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第3章
戒め 02※
しおりを挟む「!……っ」
あまりの予期せぬ状況に、声を失いその場で固まってしまう。彼はスーツ姿のままベッドの縁に腰掛けて、こちらをじっと見ていた。
「お帰り、亜矢」
「ど、して……?」
一瞬不思議そうな顔をしてから立ち上がり、ゆっくりと近づいて来る。
「どうしたんだ?そんなに驚いた顔をして」
「結月さん、帰ってくるの、明日じゃ……」
「明日の商談、リスケになったから今日帰ってきたんだ。早く、亜矢に会いたかったから」
ふわりと笑みを浮かべたあと、小さく首を傾げた。
「空港に向かう前に、君に電話したんだが」
「電話……」
ハッとした瞬間、唇が押し付けられた。
「っん……結月さ……」
荒々しいキスに腰が逃げる。
「亜矢……」
熱を帯びた声で囁かれ、スルリと服の中に滑らかな手が忍び入った。
ゾクリと全身に走る悪寒。
彼の手が、恐ろしくも沙雪さんのそれと交差した。
「っやめて……!」
思わず結月さんの胸を押して体を離す。
「亜矢?」
「ごめんなさいっ……今日は、疲れてて……」
顔を見ることができないまま、震えを抑え込むように拳を握り締めた。
――忘れたいのに。あの人のことなんか……。
暫く無言だった彼が、ゆっくり口を開いた。
「……疲れてる?そうだよな」
静かな声が上から振ってくる。
「……沙雪に、あれだけ抱かれればな」
「え……」
彼の顔に視線を戻した瞬間、ぐいと腕を引かれた。ギッとベッドのスプリングが跳ねたかと思うと、一瞬にして天井が視界に入る。
「っな……!」
「なんで知っているんだ、という顔だな、亜矢」
僕を見下ろす結月さんの口元が歪む。見開かれた目は明らかにいつもと違っていて、瞬時に身体が強張った。
「あいつがこれを俺に送りつけてきた」
そう言って目の前に突きつけられたスマホの画面には、僕の痴態が映されていた。
「っ……!!」
さっと血の気が引く。……どうして?
「親切にもまあ、電話で可愛い声まで聞かせてくれて」
「う、そ……いつの間にそんなことっ……」
理解出来ずに動揺する僕を、紺青の瞳がじっと見据えている。
「気付いていなかったのか?キモチよさそうにしてたもんなぁ。……あいつに達かされて」
冷たい、全身を刺すような声。
彼は性急にジャケットを脱ぎ捨て、ネクタイを荒く緩めた。
そのまま、顎を掴まれ、再び貪るような口づけをされる。その間にすべての服を剥ぎ取られた。
「嫌、ま、って……」
掌でそっと髪を撫でられる。額にかかった前髪を指先で流し、そこに唇が触れた。そのまま頬に、耳に、首筋に、啄むようにキスをされる。そして細い指が足の付け根をつっと伝い、中心のソレを掴んでゆるゆると扱きだした。
「っは……!んんっ……」
先刻までの乱暴な扱いとは違う、いつもの愛おしむような手つきに思わず声を漏らす。
ふと、触れる手の動きが止まった。
「少し優しくしただけで……。沙雪にも、こんな調子で簡単に体を預けたのか?」
「っ……ちが……!!」
「調教が甘かったみたいだな、亜矢」
「え……?」
瞬刻の沈黙。そして、
「……君が一体誰のものか、そのカラダにもう一度教え込んでやる」
ゾッとするほど低く囁かれたその言葉に、何かが壊れる音がした。
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