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78.忘れるくらい小さなこと
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「凛……また運んでやろうか?」
ガチャガチャ、と扉が開くのとシートベルトが外れるのをほぼ同時に感じて、ハッといつの間にか閉じていた瞳を開眼させた。
全く覚えが無いが、途中から眠ってしまっていたらしい。
「はっ! い、いえ、いいです結構です! 寝ないと言って寝てしまいすみませんでしたぁ!!」
意地の悪い彼のこと、さっきの腹いせにわざとあのジェットコースターを予感させる高速移動をして私をおちょくるつもりなのだろうと、完全にテンパり状態で謝るも、部長はクククと声を籠らせて笑うだけだった。
恐る恐る顔を上げるも、目尻にシワを寄せて忍び笑う部長に、焦りが引いて段々呆れてくる。
またこの人は、私を馬鹿にして……。
「悪い悪い……。
なんか、今のセリフでお前の考えが大方想像出来た。
別に怒ってねーし、馬鹿にもしてねーよ。
寝てもいいって言ったのは俺だからな。
それに、嫌だと言われたことそう何回もやるかよ。
俺はそこまで鬼じゃねえ」
「鬼…………」
自覚あったんですか、と思わず口にしそうになって、ブンブンと首を振った。
今はそんなに時間が無いんだった!
この後身支度をして、時間内にちゃんと出社しないと!
もし部長と一緒に遅刻ってことになったら……!
新人であるこの身が危うい上に、また先輩達に疑いの目を向けられてしまうかもしれない!!
「と、とりあえず早く準備して出勤しないとです!
部長だって急がない、と……!」
「……だから、2人の時は名前だろ?」
「っ……!」
ゆっくり車内に押し入って来て、部長の大きな手が座席の肩を握ったと思えば、必死に退けぞせたハズの身体は逃げ場を失い、運転席に手つく形で、強引にキスされる。
避ければいいことなのに、どういうわけか、キスされるまでその選択肢が浮かんでこない。
刻印の影響か、それとも慣れなのか…その雰囲気を察して、本能的にキスを受け入れてしまうようだ。
元々そんなに無い腹筋が辛くて、覆い被さる部長の重圧に耐えかねて身体を下ろせば、部長はそっと顔を離し、右手の手の甲で私の頬を優しく撫でた。
その擦れる指に、ゾクゾクと刺激を感じて、胸の奥の何かが収縮する。
金色の瞳がそっと姿を現し、小さく吐息を漏らされたところで、後悔の念に苛まれ、空いた手で口を押さえた。
「な、何するんですか!」
「お前が名前呼ばないからだろ。
昨日もあれだけ言ったってのに、まだ分かってないのかよ」
「わ、私だって、昨日、呼んだのに……!」
「あんなの、呼んだに入るかよ。
芝居にすらなってなかっただろーが」
悪びれた様子もなくそう言い放ち、私の口元の手を退かそうと手を握る部長に、フツフツと怒りが沸き起こった。
芝居……ですって!?
部長が覚えてない時点で、昨日のはカウントされてないわけだから、私がまた呼べばそれでいいハズなんだ、けど、どういうわけか、それが許せなかったのだ。
どうして、覚えて無いの?
ーー私との事、なのに。
ガチャガチャ、と扉が開くのとシートベルトが外れるのをほぼ同時に感じて、ハッといつの間にか閉じていた瞳を開眼させた。
全く覚えが無いが、途中から眠ってしまっていたらしい。
「はっ! い、いえ、いいです結構です! 寝ないと言って寝てしまいすみませんでしたぁ!!」
意地の悪い彼のこと、さっきの腹いせにわざとあのジェットコースターを予感させる高速移動をして私をおちょくるつもりなのだろうと、完全にテンパり状態で謝るも、部長はクククと声を籠らせて笑うだけだった。
恐る恐る顔を上げるも、目尻にシワを寄せて忍び笑う部長に、焦りが引いて段々呆れてくる。
またこの人は、私を馬鹿にして……。
「悪い悪い……。
なんか、今のセリフでお前の考えが大方想像出来た。
別に怒ってねーし、馬鹿にもしてねーよ。
寝てもいいって言ったのは俺だからな。
それに、嫌だと言われたことそう何回もやるかよ。
俺はそこまで鬼じゃねえ」
「鬼…………」
自覚あったんですか、と思わず口にしそうになって、ブンブンと首を振った。
今はそんなに時間が無いんだった!
この後身支度をして、時間内にちゃんと出社しないと!
もし部長と一緒に遅刻ってことになったら……!
新人であるこの身が危うい上に、また先輩達に疑いの目を向けられてしまうかもしれない!!
「と、とりあえず早く準備して出勤しないとです!
部長だって急がない、と……!」
「……だから、2人の時は名前だろ?」
「っ……!」
ゆっくり車内に押し入って来て、部長の大きな手が座席の肩を握ったと思えば、必死に退けぞせたハズの身体は逃げ場を失い、運転席に手つく形で、強引にキスされる。
避ければいいことなのに、どういうわけか、キスされるまでその選択肢が浮かんでこない。
刻印の影響か、それとも慣れなのか…その雰囲気を察して、本能的にキスを受け入れてしまうようだ。
元々そんなに無い腹筋が辛くて、覆い被さる部長の重圧に耐えかねて身体を下ろせば、部長はそっと顔を離し、右手の手の甲で私の頬を優しく撫でた。
その擦れる指に、ゾクゾクと刺激を感じて、胸の奥の何かが収縮する。
金色の瞳がそっと姿を現し、小さく吐息を漏らされたところで、後悔の念に苛まれ、空いた手で口を押さえた。
「な、何するんですか!」
「お前が名前呼ばないからだろ。
昨日もあれだけ言ったってのに、まだ分かってないのかよ」
「わ、私だって、昨日、呼んだのに……!」
「あんなの、呼んだに入るかよ。
芝居にすらなってなかっただろーが」
悪びれた様子もなくそう言い放ち、私の口元の手を退かそうと手を握る部長に、フツフツと怒りが沸き起こった。
芝居……ですって!?
部長が覚えてない時点で、昨日のはカウントされてないわけだから、私がまた呼べばそれでいいハズなんだ、けど、どういうわけか、それが許せなかったのだ。
どうして、覚えて無いの?
ーー私との事、なのに。
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