そして彼は魔王となった

葉月

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三、ダンケル=ハイト

9.

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 ダンさんはオイラが少し寝落ちる程度砂利道を歩いて、日が落ちきる前に、小さな民家がちらほら見える場所に着いたんだ。

「ここ、どーこ?」
「恐らく郊外の庶民宅の集落の一つだろう」

 首を傾げたオイラに、ダンさんは少し辛そうに答えてくれた。
 あとで知ったけれど、先の戦禍を免れた数少ない集落の一つだった。

 オイラは少し寒くなってきたから、ダンさんの外套の襟辺りに潜ってみた。

 くすぐったかったのか、ダンさんがちょっと首の辺りをよじって、口許が緩んだ。

 そのまま集落の入り口っぽい木の枠を抜けて、一軒の家の戸を叩いた。

「返事がないな」
「うん、寝てるのかな?」

 寝てるとすれば、相当早寝な家だ。
 だって、まだ日も暮れてないんだから。

「寝てるなら起こしては申し訳ない。他をあたろう」

 その時だった。

「誰だい!?」

 ちょっと低めのおばちゃんの声だった。
「ダン…ダンケル=ハイトという。船旅をしていたところ、大波に煽られて船から落ちてしまった。船はそのまま行ってしまって、なんとかここに辿りついた。勝手に近くをうろつくのも不審かと思って、挨拶に来た。一晩だけ近隣に野宿してもいいだろうか?」

「入んな」

 戸が開いて、中に案内された。

 中にいたおばちゃんは、耳が尖ったエルフだった。
 オイラには初め気づいていなかったみたいで、ダンさんにローブのような服と厚手のタオルのようなものを放ってきた。

「死んだ旦那のもんだが、着な。近所で野宿なんて、いちいち近くの家を訪ねて挨拶なんてせず、勝手にやればいいけどさ。凍えて死なれちゃ迷惑だからね」

「すまない。恩に着る」

 ダンさんはおばちゃんにお礼を言うと、その場で重くなった外套を脱ぎ、上半身裸になって身体の水気を拭った。

「はっ! あたしも一応女なんだがねぇ。近頃の若いのは恥じらいとかないのかね」

 おばちゃんの方が後ろを向いて、奥の部屋へと移動していった。
 今思えば、エルフのおばちゃんって、幾つぐらいなんだろう? いつまでも若いイメージだから不思議だねぇ。

 ダンさんが着替えてる間、オイラは実は部屋の中をうろついていた。
 ネズミが通り抜けたっぽい横穴を覗いてると、急に子ネズミが出てきて体当たりを喰らって驚いたよ。
 結局この日は、空いた部屋を貸してくれて、野宿じゃなく一泊させて貰ったんだ。
 口は悪いけど良いおばちゃんだよね。

 おばちゃんの旦那さんは、ずいぶん前に病気で亡くなったらしい。トライン防衛側の兵士として借り出されなくて良かったと呟いてた。

 次の朝、いずれ必ずお礼をさせてもらうと言っておばちゃんの家を後にしたんだけど、集落の広場に行くと、兵隊さんが2人いて、何やら看板の付いた杭を地面に打ち込んでた。

「何だあれは?」
「さぁ? オイラに聞かれてもわかんないや」
「ふむ。直接聞いてみるか」

 細い草や小さな花が咲いた草がところどころ生えた広場で、井戸の周りに大きめの木が何本か生えている。
 柵があるわけでもなく、植えてある感じじゃなくて、元々木がある所に集落が出来たのか、自然に生えてきたって感じだったね。

 その井戸の近くに看板が打ち込まれたわけだけど、小さな子どもや、おじいちゃん、赤ちゃんを抱いた若い女の人たちが、書かれた掲示を読んでいた。

「何て書いてあるんだろう?」
 オイラは歩いて近づいたけれど、圧倒的に背が足りなくて何にも読めなかった。

「ふむ、『先王によって穢されたこの地はヘイゼル公と賛同する諸侯による聖戦の末、再び安寧の地となった。はぐれとそれに類するものたちは、全てエルザの都及びその近郊から速やかに退去すべし。これはジーン皇国国王代行アルヴィン=ジオ=ヘイゼルによる勅令である。温情として、この掲示開始より7日の猶予を与えるものとする。』」

「何か難しい言い方だけど、要は出てけってこと?」

「そのようだが、エルフ以外はということらしいな」

「なんじゃこれは! 無茶苦茶じゃろう!」
「何だこのジジイ! 抵抗するものは拘束するぞ!」
「やめて! おじいちゃんを放して!」

 読んでいたおじいちゃんが兵隊さんたちに文句を言ったら、持っていた槍で交差する感じで押さえ付けられて、その横にいた子ども、女の子がその兵隊さんの腕に掴みかかっていた。
 兵隊さんの1人に振り払われて吹っ飛んだ女の子を、ダンさんが受け止める。
 次の瞬間兵隊さんの首のあたりに手刀を入れると、2人ともそのまま静かに崩れ落ちた。
 たぶん、兵隊さんたち、手刀入れられたことも気づいてなかったよ。
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