体で払ってくれませんか?

メンタルは大事に

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変わらない気持ち

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人…人…人ッ!!

すぐさま混雑から離脱すると、パンフレットを広げた。

「弥人はどこ行きたい?」
「お、俺?」

夢花が視界の隅から覗き込んできた。希海と来たことのあるようで逞しく感じる。

「これは船に乗ってジャングル廻るので、こっちは車に乗って映像を楽しむ感じで」
「……」
「弥人はジェットコースター系は苦手?」
「いや、そんなことないよ。むしろ一番好きまであるね!」

気分が高揚しているせいか、ちょっと得意げに言ってみた。

自慢じゃないが、俺は学生時代に独りテーマパークに挑戦して、ひたすらジェットコースターに乗った経験がある。憂さ晴らしに10回ほど連続で乗り続けていたら、係員のお兄さんに憐みの目で見られたのは今でもはっきり覚えている。

「じゃ、まずは雷神山にいこっか」
「オッケー」

ネズミーランドはカップルにとって試練である。

と事前に読んだ記事にあった。待ち時間が試されるらしい。確かに周りを見渡すと様々だった。

いつまでも話の尽きないペアもいれば、スマホをいじっているだけのペアもいたりする。

「夢花?」
「うん?」
「こういう時って何話せばいい?」
「え?」

前方にいる高校生らしき男子三人組は『呪術大全』の話題で盛り上がっている。今流行りの映画らしい。

夢花も少し困ったのか、地図を広げると次に行きたい場所などを話してくれた。

ただそれでも、待機列で進んだのは数列分で、2時間以上あったあまりにも長い待ち時間は埋められない。

「夢花?」
「うん?」
「手、つないでもいい?」
「うん」

ポケットの中で温めていた俺の手は、満を持して夢花の手に触れる。

指と指を探り合わせて、互いにクロス。

顔を上げた夢花に視線を合わせたいのだが、恥ずかしすぎて難しい。

それでも、交換される互いの熱に後を押された俺は、待ち続けていた夢花の瞳を覗いた。

ふっ――。

夢花の鼻息が漏れた。

無言の時間は続いたが、二人が良ければ、それで良いのかもしれない。

「今日の夜ごはん何も決めてないけど何がいい?」
「夜ごはん?まだ朝だよw」
「あ、そうか」
「昼どうしようね、お店凄い混むし高いからやめとく?」

夢花の提案に俺は動揺した。

俺は、昼は食べても食べなくてもタイプの人間だ。それを知っている夢花が無理に合わせようとしているのは分かった。

「いや、何事も経験だから。店行こうか店」
「お昼時とパレード中は待ち時間減るからチャンスだよ?」
「そうなの?」
「その分を夜にまわそうよ」
「夢花がそれでいいならいいけど」

パレードよりアトラクション派なんだろうか。俺は夢花に手を引かれて一歩前に進む。

「お得なプランでしょ?」
「おっ、そうだ」
「なに?」
「お得で思い出したけど、全然関係ない話していい?」

俺は、今朝のニュースサイトで得た知識の断片を引っ張り出した。

確か『残酷な親ガチャの真実~幼児期のある習慣が子の人生を左右する~』といった題名がついていたような気がする。

結論だけ言ってしまえば、幼少期に生身の人間が発する言葉の数(言葉のシャワー)を浴びる機会が多いほど、子どもの成長に良い影響を与えるという話だ。

海外の対人研究は、例えばスタンフォード監獄実験のようにかなり迫るものがある。だから面白いといえば面白いのだが、よろしくない条件を与えられた側のことを思うと少し苦い部分もある。

とりわけ子どもへの影響は大きいはずで、その研究が孤児に対して行われていることからみるに、残酷な世界の一部が垣間見える。

「言葉のシャワーかぁ」
「大事なのは生身の人間の言葉らしくて、テレビや録音された音声ではダメらしい」
「へぇー」
「子どもに本を読み聞かせるのって昔からあると思うけど、とても合理的な事なんだってさ」
「なるほど…」

俺のまとまりのない話が、どこまで夢花の中に響いたのかは分からない。この程度の事ならいずれ学校で習うことかもしれない(俺の時は教えてくれなかったけどな!)。それでも待ち時間には役立ってくれたようだ。

「あと、英語は本場の発音とかを3歳までに聞かせたほうがいいらしいよ」
「あー私、英語ぜんぜん」

見上げてくる夢花。残念ながら俺も英語はさっぱりだ。

「将来結婚するなら、ネイティブな人のほうがいいかもよ?」
「どういうこと?w」
「人生何が起きるか分からないってこと」
「ちょっと深すぎて意味わかんないw」

俺は夢花の頭を優しく撫でた。
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