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笑いって必要ーー書きあぐねている人のための小説入門
しおりを挟むある日何故か、「純文学を知ろう!」と思い立ち、1時間ぐらい書店をぐるぐるしたあげく、文藝2020年冬号を購入した。ほくほくした顔でページをめくる。
宇佐見りん、大前粟生、くどうれいん、遠野遥などの今をときめく旬の90年代生まれの作家26人にアンケートしたというページにわたしは釘付けだった。同世代だからだ。
印象的だったのは「なぜ小説(もしくは詩歌)という表現方法を選んだのですか?」という質問に対し、「自分にはこれしかできないから」という回答が多かったのだ。26人中5人が自由回答にもかかわらず同じような回答をしていた。そういう謙遜しているのか、自信がないのかわからない回答は確かに自分と同世代の90年代生まれに多い気がした。遠い存在過ぎて、土方十四郎、フグ田サザエ、堂上篤(全員27歳)と同レベルで年齢が一緒って思っていたけれど、本当に同じ時代を生きている人たちなんだな。ちなみに「得意な分野だからです」と答えたのは上畠菜緒ただ一人だけだった。堂々とそう言ってくれた方がきゅんとする。
そのアンケートの中で、「何度も読み返す小説があれば教えてください(三作まで)」という内容に、岡英里奈の回答が、
「保坂和志『書きあぐねている人のための小説入門』(小説だと思っています)」という回答を見て、この本に興味を持った。さっそく購入。本当に小説なんだろうか?
この本は小説家である保坂和志による、小説入門の指南書であるが、どうプロットを書いていいか、伏線を張るべきか、などテクニックのマニュアルでは決してない。だが決して精神論だけではなくて、具体的でかつ痛快なアドバイスが随所に広がる。
たとえば、「次のためにネタを残しておく」ということについては、
「いま書いているものが“第一作”にならなかったら、二作目はない。残しておけるようなネタは、たいしたネタではない。つまり書くに値しない。それが正しく書くに値するネタだったら、いま書いている作品にそれも入れてほしい」
…そうですね、おっしゃる通りです。このエッセイのネタはまた今度にしようとか思うことがあるが、これを読んで全力投入しようと思い立った。
実はこの本を読むまで2か月かかっている。そして、読んでいる時こそばちん!と叩かれるようなハッとする言葉ばかり拾っていたが、読了後、他の作品を読んで、じわじわとこの本に書いてあったことを具《つぶさ》に思い出していた。
その一つが「笑い」だ。保坂和志自身も自分の小説に「笑い」を入れたいという気持ちを常に持っているという。
「ひらすらに深刻なばかりの手記がベストセラーになることがよくあるけれど、そこには既知の深刻さしかない。それは「深刻な話」としてパッケージされた(単純化された)商品でしかない。
しかし、現実に起こる深刻な出来事はもっとずっと複雑で、その出来事が続いている間、当事者が一度も笑わないわけではない。(中略)
笑いによって、読み手は現実の複雑さを知る(書き手自身も知る)」
例えば『この世界の片隅に』というアニメーション映画は“戦争”を扱っている作品であるが、随所に“笑い”があり、それがこの作品の深い余韻につながっていると思う。他の戦争映画でも、主人公たちが冗談言ったり、笑い合ったりするシーンはある。彼らだっていつでも暗いことばかりを言っているはずがない。だから笑いがあることはかえってリアルなのだ。
そして笑いはネガティブなものよりも意識的に書かなければ書けないと著者は断言する。
「「『じゃあ、また』と言って、彼は歩いていった」と書くだけで、小説の中では「じゃあ、また」が二度と来ないように感じられてしまう。小説にはそういうネガティブな“磁場”のようなものがあるらしいことが、書くにつれて強く強くわかってきた」
今まで気が付かなかったが、確かにネガティブな力が働きやすいかもしれない。だからこそ、意識して、踏ん張って、笑いを入れなきゃいけない。
著者の全力の、渾身の入門書に尻を叩かれっぱなしだった。でも正直、これが「小説」だと思わなかった。だからわたしはこれは小説ではないにしろ、岡英里奈がそれでも薦めたかった本だとしてメッセージを受け取った。
今回の物語:『書きあぐねている人のための小説入門』保坂和志著
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