入れ替わるようになりまして。

天野 奏

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男の子は女の子の諸事情を知る。

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「……はよ」

「はよ、じゃない!
なんなんだそれは!!」


朝練前の体育館裏。
いつもの桜の木の前で、オレは朝一の罵声を浴びせた。

それも、当たり前のように上のボタンをだらしなく開き、ホルダーも付けずに胸を強調させてる亜貴(オレの身体)のせいだ!

この前までほとんど合わなかったのは、これを見させない為か!?

例のブラのせいで、余計に強調されて見える。
しかも、ちょっと透けて柄が浮き出て見える……!

「??
付けなくてもいいって言ったのはお前だろ?」

「はぁ!?
た、確かにホルダーは付けなくていいって言ったけど……!」

「あー……そうだった」

納得するように1人で頷くと、バッとオレに抱きついた。

服越しに胸の柔らかさが分かる。

なんだよ…なんか、自分の身体なのに…
ちょっと、エロい…


グラッと、頭が浮く感じがして、目を閉じると、腕をグッと支えられるのが分かった。

「っ……!」

「だんだんコツ掴んできた」

上から降ってくるさっきまでの自分の声に、少しドキッとする。
それが自分の声音と違って、更に低くて、深くて、なんだか、神経に響くような声だから。

「だからって、やめろつっただろ……!」

顔を上げると、そこにはさっきまでの自分の顔があった。
女性でも無いのに妖艶なその姿と、口角を上げた不敵な笑みに、きっと誰もがドキッとさせられる。
それは、オレも然りだが。
今まで自分のとは思えないくらい、雰囲気がガラッと変わるのだ。

「今エロいこと考えてなかった?」

「は!?い、いや!?」

「へぇーそう……」

ムニ……

「…………」

手を離されたかと思えば、何食わぬ顔で平然と胸を触った。

「やっぱちゃんとしたブラの方が、いい」

……こういう奴じゃなかったら、ホントよかったのに。

いいって何がだよ!!

もう入れ替わってから触られるのは諦めてるけどな!!


「もういい。朝練行く」

「待って」

呼び止められて、振り返る。

「これで足りる?」

「え?」

彼は後ろポケットから財布を取り出して、オレに1万円差し出した。

「いや、いらない」

「純の財布から勝手に使ったんだし、俺が払うよ」

「いや、オレが買って使うんだし、別にいい」

「ふーん……試しにそれ付けるだけで練習してみなよ」

「……なんで?」

「結構楽だよ。
サイズもちゃんと合わせたから」

そう言って、亜貴は先に行ってしまった。

なんだよ、それ。

あいつ、オレのサイズ知ってるってこと!?

……恥ずかし……。



***



「純!!」

「はい!」

「行けっ!!」

キュッ、キュと音が響く。

凄く、気持ちがいい。

自分の身体でバスケするの、かなり久々……。

亜貴の身体で見てるよりも、ゴールは遥か高くにあって。

ジャンプしても、さほど近くには届かない。

けど、そこに向かうまでに、人を掻い潜るのは、この身体でしか味わえない臨場感だ。


シュッ!

ゴールにボールが入る。


少し大きく、重く感じるバスケットボールも。

結構、好き。


『好きだよ』

……うん。

亜貴の言ってた“好き”は、こっちの意味だな。

そんなこと、どうでもいい。

何より。

いつにも増して、身体が軽く感じる。

一時感じてた胸の重みは、新しい下着のおかげか大して感じない。

ホルダーの締め付けも無いし、その分の重さも無い。

「ナイシュー純!」

百合とハイタッチを交わす。

チラッと、反対側のハーフコートで練習する亜貴が見えた。

亜貴もまたこちらの視線に気付いたのか、チラッとこちらを見て、一瞬だけど微笑んだ。

その一瞬に、胸が熱くなる。

なんだよ……。

色々、狡い。


あいつが、オレよりも、オレのこと分かってる気がして。

複雑な想いが、胸に溢れる。


きっとオレは、亜貴に敵わない。

だって、どこも抜け目ないし……

こんな完璧人間、普通いない。

そう思った。
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