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84.遠回しに
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「……ああ。
その件の詳細はメールで送る。
それと例の物件は佐々木に任せる。
三谷も悪いが高山が面倒見てくれ」
一対一にして逃げるように脱衣所に入ってしまったことを後悔し、もしその間に部長がーー殺されでもしたらーーと気を揉んで早々と着替えて戻って来れば、部長は何やら支度をしながらケータイを肩に挟んで電話をしていた。
一方のレオという男は、呑気に部長のソファーに腰を下ろしてその朱色の瞳をこちらに向けて、まるで獲物を観察するようにジッと見つめている。
目を合わせると引き寄せるという部長の言葉を思い出し、バッと目を逸らすと、いつの間にか目の前に部長がいて、ビクッと身体が嫌悪した。
「……悪い。
行くぞ」
「え……」
あの人は……どうするの?
つい後ろの赤目の男に目を向けようとしたところで、部長は私の手を取り、半ば強引に歩き出した。
「え、部長、カバン…!」
「俺が持ってる。
あいつのことはいい。 さっさと出るぞ」
いつにも増して強い口調で、少し怒っているようで、また萎縮してその背中についていく。
玄関の扉が閉まっても、あの男が付いて来ることはなかった。
***
車に乗ってからも、部長は何も言ってこなかった。
こちらを見ることもなく、ただ静かに前を見据えるだけ。
時折信号待ちでハンドルを指で叩く程度だ。
それでも出社の時間にはまだ余裕があるというのに。
何がそこまで部長を焦らせているのか、私には状況が飲み込めなかった。
さっきの男と、何かするつもりなのだろうか。
私の知り得ない、知ってはいけないことがあるのだろうか?
そう悶々と頭を悩ませているうちに、いつもの場所の近くまで来てしまい、もう話をする時間が短いと気づいて、意を決して口を開いた。
「……部長、あの……」
「今日は急な親戚の不幸で休んだということにしている」
やっと話をしようというタイミングで、部長は早口にそう言った。
「え…」
「3日は休みをもらった。
しばらく顔を出さない。
お前もそれまで借りてるアパートに帰れ」
は……?
頭がついていかず、一度ゆっくり意味を考えて、急な話に、目を見開く。
「え、でも…!」
「俺もしばらく、家を空ける。
あの家に帰るよりも、お前の自宅の方が通勤には適してるだろ。
荷物はお前の部屋にまとめておいておく」
「なんでっ、急に…!」
「心配するな。
今週はそこまで大きい案件は無い。
お前のことも高山に任せてある。
俺がいないからってこの3日のうちに気ぃ抜いてミス増やすなよ?」
「ぶちょ…!」
車がキキーッと急に止まって身体が一瞬前に出るが、肘を置き窓の外を見ながら、部長はぶっきら棒に答えた。
「着いたぞ早く行け」
勘が無い私でも、よく分かった。
私に話すことは、何も無いんだ。
私には、話す価値が無いことなんだ。
私は、必要じゃないんだ。
その件の詳細はメールで送る。
それと例の物件は佐々木に任せる。
三谷も悪いが高山が面倒見てくれ」
一対一にして逃げるように脱衣所に入ってしまったことを後悔し、もしその間に部長がーー殺されでもしたらーーと気を揉んで早々と着替えて戻って来れば、部長は何やら支度をしながらケータイを肩に挟んで電話をしていた。
一方のレオという男は、呑気に部長のソファーに腰を下ろしてその朱色の瞳をこちらに向けて、まるで獲物を観察するようにジッと見つめている。
目を合わせると引き寄せるという部長の言葉を思い出し、バッと目を逸らすと、いつの間にか目の前に部長がいて、ビクッと身体が嫌悪した。
「……悪い。
行くぞ」
「え……」
あの人は……どうするの?
つい後ろの赤目の男に目を向けようとしたところで、部長は私の手を取り、半ば強引に歩き出した。
「え、部長、カバン…!」
「俺が持ってる。
あいつのことはいい。 さっさと出るぞ」
いつにも増して強い口調で、少し怒っているようで、また萎縮してその背中についていく。
玄関の扉が閉まっても、あの男が付いて来ることはなかった。
***
車に乗ってからも、部長は何も言ってこなかった。
こちらを見ることもなく、ただ静かに前を見据えるだけ。
時折信号待ちでハンドルを指で叩く程度だ。
それでも出社の時間にはまだ余裕があるというのに。
何がそこまで部長を焦らせているのか、私には状況が飲み込めなかった。
さっきの男と、何かするつもりなのだろうか。
私の知り得ない、知ってはいけないことがあるのだろうか?
そう悶々と頭を悩ませているうちに、いつもの場所の近くまで来てしまい、もう話をする時間が短いと気づいて、意を決して口を開いた。
「……部長、あの……」
「今日は急な親戚の不幸で休んだということにしている」
やっと話をしようというタイミングで、部長は早口にそう言った。
「え…」
「3日は休みをもらった。
しばらく顔を出さない。
お前もそれまで借りてるアパートに帰れ」
は……?
頭がついていかず、一度ゆっくり意味を考えて、急な話に、目を見開く。
「え、でも…!」
「俺もしばらく、家を空ける。
あの家に帰るよりも、お前の自宅の方が通勤には適してるだろ。
荷物はお前の部屋にまとめておいておく」
「なんでっ、急に…!」
「心配するな。
今週はそこまで大きい案件は無い。
お前のことも高山に任せてある。
俺がいないからってこの3日のうちに気ぃ抜いてミス増やすなよ?」
「ぶちょ…!」
車がキキーッと急に止まって身体が一瞬前に出るが、肘を置き窓の外を見ながら、部長はぶっきら棒に答えた。
「着いたぞ早く行け」
勘が無い私でも、よく分かった。
私に話すことは、何も無いんだ。
私には、話す価値が無いことなんだ。
私は、必要じゃないんだ。
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