体で払ってくれませんか?

メンタルは大事に

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旅行先の恥はなんとやら

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「藤矢はどこ行ってたの?」
「初めは清水寺と八坂神社ですね」
「混んでたでしょ?」

ここは旅館の大浴場、男湯だ。

俺は、公衆浴場は入りたくない。入りたくないのだが…

――イケメンに誘われたら、そりゃ断れないだろ

いや、まてそういう意味じゃない。

確かに藤矢のボディが気になっただろと言われたら、そこはイエスだが、そうじゃないからな。俺は女湯があるはずの壁に向かって視線を投げる。

「七坂先輩は湯に浸からないんですか?」
「俺は源泉かけ流し専だからね」
「面白いこだわりですね」

俺が湯船ではなくサウナへ直行すると、藤矢も付いてきた。

「藤花ちゃんはどう?気分転換になってそう?」
「えぇ。普段はなかなか二人の時間も取れないので」
「あぁ3年となると卒論とか色々大変そうだね」
「まぁ、そうですね」
「悪いね」
「いえいえ、ありがたいですよ」

男二人、熱気の籠るサウナ室、何かが起きるわけでもなく…。

「どう何か進展はあった?」
「えっ、あぁ」
「大学に受かったとして…」
「覚悟は決めましたよ」

間髪入れず答える藤矢は、真正面を向いていた。

隣に座っているので見えるのは横顔だったが、その凛々しい表情から、本物の覚悟を垣間見た気がした。

「やっぱり藤矢は藤矢だなぁ」
「どういう意味ですか」
「格好いいんだよなぁ、俺なんかと違って」

一度呼吸を置いた藤矢が、こちらに振り向いてきた。

「そういえば七坂先輩は夢花さんとどういう関係なんですか?」
「ん?どういうというと…」
「どんな出会い方をしたんです?」
「それは…」

顔が引き攣ってしまったのが、自分でも分かった。藤矢が何かを察したように別の話題を探そうとしているのも分かった。

「ここだけの話になるけど」
「分かりました」
「その前に一度外に出て、水浴びてもいい?」
「そうしましょう」

心の中とは裏腹に、体がすっきりさっぱりした俺と藤矢は、他人が入る気配もないことをいいことに再びサウナ室へ戻る。

「嫌われたらその時はその時で諦めるから、あとの判断は藤矢に任せる」
「はい」

夏に道端で夢花が倒れたのを邪心のままに助けた事。

困窮する夢花に下心をもって接するうち、複雑な状況と一途な感情が生まれてしまった事。

そうは言っても、始まりが始まりだけに葛藤が続いている事。

歪んだ決意に、揺らぐ気持ち。

俺は情けなくも、藤矢に縋るように打ち明けていた。

「なるほど。そういうことでしたか」
「すまん…」
「いいんじゃないですか。僕もひとつ七坂先輩には黙っていたんですが」

藤矢と藤花は両親の離婚後に家出したらしい。

親戚に引き取られることも出来たようだが、それは選ばなかった。

大学に入学したばかりの藤矢はお金を稼ぐため、そのルックスを活かした。″歌舞伎町の教皇”と呼ばれる有名な男が行った公開オーディションに合格。

今となっては年間で500万円近くの手取りもあるようだが、当然上には上がいて、桁が1つも2つも違うようなのでその店の中じゃ目立つ存在でもないそうだ。

「紙とペンが10万円になるやつでしょ?」
「よく知ってますね」
「あれは天才だと思ったよ」

どうしたら女の子と話せるようになる研究するために、ホストの動画を見まくっていた時期もあったのは内緒だ。

まるで他人事のような藤矢は、立ち上がりドアに手を掛ける。再び外に出た瞬間、俺の抱えていた葛藤は急にちっぽけなものに感じた。

******

「七坂先輩?」
「ん?」
「ONOはやらなくていいんですか?」
「おぉ、いいの?」
「えぇ~先輩たち、マジでやるつもりなんですかぁ?」
「いいじゃん希海。やろうよ」
「藤花もいい?」
「やります」

俺は行きの新幹線の中で、修学旅行御用達のカードゲーム「ONO」を用意していた。学生時代は遠目から眺めていているだけで、一度もやったことがなかったからだ。

新品の封を切る。用意はしていたが実際のところ、5人座席の取り方を間違えて出来ないでいた。それを思い出した藤矢の心遣いが、俺の身に染みて嬉しかった。

「夢花?ちゃんとルール分かってる?」
「分かってるよ?」
「ほんとぉ?」
「Oh~No~!でしょ?」
「ちょっw先輩ぃなに笑ってんですかぁw夢花に失礼ですよぉwww」
「いや、すまんすまん」

予想外に流暢な英単語に思わず吹き出してしまった俺は、恥ずかしそうに顔を手で塞ぐ夢花の手をそっと掴んだ。

「夢花?」
「うん?」
「もう一回言って?」
「やだよ」
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