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久方ぶりの逢瀬は、淫らに蕩けて
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「では、俺は梢様の家に行って参ります」
「うん。行ってらっしゃい」
「寧々様、頑張ってくださいね」
「ありがとう」
夜七時。秋彦さんが梢さんの家に向けて出発していった。豪さんは仕事から帰ってきて、屋敷のどこかにいるはずなのに、さっきから姿が見当たらない。隠れられてしまったら、もうチャンスがないかもしれないのに。
「豪さん、どこかな……」
夕食を一緒に食べながら、最後に話ができたらそれでいい。体調のことも心配だ。そして、私から伝えたい。「絶対に、幸せになって」って。
屋敷のあちこち探すけれど、豪さんはどこにも見当たらない。ダイニング、リビング、客間、風呂場……後はやはり自室だろうと思って訪ねてみたら、扉が僅かに開いていた。照明の光は漏れていないし、中は真っ暗だ。
「豪さん? ご飯、一緒に食べない?」
ノックしながら声を掛けてみた。反応はない。眠ってしまっているのだろうか。
「豪さん、ごめん。心配だから、入るよ?」
照明のスイッチに手を伸ばして点灯させた。明るくなった部屋のベッド、ソファ、デスクにも、豪さんの姿はない。私は落胆しながら、部屋の中を見渡した。
しばらく来ていなかった豪さんの部屋は、きちんと整理整頓されているのに、物が少なくて殺風景だった。以前はこんな光景ではなかった。本や雑貨が乱雑に置かれていて、もっと生活感で溢れていたのに。豪さんの心情を表しているようで、胸が苦しくなる。
「ここで、初めて……」
処女を捧げた日。好きな人に抱かれる幸せを味わったあの日は、こんな事態になるなんて、一ミリも思っていない。いつかは豪さんと結ばれるんじゃないかって、淡い期待すら持っていた。
「……」
唇を噛みしめ、照明を落として部屋を出た。これで屋敷のほとんどを探したが、それでも見つからない。どこかに出掛けてしまったのか。体調が良くなって、梢さんの家に出掛けてしまったのかもしれない。でももしそうなら、秋彦さんから連絡があるはずだ。
可能性を一つずつ消去しながら、なんとなく、ガレージの方に行ってみた。
「あ……」
ガレージに繋がる扉を開けると、豪さんがいた。豪さんは自分の車のボンネットに腰掛け、空を見ている。よく見ると、腰回りも細くなっていた。やつれたような痩せ方が心配で、私は思わず駆け寄る。それでようやく、豪さんは私に気付いた。
「ん? ああ、寧々。どうしたの?」
「ご飯、一緒に食べよう?」
「……先に食べてて」
「私、もうすぐここを出るから。最後に、豪さんと話したい」
「俺は、話すことなんてない」
「……」
豪さんは笑顔を浮かべているのに、笑っていなかった。もう関わるな、と表情で訴えている。見たことのない表情が、怖い。私の知っている豪さんとは別人のようで、悲しくなる。一瞬怯んだけれど、ここで引き下がれない。
「いつまでも、これで最後って言いながら、ずるずる引きずっていくわけにはいかないんだ」
「……豪さん」
「寧々も、ちゃんと大人になるんだ。分かるよね?」
「……分かるよ。でも、いくら理性で抑え込もうとしても、無理な時は無理なんだよ」
私は、豪さんの身体を抱きしめた。見た目よりも、更に細く感じる。こんなになってまで、豪さんが守りたいものはなんだろうか。守らなきゃいけないもののために、自分がボロボロになっているのに。
自分の幸せを、一番に考えてほしいのに。
「寧々、離れて」
咎める声が頭上から降ってきた。それでも、豪さんは無理に引きはがそうとはしない。私だって離れる気はなくて、余計に腕の力を強めた。
「豪さんが、ちゃんと幸せになるって約束してくれるなら、離れる」
「……どうして、そう困ることばかり言うの?」
「豪さんが、ちっとも幸せそうじゃないからだよ!!」
つい、声を荒げた。大好きな人に幸せでいてほしい。笑っていてほしい。そう思うのは、私にとってごく当たり前なことだった。
「うん。行ってらっしゃい」
「寧々様、頑張ってくださいね」
「ありがとう」
夜七時。秋彦さんが梢さんの家に向けて出発していった。豪さんは仕事から帰ってきて、屋敷のどこかにいるはずなのに、さっきから姿が見当たらない。隠れられてしまったら、もうチャンスがないかもしれないのに。
「豪さん、どこかな……」
夕食を一緒に食べながら、最後に話ができたらそれでいい。体調のことも心配だ。そして、私から伝えたい。「絶対に、幸せになって」って。
屋敷のあちこち探すけれど、豪さんはどこにも見当たらない。ダイニング、リビング、客間、風呂場……後はやはり自室だろうと思って訪ねてみたら、扉が僅かに開いていた。照明の光は漏れていないし、中は真っ暗だ。
「豪さん? ご飯、一緒に食べない?」
ノックしながら声を掛けてみた。反応はない。眠ってしまっているのだろうか。
「豪さん、ごめん。心配だから、入るよ?」
照明のスイッチに手を伸ばして点灯させた。明るくなった部屋のベッド、ソファ、デスクにも、豪さんの姿はない。私は落胆しながら、部屋の中を見渡した。
しばらく来ていなかった豪さんの部屋は、きちんと整理整頓されているのに、物が少なくて殺風景だった。以前はこんな光景ではなかった。本や雑貨が乱雑に置かれていて、もっと生活感で溢れていたのに。豪さんの心情を表しているようで、胸が苦しくなる。
「ここで、初めて……」
処女を捧げた日。好きな人に抱かれる幸せを味わったあの日は、こんな事態になるなんて、一ミリも思っていない。いつかは豪さんと結ばれるんじゃないかって、淡い期待すら持っていた。
「……」
唇を噛みしめ、照明を落として部屋を出た。これで屋敷のほとんどを探したが、それでも見つからない。どこかに出掛けてしまったのか。体調が良くなって、梢さんの家に出掛けてしまったのかもしれない。でももしそうなら、秋彦さんから連絡があるはずだ。
可能性を一つずつ消去しながら、なんとなく、ガレージの方に行ってみた。
「あ……」
ガレージに繋がる扉を開けると、豪さんがいた。豪さんは自分の車のボンネットに腰掛け、空を見ている。よく見ると、腰回りも細くなっていた。やつれたような痩せ方が心配で、私は思わず駆け寄る。それでようやく、豪さんは私に気付いた。
「ん? ああ、寧々。どうしたの?」
「ご飯、一緒に食べよう?」
「……先に食べてて」
「私、もうすぐここを出るから。最後に、豪さんと話したい」
「俺は、話すことなんてない」
「……」
豪さんは笑顔を浮かべているのに、笑っていなかった。もう関わるな、と表情で訴えている。見たことのない表情が、怖い。私の知っている豪さんとは別人のようで、悲しくなる。一瞬怯んだけれど、ここで引き下がれない。
「いつまでも、これで最後って言いながら、ずるずる引きずっていくわけにはいかないんだ」
「……豪さん」
「寧々も、ちゃんと大人になるんだ。分かるよね?」
「……分かるよ。でも、いくら理性で抑え込もうとしても、無理な時は無理なんだよ」
私は、豪さんの身体を抱きしめた。見た目よりも、更に細く感じる。こんなになってまで、豪さんが守りたいものはなんだろうか。守らなきゃいけないもののために、自分がボロボロになっているのに。
自分の幸せを、一番に考えてほしいのに。
「寧々、離れて」
咎める声が頭上から降ってきた。それでも、豪さんは無理に引きはがそうとはしない。私だって離れる気はなくて、余計に腕の力を強めた。
「豪さんが、ちゃんと幸せになるって約束してくれるなら、離れる」
「……どうして、そう困ることばかり言うの?」
「豪さんが、ちっとも幸せそうじゃないからだよ!!」
つい、声を荒げた。大好きな人に幸せでいてほしい。笑っていてほしい。そう思うのは、私にとってごく当たり前なことだった。
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