初恋の代償

南 鴇也

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第2章

偽り 07※

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「好き」という気持ちを伝えてしまったら、その唇に触れてしまったら、今までの関係が崩れてしまうことくらい、解っていたはずだ。
それなのに、どうして俺は……。

「沙雪さん」

宮白は先刻までの様子とは一変し、毅然として、鋭い眼差しを俺に向けた。

「――カラダだけ。心はあげられません。誰であっても」

俺は掴んでいた手をするりと離した。
あまりにもその目が決意に満ちたものだから。

――ああ、やっぱり。

「じゃあ……」

宮白のシャツのボタンに手を掛け、ひとつ、それを外した。

「抱いてもいいんだな」

――壊してしまったんだ。もう、後戻りは出来ない。ならばいっそのこと、こいつを。


   * * *


資料室に入った途端、ガチャンと鍵をかける。
外の灯りが漏れ入るだけの薄暗い部屋に、その金属音がやけに大きく響いた。

宮白の細い体を壁に押し当てる。

「え、嘘っ……!ここで……?」
「ああ」

短く返事をし、背後から覆いかぶさるように体を密着させた。

「……こんな時間だ。誰も来ない」

元に納まった左耳のピアスに口づけながら、「宮白」と名前を呼ぶ。

上着を脱がし、シャツの中に手を忍び込ませ、鎖骨から下腹まで弄るように撫で上げた。
想像していた以上に滑らかで柔らかい肌。愛撫しながら徐々に下肢の方へ手を降ろしてゆく。下衣を太腿までずらし、掌で宮白のモノを包み込んだ。

「っ……!」

途端に宮白の体が強張る。
背中から伝わるドクドクとした鼓動を感じながら激しく前を弄んだ。

「……!」

俺はふと手を止める。
先刻から、宮白は俺の愛撫に反応しない。初めは、性急に事に及んだことで、怯えているのだと思っていた。だが違う。宮白のソレはまったく変化していないのに、触れるたび、誘うように腰が揺れるのだ。

“気が変になっちゃったのかもなぁ”
端崎の言葉が脳裏をよぎった。

「宮白、お前……」
「大丈夫、だから……動き、止めないで」

間髪をいれず、悩ましげな声が聞こえたかと思うと、前に回した腕に手が添えられた。
その煽るような仕草に欲情して、素早く指に唾液を絡ませてから、後孔に手を伸ばす。

「っは……」

宮白が短く息を吐いた。
充分に濡らした状態ではなかったから、傷つけてしまうのでは、と思ったが、既にそこは容易に指が一本入るほど解れていた。
粘着性のある液体が中指に絡みつき、きつく締め付けた。

「一体誰に開発された?」

耳元で訊いた。
その瞬間、宮白の体が強張り、息を呑んだのが分かった。

答えを聞くまでもない。
こいつは色んな男と、今みたいに……。
そう思うと恐ろしく遣る瀬無い気持ちになる。
こんなことをしても虚しいだけだ。
それでも、宮白が欲しい。


「宮白、挿れるぞ」

断りを入れた後でふと気付き、体を離す。
手を止め無言でいる俺に気づいた宮白は、体勢を変えてこちらを向いた。

「沙雪さん?」

「……悪い、ゴム持ってない」

「あ……男同士でするの怖いですよね。たまに居るんですよ、興味本位で――」

「違う」

「え……」

「お前の為だよ」

自分でも驚くほど冷静になっていた。こんな強姦まがいのことをしているのに、宮白を穢したくないと思ってしまった。

宮白は目を丸くしたあと、ふ、と柔らかく微笑んだ。

「沙雪さんは、本当に優しい」

そう言って、徐に傍にあった上着の内ポケットから、一連に繋がったままの四角い個包装を取り出す。

「……使ってください。貴方の一生に汚点を残したくはない」

今度は真顔でじっと俺を見つめた後、跪いてスラックスのチャックを降ろした。封を切り、綺麗な指先でそそり勃つソレに被せる。

「汚点って、なんだよ」

「沙雪さんの事を浅ましい人間とは思えない。この行為は、一時の気の迷いかも……」

紡がれる言葉を遮って、深く口づけをした。
互いに浅く呼吸しながら唇を何度も重ねる。

腹が立った。複数のコンドームを当たり前のように持っていることにも、汚点という言葉を使うのにも。
そして、俺のことを、買いかぶりすぎなところも。

――気の迷い?そんなもので片付けられるなら、とっくにそうしている。

細い体を再び反転させて腰を手前に引き、ゆっくり後ろから挿入した。
次の瞬間、熱いものに包み込まれる感覚に襲われる。

「っく……」

俺は思わず声を漏らした。
まるで噛みつかれるように花肉が吸い付いて、今にも達してしまいそうになる。

「沙雪、さん……」

ドクリと心臓が跳ねた。
今この状況で、そんなに濡れた声で呼ぶなんて、反則だ。なけなしの理性など、もう残ってはいなかった。

俺は腰を掴み、激しく突き上げた。
絡み付いて離れない熱。
腰に響く、肌同士がぶつかり合った音。

もはや、宮白が無反応で受け入れていることも構わず、荒く息を吐きながら、ただ悦に溺れる。

「宮白、好きだよ……」
汗ばむ白い肩に紅い跡をつけ、俺は言った。

これから何度、この言葉を言うのだろう。
これから何度、こうやって印しをつけるのだろう。

独りよがりの行為なのかもしれない。
宮白を抱く、他の男達がそうしてきたように。

錯覚に陥ってしまうんだ。こうして繋がっていることで、こいつを独占したような錯覚に。

それでも、幸せだから。
ただ宮白の体温を感じるだけで、こんなにも好きだって思えるから。
どんな形でもいい。こいつを繋ぎとめておけるなら……。


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