だ。今日付で任務を解く」
新庄が総代を務める関東最大武闘派集団スティンガー。新庄の言う、上、とは、その後援団体である指定暴力団、石破組を指す。
今回の任務は、そもそも石破組がコカインの密輸に関する敵対勢力の怪しい動きを掴み、調べるよう新庄に指示を出したことから始まった。
スティンガーの専属諜報員として活動する恭平は、指示が出たその日のうちに新庄に呼び出され、今日まで単独で調査を続けて来た。
正直、調査状況は芳しくない。しかし、もうあと一歩のところまで来ている。いまさら退くのはスッキリしない。
「どうしてですか! ちゃんと説明してくださいよッ!」
田之倉の懐にも入り込み、光哉の父親がブラジルの密売組織と繋がっていることも掴んだ。ここで諦めることは、恭平の専属諜報員としてのプライドが許さない。
しかし新庄の答えは変わらない。
「思ったより厄介なのが絡んでる。下手をすればやぶ蛇だ……」
「厄介なのって……」
「米軍……」と、恭平の言葉を抑えつけるように、新庄は、落ち着き払った、けれどもどこか悔しそうな声で言った。
「前々から噂はあったが、どうやら本当だったらしい。飛行機にしろ船にしろ、今のご時世、大量にヤクを持ち込むのは不可能だ、だが、軍の専用機なら話は別だ。奴らはいわば治外法権。さすがの石破組も奴らが相手じゃ手も足も出ない」
「ちょっと待って下さい。だとしたら……」
「ああ。もちろん政府も暗黙の了解なんだろうな。どっちにしても、敵対勢力とかのレベルの話しじゃない。これ以上嗅ぎ回ると返ってこっちがヤバい」
どうりで尻尾が掴めなかった筈だ。
納得出来ない気持ちは消せないが、相手が相手だけにどうすることも出来ない。
「悪かった」と、詫びる新庄に、恭平は無言で項垂れた。
「こちらの都合なんで報酬は払うそうだ。田之倉ンとこの潜入も打ち切り、田之倉には金輪際関わるな」
新庄の言葉はしごく当たり前だ。
これまでも、任務が終われば即座に退散し、関わり合った人たちとも一切連絡を取り合うことは無かった。
しかし今はその言葉が胸に重く響いた。
ーーー生流はどうなる?
田之倉がヤバいことに手を染めているのは間違いない。
しかし、生流は実質田之倉の手の内にいる。
生流を独り立ちさせるため、生流を仕事仲間に加えるよう田之倉に頼んだと光哉は言った。
田之倉から直接仕事を任されるようになれば、生流がこの先一人でも生きて行けるだろうと。
生流は、この先もずっと光哉の側にいることを望んでいるが、光哉は生流が独り立ちすることを望んでいる。
母親は死んで、もうこの世にはいない。
生流には帰る場所が無い。
望む望まないに関わらず、このままでは生流はやがて田之倉に利用されて不幸な行く末へと転がり落ちて行く。
解っていながら、このまま生流を残して姿を消すことは、ある意味、田之倉から手を引くことより何十倍も抵抗があった。
せめて田之倉の元から離してやりたい。生流も、そして光哉も。
しかし、スティンガーの一員として活動する以上新庄の命令は絶対だ。
今までもこうしてやってきた。これからもそれは変わらない。
「解りました……」
神妙な面持ちで立つ新庄に頭を下げ、恭平は、面談場所のカラオケボックスを後にした。
解ってはいるものの、気持ちは完全に生流に向かっていた。
生流とは、昨夜、デリバリーから戻った光哉と入れ替わりに部屋を出て以来会っていない。すぐにでも様子を見に行ってやりたかったが、新庄から呼び出しを受けていたせいで行けなかった。
体調は戻ったのだろうか。
食事は。
昨夜の不安げな様子の生流が脳裏に甦る。
潜入は打ち切り。田之倉とも金輪際関わるな。新庄の言葉が頭の中をぐるぐる回る。
これ以上の干渉がタブーだということは嫌というほど解っている。
しかし、それ以上に、生流をあのままにしてはおけないという気持ちが恭平の胸を押し上げた。
生流と、光哉。二人を安全な場所に移さなければならない。田之倉の魔の手が伸びる前に。
無邪気に笑う二人の顔を思い浮かべながら、ふと思い出したように、ジーパンの後ろポケットからスマホを取り出した。
追跡アプリを起動し、アクセスコードを入力する。
クロである筈がないと思いながらも、任務の一環として、光哉と生流にはそれぞれ諜報用の小型発信機が取り付けてある。
光哉には、仕事仲間に加わってすぐ、配達用のバイクのシートの裏に、生流には、冬物の服を買った時に一緒に買ったスニーカーの靴底にこっそり細工して取り付けた。
離れている間はこの追跡機能で行動を監視していたが、光哉は、恭平の決めたデリバリールート以外怪しい寄り道はせず、生流に至っては、光哉の部屋以外ろくに外出もしない有り様で、一週間も経たないうちに追跡自体をやめてしまった。
にもかかわらず、どうして今アクセスしようと思ったのか。その意味を、恭平は、この直後に思い知らされることになる。
いわゆる、虫の知らせ、というやつだ。
アクセスして間もなく表示された生流の現在位置に、恭平は思わず「え?」と目を丸めた。
ーーーどうして生流がこんなところに!
表示されているのは世田谷の高級住宅街。
普段滅多に外出しない生流が一人で行くとは思えない。
おかしい。
動転しそうな気持ちを落ち着けながら光哉に電話を掛けた。
午後三時を回っている。さすがにもう起きている頃だ。
一刻を争う恭平とはうらはらに、光哉は、十回以上コールしたところでようやく応答した。
「光哉! 生流はどうした! 何があった!」
光哉は、「生流……ですか?」と、掠れた声で言った。
「生流なら、コンビニに……」
「いつだ!」
「そ、それは……つ、ついさっき……」
嘘だ。
込み上げる怒りが奥歯をガチガチと震わせる。
「本当のことを言え……」
乾いて掠れた声を絞り出すと、
「ご、ごめんなさぁぁぁぃ! おれ……おれぇぇッ!」
暴れ狂う心臓の音を搔き消すように、光哉の悲痛な叫びが恭平の耳をつんざいた。
「俺、『言うな!』って言われてぇッ! 田之倉さんに、『言ったらお前も同じ目に遭わせる』って言われてぇッ!」
恭平は何も言わずその場に立ち尽くした。
戦慄が一瞬にして全身を駆け巡り、身体が凍り付いたように固まった。
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