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不憫なエルフ編
20話 ご都合主義は何を見せる?
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次の日の朝、俺ら3人はギルドにいる。
昨日、俺は1人でギルドに赴き、依頼の申請を済ませた。
・・・のだが、サーシャに謎のお詫びプレゼントを買いに行くため、依頼の詳細説明を明朝に持ち越したのだ。
で、そのプレゼント選びがかなり辛かった。
なんせ女性に贈り物をするという文化が、俺の中には無かったからだ。
俺はなんとなく良さげなお店に入り、良さげな店員にどれが良いかを聞き、良さげなハンドクリームを買い店を出たが、その頃にはすっかり辺りは暗くなっていた。
この世界にも、ハンドクリームやら化粧品やら香水やらがある事に驚いているのだが・・・
家に帰ると、白服のサーシャと居候のリリナは部屋着に着替えており、ホット何とかを2人で飲んでいるところだった。
サーシャは冷めた態度で出迎え、リリナはニヤついていたのが少し、いやほんの少し癇に障った。
そんな中、リリナに言われた通りに、サーシャにプレゼントを渡すと「し、しょうがないですね!」となんとか許してくれたので、リリナには一応感謝しておこう。
女性の心は本当にわからない。
そんなこんなで現在ギルドに到着し、受付嬢から説明を受けるところだ。
「『明けの明星』の皆様、お待ちしておりました。これから依頼の概要を説明いたします」
かしこまって説明を始める受付嬢。
俺は昨日の彼女が頭から離れないまま説明を聞く。
「今回の内容は、『エルフの里』に行って頂き、『ある物』を里長にお渡しいただきたいのです」
「『ある物』ですか?」と聞くサーシャ。
すると受付嬢は「はい」と返事をして受付台に一つの小さな『ある物』を置く。
俺たちはそれをまじまじと見ると、同時に首を傾げる。
「これあれよね、笛?よね」とリリナは受付嬢に聞くと、彼女は「そうです」と一言。
「この笛を届けていただく任務になります。この笛についてと何故届けるのか、の詳細につきましては控えさせていただきます」
見た感じは、楕円の青い光沢に所々穴が開いており、1箇所に空気を送り込むだろう吹き口が付いている。
笛というよりオカリナだと思うけど。
それよりもだ、届けるに当たってほぼ詳細が聞けない依頼って、なんか怪しくないか?
しかもエルフって言ったぞ?この世界にエルフっているんだな。
「えっと、その『エルフの里』ってどこにあるんですか?」
俺の問いに受付嬢は、茶色い丸まった地図を取り出し、俺たちに見せてくれ、ローグと書いている小さい町の絵が描かれた部分に、細い指を当てる。
「まずここが我々のいるローグです。ここから街道に沿って北上しましたら、『ベラス』という街にたどり着きます。さらにここから北西に進まれましたら、『エルダ・フォレスト』という森がありますので、この中のどこかに『エルフの里』が御座います。」
受付嬢は俺たちが進むであろう道のりを指でなぞり、分かりやすく説明してくれた。
のだが、この女今「どこか」って言ったよな?
「は?どこか?ですって??」
俺の代わりに聞いてくれるリリナ。
いやほんとだよ、地図で見たところローグが第一関節くらいなのに、森の大きさが握り拳くらいあるじゃねえか。
「そうなんです。10年前くらいから『エルフの里』は、強力な魔法によって里自体が姿を隠しているため、どこにあるか伏せられているんです」
「えっ」と俺は思わず声に出してしまった。
そうなんです、ではねえよ。
え?本気?
このでかい森の中をひたすら歩き回って?どこかも分からない場所を探せって?
いやほんと、本気で言ってる???
「あのー、目印とかないんですか?」
「目印はありませんが、こちらを」
サーシャが聞いた後、受付嬢はコトっと受付台に謎の黒い球体を置く。
「こちらは森に入ると『エルフの里』を認識して、方向を教えてくれる魔道具です」
「あー、ありがとうございます?」と一応感謝して、魔道具とやらを貰う俺。
なんか煮え切らない。
「ちなみに、報酬はこの金額です」
サーシャは依頼書を示すと、頭から湯気を出し、目を$にしていた。
そんなに?と思い覗いてみると・・・500万!?
「では、お気をつけて行ってきてください」
◇◆◇
・・・と報酬に釣られて向かっているものの、『ベラス』までは歩いて1日、街から『エルダ・フォレスト』までは1時間と中々の距離だ。
いや、むしろ近いのか?
その『ベラス』とやらに着くまでは、あまり休憩したくないなぁ。
こんな時に車があればなぁと、ふと前の世界が恋しくなる。
「ねえ、1日中歩きってやばくない?あたし、盾持ってんだけど?」
「しょうがないでしょ、金に目がくらんで受けちゃったんだから」
リリナが青空にボヤきながらトボトボ歩く。
今俺たちがいるのは、ローグから『ベラス』まで続いている街道。
整備というか、歩いている道は遊歩道のように、歩けるくらいには道が舗装されているので、獣道とは違い歩きやすくはある。
なんでも、『ベラス』は有名なギャンブルの街らしく、結構いろんな人がこの街に来るみたいで、道が舗装されているのもギャンブルに行く奴らが、荷馬車に乗って赴くからという事らしい。
全国のギャンブラーが集まって、億万長者になったり敗北者になったりしているみたいだ。
しかも宿泊代は格安で、加えて内装は結構いいらしい。
ラスベガスかな?
俺自身ギャンブルは、前の世界で多少パチスロ打ってたくらいで、そこまで興味があるわけではないのだが、事前情報として街全体がかなりキラキラしているらしいので、そこについては興味がある。
それよりは、リリナの方がやはり難色を示している。
彼女の父親が中毒だったこともあり、ギャンブルに対して悪感情しかない事だろう。
本人は「気にしていない」とは言うものの、人となりを聞いてしまうと、どうも引っ掛かってしまう。
「リリナさん本当に大丈夫ですか?街で泊まるのが嫌でしたら、そのまま森に向かっても全然・・・」
サーシャは気を利かせてリリナに提案をするが、当の本人は首を左右に振る。
「別にいいわよ、クソ親父のことなんて気にしなくて。それより、森に入る前になるべく体力を回復しておいた方がいいでしょ?」
確かにリリナの言葉にも一理あるのだが、それでも気になってしまうのが俺たちである。
「それより、この街道よく荷馬車通るんでしょ?通ったらとっつかまえましょ」
「通ってくれたらいいけど・・・あっ」
本当にご都合主義だと思う。
荷馬車が後ろから来たのだ。
これは、途中まででもいいから乗せてもらうのが吉だろう。
「あれってチャンスじゃないですか?」
「ちょっと、3人で手を振ろう」
俺たち3人は荷馬車に向かって、止まってくれるよう懸命に手を振り始める。
すると、俺たちの目の前で荷馬車は停止して、御者が降りてくる。
見た目は30代くらいの茶髪で、口と鼻の間に髭を たくわえたガタイのいい男だった。
その男はこちらに近づき、俺の方をじっと見た。
「あ、えーっと、俺たち『ベラス』に行きたいんですけど、もしよろしければ途中まで乗せてほしいなーって思って・・・あ、勿論お金払います!1万くらいで・・・」
男がひたすら俺の顔を見る。
生唾を飲み、空気に緊張が走る。
そして、緊迫した空気感の中、男は口を開く。
「・・・あなた、もしかしてダンちゃんのお友達じゃない?」
え?
◇◆◇
というわけで快く荷馬車に乗せてくれた。
この男の人はダンの飲み仲間みたいで、ちょいちょいこの道を通っているらしい。
なんでも、この男の人は『ベラス』で店のオーナーをしているらしいのだが、その店を建てたのがダンらしく、その時に仲良くなったとか。
世間って狭いんだなぁとしみじみ思う。
「ダンちゃんったら、最近女と別れたって言って意気消沈しててね~、わたし『ベラス』から飛んできちゃったのよ~。で、今帰りってわけ♪」
「そ、そうなんですか~、あいつも大変ですよね」
「ほんとよ!だから男にしとけって何回も言ったのに!ダンちゃんったら言うこと聞かないんだから!もう!」
・・・この人多分Gの人だな。
俺は何故か、ダンのご友人の隣に座っており、女性2人は積荷台にいる。
俺もそっち行きたかったんだけど・・・
「でも俺、ダンに『ベラス』の友達がいるなんて知りませんでしたよ」
「『ボ・ラ』って呼んで♡ダンちゃん、こんな可愛い子がいるのに、わたしに紹介してくれないなんて、許せないわね!」
んー、俺狙われてる?
もしかして?
俺は後ろの2人の顔を見る。
サーシャは眉を八の字にして目を逸らし、リリナは思い当たる節しかないので、下を向いている。
仲間はいない。
そんな中、ダンについての話や俺たちの任務の話などで一応盛り上がりを見せていた。
ダンからは聞いたことのない、初めて聞くやらかし話や、ダンが昔男とキスした話など、思いのほか会話が弾んでいた。
ボラさんは店のオーナーをやっているだけあって、結構話し上手聞き上手で、話していて飽きない。
俺こんな人と前の世界で友達になりたかったかも・・・
掘られたくはないけど。
そんな中、急にボラさんが爆弾を投げてきた。
「実はわたしね、昔冒険者やってたのよ」
!?
後頭部に金槌を打ち付けられたような衝撃が走る。
「え、そうなんですか?ボラさんでも、いま店のオーナーって・・・」
「昔って言ったでしょ?辞めちゃったの、大きい怪我してね。10年前くらいかしら?これでも凄腕だったのよ?大鎌を振り回して大暴れしてたの。ウフフ」
「大きい怪我ってそんなに・・・」
「ええ、足やられちゃってね。魔物なんて敵なしだったのに、ちょっとね・・・」
魔物に敵なしだったボラさんをそこまで追い詰める魔物が存在するなんて、かなり強いと見て取れる。
「それって、どんな魔物だったんですか?」
聞いた瞬間ボラさんの肩が、いや全身が震え始める。
呼び起こしてはいけない、記憶の金庫に何重もの錠前を掛けたのに、それをいっぺんに開け放たれたような、そんな姿だ。
目を見開き、呼吸は乱れ、体はゆっくりと前後に動く。
「や、その、すいません。聞くべきではありませんでした」
言葉を放った俺の顔を見て、落ち着きを取り戻したのか、震えと過呼吸は徐々に治り、先ほどまでのボラさんに戻っていた。
「ごめんなさい、少し取り乱しちゃったわ」
「大丈夫ですか?」
「大丈夫、もう昔の話だからね」
少しの間、沈黙が続いた。
周りの景色は次々とコマ送りのように進んでいるのに、この空間だけは1枚絵のまま静止しているようだ。
「うんとね、魔物じゃないの」
「え?」
口を開いたボラさんは、悲しげな笑顔で俺を見た。
魔物じゃない?
人間ってこと?
「人ってことですか?」
「・・・人じゃない、と思う。記憶は断片的にしか思い出せないの、形は人なんだけど、明らかに人ではない何か」
話がうまく呑み込めない。
人でも、魔物でもない何か。
その中間の存在なのか、あるいは上位の存在ということなのか。
「何か・・・ですか」
「そう、シルエットは人なのよ。でも、至る所に違和感があって、どす黒くて、異形で、圧倒的で、この世のものではないと思えるくらい。私たちは手も足も出なかった」
わたしたち・・・他のパーティメンバーだろう。
しかし、ボラさんが見せたさっきの行動を見るに、仲間はもう・・・
「辛い、過去ですよね・・・」
「・・・そうね、正直、今でも怖いわ。出会したらどうしよう、見えたらどうしよう、見つけたらどうしよう、ってね。こうやって怯えながら、毎日のように嘘だらけの綺麗な街に引きこもってるのよ、ローグに来る時も怖くってね」
「・・・ダンさんのためですよね」
「友達は命よりも大事なの、友達の周りも全部ね。そうしないと、あいつらが離れていきそうで」
ボラさんは曇り空を見上げ、じーっと見つめる。
空でも雲でもなく、それより遠い何かを見ようとしている様に。
そして、空から視線を外し、また俺を見て微笑む。
「勿論、あなたの事も大事よ。ダンちゃんのお友達なんですもの」
「ありがとうございます、貴重なお話し聞かせてもらって・・・」
「いいのよ!気にしないで!・・・ただ、元冒険者の先輩から1つ気をつけて欲しいことがあるの」
哀愁漂う空気が一変し、少しの緊張感が生まれる。
それは、「元冒険者ボラ」からのアドバイス。
ごくりと固唾を飲み「なんですか?」と聞き返す。
彼は言った。
普段使いの言葉なのに、何故か鳥肌が立つ様な、通常で異常な一言。
「『あなたの事、好きになっちゃった』。この言葉を聞いたら逃げなさい」
昨日、俺は1人でギルドに赴き、依頼の申請を済ませた。
・・・のだが、サーシャに謎のお詫びプレゼントを買いに行くため、依頼の詳細説明を明朝に持ち越したのだ。
で、そのプレゼント選びがかなり辛かった。
なんせ女性に贈り物をするという文化が、俺の中には無かったからだ。
俺はなんとなく良さげなお店に入り、良さげな店員にどれが良いかを聞き、良さげなハンドクリームを買い店を出たが、その頃にはすっかり辺りは暗くなっていた。
この世界にも、ハンドクリームやら化粧品やら香水やらがある事に驚いているのだが・・・
家に帰ると、白服のサーシャと居候のリリナは部屋着に着替えており、ホット何とかを2人で飲んでいるところだった。
サーシャは冷めた態度で出迎え、リリナはニヤついていたのが少し、いやほんの少し癇に障った。
そんな中、リリナに言われた通りに、サーシャにプレゼントを渡すと「し、しょうがないですね!」となんとか許してくれたので、リリナには一応感謝しておこう。
女性の心は本当にわからない。
そんなこんなで現在ギルドに到着し、受付嬢から説明を受けるところだ。
「『明けの明星』の皆様、お待ちしておりました。これから依頼の概要を説明いたします」
かしこまって説明を始める受付嬢。
俺は昨日の彼女が頭から離れないまま説明を聞く。
「今回の内容は、『エルフの里』に行って頂き、『ある物』を里長にお渡しいただきたいのです」
「『ある物』ですか?」と聞くサーシャ。
すると受付嬢は「はい」と返事をして受付台に一つの小さな『ある物』を置く。
俺たちはそれをまじまじと見ると、同時に首を傾げる。
「これあれよね、笛?よね」とリリナは受付嬢に聞くと、彼女は「そうです」と一言。
「この笛を届けていただく任務になります。この笛についてと何故届けるのか、の詳細につきましては控えさせていただきます」
見た感じは、楕円の青い光沢に所々穴が開いており、1箇所に空気を送り込むだろう吹き口が付いている。
笛というよりオカリナだと思うけど。
それよりもだ、届けるに当たってほぼ詳細が聞けない依頼って、なんか怪しくないか?
しかもエルフって言ったぞ?この世界にエルフっているんだな。
「えっと、その『エルフの里』ってどこにあるんですか?」
俺の問いに受付嬢は、茶色い丸まった地図を取り出し、俺たちに見せてくれ、ローグと書いている小さい町の絵が描かれた部分に、細い指を当てる。
「まずここが我々のいるローグです。ここから街道に沿って北上しましたら、『ベラス』という街にたどり着きます。さらにここから北西に進まれましたら、『エルダ・フォレスト』という森がありますので、この中のどこかに『エルフの里』が御座います。」
受付嬢は俺たちが進むであろう道のりを指でなぞり、分かりやすく説明してくれた。
のだが、この女今「どこか」って言ったよな?
「は?どこか?ですって??」
俺の代わりに聞いてくれるリリナ。
いやほんとだよ、地図で見たところローグが第一関節くらいなのに、森の大きさが握り拳くらいあるじゃねえか。
「そうなんです。10年前くらいから『エルフの里』は、強力な魔法によって里自体が姿を隠しているため、どこにあるか伏せられているんです」
「えっ」と俺は思わず声に出してしまった。
そうなんです、ではねえよ。
え?本気?
このでかい森の中をひたすら歩き回って?どこかも分からない場所を探せって?
いやほんと、本気で言ってる???
「あのー、目印とかないんですか?」
「目印はありませんが、こちらを」
サーシャが聞いた後、受付嬢はコトっと受付台に謎の黒い球体を置く。
「こちらは森に入ると『エルフの里』を認識して、方向を教えてくれる魔道具です」
「あー、ありがとうございます?」と一応感謝して、魔道具とやらを貰う俺。
なんか煮え切らない。
「ちなみに、報酬はこの金額です」
サーシャは依頼書を示すと、頭から湯気を出し、目を$にしていた。
そんなに?と思い覗いてみると・・・500万!?
「では、お気をつけて行ってきてください」
◇◆◇
・・・と報酬に釣られて向かっているものの、『ベラス』までは歩いて1日、街から『エルダ・フォレスト』までは1時間と中々の距離だ。
いや、むしろ近いのか?
その『ベラス』とやらに着くまでは、あまり休憩したくないなぁ。
こんな時に車があればなぁと、ふと前の世界が恋しくなる。
「ねえ、1日中歩きってやばくない?あたし、盾持ってんだけど?」
「しょうがないでしょ、金に目がくらんで受けちゃったんだから」
リリナが青空にボヤきながらトボトボ歩く。
今俺たちがいるのは、ローグから『ベラス』まで続いている街道。
整備というか、歩いている道は遊歩道のように、歩けるくらいには道が舗装されているので、獣道とは違い歩きやすくはある。
なんでも、『ベラス』は有名なギャンブルの街らしく、結構いろんな人がこの街に来るみたいで、道が舗装されているのもギャンブルに行く奴らが、荷馬車に乗って赴くからという事らしい。
全国のギャンブラーが集まって、億万長者になったり敗北者になったりしているみたいだ。
しかも宿泊代は格安で、加えて内装は結構いいらしい。
ラスベガスかな?
俺自身ギャンブルは、前の世界で多少パチスロ打ってたくらいで、そこまで興味があるわけではないのだが、事前情報として街全体がかなりキラキラしているらしいので、そこについては興味がある。
それよりは、リリナの方がやはり難色を示している。
彼女の父親が中毒だったこともあり、ギャンブルに対して悪感情しかない事だろう。
本人は「気にしていない」とは言うものの、人となりを聞いてしまうと、どうも引っ掛かってしまう。
「リリナさん本当に大丈夫ですか?街で泊まるのが嫌でしたら、そのまま森に向かっても全然・・・」
サーシャは気を利かせてリリナに提案をするが、当の本人は首を左右に振る。
「別にいいわよ、クソ親父のことなんて気にしなくて。それより、森に入る前になるべく体力を回復しておいた方がいいでしょ?」
確かにリリナの言葉にも一理あるのだが、それでも気になってしまうのが俺たちである。
「それより、この街道よく荷馬車通るんでしょ?通ったらとっつかまえましょ」
「通ってくれたらいいけど・・・あっ」
本当にご都合主義だと思う。
荷馬車が後ろから来たのだ。
これは、途中まででもいいから乗せてもらうのが吉だろう。
「あれってチャンスじゃないですか?」
「ちょっと、3人で手を振ろう」
俺たち3人は荷馬車に向かって、止まってくれるよう懸命に手を振り始める。
すると、俺たちの目の前で荷馬車は停止して、御者が降りてくる。
見た目は30代くらいの茶髪で、口と鼻の間に髭を たくわえたガタイのいい男だった。
その男はこちらに近づき、俺の方をじっと見た。
「あ、えーっと、俺たち『ベラス』に行きたいんですけど、もしよろしければ途中まで乗せてほしいなーって思って・・・あ、勿論お金払います!1万くらいで・・・」
男がひたすら俺の顔を見る。
生唾を飲み、空気に緊張が走る。
そして、緊迫した空気感の中、男は口を開く。
「・・・あなた、もしかしてダンちゃんのお友達じゃない?」
え?
◇◆◇
というわけで快く荷馬車に乗せてくれた。
この男の人はダンの飲み仲間みたいで、ちょいちょいこの道を通っているらしい。
なんでも、この男の人は『ベラス』で店のオーナーをしているらしいのだが、その店を建てたのがダンらしく、その時に仲良くなったとか。
世間って狭いんだなぁとしみじみ思う。
「ダンちゃんったら、最近女と別れたって言って意気消沈しててね~、わたし『ベラス』から飛んできちゃったのよ~。で、今帰りってわけ♪」
「そ、そうなんですか~、あいつも大変ですよね」
「ほんとよ!だから男にしとけって何回も言ったのに!ダンちゃんったら言うこと聞かないんだから!もう!」
・・・この人多分Gの人だな。
俺は何故か、ダンのご友人の隣に座っており、女性2人は積荷台にいる。
俺もそっち行きたかったんだけど・・・
「でも俺、ダンに『ベラス』の友達がいるなんて知りませんでしたよ」
「『ボ・ラ』って呼んで♡ダンちゃん、こんな可愛い子がいるのに、わたしに紹介してくれないなんて、許せないわね!」
んー、俺狙われてる?
もしかして?
俺は後ろの2人の顔を見る。
サーシャは眉を八の字にして目を逸らし、リリナは思い当たる節しかないので、下を向いている。
仲間はいない。
そんな中、ダンについての話や俺たちの任務の話などで一応盛り上がりを見せていた。
ダンからは聞いたことのない、初めて聞くやらかし話や、ダンが昔男とキスした話など、思いのほか会話が弾んでいた。
ボラさんは店のオーナーをやっているだけあって、結構話し上手聞き上手で、話していて飽きない。
俺こんな人と前の世界で友達になりたかったかも・・・
掘られたくはないけど。
そんな中、急にボラさんが爆弾を投げてきた。
「実はわたしね、昔冒険者やってたのよ」
!?
後頭部に金槌を打ち付けられたような衝撃が走る。
「え、そうなんですか?ボラさんでも、いま店のオーナーって・・・」
「昔って言ったでしょ?辞めちゃったの、大きい怪我してね。10年前くらいかしら?これでも凄腕だったのよ?大鎌を振り回して大暴れしてたの。ウフフ」
「大きい怪我ってそんなに・・・」
「ええ、足やられちゃってね。魔物なんて敵なしだったのに、ちょっとね・・・」
魔物に敵なしだったボラさんをそこまで追い詰める魔物が存在するなんて、かなり強いと見て取れる。
「それって、どんな魔物だったんですか?」
聞いた瞬間ボラさんの肩が、いや全身が震え始める。
呼び起こしてはいけない、記憶の金庫に何重もの錠前を掛けたのに、それをいっぺんに開け放たれたような、そんな姿だ。
目を見開き、呼吸は乱れ、体はゆっくりと前後に動く。
「や、その、すいません。聞くべきではありませんでした」
言葉を放った俺の顔を見て、落ち着きを取り戻したのか、震えと過呼吸は徐々に治り、先ほどまでのボラさんに戻っていた。
「ごめんなさい、少し取り乱しちゃったわ」
「大丈夫ですか?」
「大丈夫、もう昔の話だからね」
少しの間、沈黙が続いた。
周りの景色は次々とコマ送りのように進んでいるのに、この空間だけは1枚絵のまま静止しているようだ。
「うんとね、魔物じゃないの」
「え?」
口を開いたボラさんは、悲しげな笑顔で俺を見た。
魔物じゃない?
人間ってこと?
「人ってことですか?」
「・・・人じゃない、と思う。記憶は断片的にしか思い出せないの、形は人なんだけど、明らかに人ではない何か」
話がうまく呑み込めない。
人でも、魔物でもない何か。
その中間の存在なのか、あるいは上位の存在ということなのか。
「何か・・・ですか」
「そう、シルエットは人なのよ。でも、至る所に違和感があって、どす黒くて、異形で、圧倒的で、この世のものではないと思えるくらい。私たちは手も足も出なかった」
わたしたち・・・他のパーティメンバーだろう。
しかし、ボラさんが見せたさっきの行動を見るに、仲間はもう・・・
「辛い、過去ですよね・・・」
「・・・そうね、正直、今でも怖いわ。出会したらどうしよう、見えたらどうしよう、見つけたらどうしよう、ってね。こうやって怯えながら、毎日のように嘘だらけの綺麗な街に引きこもってるのよ、ローグに来る時も怖くってね」
「・・・ダンさんのためですよね」
「友達は命よりも大事なの、友達の周りも全部ね。そうしないと、あいつらが離れていきそうで」
ボラさんは曇り空を見上げ、じーっと見つめる。
空でも雲でもなく、それより遠い何かを見ようとしている様に。
そして、空から視線を外し、また俺を見て微笑む。
「勿論、あなたの事も大事よ。ダンちゃんのお友達なんですもの」
「ありがとうございます、貴重なお話し聞かせてもらって・・・」
「いいのよ!気にしないで!・・・ただ、元冒険者の先輩から1つ気をつけて欲しいことがあるの」
哀愁漂う空気が一変し、少しの緊張感が生まれる。
それは、「元冒険者ボラ」からのアドバイス。
ごくりと固唾を飲み「なんですか?」と聞き返す。
彼は言った。
普段使いの言葉なのに、何故か鳥肌が立つ様な、通常で異常な一言。
「『あなたの事、好きになっちゃった』。この言葉を聞いたら逃げなさい」
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