体で払ってくれませんか?

メンタルは大事に

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意外な場面での再会

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改札機の前。

希海は不審な男に腕を引っ張られていた。

「いいじゃないか。お金だって渡しただろ?」

男は声を荒げると、希海の抵抗は弱まった。

どう考えてもおかしい――。

夢花は駆け出していた。

これまでにあった事、楽しい記憶も、苦い記憶も、ここで動かなければ全部が壊れてしまう気がしていた。

だから躊躇わなかった。

「希海っ!!」
「……」
「!?」

そして夢花は愕然とした。振り返ったその男は、他の誰でもない弥人であったのだ。

******

「っていう夢を見た」
「え?俺?」
「うん」
「それは、なんか、ごめん」
「夢の話だから」

俺は、メニュー表をサイドに仕舞った。

「夢か…」
「弥人は、最近なにか見てないの?」

夢花との同棲以来、大した夢は見ていない。熟睡出来ているのだろうか。ただ疲れているだけなのか。

高校生の頃からずっと、友達や彼女とワイワイしながらファミレスで勉強するのが、夢のひとつで……。

「お待たせいたしました!」

肉汁の弾ける音に、芳ばしい香り。

ここは、ファミリーレストラン"サイヤスヤ”だ。

名前の通り、リーズナブルな外食が楽しめるお店である。

「いらっしゃいませー」
「やっぱり、七坂先輩たちじゃないですか」

ナイフを左右のどちらで持つか考えていたその時。どこか懐かしいイケメンの声がした。

ウエイトレスさんに確認を取りやって来た美男美女。

倉持籐矢と籐花の兄妹だった。

「どうしてここに?」
「歩いていたらちょうど見かけて」
「そっか」

ここは、泣く子も笑う天下のサイヤスヤだぞ。そんなノリで入ってくるのか?彼らは。

「夢花さん、お隣、よろしいですか?」
「…うん」

ラフな格好だった夢花の隣に、上品な藤花が座る。もちろん俺の隣には藤矢が座って、ちょっといい匂いがした。

「なんか場違いですまん」
「いえ、気にしていませんよ」

なぜか謝る俺。別に待ち合わせした訳でもなかったのに。湯気立つチーズインハンバーグも忘れて、メニューを献上する。

「完璧超人なお二人の口に合うか分からないけど」
「やめてくださいよ先輩、僕らは普通ですって」
「いいえ、兄は完璧超人です」

思わぬところで藤花が参戦してきた。夢花から受け取ったフォークとナイフを並べながら続ける。

「この世界で兄より凄い人、魅力ある人なんて、見たことないですから」

俺のほうを見て苦笑いする藤矢。この時、俺はとても恥ずかしい勘違いに気付かされた。

『夢花さんと別れて、籐花を好きになってくれませんか?』

かつて相談に乗ってもらった時に放たれたその言葉の真意は、俺の想像とは正反対のものだった。

籐矢がグラスを手にしたのを見て、俺も立ちあがる。夢花と籐花を残してドリンクバーへと向かうことにした。

******

「夢花さんは、どうして付き合う事になったんですか?」

テーブルに残された夢花は、唐突な籐花の質問に驚いた。

二人の視線の先、遠くに見える弥人と藤矢。

「兄が気に掛ける方なので、一体どんな感じだったのかなと」
「……」
「こんな言い方、失礼ですけど」
「うん?」
「七坂さんってどこにでもいそうな人なのにどうして?と」

夢花は、悪気の無い純粋な瞳に見つめられて苦笑いした。

もし妹が居たら、こんな会話も普通にするかもしれない。

「うーん。分かんない」
「え?」
「気付いたら一緒にいて…」

色んな場所に連れていかれて、色んな事をしてくれた。

――そして、こうなっていた。

「気付いたら?」
「うん。自然とね」
「自然と、ですか」

籐花は、納得したのかしていないのか、口元に手を当てて話を切り替える。

「ところで、夢花さん達はどこまで、してます?」
「どこまでって言うと?」
「その、どこまでって言ったら、どこまでです」

籐矢のほうをチラりと見てから、顔を赤らめる籐花。

夢花には、その意味が分かっていた。

「それは二人で行けるとこまで…」

******

「七坂先輩。ひとつ聞いてみたいことがあるのですが」
「聞いてみたいこと?」

俺は、籐矢の質問に慎重に答えようと聞き返す。

これまでの借りを返したかった。

「籐花から大学に受かったら、正式に付き合って欲しいと言われました」
「それは籐矢と、ってことだよね?」
「はい」

なるほど。そこまでの展開になっているのか。借金をカタに付き合わせている我ながらも驚きである。

遠くの席で、夢花に問いかけている籐花。

その鋭い眼差しは、真剣そのものだ。

「籐矢は、籐花ちゃんのことどう思っている?」
「実の妹ですよ?」

藤矢は、容姿端麗、頭脳明晰、スポーツ万能(たぶん)なイケメン男子だ。

彼女の一人や二人いてもおかしくないこの男が、週末に妹と出掛けたり、"実の妹"と理解していながらも告白について悩む理由…。

俺には、シンプルな答えしか見えなかった。

「藤花ちゃん以上に好きな…気になる子は?」
「それはいません」

瞬時に答える藤矢。

俺の解は決まったわけだが、即応することは出来なかった。

ここで下手なことを言ってしまえば、彼らの人生に余計な狂いを与えてしまう可能性があるかもしれない。

所詮、他人様の人生。責任を取る事なんて出来ないのだ。

それでも一瞬、苦労の滲み出たような表情をした藤矢を見て、役に立ちたいという気持ちが勝った。

「あくまで…あくまで俺が藤矢の立場だったらだよ?」
「はい」

俺は、親指を突き立てた拳を藤矢に向けた。――b。

「でも結局は、当事者同士の問題だから」
「なるほど、参考になります」
「もしよかったらさ、これからも話聞かせて貰ってもいいかな?」
「え?」
「いや、その、俺友達とかいないし…」

そうやって俺は、恐れ多くもイケメンの連絡先をゲットしたのだった。
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