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モノローグ2
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村人A モノローグ2
朝日が昇り、心地よい風が吹き抜ける。草木は青々と朝日を浴びて煌めき、村の中はゴミひとつなく清潔だ。朝から活気づき、勇者様の来訪に村全体が胸をときめかせているようだった。
深く息を吸い込み、勇者様が宿泊している部屋の扉をノックする。しかし返事がなく、戸惑う。
「……勇者様?」
いつもなら朝早くに起きて剣の手入れをしているはずだ。不思議に思い、ゆっくり扉を開ける。まだ眠っていることに驚きつつ、そっと部屋に入る。
「……泣きあと?」
寝台の傍で立ち止まり、膝をついて身を寄せる。普段の凛々しさは消え、幼くも見える寝顔に、涙の跡が残っているのに気づいた。
………。
惜しいことをした。理由は分からないが、弱っている勇者様に寄り添う絶好の機会だったのではないかと、心の中で舌打ちする。しかし、なぜ泣いていたのか――そう考えていると、あなたの目が開き、その美しい瞳が私を捉えた。
「おはようございます。勇者様。なかなかお目覚めにならないので、様子を伺いに参りました」
部屋に勝手に入ったことを謝罪すると、あなたは笑って許してくれる。無垢な村人だと思っているのだろう。警戒心はない。
「……なにか、辛いことでもありましたか」
勇者様に気づかれないように魔法を使い、一緒に食べるつもりだった朝食と飲み物を食堂から部屋の外へ転移させ、手元に呼び寄せる。
「失礼ですが……泣いているように見えましたので。無理に起きなくて大丈夫ですよ。朝食も持ってきていますから、ここでお召し上がりください」
勇者様の体を起こすのを手伝い、食事の乗ったトレーを渡す。食べている姿を静かに見守りながら物思いにふける。食事風景など本来面白いものではないはずなのに、勇者様の口元を見ているだけで胸がいっぱいになる。口の周りについた食べかすでさえ、どうしてこんなに魅力的なのかと、黙って見つめてしまう。
「あの……あなたは食べないのですか?」
「はい、私はもう済ませましたので」
悪びれもせず、食べ終わるのを待つ。本当は食べていないが、あなたを見ているだけで満たされていた。食後の食器を部屋の外に置き、分身に片付けさせる。
「勇者様。昨夜……涙を流された理由をうかがってもよろしいでしょうか」
言いにくそうにしている。それも当然だ。私はあなたと深い仲ではない。しかしあなたは、親切な村人を無下にできず、きつく突っぱねることもできない。
……本当に、お優しい勇者様。
話を聞くうちに、勇者様の孤独と、離れた仲間への思いを知る。……安心した。大したことではない。
仲間については、もういいだろう。……いないのだから。
「そうでしたか。しかし、このまま旅を続けるのは宜しくないかと。お心が弱っている状態で、モンスターのいる村の外をお一人で行動されるのは危険です」
勇者様は、しばらく村に滞在することを受け入れてくれた。
「そして……孤独、寂しさについてですが」
心の奥の黒い部分に蓋をしながら続ける。
「本日、勇者様を歓迎して、ささやかながら村の広場でお祭りを予定しております。なんと、回復薬や装備品もお安くなっていますよ」
嬉しそうに微笑むあなたに手を差し出す。
「では、私は宿の外でお待ちしております」
__
夜になり、祭りも終わりに近づく。
あなたに代わる代わる、別の姿で声をかけ様子を伺う。しかし、どこか心ここにあらずな様子に、内心腹立たしさを覚える。仲間というのは、元パーティーメンバーのことだろう。
本当に忌々しい奴ら。
酒を飲んでいると、分身と話していた勇者様がこちらへ歩み寄ってくる。
「……楽しまれていますか?」
勇者様に、私はどう映っているのだろう。村人A、その他大勢の一人――。
孤独を私が埋めたいと言えば、笑われるだろう。私はその程度の役だ。今夜までは。
祭りが終わり、日付が変わる頃。勇者様を村に拘束するため、祭りの影で魔法陣を仕込んでいた。
「朝は格好悪いところを見せてしまったね」
「お気になさらず」
警戒されてはいけない。バレてはいけない。
あなたを拘束するのは容易ではないのだ。
「以前、どこかで会ったことはないかな」
………。
間を置いて曖昧に微笑み、やんわりと否定する。
「そうかもしれませんね。ただ、私は存じ上げなくて……申し訳ありません」
少しでも疑われないよう、温和で無垢な村人Aを演じる。あなたが私を見つめる視線の意味など、今はどうでもよかった。
明日が待ち遠しい。
驚くだろうか。私を恐れるだろうか。
でも、この恋心だけは本物なのだ。
あなたが弱っている今を、逃したくない――。
Fin…
朝日が昇り、心地よい風が吹き抜ける。草木は青々と朝日を浴びて煌めき、村の中はゴミひとつなく清潔だ。朝から活気づき、勇者様の来訪に村全体が胸をときめかせているようだった。
深く息を吸い込み、勇者様が宿泊している部屋の扉をノックする。しかし返事がなく、戸惑う。
「……勇者様?」
いつもなら朝早くに起きて剣の手入れをしているはずだ。不思議に思い、ゆっくり扉を開ける。まだ眠っていることに驚きつつ、そっと部屋に入る。
「……泣きあと?」
寝台の傍で立ち止まり、膝をついて身を寄せる。普段の凛々しさは消え、幼くも見える寝顔に、涙の跡が残っているのに気づいた。
………。
惜しいことをした。理由は分からないが、弱っている勇者様に寄り添う絶好の機会だったのではないかと、心の中で舌打ちする。しかし、なぜ泣いていたのか――そう考えていると、あなたの目が開き、その美しい瞳が私を捉えた。
「おはようございます。勇者様。なかなかお目覚めにならないので、様子を伺いに参りました」
部屋に勝手に入ったことを謝罪すると、あなたは笑って許してくれる。無垢な村人だと思っているのだろう。警戒心はない。
「……なにか、辛いことでもありましたか」
勇者様に気づかれないように魔法を使い、一緒に食べるつもりだった朝食と飲み物を食堂から部屋の外へ転移させ、手元に呼び寄せる。
「失礼ですが……泣いているように見えましたので。無理に起きなくて大丈夫ですよ。朝食も持ってきていますから、ここでお召し上がりください」
勇者様の体を起こすのを手伝い、食事の乗ったトレーを渡す。食べている姿を静かに見守りながら物思いにふける。食事風景など本来面白いものではないはずなのに、勇者様の口元を見ているだけで胸がいっぱいになる。口の周りについた食べかすでさえ、どうしてこんなに魅力的なのかと、黙って見つめてしまう。
「あの……あなたは食べないのですか?」
「はい、私はもう済ませましたので」
悪びれもせず、食べ終わるのを待つ。本当は食べていないが、あなたを見ているだけで満たされていた。食後の食器を部屋の外に置き、分身に片付けさせる。
「勇者様。昨夜……涙を流された理由をうかがってもよろしいでしょうか」
言いにくそうにしている。それも当然だ。私はあなたと深い仲ではない。しかしあなたは、親切な村人を無下にできず、きつく突っぱねることもできない。
……本当に、お優しい勇者様。
話を聞くうちに、勇者様の孤独と、離れた仲間への思いを知る。……安心した。大したことではない。
仲間については、もういいだろう。……いないのだから。
「そうでしたか。しかし、このまま旅を続けるのは宜しくないかと。お心が弱っている状態で、モンスターのいる村の外をお一人で行動されるのは危険です」
勇者様は、しばらく村に滞在することを受け入れてくれた。
「そして……孤独、寂しさについてですが」
心の奥の黒い部分に蓋をしながら続ける。
「本日、勇者様を歓迎して、ささやかながら村の広場でお祭りを予定しております。なんと、回復薬や装備品もお安くなっていますよ」
嬉しそうに微笑むあなたに手を差し出す。
「では、私は宿の外でお待ちしております」
__
夜になり、祭りも終わりに近づく。
あなたに代わる代わる、別の姿で声をかけ様子を伺う。しかし、どこか心ここにあらずな様子に、内心腹立たしさを覚える。仲間というのは、元パーティーメンバーのことだろう。
本当に忌々しい奴ら。
酒を飲んでいると、分身と話していた勇者様がこちらへ歩み寄ってくる。
「……楽しまれていますか?」
勇者様に、私はどう映っているのだろう。村人A、その他大勢の一人――。
孤独を私が埋めたいと言えば、笑われるだろう。私はその程度の役だ。今夜までは。
祭りが終わり、日付が変わる頃。勇者様を村に拘束するため、祭りの影で魔法陣を仕込んでいた。
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………。
間を置いて曖昧に微笑み、やんわりと否定する。
「そうかもしれませんね。ただ、私は存じ上げなくて……申し訳ありません」
少しでも疑われないよう、温和で無垢な村人Aを演じる。あなたが私を見つめる視線の意味など、今はどうでもよかった。
明日が待ち遠しい。
驚くだろうか。私を恐れるだろうか。
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