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変化の兆し
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緑色の黒板に、日直の白い文字。
カラフルな学級目標が、手作りで生き生きと存在を主張している。
懐かしい風景だ――。
今時の教室は、大学のようにホワイトボードになったとも聞くので、ここはきっと夢の中なのだろう。
見渡す一面には小さな机と前を向く児童たち。
まるで担任の先生になった気分だ。
すると突然、視界の真ん中にいた一人の女の子が振り返ると走ってきた。
「パパ!」
俺の世界に温もりが広がったような気がした。
キラキラとした瞳で見上げる女子児童。
「ねぇどうして、みんなママが来てるのにウチはパパなの?」
無邪気にはにかむ彼女に困惑しながらも俺は、このなんとなく幸せな夢を壊さない答えを探した。
******
「夢花ならどう答える?」
「うーん」
昼下がりの室内。
窓の外には、澄み切った青と壮年の太陽。
俺は、ふと感じた寂しさから逃げるように、勉強中だった夢花の隣に腰を降ろしていた。
ペンを片手に天を仰ぐ夢花。
「すまん。勉強中だった」
「んん、いいよ。気分転換」
立ち上がろうとする俺の袖が引き留められた。
「……」
「パパは姫華のことが大好きだからだよって」
「姫華?」
「そう姫華。子供の名前ね」
屈託なく笑う夢花に、夢の中にいた姫華が重なる。
「なるほど」
「スッキリした?」
「でもさ『じゃぁママは私の事好きじゃないの?』って言われたらどうする?」
俺の恥じらいを捨てた渾身の声真似に、夢花は噴き出す。
「そしたら…w」
「ちょっ、夢花、笑いすぎでしょ」
「だって…w」
夢花は笑い涙を拭わんばかりに、俺の肩へ体重を寄せてきた。
「難しいよなぁ」
「弥人はなんて答えたの?」
「俺はさ…」
パパよりもママのほうが稼ぎが良いから――。
夢の中で、言おうとして躊躇した。
そして夢から覚めていた。
「へぇ」
「…なんか汚い話ですまん」
「私、弥人より稼げるかな?」
夢花は意外にも、普通の様子で返してきた。
汚いも何も、金という現実を嫌という程知っている夢花ならではの反応だったのかもしれない。
「それは、たぶん、市町村の保育士になれば、俺よりは絶対年収高いよ」
「それって公務員ってこと?」
「そう、身分的には地方公務員にあたるね」
そこまで言った時、洗濯機の完了音が部屋に届いた。
その瞬間に、俺は浮かれていることに気づかされた。
なぜ、夢花と結婚した前提の話をしているのだろうか。
俺の都合で夢花の人生を決めることがあってはならないはずなのに。
「夢花は夢花の人生だからね?」
「ん?」
「俺なんか気にせず自分の道を進まなきゃだめだよ?」
「頑張りますw」
分かったのか分かっていないのか、夢花は再び参考書を開くと勉強を再開した。
それを後目に俺は脱衣室に入ると、洗濯物を取り出してハンガーにかける。
室内干しと外干しとを区別しながら、吊るしていく。
「夢花の人生か…」
俺は何度も何度も覚悟を決めて、これまで夢花に手を出してきたはずだ。
この手で――。
夢花の黒い下着を拾い上げると、かつての欲情が燻りながら消えていく。
見るだけ、触れるだけなら、さすがに慣れてしまったようだ。
昨夜のことを思い返した。夢花に手を伸ばしたその感情は、もはや別の感情へと変容し始めている気がしていた。
俺はどうしたらいいのか、どうしたいのか。贅沢な悩みなのかもしれない。
すると、不意に夢花が隣へやってきた。
無意味かもしれないが、皺にならないようパンツの端と端を広げている最中だった。
「今エッチなこと考えてた?」
「ひぇっ!?」
「ごめんごめん」
「夢花?!クリスマスどこいきたい?」
正直に夢花と将来の事だと答えればよかったが、突然の奇襲に対して咄嗟に誤魔化しの言葉が口から飛び出てしまった。
「弥人ってほんと分かりやすいよね」
「う、うぅ」
「クリスマスかぁ」
まるで安心させてくれるように、後ろから腕を回してきた夢花の体温が重なる。心臓の音が背中越しに伝わり、俺の物は固く膨らむ。
「あ、いやバイトあるなら別の日でもいいよ」
「ん?空けておくからいいよ」
「そっか」
「ネズミーランドとか行ってみたいかな…」
ネズミーランド――。
リア充たちの登竜門といえるそのワードを聞いた途端に、俺の脳内で“実績解除の音”が鳴り響いた。
「行こう!俺行ったことないから、よく分からんけど」
「うん、ありがと」
「いやいや、こちらこそ」
人生とは、こんなものなのか。
目の前の道をのらりくらりと互いのペースで歩んでいく。こんな感じでなのだろうか。
カラフルな学級目標が、手作りで生き生きと存在を主張している。
懐かしい風景だ――。
今時の教室は、大学のようにホワイトボードになったとも聞くので、ここはきっと夢の中なのだろう。
見渡す一面には小さな机と前を向く児童たち。
まるで担任の先生になった気分だ。
すると突然、視界の真ん中にいた一人の女の子が振り返ると走ってきた。
「パパ!」
俺の世界に温もりが広がったような気がした。
キラキラとした瞳で見上げる女子児童。
「ねぇどうして、みんなママが来てるのにウチはパパなの?」
無邪気にはにかむ彼女に困惑しながらも俺は、このなんとなく幸せな夢を壊さない答えを探した。
******
「夢花ならどう答える?」
「うーん」
昼下がりの室内。
窓の外には、澄み切った青と壮年の太陽。
俺は、ふと感じた寂しさから逃げるように、勉強中だった夢花の隣に腰を降ろしていた。
ペンを片手に天を仰ぐ夢花。
「すまん。勉強中だった」
「んん、いいよ。気分転換」
立ち上がろうとする俺の袖が引き留められた。
「……」
「パパは姫華のことが大好きだからだよって」
「姫華?」
「そう姫華。子供の名前ね」
屈託なく笑う夢花に、夢の中にいた姫華が重なる。
「なるほど」
「スッキリした?」
「でもさ『じゃぁママは私の事好きじゃないの?』って言われたらどうする?」
俺の恥じらいを捨てた渾身の声真似に、夢花は噴き出す。
「そしたら…w」
「ちょっ、夢花、笑いすぎでしょ」
「だって…w」
夢花は笑い涙を拭わんばかりに、俺の肩へ体重を寄せてきた。
「難しいよなぁ」
「弥人はなんて答えたの?」
「俺はさ…」
パパよりもママのほうが稼ぎが良いから――。
夢の中で、言おうとして躊躇した。
そして夢から覚めていた。
「へぇ」
「…なんか汚い話ですまん」
「私、弥人より稼げるかな?」
夢花は意外にも、普通の様子で返してきた。
汚いも何も、金という現実を嫌という程知っている夢花ならではの反応だったのかもしれない。
「それは、たぶん、市町村の保育士になれば、俺よりは絶対年収高いよ」
「それって公務員ってこと?」
「そう、身分的には地方公務員にあたるね」
そこまで言った時、洗濯機の完了音が部屋に届いた。
その瞬間に、俺は浮かれていることに気づかされた。
なぜ、夢花と結婚した前提の話をしているのだろうか。
俺の都合で夢花の人生を決めることがあってはならないはずなのに。
「夢花は夢花の人生だからね?」
「ん?」
「俺なんか気にせず自分の道を進まなきゃだめだよ?」
「頑張りますw」
分かったのか分かっていないのか、夢花は再び参考書を開くと勉強を再開した。
それを後目に俺は脱衣室に入ると、洗濯物を取り出してハンガーにかける。
室内干しと外干しとを区別しながら、吊るしていく。
「夢花の人生か…」
俺は何度も何度も覚悟を決めて、これまで夢花に手を出してきたはずだ。
この手で――。
夢花の黒い下着を拾い上げると、かつての欲情が燻りながら消えていく。
見るだけ、触れるだけなら、さすがに慣れてしまったようだ。
昨夜のことを思い返した。夢花に手を伸ばしたその感情は、もはや別の感情へと変容し始めている気がしていた。
俺はどうしたらいいのか、どうしたいのか。贅沢な悩みなのかもしれない。
すると、不意に夢花が隣へやってきた。
無意味かもしれないが、皺にならないようパンツの端と端を広げている最中だった。
「今エッチなこと考えてた?」
「ひぇっ!?」
「ごめんごめん」
「夢花?!クリスマスどこいきたい?」
正直に夢花と将来の事だと答えればよかったが、突然の奇襲に対して咄嗟に誤魔化しの言葉が口から飛び出てしまった。
「弥人ってほんと分かりやすいよね」
「う、うぅ」
「クリスマスかぁ」
まるで安心させてくれるように、後ろから腕を回してきた夢花の体温が重なる。心臓の音が背中越しに伝わり、俺の物は固く膨らむ。
「あ、いやバイトあるなら別の日でもいいよ」
「ん?空けておくからいいよ」
「そっか」
「ネズミーランドとか行ってみたいかな…」
ネズミーランド――。
リア充たちの登竜門といえるそのワードを聞いた途端に、俺の脳内で“実績解除の音”が鳴り響いた。
「行こう!俺行ったことないから、よく分からんけど」
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「いやいや、こちらこそ」
人生とは、こんなものなのか。
目の前の道をのらりくらりと互いのペースで歩んでいく。こんな感じでなのだろうか。
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