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第4章
再会 17
しおりを挟む一ノ瀬は、その近すぎる距離に対してというよりは、今の言葉が心底理解できないというように狼狽を漂わせた顔で、俺をじっと見つめた。
「どういうことだ……?俺には、何のことか……」
何も知りません、という表情。
それを見て、怒りと落胆の気持ちが織り交ざる。
予想はしていた。この反応をすることは。
こいつは俺の気持ちなんて、微塵も解ってはいなかったのだ。
怒りにまかせて、その唇を奪ってやればいい。
そうすればこいつは気づくのか?
――今更だろ。
この男が欲しかった。
その欲望の矛先をあいつに向けた。
そして、最も愛してやるべきだったあいつが、あろうことか、自分が一番手に入れたかった男に恋をして、壊された。
亜矢と一ノ瀬を会わせたかったのは、「絶対的な否定」が欲しかったから。
あの“ユヅキ”が別人であることを、この目で確かめて安心したかったから。
こんな偶然、許されない。その一心で。
この事実だけでもありえないのに、まさか同じ言葉で、突き放されたなんて。
何という愚の骨頂……。
「俺たちは、本当に馬鹿だな」
己の唇から冷笑が漏れる。
一ノ瀬の右頬に添えていた手を下ろして、そのまま拳を握った。
どうして、同じ傷つけ方しか出来ないんだ。
あれほど純粋な想いを向けられておきながら、どうして大切に出来なかったんだ……
「……一生許せない。お前も、俺自身も……」
「は、すみ……」
名前を呼ぶ、透き通るようなその声が、亜矢のそれと重なる。
自分が映る深い青から逃れるように、背を向けた。
『僕は千尋兄の何?』
あいつは、何であることを望んで、ああ呟いたのだろう。
あの時何と言えば、間違えずにあいつを愛せたのだろう。
4年もの間、そんな自責の念に囚われ続けていた。
――“人形”という言葉で、呪いのように亜矢を縛った。
それはあまりにも、残酷な記憶……
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