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傷の生まれた理由

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『それでは次は…淡島希海さん、臼井夢花さんの順に自己紹介をお願いします』

入学式当日。

静かに立ち上がった前席の希海を見上げた。

希海はとても大人しそうな優等生タイプの子だった。

初めて話したのは2日目で、声を掛けたのは私からだった。

『淡島さん?』
『はい』
『消しゴム落ちてるよ?』
『すみません』

目が悪いのか、一番前なのに眼鏡をかけていた。

クラス内に勢力圏が出来上がっていく中で、中学からの友達がいなかった私にとっては丁度(都合の)いい感じの人にみえた。

私だって、薄汚い心の持ち主だ。

『お昼一緒に食べる?』
『え、えぇ、はい』
『希海ちゃん、でもいい?』
『はい』
『希海ちゃん…』
『?』
『いきなりですごく悪いんだけど、お金借りてもいい?』
『!?』
『財布忘れちゃって…明日絶対返すから』

そうして、1週間、2週間と過ぎていくうち、次第に打ち解けていった。

月日は流れ、1年生の終わりにもなると、私は希海の家に遊びに行くぐらいの仲になっていた。

「ここが希海の家?」
「うん」
「すっごい」

丘の中腹にある、庭付き3階建ての″豪邸”に私はビビった。

3階といっても坂道の脇にあるために、実質は駐車場付きの2階建て。

それでも希海の部屋から見える景色は、私にとって異世界そのもので、ついつい憧れてしまった。

『これ、押し入れ?開けてもいい?』
『えっと、それは!』
『ごめん』

クローゼットのハンドルに手を掛けた私に、物凄い勢いで止めにかかる希海。

それ以来、何度か遊びに行くうちに気になるものの触れることのなかった扉。

理由が分かったのは、2年生になってからだった。

新学期が始まってすぐの事。

別クラスになった希海の様子を見に行くと、案の定、独りで昼食を取っていた。

『Rineしてくれたらよかったのに』
『…迷惑に』
『うん?』
『夢花、他の人と話してたから』
『今日は久々に希海の家いってもいい?』

家は反対方向だった。だから一緒に帰ることは出来なかった。

そして偶然行くことになった希海の部屋で見つけたのが、机の上に広げられたファッション雑誌。

『こ、これは違う!』
『え?』
『これは…母親ので…』

ヘタクソなウソだった。だって思いっきしTEENSものだったし。

『こういう服が好きなの?』
『……』
『もしかして、あの押入れにあったりしない?』

私は雑誌をヒラヒラ捲りながら、希海の答えを待った。

『私には似合わないから』
『えぇ、見てみないと分からないよ』
『眼鏡の地味女なんかより夢花のほうが似合うと思う』

そう言って開かれたクローゼットの中は宝の山。

『これ、希海似合うよ絶対』
『え?ちょっと』
『眼鏡外してみて?』
『かわいいじゃん希海』
『……』
『気になる位ならコンタクトにしたらいいのに』

驚きだったのは、翌朝コンタクトで私のいた教室までやって来た事だった。

誰?みたいな空気に耐え切れなかったのか、自分の教室へ戻ると眼鏡に変えていたようだけど。

『せっかく可愛かったのに』
『でも…』
『クラスの男子も希海のこと見てたよ?』

そんなこんなで2年生になっても、希海の家に行くことも多かった。

相変わらず、クラスの友達は出来ていなさそうだったけど、私といる時は別人のようだった。

なぜか希海は休日遊びに行くとコンタクトになって、髪の毛からはいい匂いがしていた。

郊外にショッピングモールがオープンしたその日に、二人でお店を巡ったりもした。

そして、3年生。

再び同じクラスになった私たちを取り巻く世界は色々と動き始めた。

なんだかんだ言って封印の解かれた希海は、顔も頭もスタイルも良かった。

1カ月もたたないうちに、希海はクラスに馴染み始めていた。

『どうしよう、青井君から告白されちゃった』
『青井翔君?すごいじゃん!』
『夢花はどう思う?』

女子だけじゃなく男子からも人気のあるサッカー部の副キャプテン。

困惑しながらも瞳を輝かせる希海を見て、私は応援することにした。

それから、希海はもの凄いスピードで出世していった。

クラスカーストの上位に食い込み、私からは離れていった。

なんだか寂しいような気もしたけど、たまには服選びに誘ってくれたし、本来の希海が認められていくことが私も嬉しかった。

『ねぇ夢花~』
『うん?』
『夢花も恋しなよ!私紹介してあげるからさぁ』
『いいよ私は』

だけど、希海の笑顔は長く続くことはなかった。

休み時間に教科書を用意していた時、不意にクラス内の実力者がやって来た。

『臼井さんって希海と仲いいよね?』
『え?まぁ…はい』
『知ってる?あの子、剛毛なんだって』
『?』
『あの顔で、マジ、ウケるよね』

周りにも聞こえるようにそれだけ言うと、取り巻きと笑いながら教室を出ていった。

あの時は、その言葉の意味を理解していなかったし、特に何も思わなかった。

希海から別れ話を聞いたのは、少し経ってからだった。

私はとにかく必死に、希海の心の穴を埋めようとしていた気がする。

背中を押した責任は私にもあったから。

『夢花…ごめんね』
『ううん』
『ごめんね…』
『終わったこと気にしてもダメだから次だよ』
『次は…もういいや。夢花がいてくれたらそれでいい』
『どういうことw』

初めて抱きついてきた希海が、なんだか愛おしく感じてしまった。

それから卒業して、同じ大学に進学するまで、いつも二人で過ごしてきたから。
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