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130キロの先生に目隠しされながら踏まれてます(小噺3)
しおりを挟む「130キロの巨漢に」
「うん?うんうん」
「目隠しされて」
「え、」
「踏んでもらってんの、お金払って」
「…」
隣にいる友達の麗香が黙ってしまった。
わたしは慌てた。
「あ、違うよ! 痛いんだけど、気持ちいいんだってこれが!」
ますます引いている麗香。
しまった、話す順番間違えた。これでは怪しげなSMクラブの話ではないか。
整体ってことを伝えてなかった。
わたしの整体は足式と言って、踏んで施術するタイプの整体だった。
わたしが去年の冬ごろ、大学院の卒論の出筆が忙しかった頃、肩が痛くて、整体を探していた。最寄りの駅から近く、かつ10分1500円から施術OKだったので、そこを予約した。
その整体は下に店舗あり、上が居住スペースになっているところだった。
「いらっしゃいませ!」
と出てきた整体師の先生を見てびっくりした。
でかい…! 身長は170ぐらいだろうが、大きい。これは大台を超えている…!ただ大きいというだけではなく、それなりに締まっているので、三国志の趙飛のようなスタイルである。40歳ぐらいで、坊主頭にはタオルを巻いている。完全にラーメン屋のおやじの見た目だ。
わたしはそれなりに整体師を見てきたが、どちらかというとひょろっとした人が多かった。
「今日は何か痛いところでも?」
「…えーと、肩です。今日は初回なので30分で」
さっそく施術開始。目隠しされ、
「いやー、ほぐしがいがありますね!」と声をかけられる。が、その声が遠い。押されている感覚も手ではない。もっと長い…? もしや、
「足…?」
「はい、当店は足式です」
びっくりした。わたし足で踏まれてるよ!
でも…
「う~…気持ち良いー…」
父上、母上。あなたたちの娘は27でお金払って、巨漢に踏まれて気持ちいいとか言ってますよ。
この先生はとてもよくしゃべる。そうなると、その時のわたしの生活の中心に“中国“があったので、どうしても話さざるを得なくなる。しかしわたしはあまり初対面の人とは中国の話題は避けていた。
どう相手が考えてるかわからないからだ。ネガティブなことを突如言われたりすることもある。
反対に、わたしが話すことが相手にとっては衝撃的すぎることもある。例えば、中国のスーパーで炭酸買って飲んだら、炭酸抜けきって水だった(実話)、みたいなことを言ったりする。わたしはただ笑い話として話していても、相手がドン引きしてしまうことがある。だから極力話さないのだ。
でも話の流れで、中国の大学院に行っているということがバレた時、
「向かいの中華屋さん行ったことあります?」
「あ、香楽園?」
「そうそう。あそこのオヤジさんは中国人なんですけど、どんぶり持って行くと、どんぶりに盛ってくれてるんですよ。ああいった臨機応変さは中国のいいところですよねー」
「まあ、確かに…」
「ここの建物の隣ってむじんくんあるでしょ? 夜になると、そこにオヤジさんがいて、何してるのかなーって思ったら、むじんくんの電灯の下でバリカンで頭剃ってたんですよー。見やすかったんですかね? さらさら~て髪が落ちていってましたね」
…そのエピソードはわたしの方がびっくりした。でも先生には気軽に中国のことを話せるようになった。
その後も色んなことを先生は教えてくれた。特に印象深いのは漫画。範馬勇次郎の武勇伝、魁!!男塾の超でかい男の話、ベルセルクのゴッドハンド…。漫画は好きだが、ほぼ読んだことのない物語ばかりだ。
「なんか漢って感じの漫画ばっかりですね」
「う~ん、どっちかっていうと、雄って感じの作品が好きですね!」
雄…。
初めの施術を終えた後、今後の予約をしている時に、
「実はまだ仕事してなくて…なんで、通いたいんですけど、10分コースとかで週一で来たいんです」
10分なら1500円。なら週一で通える。すると先生は、
「学生なんで学生料金30分で2000円でいいですよ」
「え? …いいんですか?」
「けいさんは日本と中国をつなぐ人ですから。絶対この先役に立つ人ですからいいですよ」
役に立てるかどうかはわからないけれど、それは本当にありがたかった。しかも30分とか言いつつも、50分ぐらいいつもやってもらっていた。箇所も肩、腰、首回り、足、足の裏と全身の施術。おかげで肩が痛くて動けなくなることはなくなったし、ステイホームで沈んだ気持ちがちょっと和らいだ。
この間、朝どれのすいかと梨を抱えて、整体へ向かった。先生が、
「金持ちなんて羨ましくないですけど、朝果物食べれるなんていいなあ。それだけは羨ましい」
と言っていた。
「夏の果物なら何が好きですか?」
「すいかですねー、むしゃむしゃ食べたい」
この半年間のありがとうをこめて。
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