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34.恐いし痛いキスなんて
しおりを挟む「あ! や、ヤです部長!」
首筋にチュッと唇の当たる感覚が襲って、足をバタバタさせてもがく。
味見なんて言って、血、吸われたりしたら……!
「……恐いか、凛」
フーッと冬の風のような吐息が耳元に吹きかけられて、またも背筋がゾクゾクした。
「こ、恐い、です…」
恐いなんてもんじゃないですけどね!?
両手を頭の上で押さえつけられてるし、目隠しされてるし!
そしてこの人は血を吸う吸血鬼なわけで…恐くないわけがない!
「あ……!」
……ない、のだが。
パクッと耳たぶを吸われて、自分らしからぬ声が漏れた。
チュッと吸われて、またすぐに離れたと思えば、彼の高い鼻が首筋を撫でるように降りていくのが分かる。
そうして鎖骨より少し上で止まると、顎の下に収まるくらいにペッタリと頭を寄せた。
「…いい匂いだ」
「ぶ、部長の家にあったボディーソープですけど」
ため息混じりに言葉を漏らされて、首筋がヒンヤリと燻られる。
誤魔化すように皮肉を言ったつもりだが、部長は鼻で笑うだけだった。
あんなにいつも目をギラつかせて怒るのに、どうしてこういう時は怒らないの……?
「っあ!」
「大丈夫、キスだけだ」
唐突に首筋に落ちたキスに身を強張らせ、声を漏らした私を労わるように、そう甘く囁く彼の声。
嫌なのに。
こんな遊びみたいなこと……。
もしこのまま首筋を噛まれて、血を吸われて死んでしまうかもしれない危険な賭け。
彼がどれだけ吸血欲を耐えているのかは分からない。
ただ毎晩キスで食事を取っているだけで、なんとかなっている。
けど、今はまだ、その食事すら終わっていないのだ。
キスだけでいいのなら、それで吸血を避けられるのなら。
こんな危険を冒す必要なんて、無いのに。
「ん…いっ……あ……」
ジンワリと私の熱で温かくなる部長の手のひら。
足の指先をギュッと曲げて、耐える。
首筋に降りるキスは、目隠しされている為に突然移動する。
その度に、胸の奥からジンと苦しくなって、身体が逃げたい衝動に駆られる。
きっと食事もされているはずなのに、身体中が炎に焼かれているような熱に覆われる。
その中で、必ず一度強く吸われる場所がある。
そこがきっと、吸血するポイント。
身をよじって避けようとも、決して敵わない。
私の身体が、私でなく彼の言うことを聞いている。
「……痛いか?」
「……痛いです」
顔の前で声がして、反抗的に答えるも、やはり彼はフッと笑って、唇にキスを落とした。
「ん……」
貪るように、力強く、余裕すら与えまいとしているかのように……。
少し離れてはまた触れて、乾燥気味の私の唇を潤すように、何度も角度を変えて、深く、私を求める。
そして私は、まるでそれを待っていたかのような安堵に見舞われた。
首筋を移動する危険なキスよりも、安全だから……?
自分から動くことなんてない。
身を固めて、痛みに耐えるように、終わるのを待つだけだ。
それでもキスが恐くないのは、なんで?
私のエネルギー(部長は気だと言っていたけど)を吸われているのに。
もしかしたら、このまま永遠の眠りについてしまうかもしれないのに。
でもきっと、それも全部、刻印のせい。
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