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2人に流されて…最低なオレ。

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そんなこんなで1週間は経った。

もうすぐインハイ予選だけど、身に入らない。

もしかしたら、理央先輩と、デートに行くかもしれないと思うとドキドキする。

理央先輩と毎朝一緒に朝練に行く為、亜貴と身体を入れ替えるのは朝練後になってしまっていた。

キュッ…キュッ……。

「亜貴!」

「っ!」

ボールを受け取り、ゴールを決める。
手足の長い亜貴の身体は、少し飛んだだけでゴールの輪を掠めてボールを置いていく。

ホントに……嫌味だ。
女の…純の身体では出来ないことを、簡単にやってのける。

「……あ……っ……!」

着地した瞬間、両足がガクッと崩れた。
両手を床につけて、なんとか耐える。

なんだ……?

「亜貴!大丈夫か!?
足捻ったのか!?」
「あ…いや、大丈夫……」

捻ってはいない。
急に崩れただけだ。
膝カックンされたみたいに唐突だったから、ちょっと焦ったけど……。

立ち上がるが、どこにも痛みは無い。
屈伸しても問題は無かった。

なんだ、今の……。

「心配させんなよ~!
亜貴がいるかいないかで来週の大会に関わって来るんだからよ~!」
「……ごめん」

そう。
来週はいよいよ、インハイ予選。
もう組み合わせも発表されてる。
男子は1回戦目はいいとして、2回戦は強豪との対決だ。
亜貴の身体は、大事にしなくては……。

「5分休憩。
亜貴はちょっと伸ばしてきな?
肉離れとか嫌だからね?」
「……はい……」

そう返事をしながらも、オレはまたドリブルをついてゴールに走った。
ちょっと、確認。
着地が痛むなら、やっぱり膝に何か……

と思っていた時。
ドリブルの音が素早く近付いて来たと思えば、反対側に自分の姿があって。
オレの身体は既に、宙に浮いてて。

「亜貴……!」
「あ……」

そのままドリブルシュートを決めた亜貴は、その勢いでこちらに流れて来て。

「うっ……!」

着地をする前に、亜貴とぶつかった。
グランと視界が回る。
なんとか手を伸ばすも、ゴールから少しズレた床に、2人で倒れ込んだ。

「なっ!?」
「亜貴!純!?」
「おいおい大丈夫かよ!!」

みんなの声が、拡張器を遠くから聞いたようにグオングオンと頭に反響する。

起きなきゃ。
ヤバい。
みんなに、心配かけてる…。

「っ……亜貴!」
「るせぇ…耳元で騒ぐな」

亜貴の腕に…いや自分で庇ったんだけど…包まれて、身体が重い。

「大丈夫か!?」
「2人とも怪我無い!?」
「バカ純!!なんで急に行くの!」
「ご、ごめん……」

ホントに、なんで急にぶつかりに来るんだよ!
シュート自体、両サイドから同じタイミングなんて危ないこと多いのに……。

「………」

亜貴は無言で身体を起こして、オレの頭を撫でた。

「純、頭打っただろ?」
「えっ?」

亜貴の一言に、みんなは悲鳴にも似た声を上げる。

「えーっ!?」
「マジ勘弁してよー!」
「純だってうちのエースなんだから!!」

亜貴の身体でなるべく弾かないようにキャッチしたから、正直痛みなんてどこにも……。

「ちょっと、保健室連れてくわ。
後で何かあったら困るし」
「えっ…ええ!いいから……っ!」

亜貴はヒョイっとオレを抱き上げた。
お、お姫様抱っこ……!

「キャー!
京野先輩力持ちー♪」
「純、これ狙ってたな?」
「いや、違うから!下ろせ!自分で歩く…!」
「黙ってろ。
暴れると重い」
「いや、だから下ろせよ!」

スッと、冷たい視線が亜貴から送られてきた。
あ、これは、しのごの言わずに従え的な、そういう視線ですね?

全部、計画的犯行ですね?

ホント、嫌……。
体育館奥には、理央先輩だっているのに……。
亜貴と被って、見えないけど。

「じゃ、亜貴くん、純をお願いね?」
「分かった」

2人で、体育館を後にした。
たくさんの人の視線を浴びながら。

理央先輩に、見られてないといいけど。
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